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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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森の狩猟小屋

 ――――リナ・・・


 夢うつつの中、誰かが私の名前を呼んでる。もう誰も呼ばなくなった、かつての名前。


 (・・・ううん、違うな・・・1人だけ・・・この名で私を呼ぶ人がいたよ・・・)


 誰だったっけ?


 「リナ!起きろ。大丈夫か!?」


 「ディーン!?」


 急激な覚醒と共に、私は慌てて飛び起きた。


 ゴチッ!


 「痛いっ!」


 おでこを思いっきりぶつけてしまった。


 (いったたたたた・・・・)


 何なの!?いったい、何にぶつけたんだ?

 涙目で片目を開けると目の前に、私と同じく痛そうにオデコを押さえたディーンと目があった。


 (げっ!)

 

 どうやら体を慌てて起こした拍子に、ディーンに頭突きをかましたらしい。

 一瞬で状況を理解した私は、


 「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」


 「だ、大丈夫だ・・・。それよりも、どうやら私達も洞窟から移転してしまったようだな」


 「え?」


 よくよく周りを見てみると、さっきまでの洞窟とはまるで景色が違っている。私達が居るのは光も届かない程の深い森の中だった。


 「あっ、黒フードは!?」


 あいつと一緒に転移したはずだ。

 キョロキョロと辺りを探すが見当たらない。ディーンはそんな私に首を横に振ると、


 「私も転移した時に意識を失ってしまったようだ。気づいた時には姿が無かった・・・」


 口調に悔しさをにじませながら、そう言った。


 (逃がしちゃったかぁ・・・)


 せっかく、追い詰めていたのに油断した。魔力増幅の宝玉を持ってるとは言え、まさか黒フードが、転移まで出来ると思って無かったのだ。


 (いったい何者なんだよ。ゲームに出てこない癖に、そんな事が出来るなんて・・・。捕えられてたら、正体が分かったのに)


 がっかりした気分で肩を落とすと、ディーンが私に手を差し伸べた。


 「立てるか?もうすぐ夜になる。せめて夜露を凌げるところを探さないと」


 「そ、そうですね」


 私はディーンの手を取った。その手の大きさに少しドキッとする。

 

 すっかり日が傾いた真っ暗な森の中を、ディーンの魔術の炎の灯りを頼りに、私達は歩いた。


 (今、何時くらいだろう?)


 今日は朝から洞窟に入って歩きっぱなしだ。その後はイーサンに謎の黒フードと、続けて2回の戦闘のせいでヘトヘトである。

 洞窟に残されたトラヴィス達は大丈夫だろうか?クラークとレティシアは助けを呼んでくれたんだろうか?


 洞窟の神殿で惨殺されていた闇の組織の人達を思い出して、心臓を掴まれた様な気持ちになる。あれは、やはり黒フードの仕業だったのだろうか?だとしたらどうして、あんなことを?


 (やっぱり逃がしたのは痛かったな)


 そしてもう一つ、私には一番気がかりな事があった。


 (リリー・・・)


 イーサンを追いかけて、一緒に消えてしまった。


 リリーは無事でいるのだろうか?イーサンに酷い事をされていないだろうか?


 (リリーを虐めたら、ただじゃおかないぞ。みんなに私のパワーを送って、成敗して貰うんだからね!)


 自分で直接とっちめる事が出来ないのが、ちょっと情けないが、私の力を使うんだもん、同じ事だろう。


 「私がパワーを増強したら、イーサンにだって勝てる気がするんだよなぁ・・・やってみないと分からないけどさ・・・でも、トラヴィスやディーンやクリフあたりなら、大丈夫なんだじゃないかな・・・」


 ぶつぶつと小声で独り言を言っていたら、


 「リナ、大丈夫か?」


 私の手を引きながら、ディーンは気遣わしそうな表情を向けた。


 「だ、大丈夫!全然、元気だす」


 噛んでしまった・・・。

 恥ずかし過ぎる・・・。

 繋いだ手が熱い・・・と言うか手汗をかいているのが、もっと恥ずかしいぞ!


