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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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いえいえ、まさか

 その1時間後には、私達はモーガン先生を捜索する憲兵団たちの本部に潜入していた。


 「サグレメッサ・モーガンの病院からの足取りは掴めたのか!?」


 「城下のサバス地区を調査しましたが、見つかっておりません」


 「少尉、西地区にモーガンの目撃情報がありました。直ちに向かいます!」


 がやがやと忙しい本部の中で、私達3人は完全にスルーされていた・・・と言うのも、私が考えた作戦が、大当たりだったからだ。


 (ふっふっふ、思った通りだった。姿と気配を隠す魔術、強化バージョン大成功だい!)


 実は私がグローシアに力を供給してみると、彼女の姿隠しの魔術は、ディーンと私にも効果を発揮したのだ。


 (すっごいな!誰も私達の事気にしないよ)


 堂々と憲兵隊本部の建物に入る事が出来た上、誰にも咎められない。グローシア曰く、この魔術を使うと、接触したり話しかけたりしない限り、見つかる事は無いそうだ。

 だけど、私には一つ心配な事があった。


 (本当は、私とグローシアだけで来たかったんだけどねぇ・・・)


 私は横にいるディーンを、チラッと見上げた。


 (やっぱり顔色が悪い・・・)


 彼は洞窟で受けた怪我が治りきっていないのだ。

 それに休む間もなく動いてるから、グスタフのベッドで熟睡した私とは違って、疲労だって溜まっているはず。

 だから調査は私達に任せて、その間に休んで欲しいと言ったのに、彼は聞き入れなかったのだ。


 (ディーンは頑固だもんなぁ)


 ここ数年で、随分性格が変わった気がしたけど、こういう所はそのままなんだな。ほんとうに、しょうがない人だ。


 私は隣で真剣な顔で立っているディーンを見て、静かに溜息をついた。

 しょうがないのは自分もそうだ。だって心配なのに、一緒に居られるのを少し嬉しいと思っている・・・。


 (ええい!とにかく、何か情報を手に入れなきゃ)


 すると外から慌てた様子で一人の憲兵が、バタバタと駆け込んで来た。


 「隊長!ジョージア・キンバリーとケイシー・バークレーらしき者の目撃情報がありました!」


 (ジョー!、ケイシー!?)


 「どこだ!?」


 隊長らしき人が聞き返す。私達は耳をそばだてた。


 「城下のディガナ地区の河の船着き場で、赤い髪の女と茶色の髪の男が船に乗り込む所を見た者がいるようです」


 「モーガンは一緒じゃ無かったのか!?」


 「それについては不明なようで・・・」


 隊長は少し考える様にしていたが、


 「二人はどんな格好をしていた?」


 「男の方は特に目立つ服装では無かったようですが、女の方は男性が着る様なズボン姿だったそうです!」


 「何だと?ジョージア・キンバリーは伯爵家の令嬢だぞ。ズボンなんぞ、はくわけ無いだろうっ!?人違いだ!」


 隊長はその情報を切り捨てて、他の報告を聞き始める。だけど、私達は確信していた。


 (いんや、それ!ジョーに間違いないよ!)


 ジョーは男勝りで乗馬も上手い。学園内でも、よくズボン姿でウロウロしている事もあって、いつもミリーに注意されていた。それに二人が姿を消したのは、馬術大会の時だ。


 私達は顔を見合わせて頷き合った。そうして3人固まったまま憲兵隊の本部から外に出て、急いで辻馬車を拾う。


 「ディガナ地区の河の船着き場まで。急いでくれ!」


 ディーンが御者に行先を告げると、ガラガラと言う音を立てて馬車は進み始めた。


 「ジョー達はモーガン先生と別れたのでしょうか?」


 「目撃者が単に見逃しただけかもしれない。船着き場で話を聞いてみよう」


 船着き場までは思ったよりも遠く着いた。しかしもう時刻は夕方に近く、馬車を降りると辺りは薄暗くなっていた。


 「この辺は城下でも郊外に近い。私も来るのは初めてなのだが・・・」


 周りの様子を見ると、あまり治安が良さそうには思えない。路上に直接座っている男達が、じろじろと無遠慮な視線を私達に向けて来ていた。

 私達の服装を見て、貴族だってことが分かるのだろう。


 (こっわいなぁ・・・カツアゲでもされそうな雰囲気・・・)


 ディーンとグローシアが私を守る様にサッと動く。私を二人の間に隠す様にしてくれたのだ。


 (いやいや、ありがたいけどさ。君らだって貴族の子息とご令嬢だよ?)


