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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
最終章 悪役令嬢は・・・
211/218

黒幕の正体

 「どう言う事だ?アリアナ」


 トラヴィスそう聞いてくる。イーサン以外の全員が訝しそうな顔をしていた。

 私はきまり悪い思いをしながら、おでこをを搔いた。


 「いやぁ・・・実はですね、エメラインも一緒に連れてきちゃいまして・・・」


 「はぁ!?」


 「今、こいつの中には3人いる」


 イーサンがぞんざいに私を指さしながら呆れた声でそう言うと、皆は驚きに目を見開いた。


 「ええっ!?」


 「どうしてそんな事になってんのよ!?」


 トラヴィスがねーさん言葉で詰め寄って来る。


 「いや・・・成り行きで」


 「成り行きでってあんた・・・で、今はどういう状態よ?大丈夫なの?」


 「う~ん・・・」


 実を言うと、意外とエメラインは私の中で大人しくしていた。


 (アリアナと違って、でっかい精神持ってるから、強引に表に出ようとしてくるかなって思ったんだけど・・・)


 たまに、ほんのりと彼女の感情が伝わってくるぐらいで、そういうわけか静かなものなのだ。


 (あの暗闇の世界で随分疲れてたしなぁ。今は休みたいのかね)


 それに彼女が無理やり私の身体を動かそうとしても、多分無理だと思った。私の力の方が数段強い事が、あの世界に言って分かったからだ。


 「多分、大丈夫だと思います。でもさすがに、このままじゃエメラインの体がマズ

い事になりそうなので、彼女を体に戻してあげたいんです。それでイーサンの力を借りたいんですけど・・・」


 ちらっとイーサンに目をやると、彼は両手を広げて溜息をついた。


 「今は無理だ。魔力を使い過ぎた・・・」


 そう言えばイーサンの顔色が少し悪い。リリーが心配そうに彼を見上げる。きっと私達を呼び戻すために、魔力をたくさん使ってしまったのだろうな。


 「それなら問題なし!私が力を貸します。それなら出来る?早くしないとエメラインの体が心配で・・・」


 精神の抜けてしまったままの身体は、多分長くは持たないだろう。私もあの暗闇の世界では、かなりの力を消費したけどまだ力は残ってる。


 「・・・分かった、良いだろう。精神の移動くらいなら、それほど魔力は使わない。まずはそいつの身体を探して・・・」


 イーサンがそう言いかけた時だった。


 (え・・・?)


 「ああっ!!」


 私達は目の前で起きた事の意味が分からず、ただ驚愕したまま突っ立っていた。


 何の前触れもなく、イーサンの胸を貫いて、剣の切っ先が付き出してきたのだ。

 

 「う・・・がっ・・・」


 イーサンの口から、鮮血が散った。


 「イーサン!」


 私はそう叫んだまま一歩も動けない。

 いったいつの間に近づいたのか、顔を覆面で隠した兵士の一人が、イーサンの背中に剣を突き刺していた。


 「そんな、どうして!?」


 私達の誰一人として、イーサンですら気付かなかったのだ。


 「ぐっ・・・貴様ぁああ!」


 イーサンは刺されたまま、手を振り上げた。兵士に向かって雷撃が襲い掛かかる。だけど、兵士はシールドで難なくそれを防ぎ、イーサンの身体から剣を抜き放つ。イーサンはその反動に引っ張られ、転がりながら倒れた。


 「い、いやぁああっ!」


 リリーの叫び声が部屋中に響いた。


 「珍しく油断したね、イーサン。背中ががら空きだったよ」


  兵士の声はまるでボイスチェンジャーを使ったように金属的な声だった。


 「貴様っ・・・」


 トラヴィスが前に出て兵士に対峙する。


 「蘇りの魔術は大量の魔力を消費するからね。さすがの大魔導士様も消耗していたってことかな。おかげで姿を消した僕の気配にも気づかず、咄嗟にシールドを張る事すらできなかったんだからね」


 「くっくっく・・・」と愉快そうに笑うその兵士に、トラヴィスが衝撃波を打ち込んだ。だがシールドで簡単に跳ね返される。


 「いや・・・いやぁ・・・」


 泣きながらイーサンに這いずり寄ったリリーは、血に濡れた彼の手を両手で掴んだ。イーサンを映すその目から涙がぽろぽろと零れる。


 「・・・イーサン・・・いや・・・」


 しかし、返事をしないイーサンを見て、リリーの目に強い決意が浮かんだ。リリーは動揺に震える両手を必死で押さえ、自分自身を落ち着かせるように呼吸を整えると目を閉じた。


 「絶対に助けます」


 イーサンの体が柔らかいピンク色に輝く光に包まれ始めた。 


 (リリーの治癒魔術!) 


