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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
最終章 悪役令嬢は・・・
203/218

違う!

 波はますます荒れ、空から雨が落ち始めた頃に、船は何事も無くセルナク国の港に着いた。

 港では歓迎するかのように人が並んでいる。だけど、ほとんどが武装した兵士だ。剣は向けられてはいないが、まるで戦争に来たみたいだった。


 (ある意味、戦争と言えなくもないか・・・)


 だけど、今はあくまで心理戦だ。本当の戦いを避けるために来たんだから。


 「これはこれは皇太子トラヴィス様。わざわざご足労頂き感謝いたします」


 セルナクへと降りたった私達の方に、一人の男性が進み出てきた。


 「我が国で宰相を任されております、ダンジエルと申します。国王より皆様をご案内するように申し付かっております。王宮では今宵、晩餐にご招待させて頂きます」


 恭しく頭を下げ、出迎えに来た風にそう言ったが、その顔には笑顔一つない。

トラヴィスはダンジエルのその態度を、しばらく黙って見降ろしてたが、


 「我が皇国の使者が貴国に囚われていると聞いた。晩餐より先に、その事について詳しくご説明頂きたいものだが」


 相手におもねる事無く、堂々とした態度で切り込んでいった。

 宰相は少しひるんだ様子を見せたが、


 「これは・・・皇太子殿下は少々せっかちでいらっしゃられるようだ。それに我が国がご使者を囚えているとは人聞きが悪い。殿下がいらっしゃるまで、ご滞在頂いてただけですよ」


 いけしゃあしゃあとそんな事を言う。そして鼻で笑う様な声を出した後、


 「殿下におきましては、我が国の王女エメライン様を陥れた罪人、コールリッジ公爵令嬢を連れて来て頂き、感謝しております。さて、それはどちらの方ですかな?」


 そう言って私とリリーを交互に見た。


 (あん!?、こいつ今なんて言った?)


 はなから私を罪人だと決めつけた言い方に、かちんと来ると同時に背筋が冷えた。


 (う~ん、やっぱ何事も無く和解してバイバイとはいかないか)


 さらに宰相は下卑た笑いを口元に浮かべて、私達を舐める様に見ると、


 「なかなかお二人ともお美しいご令嬢で・・・これでは騙される御仁も多い事でしょうな、ほっほ」


 (きっも!ワザと怒らせようとしてんのか、この男は!?だいたい、騙してんのはあんたとこの王女でしょうが!)


 張り付けた笑みが、怒りにひきつるのが分かった。

 だけど、こんな嫌な野郎の前にいても、さすがにトラヴィスは冷静な態度を崩さなかった。


 「我々としては、まだそちらの言い分を認めてはおりませんよ。コールリッジ公爵令嬢が王女を陥れたと言う事実はありません。それよりも王女の学園での暴挙について、帰国から謝罪の一つも無いのはどう言う訳でしょうか?」


 宰相は不穏な気配と共に目を細め、彼の周りの兵士も一瞬気色ばむ。しかし宰相は首を振ると、


 「ここで議論するのはやめましょうか。私は貴方がたをお迎えに参じただけですのでね。ではご案内致しますので馬車にお乗りください。ああ、騎士団の方は船で待機して頂けますかな」


 その言葉にトラヴィスの護衛騎士団はざわめいた。


 「馬鹿な!我々は殿下をお守りする為に来たのだ!殿下から離れる事など受け入れられるわけが無いだろう!」


 「皇太子殿下は我が国の軍がしっかりお守りしますよ。それとも騎士団の方々は、それっぽっちの人数で我々に喧嘩を売るおつもりで?」


 どっちが喧嘩を売っているのか分からない言い方で、宰相はほくそ笑む。剣を抜きかけた騎士団長の手をトラヴィスが押さえた。


 「やめるんだ騎士団長。彼の言う通り、護衛騎士たちと共に船で待機・・・いや、港では無く沖合で待機していてくれ」


 「殿下!?それでは!」


 「頼む。こちらは大丈夫だから、そうしてくれ」


 騎士団の面々は悔しそうに顔を歪ませている。だけどこの場合、トラヴィスの判断が正しい。


 (騎士団まで人質に取られたら、こっちは身動き取れなくなるもんなぁ)


 少数精鋭で向かう方が勝機がある。しかも私以外は精鋭中の精鋭だ。


 私達6人は大人しく馬車に乗り込んだ。その時、宰相が侍女姿のクリフの方をちらりと見て、嫌らしい顔つきをしたのを見逃さなかった。


 (うげぇ・・・こいつは精神魔術にかけられていたとしても、同情の余地無しだな)