 それに超イケメンのディーンと美人のグローシアだ。私を隠した所で、目立つのは防げない。


 (でも、守ってくれてるんだよね。感謝!)


 「急ごう」


 ディーンの言葉に、私達は船着き場の桟橋に向かった。そして泊めてあった小型船の船首に座っている、船頭らしき男性に声をかけた。


 「少し聞きたい事がある。今朝頃にズボンをはいた赤い髪の女性と、栗色の髪の青年を見なかったか?」


 ディーンの問いに船頭はじろっと私達を睨むと、手の平を差し出した。ディーンがその手に紙幣を握らせる。すると、男はニヤッと笑って、


 「朝の9時頃に、俺の仲間が乗せてったよ。もう一人、黒髪の別嬪な女も一緒だったぜ」


 (モーガン先生!?)


 私達は顔を見合わせた。


 「行先は?」


 船頭は再び手の平を出す。ディーンはもう一度紙幣を渡した。


 「ダイナスの港だ。もうそろそろ着いてる頃だろうよ」


 「ダイナス!?」


 ディーンが驚いた声を上げた。


 「どうしたのですか?ディーン」


 「うちの・・・ギャロウェイ家の領だ。それにダイナス港から出ている船は、外国行きだけなんだ」


 「えっ!?」


 嫌な予感が私達の頭をかすめる。グローシアも不安そうな顔で、


 「どうしますか?・・・ダイナスまで行きますか?」


 躊躇する様子でそう聞いてくる。

 ディーンは肩を落として、ため息をついた。


 「今から行っても着くのは夜中だ・・・。それに、どちらにせよ、もう二人は・・・」


 ディーンの言い淀んだ内容は予想できた。

 二人はもう、ダイナスにいないかもしれない。

 

 (船が出たのが朝なら、ジョー達は昼過ぎにはダイナスに着いたはず。そうすると、そのまま何処かの国に行く船に、乗ってしまったかもしれない)

 

 だけど私は迷わなかった。私を守る様に立っていたディーンとグローシアの間をすり抜け、さっさと停泊していた船に飛び乗ったのだ。


 「ダイナスまでお願いします。お金は言い値で払いますので」


 船頭にそう告げる。


 「アリアナ!?」


 ディーンとグローシアが、慌てて船に乗り込んで来る。

 そしてディーンは怒った顔で私の腕を引っ張った。


 「馬鹿っ!一人で行く気か!」


 「いえいえ、まさか」


 私はニッコリ微笑んだ。


 「二人とも絶対に付いて来てくれるって分かってましたから」


 ディーンの呆れた顔とグローシアの慌てた顔を見つめながら、私は顔を引き締めた。


 「駄目元でも、出来るだけの事をしたいのです。今、動かないと後で絶対に後悔すると思うから・・・」


 二人は真剣な顔で私の言葉を聞いている。


 「ダイナスに行っても、二人はもう居ないかもしれない。でもその先の足取りは掴めるかもしれませんし、ちょっとでも二人を助ける可能性があるなら、私は行ってみたいです。・・・残念ながら明日の学校はさぼってしまう事になりますが・・・」


 そう言うとディーンは諦めた様に苦笑した、。


 「予定では、私達はまだ野外キャンプに参加している事になっている。・・・そうだな、ギリギリまでやってみようか。どちらにせよ、君は止まらないだろうしな」


 そう言って、船頭にもう一度行先を告げると、運賃を払ってくれた。

 グローシアを見ると、彼女の目からも、さっきまでの迷いが消えている。


 「私はアリアナの行く所なら、どこなりとお供します!」


 そう言って、いつもの様に私に跪いて騎士の礼をした。

 二人の気持ちが嬉しくて、私は彼らの手を取ってぎゅっと力を込めた。


 「ありがとう。きっとジョーとケイシーを助け出しましょう!」


 「ああ!」

 

 「拝命しました!」


 夕暮れの河の上を、船は水面に輝く月に向かって滑って行った。

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