本当の黒幕
精神魔術に操られているジョーとケイシーは、国の憲兵に追われる事になった。
(失敗した)
考えが甘かった。あの二人を操った敵の目的は、私達の動向を探るためだと思っていたから・・・。
(黒フードは転移した後に、もしかしてジョーとケイシーに接触したのか?)
グスタフの小屋で、ぐずぐずと片付けなんかしてる場合じゃなかった。あの時は仕方なかったとはいえ、しくじったと言う気持ちが消えない。
でも、うだうだ後悔をしてても仕方がない。今、動けるのは私達だけなのだ。
ディーンとグローシアと三人で中庭のテーブル席に集まった。二人とも、ジョーとケイシーの引き起こした事に、かなりショックを受けている。
昨日から全く休めていないディーンは、疲労の色が濃かった。本当なら寝ていた方が良いだろうに・・・
(でも、この中で一番強いのはディーンだからなぁ・・・)
「昨日までは、まるっきり、いつのも二人でした。変わった様子は無かったです。馬術大会でも活躍していて・・・なのに・・・すみません」」
グローシアが唇を噛みしめながら、「不覚を取りました」と頭を下げるので、
「ううん、一人で良く頑張ってくれたよ。多分、ジョーとケイシーは昨日のうちに、新たに精神魔術をかけられたのだと思うんだ」
学園の庭の中なので、私は声をひそめてそう言った。
恐らく黒フードは北の森に転移した後、気を失った私達を残して学園に転移したのだろう。
(よく考えれば、あの時、殺されなくて良かったよ・・・)
そう考えて少し背筋が寒くなった。意識を失っていた私達は、あのまま消されていても、おかしくはなかったのだ。
だけどあの時、黒フードはかなりの大怪我を負っていた。だから私達にかまう余裕が無かったのだろう。
(一度精神魔術をかけられると、次からもかかり易くなるみたいだから、ジョーとケイシーはずっと目を付けられていたのかも?)
「だが・・・どうして二人はモーガン先生を病院から連れ去ったのだ?」
ディーンが首を傾げた。
(それなんだよ)
私は神殿での一瞬の閃きを、思い出していた。
——―サグレメッサに何か吹き込まれたのか?
神殿でイーサンが言った言葉。
(やっぱり、私達はどこかで大きな思い違いをしていたんじゃないだろうか?)
私は今回の事を順に思い返してみた。
「あの黒いフードの人物は、私達が闇の神殿に行く事を、最初は知らなかったはずですよね?」
ディーンは難しい顔で頷いた。
「でも、何かでそれを知ったんだろうな。だから奴は先回りをして神殿の仲間達を全滅させた」
「そしてヘンルーカの像が壊されていたのを私達のせいにして、イーサンをけしかけたわけでしょうか?」
「イ、イーサン!?イーサンに会ったのですか!?」
洞窟での出来事を知らないグローシアは、驚いた顔で私とディーンを交互に見た。
「うん、話すと長くなるんだけど、洞窟の中でイーサンに攻撃されたの。私やジョーに精神魔術をかけた人物の策略だと思うんだけど。・・・多分狙いはトラヴィス殿下ですよね?」
「ああ、闇の組織はずっと、トラヴィス殿下の暗殺を目論んでいたからな」
「それにしては、仲間割れの意味が分からないですけど・・・」
どうして黒フードは、神殿の仲間達を全員消す必要があったのか。
「闇の神殿にあったイーサンの大事な物・・・ヘンルーカの像を壊したのは殿下だと、黒フードはイーサンに吹き込んだのだと思うんです」
「イーサンに殿下を殺させるためだな」
さすがディーン。理解が早い。
「そうです。トラヴィス殿下は強い方ですので、本気で戦って勝てるのはイーサンぐらいですから」
ゲーム設定でも、確かそうなっていた。
(でもなぁ・・・)
どうにも疑問に思う事が残るのだ。
(殿下にイーサンをぶつける案は良いとして・・・ヘンルーカの像が前から壊れてたのを隠すためだけに、仲間を全滅させるってのは・・・う~ん、ちょっと理由としちゃ弱い気がするんだよなぁ)
奴が何かを隠したい思っていたのは確かだと思う。それが一体何なのか・・・
「神殿で生き残ってた組織の人間は、黒いフードの人物を『裏切り者』って呼んでました。つまり、あいつの正体を知ってるということです。もしかしたら、何らかの理由で、私達に自分の正体を知られたくなかったとか・・・?」
「なぜ?」
「う~・・・そこまでは・・・」
さすがに分からん!