 トラヴィスはこっそり宰相に向かって中指を立てていた。

 城に着いた私達は、まずそれぞれの滞在部屋へと案内された。


 「晩餐の時間までお部屋でお休み頂くよう、仰せつかっております」


 城の女官の後に私達は続いた。すると彼女は廊下の分かれ道で、私達をトラヴィスとディーンとは反対の方向へと案内しようとする。


 「どういう事だ?どうして部屋を離す!?」


 トラヴィスがそう声を上げると、


 「城内では男性と女性は滞在場所は分けておりますので・・・」


 女官は無感情な声でさらりとそう言った。仕方なく、その言葉に従い、私達は反対方向へと離れていく。

 ディーンは廊下の角を曲がるまで、気遣わしそうな目線でずっとこちらを見ていた。そして次の分かれ道では、どういう訳か私とリリーも違う方向へ案内された。


 (どういう事よ・・・?)


 罠かな?罠だろうな・・・。でもこんなあからさまに?


 「アリアナ・・・」


 リリーは不安そうに両手で私の手を握る。


 「だ、大丈夫ですよ!・・・侍女も一緒ですから」


 私は不安を押し殺し、リリーに笑みを返した。隣で侍女の恰好をしたクリフが小さく頷く。そしてリリーに手を振った後、緊張しながら二人で女官の後に続いた。

 しかし何故か女官は廊下を曲がってから、今度は階段をどんどん下って行く。


 (あれ?え?ここって・・・もしや・・・)


 そして、ある部屋の扉の前で立ち止まると、私達とは目も合わさず女官は頭を下げた。


 「それではお部屋でごゆっくりお休みくださいませ」


 その部屋は石の壁に囲まれて、狭い空間に置いてあるのは粗末な木のベッドが二つと小さなテーブルと椅子。そして窓は一つも無い。

 やっぱこれって、


 「牢獄!?」


 顔を見合わせる私とクリフの後ろで、鉄の扉がガシャンと閉じられた。


 噓でしょ!?まさか、いきなり投獄されるとは。


 「半分冗談で言ってた事が、本当になりました・・・」


 唖然としている私の前で、クリフは扉を調べ始めた。


 「しっかり鍵がかけられてる。ふん、だが魔術でかけられている訳では無さそうだ。吹っ飛ばそうと思えば出来るけど、・・・どうする?」


 超絶美女の侍女は、本当に物騒な事を言う。


 「あ~、いざとなったらお願いします。今は様子を見ましょう」


 トラヴィスやリリーはどうなっただろう?さすがに自分と同じ目に遭ってるとは思えないけど、どうもセルナクは信用できない。


 (少なくともリリーはまともな部屋に通されてたよね・・・?)


 ここにマリオット先生がいる以上、取り敢えずはまだ、相手の出方を見るしかない。

 ベッドに腰かけて、どうしたモノやらと思っていたら、突然扉の鍵がガチャリと開く音がした。


 (え?)


 クリフがサッと私の前に出て身構える。

 ギィと耳に付く音を立てて扉が開くと、そこに立っていた人物を見て私達は驚愕した。


 「エ、エメライン王女!?」


 私は座っていたベッドから飛び上がった。いきなりの大ボス登場はさすがに予想外だ。


 「な、なんで・・・?」


 エメラインは酷薄な笑みを浮かべて、クリフ越しに私を見た。その目が怪しげに揺れるのを見て、どういう訳か変な違和感と、そして既視感を感じた。


 (ん?・・・この気持ち悪い目、どっかで見たような・・・)


 首をひねる私に、エメラインは一言、


 「あれで終わったと思わない事ね・・・」


 「・・・は?」


 「彼は私のモノ、貴女は私の器になるの」


 (まさか・・・)


 彼女の言葉を聞いて、私は恐ろしい事に気が付いてしまった。


 (違う!この人は・・・!?)


 「クリフ!」


 私の叫びと共にクリフがシールドを張り、私は彼に力を注いだ。しかしエメラインは、そのシールドを片手で叩き壊した。


 「なっ!?」


 彼女の右手に魔力増幅の宝玉が白く輝いている。

 そして次の瞬間、クリフが壁に叩きつけられるのを見たのを最後に、目の前をテレビ画面のようなノイズが走った。


 (ヤバい・・・)


と思うと同時に灯りを消したかのように、私は闇に包まれてしまった。

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