壊れた宝珠
ディーンの手を借りながらグローシアをリリーのところへ連れて行く。振り返ると、クリフに向かって剣を振りかぶろうとする先生に、トラヴィスが衝撃波を打ち込んだところだった。だが先生は宝玉を使ってシールド張り、それを簡単に跳ね返している。
「・・・多勢に無勢か」
先生が体制を立て直しながらそう呟くのが聞こえた。
(あ、逃げる!?)
彼は宝玉を使って転移するつもりだ。
(んな事はさせないぞ!)
このままじゃ何も変わらない。先生は心に闇を抱えたまま、皇国を憎み続ける。どこにも誰も味方がいない彼は、たった一人で命が尽きるまで皇国を倒そうとするだろう。
私はディーンの手をぎゅっと強く握った。
「先生に攻撃してください!」
そう言って彼に思いっきり力を注いだ。
(転移する暇なんか与えない!)
ディーンは私の意図を理解したのか、マリオット先生めがけて氷の礫を打ち込んだ。
先生は急いでシールドを張ってそれを防ぐ。だけど私と力を合わせているディーンの攻撃は止まらない。氷の礫は段々と大きく氷の槍のとなり、しまいには大きな氷の柱になってシールドにぶつかっていく。
マリオット先生の額に汗が浮かび、顔を歪ませた。いくら魔力増幅の宝珠を使っているとはいえ、この攻撃を防ぎきるのはキツいはず。
(何せ、私は天然の魔力増幅器みたいなもんだからね!ふはは)
トラヴィスも攻撃に参加し、衝撃波が先生を襲う。すると先生の周りのシールドが、攻撃の威力に耐えかねたのか大きくたわみ始めた。
「先生、降伏してください!」
私は大声で呼びかけた。だけど先生は何も答えない。
ディーンとトラヴィスの二人の攻撃に先生のシールドがシャボン玉の様に大きく歪み、そしてとうとうディーンの氷につき破られた。
「くそっ・・・!」
先生は横に飛んで転がりながら、二人の攻撃から逃げた。そして宝珠を握りしめて、先ほど破壊された窓に向かって走ろうとする。だけどその途端、ビクッと体を硬直させると、先生は何故かその場にバタリと倒れた。
「え?・・・あっ!」
クリフが先生の方を睨みながら、両手を握る様に合わせていた。
(捕縛魔術だ!)
クリフの魔術に縛られた先生は、それでも諦めていなかった。ギリギリと奥歯を噛みしめて、魔術に抵抗しようとする。
そして先生の手に握られている宝珠が白く輝き始めると、クリフの合わせている両手が無理やり離されそうになった。
(宝珠の力でクリフの魔術を押し返そうとしているんだ!)
「う・・・くっ」
クリフが顔をしかめた。だけど次の瞬間・・・
パキーン!
若木の枝を折る様な高い音が部屋に響いた。
「ぐあっ!」
マリオット先生が苦し気な声を上げた。彼の手は血で赤く染まり、震えながら開いた手の平から白い石くれがこぼれ落ちていく。
「あ・・・!」
それは粉々に砕けた、魔力増幅の宝珠だった。
(マリオット先生は魔力増幅を使い過ぎた。宝珠の力は、もう限界だったんだ・・・)
クリフの捕縛魔術に先生はもう抵抗しなかった。ぐったりと頭を床に預けて目を閉じている。
トラヴィスが先生に近寄って行った。
「先生、魔力封じの道具を使わせて頂きます」
そう言って先生の腕に腕輪のようなものをはめ、さらに両腕を背中の後ろで縛った。
クリフがやっと安心したように捕縛魔術を解く。私もホッとしたのか身体の力が抜けて・・・
「おっと!」
「わわ!すみません!」
ディーンと二人で支えていたグローシアの身体が傾いた。しかも、いつの間にかグローシアが気を失っているではないか。
「大変!早くリリーに治癒して貰わなくちゃ!」
(そう言えばイーサンは!?)
慌ててリリーたちの方を見ると、イーサンもぐったりとしていて意識が無いようだ。だけど、どうやら治癒魔術が成功したようで、彼の顔色に赤みがさしてきている。
(大丈夫そう・・・良かった)
「リリー、グローシアもお願いできるかな?」
リリーに声をかけた時、後ろの方でバタッと何かが倒れる音が聞こえた。「え?」と思って振り返ると、今度はクリフがひっくり返っているではないか!
「わぁっ!どうしたの、クリフ!何で!?」
「おい!クリフ。しっかりしろ!」
トラヴィスが彼に駆け寄った。
どうやらクリフは大怪我しているのに、ずっと無理をしていたようだ。トラヴィス殿下の呼びかけにも全く答えない。
失神者3名!?
(なんてこったい!)
私はリリーの治癒に力を貸そうと、急いで彼女の背に手を添えた。
だけど事態は私達に、落ち着く事を許さなかった。今度は扉から数人の兵士たちが、担架の上に誰かを乗せて部屋の中へ飛び込んで来たのだ。
「大変です!国王様。エメライン王女が大変な事に・・・ややっ!これは一体何事・・・!?」
しかし兵士は、最後まで言葉を言い切れなかった。素早く動いたトラヴィスとディーンの二人に、全員あっさりと倒されてしまったからだ。
「雑魚の相手はつまらんな。楽だけど」
トラヴィスはそう言って、担架に乗せられた人物を覗きこみむと顔をしかめた。
(ん?)
近付いて見ると、なんとそこには青い顔をしたエメラインの身体が!
私は指を打ち鳴らした。
「なんって好都合な!探す手間が省けた!」
拘束したマリオット先生をトラヴィスとディーンが見張り、私とリリーは怪我人の治療に専念した。
(イーサン、早く目を醒ましてよね・・・)
エメラインの体が息をしている間に、彼女の精神を戻してあげなくちゃ。




