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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
最終章 悪役令嬢は・・・
199/218

真骨頂

 「私・・・頑張りました。イーサンに私を見て欲しかった。少しでもあの人の視界に入りたかった。だから必死でしがみ付きました。ふふ・・・でも、やっぱりアリアナには敵わなかったな・・・」


 リリーはそう言って私を見ると、笑いながら眉尻を下げた。


 「は?何のことでしょう?」


 こっちは手加減どころか、奴に洞窟で殺されかけてるのだぞ?

 私はその事を本気で根に持っていた。


 (もしかして、リリーは船の上でのことを誤解しているのか?でも、あれはなぁ・・・)


 船の上のこととは、イーサンに勝手にハグされた時のことだ。


 あの時のイーサンとモーガン先生の様子は確かに変だった。二人とも私のことを、まるで亡霊でも見る様な目で見ていた。


 (でもなぁ、あの時イーサンが見ていたのは私では無いんだよなぁ・・・)


 出会った頃からずっとそうだった。あいつは私のことなんか、これっぽちも見ていない。彼が見ていたのはいつも私の向こうにいる『誰か』だ。それを感じるとる度に、何だか私は無性にイライラしていた気がする。


 (そうだ!それこそが、私が奴を気に食わない一番の理由なんだよ)


 そして多分、その『誰か』とはヘンルーカなのだ。 


 (いくらあいつが私に絡んでくるとしても、結局イーサン・・・ライナスが見てるのはヘンルーカなんだよなぁ。私がヘンルーカに似ているとこなんて、全く無いってのにさ)


 リリーだってそんな事は分かってるんだろう。そしてイーサン本人も・・・


 (人の気持ちってのは、色々とままならないもんだな)


 そんな風に考え込んでいたら、突然ディーンが低い声でつぶやいた。


 「あの時のようにイーサンがアリアナに近づくようなら、私は容赦しない・・・」


 まるで凍り付くようにヒンヤリと部屋に声が響く。


 どうやらディーンも、船の上でのことを思い出したようだ。眉間にくっきりとしわが寄っている。


 (こ、こわ・・・)


 だけど、何となくむず痒いような照れ臭さも感じてしまう。


 (そ、そっか、ディーンはイーサンが私に近づくと嫌なんだな、はは)


 やば・・・なんか顔がにやける。真面目な話の途中だと言うのに、ほんとにままならない。


 顔を手で伸ばす様にして元に戻す。ふとトラヴィスの視線に気づくと、彼はそんな私を生温かい目で見ていた。

 そして彼は「んんっ」と咳払いをすると、 


 「正直なところ、イーサンがこちら側についてくれれば、これ以上心強いことは無い。半分は賭けのようなものになってしまうが、セルナク国で余程の危機に陥った場合のみ、イーサンの手を借りるとしよう。その時は頼む!」


 リリーに向かってそう言った。


 「はい!」


 リリーが指輪を握りしめたまま、返事する。

 トラヴィスは彼女に頷き「それから・・・」と少し言い淀んだ。彼の表情が明らかに曇る。


 「実は、船に乗る前に連絡を受けたのだが・・・城下街の闇の組織の潜伏先を見つけたらしい。だけど、そこに居た組織の人間は全員始末されていたそうだ」


 「え!?」


 「誰の仕業かは分からない。イーサンか・・・それとも・・・」


 リリーの顔がこわばった。そりゃそうだろう、イーサンは闇の組織自体を憎んでいたのだから。

 だけど私は確信していた。


 「大丈夫です、リリー。イーサンがやったのでは無いですよ。恐らく犯人は黒フード・・・リーツです」


 私は彼女にはっきりとそう言った。

 そうだ、イーサンじゃない。


 「船でイーサンに会った時、洞窟の時とは雰囲気が変わってました。リリーが頑張ってくれたおかげですよ」


 (自暴自棄になっていたイーサンを救ったのはリリーだ)


 ヒロインの聖女の優しさと誠実さ、そして癒しの力が、攻略者達の抱えている苦しみや葛藤を救う。

 それが乙女ゲーム『アンファエルンの光の聖女』の真骨頂なのだから!


 「確かに、闇の神殿の者達を手にかけたのもリーツだからな。可能性は高いんじゃないか?」


 クリフがそう言った。


 「だとしたら、一体、奴の目的は何なんだ・・・?」


 皇国を精神魔術で混乱させながら、皇太子トラヴィスの暗殺を目論んだ。モーガンに協力しつつ、なのに同じ組織の仲間達を次々と消していく。どうにも、彼の行動は矛盾だらけだ。


 (不気味だな・・・リーツの動機や目的が掴めない)


 彼を動かしているのは何なのだろう?もしかして彼にも、どうにも出来ない想いがあるのだろうか?それとも、彼の中には他者を慮る心が存在しないのだろうか・・・。


 (だけど、今そんな事を考えてもしかたないか。私達にできるのは前に進む事だけじゃ)


 「殿下、リーツの事はとりあえず置いといて、セルナクに着いてからの作戦を考えましょう。まずは目の前の事を優先しないと!」


 私がそう言うと、トラヴィスは苦笑した。


 「確かに、アリアナの言う通りだな」


 私達の会議は夕刻まで続いた。難しいのは相手の出方が分からないので、あまり細かい計画が立てれない事だ。それでも、最善を尽くすために私達は意見を出し合った。



 そして、すっかり外が薄暗くなり、船室に戻る途中で私はディーンに声をかけた。


 「ディ、ディーン、甲板にちょっと涼みにいきませんか?」


 そう言った私に、彼は嬉しそうな微笑みを返した。


 (ぐぅっ・・・イケメンすぎる・・・)


 もう日は沈んだと言うのに、後光がさしてるのかの様にやたら眩しく感じる。

 私達は手摺ごしに夜の海を見つめた。陸はとっくに見えなくなっていて、手すりから下を覗き込むと、真っ黒に見える水が少し怖い。

 私は少し深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


 「あのですね・・・明日セルナクに着いてしまったら、何が起こるか分かりませんので、色々言っておきたい事がありまして・・・・」


 そう言うと、ディーンは真面目な顔で頷いた。


 (うっ・・・なんか色々緊張するなぁ)


 でも、後悔はしたく無いから・・・


 「ディーンもご存知の通り、私の名前はリナといいまして・・・前の世界では19歳の大学生でした」


 果たして大学生と言う言葉がディーンに理解できるかどうか分からないけど、私は昔の遠い国での話を続けた。

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