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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
最終章 悪役令嬢は・・・
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この下衆野郎!(クリフ目線)

 鈍い痛みにゆるゆると意識が覚醒していく。


 (なんだ・・・?)


 頬にひんやりとした冷たい石の感触。自分が地下牢の固い石の床に倒れている事に気付いた瞬間、俺は急速に状況を思い出した。慌てて起き上がろうとした途端、全身に鋭い痛みが走った。


 「ぐ・・・痛ぅ・・・」


 壁に叩きつけられた衝撃で、どうやらアバラを何本かやられたらしい。だけどそんな事はどうでも良い!


 「ア、アリアナは・・・?」


 くらくらする頭を押さえながら、俺は部屋の中を見回した。そして入口に赤い髪の女が倒れているのを見てギョッとする。


 「エメライン!」


 痛みを堪えて気合で身構えたが、エメラインのは横たわったまま、ピクリとも動かない。


 「まさか・・・」


 警戒しつつ近づくと、彼女は生気のない顔でぐったりとしている。呼吸はしている様だが、その様子に違和感を感じた。


 (なんだこれは・・・?)


 彼女から生きている人間の気配がしない。まるで空っぽの人形のようだ。ゾクリと嫌な予感が背中を走る。


 (アリアナはどこだ!?)


 俺は急いで牢屋から出ると、身体を引きずるようにして階段を登った。

 回復の魔術が使え無い自分に、苛立ちを覚える。シールドだって、宝玉を持ったエメラインには全く歯が立たなかった。ディーンやトラヴィス殿下なら、きっとアリアナを守りきれただろうに。

 

 (くそっ・・・)


 やっとの思いで階段を登り切った。そして皆を探そうと廊下の角を曲がった時、運の悪い事に巡回中の兵士達と行き会ってしまった。

 知らぬ顔で反対方向へ逃げようとしたが、


 「おい!そこの女!」


 と呼び止められてしまった。


 (ちっ・・・)


 仕方なく振り向くと、兵士達の顔に驚愕の表情が浮かんだ。


 (何だ?・・・あっ!)


 その時、被っていたカツラが無い事に気付いた。さっきエメラインに吹っ飛ばされた時に落ちてしまったのだろう。


 (しまった!バレたか!?)


 そう思って魔術を使おうと身構えたが、どうも兵士たちの様子がおかしい。敵意を感じられない上に、何故か顔を真っ赤にさせている奴もいる。


 (なんだこいつら?酒でも飲んでいるのか?)


 訝しく思っていると、リーダーらしき男がやたらと咳ばらいをしながら話しかけて来た。


 「あ~、おほん!・・・えー、どちらかのご令嬢の侍女の方ですかな?お、お怪我をなさっているようですが、大丈夫でしょうか?」


 俺はその兵士の言葉に耳を疑い、呆気に取られた。


 (は?・・・バレていない!!?)


 何よりもその事に衝撃を受けて、俺は数歩よろめいてしまった。


 「あ、危ない!」


 兵士の一人が素早く俺の腕を支えた。至近距離に冷や汗が落ちる。


 「あ、ありがとう・・・ございます・・・」


 掠れる声で礼を言いいながら、俺は困惑し続けた。


 (な、なんで気付かないんだ!?男と女の区別がつかない程、こいつらの目は馬鹿なのか?やっぱり酔っぱらっているのか?それともこの国の女は髪が短かいのが普通なのか!?)


 もしかして、こいつらも精神魔術に支配されて、思考力まで無くなっているのだろうか?と、そんな事まで考えてしまう。


 兵士たちは巡回の途中だろうに、俺の前から一向に去ろうとしない。それに俺の方をチラチラ見ては、赤面しながらもじもじする。その様子が気色悪くてゾッとした。


 (くそっ・・・どうするか)


 男だとバレていないなら有難いが、いつまでもこうしてはいられない。気は進まないが、一芝居うってみる事にした。

 俺は額を押さえて「ああ・・・」と座り込んだ。


 「侍女殿!大丈夫ですかな!」


 リーダーの男が慌てて俺の横に跪く。顔を覗きこむ鼻息が荒い。俺は吐き気を我慢して演技を続けた。


 「ち、地下の牢屋に狼藉者が・・・。エメライン様が襲われて倒れております。早く救助に行ってくださいませ・・・」


 「な、なんですと!?お、おい、お前達、地下牢に急げ!エメライン様をお救いするのだ!」


 「は、はい!」


 兵士達は慌てて走って行く。しかし、どう言うわけかリーダーの男だけが俺の傍から離れてくれなかった。


 (何してんだ・・・?お前も早く行けよ)


 「・・・あ、あの・・・どうか貴方様もエメライン様のところへ・・・」


 「いえ!怪我をしているお嬢さんを放ってはおけませんからな。私が医務官の所までお送りいたしましょう!」


 赤い顔で鼻息荒くしながら肩を抱いてくる。一気に全身に鳥肌が立った。


 「おお!震えておられるではないですか。もう大丈夫ですぞ!私がついておりますから。ああ!もしかして、暴漢に御髪を切られてしまったのでは!?貴女の様な美しい方になんたる狼藉を・・・私がそばに居たら、そんな事はさせなかったのに」


 そう言って嫌らしい顔で腰に手を回されて、そこまでが限界だった。


 「気色悪い手で触るなっ、この下衆野郎っ!」


 俺は男の顔面に思いっきり拳をぶつけ、みぞおちに蹴りを入れた。


 「がふんっ!」


 変な声を上げて男は簡単にひっくり返った。


 「あ~・・・くそっ!」


 俺は痛むあばらを押さえながら、伸びてる男を見下ろす。


 (このまま転がしとくと、見つかった時面倒だな・・・)


 なんとか男の脇を抱えて空き部屋の中に引きずり入れ、俺は男の身ぐるみを剥がした。そして侍女の服を脱ぎ捨て、男の着ていた兵士の服に着替える。少し丈が短い上に、腰回りがだぼついているが仕方ないだろう。化粧もついでに拭き取った。


 (ふう・・・もうスカートはごめんだ)


 俺は兵士の帽子を目深にかぶり、再び廊下を進んだ。とにかくトラヴィス殿下達と合流しなくては。

 その時、どこかで争う様な声が聞こえた。まさか!?


 「どっちだ!?」


 声の聞こえる方に向かおうとして、足がもつれて膝を付いてしまう。息を吸う度に体中が鋭く痛んだ。


 (アリアナを守るって約束したのに・・・)


 自分の不甲斐なさに唇を噛みしめる。これじゃディーンに顔向けが出来ない。

 かすかにトラヴィス殿下とリリーの声が聞こえた気がした。


 「・・・動けっ!」


 俺は萎えそうになる自分の足を叩いて、壁をつたいながら彼らの元へ急いだ。

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