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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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本当の黒幕

 精神魔術に操られているジョーとケイシーは、国の憲兵に追われる事になった。


 (失敗した)


 考えが甘かった。あの二人を操った敵の目的は、私達の動向を探るためだと思っていたから・・・。


 (黒フードは転移した後に、もしかしてジョーとケイシーに接触したのか?)


 グスタフの小屋で、ぐずぐずと片付けなんかしてる場合じゃなかった。あの時は仕方なかったとはいえ、しくじったと言う気持ちが消えない。


 でも、うだうだ後悔をしてても仕方がない。今、動けるのは私達だけなのだ。


 ディーンとグローシアと三人で中庭のテーブル席に集まった。二人とも、ジョーとケイシーの引き起こした事に、かなりショックを受けている。


 昨日から全く休めていないディーンは、疲労の色が濃かった。本当なら寝ていた方が良いだろうに・・・


 (でも、この中で一番強いのはディーンだからなぁ・・・) 


 「昨日までは、まるっきり、いつのも二人でした。変わった様子は無かったです。馬術大会でも活躍していて・・・なのに・・・すみません」」


 グローシアが唇を噛みしめながら、「不覚を取りました」と頭を下げるので、


 「ううん、一人で良く頑張ってくれたよ。多分、ジョーとケイシーは昨日のうちに、新たに精神魔術をかけられたのだと思うんだ」


 学園の庭の中なので、私は声をひそめてそう言った。


 恐らく黒フードは北の森に転移した後、気を失った私達を残して学園に転移したのだろう。


 (よく考えれば、あの時、殺されなくて良かったよ・・・)


 そう考えて少し背筋が寒くなった。意識を失っていた私達は、あのまま消されていても、おかしくはなかったのだ。

 だけどあの時、黒フードはかなりの大怪我を負っていた。だから私達にかまう余裕が無かったのだろう。


 (一度精神魔術をかけられると、次からもかかり易くなるみたいだから、ジョーとケイシーはずっと目を付けられていたのかも?)


 「だが・・・どうして二人はモーガン先生を病院から連れ去ったのだ?」


 ディーンが首を傾げた。


 (それなんだよ)


  私は神殿での一瞬の閃きを、思い出していた。


 ——―サグレメッサに何か吹き込まれたのか?


  神殿でイーサンが言った言葉。


 (やっぱり、私達はどこかで大きな思い違いをしていたんじゃないだろうか?)


 私は今回の事を順に思い返してみた。


 「あの黒いフードの人物は、私達が闇の神殿に行く事を、最初は知らなかったはずですよね?」


 ディーンは難しい顔で頷いた。


 「でも、何かでそれを知ったんだろうな。だから奴は先回りをして神殿の仲間達を全滅させた」


 「そしてヘンルーカの像が壊されていたのを私達のせいにして、イーサンをけしかけたわけでしょうか?」


 「イ、イーサン!?イーサンに会ったのですか!?」


 洞窟での出来事を知らないグローシアは、驚いた顔で私とディーンを交互に見た。


 「うん、話すと長くなるんだけど、洞窟の中でイーサンに攻撃されたの。私やジョーに精神魔術をかけた人物の策略だと思うんだけど。・・・多分狙いはトラヴィス殿下ですよね?」


 「ああ、闇の組織はずっと、トラヴィス殿下の暗殺を目論んでいたからな」


 「それにしては、仲間割れの意味が分からないですけど・・・」


 どうして黒フードは、神殿の仲間達を全員消す必要があったのか。


 「闇の神殿にあったイーサンの大事な物・・・ヘンルーカの像を壊したのは殿下だと、黒フードはイーサンに吹き込んだのだと思うんです」


 「イーサンに殿下を殺させるためだな」


 さすがディーン。理解が早い。


 「そうです。トラヴィス殿下は強い方ですので、本気で戦って勝てるのはイーサンぐらいですから」

 

 ゲーム設定でも、確かそうなっていた。


 (でもなぁ・・・)


 どうにも疑問に思う事が残るのだ。


 (殿下にイーサンをぶつける案は良いとして・・・ヘンルーカの像が前から壊れてたのを隠すためだけに、仲間を全滅させるってのは・・・う~ん、ちょっと理由としちゃ弱い気がするんだよなぁ)


 奴が何かを隠したい思っていたのは確かだと思う。それが一体何なのか・・・


 「神殿で生き残ってた組織の人間は、黒いフードの人物を『裏切り者』って呼んでました。つまり、あいつの正体を知ってるということです。もしかしたら、何らかの理由で、私達に自分の正体を知られたくなかったとか・・・?」


 「なぜ?」


 「う~・・・そこまでは・・・」


 さすがに分からん!

