湖でパニック
(な、何、こいつら!?腹立つ~~~!!そりゃね、アリアナは背も低くて、幼児体形で、出るとこ出てなくて幼く見えるわよ!)
・・・なんだか自分で言ってて悲しくなってきた。でもここまであからさまに人からイジられたのは初めてで、
「あ、貴女ねぇ!いくらなんでも言い過ぎではないですか?」
「あら、本当の事を言い過ぎたかしら?ごめんあそばせ」
「・・・・!!!」
私が歯噛みしていると女生徒はさらに続けた。
「おお、怖い。この方私達を睨んでますわよ?」
「ほんと、さすがお育ちの悪い方のお友達ですわね」
「この方も庶民なのかしら?」
「そうかもしれませんわね。おほほほほ・・・」
(こいつら~~~~!)
なんて嫌みな奴らだと思い、言い返そうとした時だった。
「アリアナ様に失礼な事を言わないでくださいっ!」
嘲笑する女生徒達を遮って、リリーが叫ぶように言った。
「私の事を悪く言うのはかまいません。でもアリアナ様を傷つけるのは許せません!」
リリーの言葉に女生徒達が気色ばむ。
「な、なにを生意気に・・・」
「そうよ、平民のくせに!」
けれどリリーはひるまなかった。
「貴族なら人を傷つけるような事を言っても良いのですか?人に対し、失礼な態度をとっても許されるのが貴族なのですか?だとしたら、私はそんなものになりたくありません。貴族とは他の人より重い責任を担っていて、人を守る立場であるはずです。だからこそ平民より良い暮らしが出来るのではないのですか?私にはあなた達がそうだとはとても思えません!」
真っすぐに女生徒達に向かって言い放った。
(ふぉ~!か、か、かっこいい~~~!リリー素敵!最高!)
私は横でリリーの雄姿に見とれていた。
(これぞヒロイン!さすが聖女候補!)
だけど言われた方はそうではなかった様で、女生徒達は怒りのあまりに顔を真っ赤にさせると、
「よ、よ、よくも平民の分際で・・・この・・・この無礼者っ!」
「えっ?」
女生徒の一人はボートのオールを持ち上げると、あろう事かこちらに向かって投げつけてきたのだ。
「うそっ!」
それをなんとか避けようとした私は、ボートの上で思い切りバランスを崩してしまった。
(ヤバいっ!)
「アリアナ様っ!」
スローモーションのように手を伸ばすリリーを見ながら、
バシャンッ!
私・・・湖に落ちてしまった。
「う・・・ごぼっ!」
思いっきり水を飲んでしまう。
そういえば私って泳げないんだっけ・・・。
(あ・・・これは詰んだ)
半分パニック、半分諦めの気持ちで手足をバタバタさせていると、どう言うわけか突然、私は一気に水面に引き上げられた。
「う、ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ・・・・」
ボートの上に引っ張り上げられ、思いっきり咳込んでしまう。目から涙があふれてくるし、・・・やだ鼻水が・・・
「大丈夫かっ!?」
「あ、ありが・・・ゴホッ、ゴホッ・・・」
「無理して喋らなくていい。落ち着いてゆっくり息を吸うんだ」
そう言って背中をさすってくれる。そのゆっくりしたリズムに少しずつ落ち着き、呼吸も楽になってきた。
ハンカチを渡されたのでそれで顔を拭き、ついでに鼻もかんだ。うん・・・、洗って返さなきゃね。
「アリアナ様!大丈夫ですかっ?アリアナ様っ!」
少し離れた場所でリリーの声がする。顔を上げると私達が乗っていたボートに一人しゃがみ込んでいる、青い顔をしたリリーがいた。そしてその右の方には、焦った顔をした女生徒達のボートもある。
(・・・あれ?じゃ、私が乗っているのは誰のボート・・・?)
不思議な気持ちで振り返ってみると、私の背をさすっているずぶ濡れのディーンと目が合った。
「ディ・・・!ひっ、ゲホッ、ゴホゴホッ」
折角落ち着いてきたのに、別の理由で咳込んでしまった。
横目で様子を伺うと、ディーンの横には第二皇子のパーシヴァルまで居るではないか!
(こ、これって一体、どういう状況?!?)
逃げねばと思いつつも身体は動かず、それに加えて目の前がぐるぐると回りだして・・・
「う、う~ん・・・」
湖に落ちたショックのせいか、はたまた状況による緊張のせいか、私はアリアナになってから二度目の気絶をしてしまった。
ガタガタというリズミカルな音。そして温かい毛布の感触。
気が付いたら馬車の中だった。
「アリアナ様!気が付かれましたか?」
向かい側の席からミリア、ジョージア、レティシアが心配そうにこちらを見ている。
クリフとノエルは居なくて、代わりに担任のエライシャ先生が私の隣に座っていた。私は毛布で体をくるまれて、エライシャ先生に膝枕をしてもらっていたのだ。
「・・・エライシャ先生・・・」
私の口から出た声が思いのほか弱々しかったので、自分でも驚いてしまった。
身体が凄く重いし、なんだか頭も痛い気がする・・・。
「喋らなくて良いですよ。湖に落ちて濡れたせいか、熱がありますからね。寮に着くまでこのままゆっくり寝ていなさい。」
「・・・はい・・・」
普段は厳しめのエライシャ先生の声がとても優しかった。私はその声になんだか安心し、そのまま眠ってしまった。