ディーンの問いに、私は頭を抱えた。
しかし、どう言う理由にせよ仲間を平気で殺せる黒フードは、とんでもなく恐ろしい奴だ。
「あの時、途中までは黒フードの思惑通りにことは進んでました。だけどイーサンの誤解をディーンが解いたので、彼は怒って消えてしまった。しかもイーサンの今度の狙いは自分だ。焦った黒フードは、せめて自分の手でトラヴィス殿下の暗殺を成し遂げようとした・・・」
あの時のトラヴィスはイーサンとの戦いで魔力を消耗し過ぎていた。それに私達を守る為にシールドを張り続けていたのだ。
さらに唯一、光の魔術を使えるリリーはイーサンと共に転移して消えてまった。
これを好機だと思った黒フードは、魔力増幅の宝玉を使えば、トラヴィスに勝てると思ったのじゃないだろうか。
(ふふん、思惑が外れて残念だったね)
あの時の黒フードの様子から、怪我は相当なダメージだったはず。しかも、どうして自分が反撃にあったのかすら、分からなかっただろう。
「黒フードはシールドで弾き飛ばされた後、私達を恐れて逃げたんです。そしてその後、モーガン先生を急いで取り返した・・・う~ん、何故だと思います?」
「モーガン先生は、あいつに精神魔術で操られていたのでは無かったのか?」
ディーンの言葉に私は頷いた。
多分、私たちが騙されていたのはそこなのだ。
「実は以前、イーサンはモーガン先生に気を付けろって言われたことがあるんです。情けないことに、すっかり忘れてたんですが・・・」
(打倒イーサンしか、考えてなかったからな・・・)
「良いですか?彼は黒フードの正体だって知っていたはずなのに、黒フードについては、私に注意しなかったんです。つまりイーサンは、モーガン先生の方が危険だと思ってたってことです」
ディーンがはっと息を飲んだ。
多分、闇の組織の中では、黒フードよりもモーガン先生の方が位が高いんだ。黒フードが先生の指示で動いてたとしたら・・・
「モーガン先生が正気を失っていたのは芝居か、もしくはワザとそういう魔術をかけていたってことか・・・」
ディーンもグローシアも愕然とした顔をしている。
つまりモーガン先生は限りなく黒幕に近い。現在、彼女は黒フードと一緒にいるのだろう。そしてジョーとケイシーは、とんでも無く危険な状態だと言うことだ。
(どうする・・・?この世界で際立って強いのは攻略者達だけど、今ここにいるのはディーンだけ・・・。しかも洞窟の戦闘と、ロリコン小屋で寝れなかったせいで相当疲れてる。どうやってジョー達を助けるよ!?)
トラヴィス達が戻って来れるのは、早くても明後日頃だろう。それまでに私達に何が出来るって?
(う~・・・考えろ、考えろ!)
何か・・・どこかに突破口は無いだろうか?
「・・・ねぇ、グローシア。他に情報は無いかな?ジョー達を追ってる憲兵達は、モーガン先生の行き先を掴んでたりするのかしら?」
「さすがに一介の生徒にそこまでは教えてくれませんでした。実はジョー達がモーガン先生を連れ出したと言う情報も、姿と気配を隠す魔術で手に入れたのです!」
グローシアは少しドヤ顔で小鼻を膨らませた。
(ちょ、ちょっと!そんなヤバいこと、大きな声で言うんじゃ無い!)
ここは学園の中で、そこそこ人も居るんだぞ。だから、さっきからひそひそ声で話しているんじゃないか。
私は周りを気にして、キョロキョロしてしまった。幸い、誰も聞いていなかったようだ。
(そうか・・・確かに学生の私達じゃ、捜索に参加させて貰えないだろうしなぁ)
トラヴィスかパーシヴァルがいれば、話は別なんだろうが。
(肝心な時に二人がいないとは・・・出来れば憲兵に捕まる前に、ジョーとケイシーの二人を助けてあげたいんだけど・・・ん?)
憲兵という言葉に、何かキラッと閃くものがあった。さっき、グローシアがドヤ顔で言ってたことで・・・
(んんん?・・・無理か・・・いや)
「いやいや、うん!・・・やっぱり出来るかも!?」
「どうしたんです!?」
「何か思いついたのか?」
駄目だったとしても、とりあえず、やってみる価値はある。
(他に方法は無いんだ。迷っている暇があったら行動だよ!)
幸運の神には、前髪しかないのだ。走り去る前につかみ取らなきゃ!
「聞いてください!あのですね・・・」
私はディーンとグローシアに耳打ちするように、秘密の案を話し始めた。