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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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置いて行った二人

 私は引きつりそうな顔を、愛想笑いで必死に隠した。。


 (・・・やっぱり昔、アリアナとグスタフの婚約話が出てたんだ)


 そうでなければゲームの中で、卒業と同時にグスタフと結婚とは、ならなかっただろう。

 アリアナの両親の気持ちからすると、身体の弱い娘に早く縁談を、と思ったのかもしれない。


 (ゲームではディーンとの婚約は、とっくに破棄されてたもんなぁ・・・)


 ディーンの方をチラリと見ると、何故かグスタフの言葉に笑みを浮かべていた。彼としては、あまり気にならない事柄だったのかな?


 (そりゃ、そっか)


 アリアナがディーンと出会う前の話だしな。何にせよ昔の事だ。 

 だけどディーンが次に口にした言葉で、私はひっくり返りそうになった。


 「リガーレ公爵。『今は』ではありませんよ。アリアナはこれからもずっと私の婚約者です。それに卒業したら直ぐに結婚するつもりですから」


 「けっ!?うぐ・・・」


 (はぁっ!?)


 声を上げそうになるのを手で押さえて、私は慌ててディーンの顔を見返した。彼は顔に笑みを張り付けたまま、グスタフから目を逸らさない。

 対するグスタフも、ディーンと睨みあったままスッと目を細めた。


 「ほ~お・・・私の聞いたところによると、ディーン君は随分他の女性と浮名を流しているようだが?」


 グスタフの目の奥がキラリと光る。


 (良く知ってるなぁ。どうやって調べてるんだろ?)


 確かに1年生の時はリリーと噂されていたし、2年生になったらマーリンだ。

 

 (婚約者がいる身としては、確かに良くはないよな)


 私は小さく、うんうんと頷いた。


 それでもディーンはグスタフの言葉に動揺する事無く、


 「根も葉もないただの噂ですよ。口さがない人が大勢いますからね」


 そう言って困ったように肩をすくめた。こんな気障なポーズもイケメンがやると様になる。


 「それに、噂されたのは私だけでは無くて、アリアナもそうでしてね」


 「なっ・・・!?」


 何をいっとるんだ!?この人は!

 私が反論しようとすると、ディーンは少し拗ねたようにじろっと睨んで、


 「クラスメイトとの仲を良く噂されてましたよ。()()()()噂ですが」


 やたら強調してそう言った。


 (あ!あ~・・・クリフの事か。確かに噂された事はあったけど・・・)


 ディーンの場合とは、ちょっと違う気がするんだけどな。そう思ったけど、これ以上言うと藪をつつきそうな気がして黙っていた。


 「アリアナは魅力的な女性なので、近づこうとする男が多くて困っています。卒業時は私達も18歳ですからね。早く結婚したいと思っていますよ」


 グスタフはむっつりした顔でディーンの話を聞いていたが、


 「アリアナさんも、そのつもりですかな?」


 私に話を振ってきた。私は飛び上がる勢いで背筋を伸ばした。


 「はは、はい!私もそれが一番良いと思ってるのです。はい!」


 グスタフの口ひげが一瞬、しょげた様に下がった。でも彼は直ぐに苦笑いを浮かべると、


 「まぁ、アリアナさんがそれで幸せなら良しとしますかね・・・」


 溜息をつきながら、肩を落としてそう言った。


 (あれ?)


 私はグスタフの意外な一面を見た気がした。


 (この人、もしかしてロリコン以外は良い人なのかもしれない・・・アリアナの父が認めてるくらいだし?)


 毛嫌いして申し訳無かったかな?、と少し反省した。


 「でもアリアナさん。ディーン君に酷い事をされたら言ってくださいねぇ・・・私はいつでも貴女を待ってますから」


 そう言ってウィンクされた途端、(すまぬ!やっぱ無理!)と思ってしまう。どうしても相性の合わない相手はいるものなのだ。


 「私がアリアナに酷い事など、永遠にする事は無いですよ。だからリガーレ公爵には安心して頂きたい」


 ディーンは笑顔でそう言ったが、目元に怒りが滲んでるよ?私が分かるぐらいだもん、多分グスタフだって気付いてる。

 気のせいか、二人の間に火花が散ったように見えた。


 (それにしても・・・)


 どうしてグスタフは何時まで経っても、アリアナのことを諦めないんだ?私が嫌がってるのも分かってるだろうし。そもそも年が離れすぎてるし。


 (いや・・・ロリコンにとっては、むしろそこが良いのか・・・)


 ゲーム設定恐るべし・・・。そう思って私はげんなりした。



 その後、私達はグスタフの小屋を片付けた。ぐちゃぐちゃにしたのはグスタフだけど、一宿(いっしゅく)の恩は返しとかなくちゃね。

 残念ながら、椅子の足は折れていた。それにお皿やカップ、グラス類は見るも無残に割れてしまっている。


 「はぁ・・・また、揃え直さなくててはいけません」


 そう言って、グスタフはため息をつきながら首をふった。

 何度も言うが、やったの自分だからね?


 だけどグスタフは、その後で私達を自分の馬車で送ってくれた。ディーンもそして私も、彼に借りを作るのは避けたかったが仕方が無い。そうして、ようやく学園に戻る事が出来たのである。


               ◇◇◇


 (うっはぁ・・・疲れた)


 当然ながら、トラヴィス達はまだ帰ってきていなかった。北の森よりも、うちの別荘の方が学園からはるかに遠いのだから・・・。


 (あの後、みんな無事に洞窟から脱出できたのかなぁ・・・)


 私とディーンは自分達が無事である事を知らせる早馬を、トラヴィス達に送ってから、それぞれ寮の部屋に戻った。そしてお風呂を使って一息ついた時だった。部屋のチャイムが鳴らされるのを聞いた。


 (ん?ディーンかな?)


 後で私の部屋に来るとは言ってたけど、随分と早い。

 私は急いでメイドよりも先に、玄関へと向かった。


 闇の神殿のこと。消えてしまったリリーのこと。逃がしてしまった黒フードの人物についてなど、私達には相談する事が山済みなのだ。


 だけど現れたのはディーンでは無かった。開けたドアの向こうに立っていたのは、学園に残っていたグローシアだったのだ。


 「あれ?どうしたの?馬術大会に行ってたのではないの?」


 グローシアは額に汗をかき、息を切らせている。どうやら慌てて走ってきたようだ。


 「た、た、大変・・・です」


 「え?」


 「ジョーとケイシー先輩が・・・、モーガン先生を病院から連れ出して、姿を消して・・・」


 「は?な、何で!?」


 「二人は今日の馬術大会に姿を見せなくて・・・そうしたら、病院からその知らせが学園に届いたそうです。アリアナが戻られたと聞いたから、わたくしは急いで報告に・・・」


 私は慌てて部屋を飛び出した。


 「ア、アリアナ!?」


 「早くディーンに知らせなきゃ!」


 (ジョーとケイシーは精神魔術にかかっていた・・・。もしかしたら、私達が居ない時に、モーガン先生を連れ出す手筈になっていたのかも!?)


 二人を置いて行ったのは失敗だったかもしれないと、苦い気持ちでそう思う。

 学園には今、トラヴィス達は居ない。みんなが戻ってくるまでは、私達で出来るだけの事をしなくては。


 (でも、ディーンとグローシアと私のたった3人で、2人を助けられる?)


 不安で一杯になりながらも、私は懸命に走った。

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