 「陽が完全に沈む前に、休む所を見つけよう。・・・今夜は野宿になってしまいそうだが・・・」


 「ふ、冬で無くて良かったですね!」


 そう返してから、軽く落ち込んでしまう。


 (・・・な、何と言う頭の悪そうな返事なんだ)


 この自他共に認める秀才の私が?

 情けなさに、心の中で頭を抱えた。


 背の高いディーンの背中を見ながら、不甲斐ない気持ちで暗い森の中を歩いく。ディーンの言う通り、早く休めそうなところを探さないと真っ暗になってしまいそうだ。


 (なんかもう・・・こんな状況なのにちゃんと話せない自分って・・・)


 手を引っ張って貰いながら、どうしようもない気持ちで私は俯いた。


 (ちゃんとしなきゃ、ちゃんと!でないとディーンに呆れられちゃうぞ)


 弱気な気持ちを追い払いたくて、歩きながら頭を振った。そして大きく息を吸って気合いを入れる。


 (大丈夫!さっきは皆の役に立てたし、私は・・)


 「リナ」


 「は、はひ!・・・な、何ですか?」


 また噛んでしまった・・・


 (ううう、かっこ悪・・・)


 「あれを!」


 ディーンの指差す方を見て、私は驚きに目を見開いた。


 「えっ?あっ!」


 森の中にぽっかり空いた草地に、丸太小屋が・・・と言うよりも、大きさ的には山荘と言ってもいいかもしれない・・・突然、目の前に現れたからだ。


 「こ、これって・・・?」


 「多分、誰かの狩猟小屋だと思う。規模から言って、多分どこかの貴族のものだろう。・・・でも助かった。今夜はここに泊まらせて貰おう」


 ディーンはそう言って、私の手を握ったまま、スタスタと小屋に向かい始めた。

 予想はしていたが、小屋の入り口には鍵がかかっていた。ディーンはそれを魔術で難なく外すと、扉をゆっくりと押し開けた。

 入口から中の様子を伺いながらディーンが先に中に入った。そして危険が無いか確認すると、「大丈夫そうだ」と言って私を中に入らせた。


 (おお!)


 小屋の中は思ったよりも広くて、椅子とテーブルのほかに大きなソファも並べてあった。暖炉や、奥の方には小さな台所もある。隣にある扉の向こうの部屋は、どうやら寝室のようだ。


 こんな森の中にあるにしては調度品がちゃんと設えてあり、簡単な食器やタオル、毛布なんかも綺麗に整頓されて置いてある。普通に生活出来そうな程、整えられた室内だ。少なくとも、私が大学時代に住んでいたボロアパートよりも、よっぽど物が揃っている。


 (だけどさ・・・)


 何となく感じる居心地の悪さに、私は少し眉を寄せた。その理由は、調度品の色合いのせいだ。 


 (何で・・・森の狩猟小屋のカーテンがピンク色なのさ?)


 サーモンピンクと言った方が近いだろうか。同じ色の毛足の長い円形の絨毯も敷かれていた。置いてある小物類もやたらと可愛い柄で、前の世界のファンシーショップに入り込んだような気分だ。


 (お、乙女趣味の人の小屋なのかな?)


 「狩猟小屋というよりも・・・小さな別荘みたいですね」


 きっと持ち主はお金持ちの商人の娘とか、もしかしたら貴族のご婦人かもしれない。


 (勝手に入って大丈夫かな?見つかったら文句言われるんじゃ・・・)


 ディーンはそんな事は気にならないのか、部屋の中を横切ると、ランプにさっさと火をつけ始めた。そして外にあった井戸から水を汲んでくると、てきぱきと台所で湯を沸かし始める。


 「あっ、て、手伝いますよ」


 カップと、ついでにお茶の葉も少し拝借して私達はテーブルでお茶を飲んだ。茶葉もやたらと上等な品で、かなり美味しい。

 カップで手を温めていたら、少しホッとした気分になった。やはり夜の森の中では知らない内に気を張っていたのだ。


 「野宿しなくて済んで本当に良かったです・・・」


 夜の森は怖い。初夏とは言え夜中はそこそこ冷えるし、もしかしたら野生動物がいたかもしれない。


 「小屋を見つけられて幸運でしたね」


 やっと人心地着いて、私は安心した気分になった。ゆっくりお茶を飲み終わると、疲れのせいか急に眠気が襲ってきた。


 (着替えが無いのが残念だけど、贅沢は言えないよね。このままで良いから早く横になりたいよ)


