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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
最終章 悪役令嬢は・・・
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そんなの私は嫌です!

 (ねーさん、顔色が悪いなぁ・・・)


 トラヴィス達は洞窟を出た後、コールリッジ領から夜を徹して戻って来たらしい。疲れているのは当たり前だろう。


 (こう見えて、ねーさんって責任感強いもんね。馬車でも寝れて無かったんだろうな)


 トラヴィスは苦い顔で、何故か少し逡巡するような素振りを見せた。


 「隣国のセルナク国は、マリオット先生や他の外交官の解放の条件として、私と・・・アリアナが直接セルナクに来るように言ってきた」


 「え!?」


 (私!?)


 「前回の要望と同じだ。エメラインを落とし入れた事に対する謝罪を要求している」


 トラヴィスは深いため息をついた。


 「人質を無視する訳にはいかないからな。私が行って何とかしてくるさ。父・・・皇帝にもそう報告した」


 (報告したって・・・)


 この国の皇帝も、ここ最近のセルナクの動向に頭を痛めているらしい。ゲームでは皇帝って全く登場しなかったけど、悪い人では無いはずだった。


 (アンファエルン皇国は平和でしっかり統治されてるって、設定だったもんね)


 だけど、主導権はトラヴィスの方にあるみたいだ。やっぱりメインキャラの力は強いのかもしれない。


 「でも、セルナクは私にも来るように言ってるんですよね?殿下だけじゃ、人質を解放してくれないんじゃないですか?」


 セルナクはもっと、理不尽な要求をしてくるかもしれない。トラヴィスだって戻って来れるかどうか・・・。


 「それでもアリアナは行かない方が良い。もし君が行けば、エメラインは必ず君を無事には返さない。隣国には私一人で行く!」


 「いえ、それは駄目です!」


 私は思わず立ち上がった。


 「セルナクの最終的な狙いは皇国を手に入れる事ですよね?だから今までだって、闇の組織を使って皇太子である殿下を狙って来たんです」


 この皇国の柱はトラヴィスだ。セルナクはそれが分かってる。


 「だから、殿下が行くのは一番危険だと思います」


 ゲームのストーリーの中にだって、皇太子暗殺のイベントは何度も出てきたのだ。選択肢によっては、実際に殺されるパターンだってあった。トラヴィスがいくら強いと言っても不死身では無いのだ。


 「それに、セルナク行きの船の船長ですら精神魔術の支配下にあった事を考えると、セルナク国にも精神魔術で操られている人も大勢いるんじゃないでしょうか、だから・・・」


 私はそこで言葉を止めた。


 (良いのかな・・・勝手にこんな事を決めて)


 不安な気持ちで、少し緊張しながらリリーに目線を送った。だけどリリーは真っすぐな目で私を見て、こくりと頷いてくれた。それだけで彼女の強い思いが伝わってくる。


 (ありがとう、リリー!)


 さすがヒロイン!ちょっとでも疑った私が馬鹿だった。

 私はリリーの気持ちに後押しされて、トラヴィスだけでなく、ここに居る全員に向かって宣言する様に言った。


 「私とリリーが力を合わせれば解術が出来ます。私達も殿下と一緒にセルナクに行きます!」


 「アリアナ!」


 引き止める様に、ディーンが私の腕を引っ張る。


 「馬鹿な!危険過ぎる!エメライン王女に殺されかけた事を忘れたのか!?」


 「しっかり覚えてます。滅茶苦茶怖かったですから。でも、このままでは戦争を止められないです!トラヴィス殿下、殿下なら覚えてますよね?前の世界の・・・『アンファエルンの光の聖女』のゲームで戦争になった時の結末を」


 トラヴィスの顔に一瞬だけねーさんの影がよぎった。そして苦虫を噛み締めた様な顔をした。

 隣国との戦争は、ゲームの中でも一番のバッドエンドなのを知っているからだ。


 「セルナクとの戦争は長引きます。皇国のいろんな場所が戦場になるんです。学園の先生や生徒達も、最終的に戦争に駆り出される事になります。魔力の強いディーンやクリフやミリア達だって・・・」


 この世界に来て知り合った人達、そして大事な友人達が戦禍に巻き込まれていく。


 「そんなの私は嫌です!」


 皇太子のトラヴィスや皇子であるパーシヴァルだって只では済まない。アリアナの両親やクラークだってどうなるか分からないのだ。


 (だから絶対に止めなくちゃいけない)


 「セルナクが皇国と戦争をしたがるのも、おかしな話なんですよ。普通に見れば、どう考えたって戦力は皇国が上なんです。セルナクだって痛い目に遭う事が分かっているはずなんです。なのに・・・」


 トラヴィスが私をじっと見つめる。


 (う・・・ねーさん?)


 さすが皇太子トラヴィスだ。本気の時のオーラが半端ない。


 「セルナクの王や、中枢貴族達も精神魔術に操られていると言うのか?」


 強い視線に怯みそうになるのを私はぐっと耐える。


 「可能性は高いと思いませんか?その場合、リリーと私で解術できれば戦争を避ける事が出来るかもしれません。それに・・・もし、そうでなくても殿下は絶対に私を連れて行くべきです」


 「何故だ?」


 トラヴィスが訝し気に聞いた。


 「私と殿下が力を合わせれば、いざとなれば隣国の城ぐらい吹っ飛ばせます」


 トラヴィスが目を見開き、執務室にいる全員が呆気に取られた。


 (そうなんだよ。私の力は攻撃する時にだって使う事ができる。トラヴィスやクリフやディーンぐらいの能力者となら、下手したら隣国ぐらい落とせちゃうかもしれない)


 「本当は・・・そんな事はしたく無いですけど・・・」


 私はそう言いながら俯いた。


 (私の力は人を傷つける事にも使える)


 私の力は魔力とも違う、いわば無色透明の純粋なるパワーだ。だから、与えれば術者のどんな魔術だって強化する事ができる。


 (治癒や、シールドや、聖魔術なら良い。単純に人の役に立てる。だけど、攻撃魔術は・・・)


 もしかしたら・・・ううん、きっと多くの人を傷つける。

 考えただけで、お腹の中がざわざわする。とても嫌な気分だ・・・。それでも、皆を守る為だったら・・・


 「この国を守る為には致し方無いだろうな」


 冷静なトラヴィスの声にドキッとして顔を上げた。だけど彼の目は思いのほか優しかった。そして私の頭にポンと手を乗せると、


 「分かった、一緒に行こう。戦争を回避しに。リリーも危険だが、私と一緒に来てくれるか?」


 「もちろんです!」


 リリーは力強く頷いた。

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