 それを見た覆面の兵士が手を振り上げた。


 「ちっ・・・聖女め」


 リリーとイーサンの二人に炎の柱が襲い掛かった。トラヴィスが急いでシールドを張って二人を守る。


 「ディーンはアリアナを守れ!グローシア、お前はこっちへ・・・」


 「遅いよ」


 いつの間にか兵士はグローシアの後ろに転移した。彼女の首に腕をまわして剣を突き付けていた。


 「グローシア!」


 「ふ・・・不覚!申し訳ございません・・・」


 兵士の腕は容赦なくグローシアの首を締め上げ、彼女の顔が痛みに歪む。

そして兵士はグローシアの首に剣の刃を当てがった。


 「ライナスへの治癒魔術を止めろ。でないとこいつの首が落ちる」


 「なっ!?」


 キイキイした声で兵士は「くくく」と笑う。リリーの顔が青ざめた。


 「愚かな聖女よ、その男はこの世界に存在してはいけないものだ。そいつは自分の欲望の為に多くの哀れな子供達の身体を奪ってきた。お前だって知っているだろう」


 グローシアの首に剣の刃が食い込む。


 「うう・・・」


 グローシアが恐怖に顔を歪めた。イーサンの治癒を行っているリリーの腕が震えている。


 (な、なんて事を!)


 私は思わずトラヴィスを押しのけて、前に進み出た。


 「いい加減にして下さい!どうしてこんな事をするんですか!?」


 そう聞いた私を、兵士は憎々し気に睨みつけた。


 「・・・ヘンルーカの生まれ変わりよ。お前のせいで死んでいった仲間もいた」


 (え?)


 「許すものか。ライナス、エンリル、そしてアンファエルン皇国も闇の組織も・・・その全てが憎い・・・消し去ってやりたい・・・」


 「待って下さい!じゃあ、どうして貴方は私達に顔を隠してるの!?声まで変えて・・・。本当は止めたいって、戻りたいって思ってるんじゃないんですか!?」


 私の問いに兵士が黙った。


 「貴方はイーサンやエンリルが言ってたリーツですよね?闇の組織の一員で、皇国で沢山の人達を精神魔術で支配しようとした」


 兵士・・・リーツは何も答えない。


 「私を眠らせて、ジョーやケイシー先輩を精神魔術で操ったのも貴方。そしてエンリルをエメラインの身体を使って蘇らせて、さらに私・・・アリアナの身体に移したのもそう。エンリルを利用してイーサンを倒すために・・・」


 リーツは薄く笑った。


 「頭と口のよく回る奴だ。・・・だったらどうだと言うんだ?」


 「闇の組織の人間を殺害したのも貴方でしょう?エンリルやイーサンを倒すのに邪魔だったんですか?彼らは貴方の仲間だったんじゃないのですか!?」


 「あんな奴ら仲間だとは思って無いっ!奴らは僕達を飼ってただけだ!」


 彼は突然激高し、吐き捨てる様にそう言った。


 「そんな事はどうでも良いんだ!聖女よ、早くライナスから離れろ!こいつがどうなっても良いのか!?」


 グローシアの首から血が流れ始めた。私は思わず叫んだ。


 「やめて!先生!」


 リーツの腕がビクッと止まった。


 私はもう一歩進み出た。


 「貴方は・・・マリオット先生ですよね?」


 私がそう言った途端、仲間達に困惑の表情が浮かぶ


 「えっ・・・」


 「何を言ってるんだ、アリアナ!?」


 「まさか・・・」


 トラヴィスとディーンの顔が青ざめた。


 「先生、私への精神魔術はもう全部解けてるんです。あの日、私の部屋を訪ねて来たのはマリオット先生、貴方だった」


 「・・・何を言っている。僕はそんな奴では・・・」


 「確かにあの時、貴方は仮面を付けていた。それに『マリオット先生が訪ねてきました』と言ったメイドのマリアは、先生の顔を知りません」


 「だったら・・・」


 「だけど私は眠らされる直前に、貴方の仮面をはぎ取りましたよね?私、ちゃんと顔を見てたんですよ。一瞬でしたがちゃんと覚えてます」


 リーツは虚を突かれた様子だったが、呆れたように首を振った。


 「・・・夢でも見ていたんだろ?」


 「では、今この国に人質として捕らわれているマリオット先生はどこに居るんです?」


 私がそう聞くと彼は黙った。


 「貴方が先生だとしたら色々辻褄が合うんです。マリオット先生は一昨年エメラインの担任だった。魔力が強くて守りも固いエメラインに、精神魔術をかけられるのは先生ぐらいです。それにマリオット先生はモーガン先生・・・エンリルとも良く一緒にいました。ダンスパーティでもそうだった・・・」


 (あの時はただ、先生同士だからと思っていたけど・・・)


 「マリオット先生はまずジョーとケイシー先輩に、わざと光の魔力が使ってるところを見せた。そして次に私を眠らせる。リリーの聖魔術だけでは魔力が足りなくて、解術は出来ない事を先生は知っていた。・・・魔術の力を合わせるアイデアを、リリーの方から言ってくれたのは好都合でしたね」


 (もしそうでなかったら、先生の方からジョー達にさりげなく伝えたのだろう)


 「貴方はそうやって、まんまと私達の仲間になった。だから私達の動向は筒抜けだったんです。ジョーやケイシーの信頼も得て、精神魔術もかけやすかったでしょう」


 先生は私達が禁書の部屋に行く事も知っていた。そして使者として隣国へ行きながらも、魔力増幅の宝珠を使いながらあちこちに転移して、私達の動きを観察していたのだ。

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