 だけどディーンの様子が少し気になった。さっきから私の言葉に頷いてはいるけれど、返事は無くて黙ったままだ。それにどこか緊張している様にも見える。


 (どうしたのかな?あ・・・もしかして!)


 「ディーン、外に何かいるんですか?気配を感じるとか!?」


 気を引き締め直し、窓に近寄ってカーテンの隙間から外を窺う。だけど真っ暗な森の中からは虫の声が聞こえるだけで、怪しいものは見あたらない。

 するとディーンが、慌てた様子で声を上げた。


 「い、いや!何もいないと思う!気配もしない。大丈夫だ。安心して良い」


 額に汗を流しながら、なんだか口調がしどろもどろだ。


 (なんだ?いつも冷静なディーンが、何か焦ってる?)


 もしかして、ディーンも疲れているのかもしれない。そりゃそうだよね。あんなにも色んな事があったんだもん。


 「ディーン、時間は少し早いけど、そろそろ休みましょう」


 私がそう言いうと、何故かディーンがビクッと体を揺らした。何だか目も泳いでいるような・・・。


 (どうしたんだろ?)


 そこで私はハッと気づいた。


 (ん?・・・待てよ・・・今夜はここでディーンと二人っきりって事で・・・)


 そう考えた途端、眠気が完全に吹っ飛んでしまった。

 隣の部屋にはベッドが一つ。他に寝室は無い。

 

 全く暑く無いのに、顔からドッと汗が流れ落ちた。


(どどど、どうしよ・・・え?・・・どうしたら?)


 焦ってる私の心情を知ってか知らずか、ディーンは急に椅子から立ち上がると、ドカッと音を立てながらソファに座った。長い脚を組んで、ついでに腕も組んで背もたれにもたれる。


 「リナは隣室のベ、ベッドを使うと良い。私はここで寝るから」


 そう言われて私は慌てた。


 「い、いえ、そんな、駄目ですよ!ディーンは今日の戦いで、魔力を沢山使ったから、相当疲れているはずです。ディーンがベッドで寝てください!」


 イーサンや黒フードの攻撃から私達を守る為に、ずっとシールドを張っていたのだ。


 (それに、神殿で一回倒れてたじゃん・・・あっ)


 「そう言えば、怪我は!?イーサンにやられた怪我は大丈夫なのですか?」


 思い出して私はディーンに詰め寄った。


 「確かあの時、片腕が動いて無かったですよね?骨が折れてたんじゃないですか!?それに、頭からも出血してたし、体中に傷が・・・・」


 ソファに座ったディーンの怪我の状態を調べようと、あちこち触って顔を近づけた。

 するとディーンは突然、ソファから飛び退って私から離れた。


 「だ、大丈夫だから!殿下に治癒魔術をかけて貰ったから!」


 「でも完全に治ったわけじゃないですよね?戦闘後で殿下の魔力も減っていたし。どこか痛いとこは無いですか?」


 近づく私に、ディーンは片手を上げ、手の平を向けて叫んだ。


 「大丈夫だから!頼むから、あまりこっちに来ないでくれ!」


 (あ・・・)


 お腹の中が急に冷たくなったような気がした。


 (そっか・・・)


 分かってしまった・・・

 ディーンは、私に触れられたくないだけなのだ。


 目の前が、ベールをかけた様に薄暗く見える。

 やば・・・なんだか頭もくらくらするぞ。


 (・・・嫌われた・・・か)


 眉間に皺を寄せて唇を噛みしめる。変な顔を見られたくなくて、私は下を向いた。


 「すみません。嫌だったですよね・・・離れます」


 声が震えるのを必死で抑えて、私はディーンに背を向けた。

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