作戦!
船長とモーガン先生の話を聞いて、私達は正直言って慌てふためいた。ジョー達を探して、まさかこんな、とんでもない話が出てくるなんて・・・
(ど、どうしよう・・・!?早くこの事をトラヴィス達に伝えないと。セルナクが戦争仕掛けてきたら大変な事になるじゃん!)
そう言えば、セルナクに行ったマリオット先生はどうしてるんだろう?エメラインの説得役をしてくれているはずだけど、この調子では上手くいっているとは思えない。まさか捕まってたりしないよね!?
多分ディーンも同じ気持ちなのだろう、険しい顔で唇を噛んでいる。
私達はとりあえず、目線で合図してゆっくりとモーガン先生達から離れた。近くにいては相談も出来ない。
船尾の人気の少ない所に移動し、私は大きく息を吐いた。やっと、ちゃんと呼吸が出来た気がする。
(魔術で姿が隠れているのは分かってるけど、それでもめっちゃ緊張するや・・・)
モーガン先生は初めて会った時と変わらず、美人でどこか凄みがあった。やっぱり、闇の組織でもトップに近い地位にいるんじゃ無いだろうか。そんな人から、どうやったら二人を取り戻せる?
「困ったな・・・。ジョーとケイシー殿はモーガン先生にべったり張り付いている。しかも強力な精神魔術にかかってるようだ。このままじゃ連れて帰るのも・・・」
ディーンの顔にも焦りの色が見える。
「モーガン先生はどうするんです?このまま逃がすのですか?」
グローシアはいっそ自分達で捕まえたいと思っているようだ。目が鋭く光り、鼻息が荒い。私は彼女をなだめる様に肩を叩いた。
「モーガン先生を捕えるのは私達だけでは難しいと思います。精神魔術に操られているジョーとケイシー様はモーガン先生を守るでしょうし、二人に攻撃するわけにはいかないでしょ?それに・・・多分モーガン先生の魔力は想像していたよりも、強いのじゃないでしょうか?ディーンはともかく、私とグローシアは精神魔術にかけられる可能性もあると思う」
私がそう言うとグローシアは悔しそうに眉を寄せた。暴れられないのが不服の様だ。
「だけどこのままでは二人を助けられないです」
(だよね~。う~ん、ほんと困った・・・どうしたもんか)
せめてクリフが居れば、強力な捕縛魔術で二人の動きを止められたのになぁ。でもって、その後はディーンのシールドでモーガン先生の攻撃を防げばなんとか・・・
(・・・いや・・・待てよ)
できるかな?多分出来そうな気がする。出来る!いや、やるしかない!
「ディーン、グローシア!ちょっと危険だけど、試したい策があります」
私は二人の耳元で、閃いた作戦をこっそり話し始めた。
「なるほど・・・」
「やりましょう!」
3人で頷き合い、作戦の細かい打ち合わせをしてから、私達は再び姿と気配を隠してモーガン先生達に近寄った。
そこには船長はもう居なかったけれど、モーガン先生の傍にはジョー達だけでなく、黒いフードの男達が3人増えていた。見るからに、間違いなく闇の組織の者だろう。
(背格好からして、例の『リーツ』では無さそうだけど面倒だなぁ)
闇の組織の者は、闇の魔術か精神魔術を使える可能性があるもんな。
魔力自体はそんなに強くないだろうから、ディーンやグローシアは大丈夫だが、私はそうはいかない。
魔力タンクとは言え、戦えば私が一番弱いのだ。
だけど、ここまで来たらやるしかない。
私達はぎりぎりまでジョーとケイシーに近寄り、私は右手をディーンと、左手をグローシアとしっかり握り合った。
そして二人に同時に、思いっきり力を注ぐ。
「今です!二人とも、頑張って下さい!」
私の号令と同時に、ディーンはシールドを発動し、グローシアは捕縛の魔術をジョーとケイシーに行使した。
「うっ!」
「ぎゃ!」
「ぐえっ!」
「ぐはっ!」
「くっ!」
「ああっ!」
様々な悲鳴が周りに響いた。
「やった!成功!?」
悲鳴の内訳を説明すると、最初の4つは私の力で膨張したディーンのシールドに、弾き飛ばされたモーガン先生と闇の組織の男達の悲鳴。
最後の二つは、これも強力化したグローシアの魔術で縛られた、ジョーとケイシーの悲鳴だった。
(おお!凄い威力!)
ディーンはシールドで守る人を選べる。ジョーとケイシーは私達と同様、ディーンのシールド内にいるのだ。これで周りからは、二人にも手出しできない
(シールドだけじゃ、私達がジョーとケイシーに攻撃されたらアウトだったけど、グローシアが捕縛魔術を使えてマジ良かったよ)
グローシアの魔力量じゃ、普通なら攻略者のケイシーには勝てなかっただろう。だけど、あいにくこっちには、無尽蔵の魔力供給者の私がいるのだ。
(ふっふっふ。作戦通りじゃ!)
どうやら闇の組織の男達のうち、二人は海に落ちたようだ。もう一人とモーガン先生は看板の上に倒れている。
「よし、今のうちに逃げましょう!」
ディーンはシールドを解くと、動けずに転がったまま叫んでいるジョーとケイシーの首元を触った。
すると、バチっと言う音と共に二人がぐったり動かなくなる。
「な、何を?」
「軽い雷撃。気を失っただけだ」
そう言ってディーンは顔をしかめながらケイシーを担ぎ上げた。グローシアも重そうにジョーを背負う。
(うお!ふ、二人とも凄い!)
自分の細腕を見て、一瞬だけだが、がっかりする。
(やっぱ筋トレぐらい。しないとな)
「行くぞ!」
ディーンの声に、私達は急いで船を降りる為に看板を移動し始めた。しかしほんの数歩進んだところで、
ドンッ!
「うわぁ!」
衝撃音と共に私達は吹っ飛ばされ、看板の上を転がった。