 ディーンの問いに、私は頭を抱えた。

 

 しかし、どう言う理由にせよ仲間を平気で殺せる黒フードは、とんでもなく恐ろしい奴だ。


 「あの時、途中までは黒フードの思惑通りに()()は進んでました。だけどイーサンの誤解をディーンが解いたので、彼は怒って消えてしまった。しかもイーサンの今度の狙いは自分だ。焦った黒フードは、せめて自分の手でトラヴィス殿下の暗殺を成し遂げようとした・・・」


 あの時のトラヴィスはイーサンとの戦いで魔力を消耗し過ぎていた。それに私達を守る為にシールドを張り続けていたのだ。

 さらに唯一、光の魔術を使えるリリーはイーサンと共に転移して消えてまった。


 これを好機だと思った黒フードは、魔力増幅の宝玉を使えば、トラヴィスに勝てると思ったのじゃないだろうか。


 (ふふん、思惑が外れて残念だったね)


 あの時の黒フードの様子から、怪我は相当なダメージだったはず。しかも、どうして自分が反撃にあったのかすら、分からなかっただろう。


 「黒フードはシールドで弾き飛ばされた後、私達を恐れて逃げたんです。そしてその後、モーガン先生を急いで取り返した・・・う~ん、何故だと思います?」


 「モーガン先生は、あいつに精神魔術で操られていたのでは無かったのか?」


 ディーンの言葉に私は頷いた。

 多分、私たちが騙されていたのはそこなのだ。


 「実は以前、イーサンはモーガン先生に気を付けろって言われたことがあるんです。情けないことに、すっかり忘れてたんですが・・・」


 (打倒イーサンしか、考えてなかったからな・・・)


 「良いですか?彼は黒フードの正体だって知っていたはずなのに、黒フードについては、私に注意しなかったんです。つまりイーサンは、モーガン先生の方が危険だと思ってたってことです」


 ディーンがはっと息を飲んだ。


 多分、闇の組織の中では、黒フードよりもモーガン先生の方が位が高いんだ。黒フードが先生の指示で動いてたとしたら・・・


 「モーガン先生が正気を失っていたのは芝居か、もしくはワザとそういう魔術をかけていたってことか・・・」


 ディーンもグローシアも愕然とした顔をしている。


 つまりモーガン先生は限りなく黒幕に近い。現在、彼女は黒フードと一緒にいるのだろう。そしてジョーとケイシーは、とんでも無く危険な状態だと言うことだ。


 (どうする・・・?この世界で際立って強いのは攻略者達だけど、今ここにいるのはディーンだけ・・・。しかも洞窟の戦闘と、ロリコン小屋で寝れなかったせいで相当疲れてる。どうやってジョー達を助けるよ!?)


 トラヴィス達が戻って来れるのは、早くても明後日頃だろう。それまでに私達に何が出来るって?


 (う~・・・考えろ、考えろ!)


 何か・・・どこかに突破口は無いだろうか?


 「・・・ねぇ、グローシア。他に情報は無いかな?ジョー達を追ってる憲兵達は、モーガン先生の行き先を掴んでたりするのかしら?」


 「さすがに一介の生徒にそこまでは教えてくれませんでした。実はジョー達がモーガン先生を連れ出したと言う情報も、姿と気配を隠す魔術で手に入れたのです!」


 グローシアは少しドヤ顔で小鼻を膨らませた。


 (ちょ、ちょっと!そんなヤバいこと、大きな声で言うんじゃ無い!)


 ここは学園の中で、そこそこ人も居るんだぞ。だから、さっきからひそひそ声で話しているんじゃないか。

 私は周りを気にして、キョロキョロしてしまった。幸い、誰も聞いていなかったようだ。

 

 (そうか・・・確かに学生の私達じゃ、捜索に参加させて貰えないだろうしなぁ)


 トラヴィスかパーシヴァルがいれば、話は別なんだろうが。


 (肝心な時に二人がいないとは・・・出来れば憲兵に捕まる前に、ジョーとケイシーの二人を助けてあげたいんだけど・・・ん?)


 憲兵という言葉に、何かキラッと閃くものがあった。さっき、グローシアがドヤ顔で言ってたことで・・・


 (んんん?・・・無理か・・・いや)


 「いやいや、うん!・・・やっぱり出来るかも!?」


 「どうしたんです!?」


 「何か思いついたのか?」


 駄目だったとしても、とりあえず、やってみる価値はある。


 (他に方法は無いんだ。迷っている暇があったら行動だよ!)


 幸運の神には、前髪しかないのだ。走り去る前につかみ取らなきゃ!


 「聞いてください!あのですね・・・」


 私はディーンとグローシアに耳打ちするように、秘密の案を話し始めた。

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