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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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神殿

 衝撃音が響く中、私達は通路を歩いて行った。


(何が起きてるの!?みんなは無事?)


 時々足元にもびりびりと振動が伝わって来る。天井が崩れてこないか心配なくらいだ。


 ドガンッ!


 「危ないっ!」


 ひときわ大きい爆発音が響く中、クリフが私の上に覆いかぶさる様にしてしゃがみ込んだ。


 (うわわわわ~)


 通路の向こうから爆風が吹きつけ、ふっ飛ばされそうだ。通路の壁や地面に、ガツガツと小石がぶつかる音が聞こえた。


 (ひ、ひえ~、怖過ぎだよ!)


 やっと風が収まって、私はクリフを見上げた。


 「すみません!ありがとうございます」


 体を起こそうとしたが、私を庇ってくれたクリフが何故か動こうとしない。


 「クリフ!?」


 ズルっとクリフの体が私の上から地面へと滑り落ちた。


 「ど、どうしたの?大丈夫ですか!?」


 頭を支えようと手を伸ばしたらヌルリとした感触。見ると私の手が真っ赤に染まっている。


 「ち、血が!怪我したんですか!?」


 クリフは意識が無いようで、真っ青な顔で目を閉じている。


 「クリフ!?」


 背中を冷たい汗が滑り落ちた。


 (ど、どうしよう!?私のせいだ。私が氷の橋を渡ろうとしたから・・・)


 進むことも戻ることも出来ない状況で、焦燥と後悔に涙が滲んでくる。だけど、


 (馬鹿!泣いてる場合か!)


 私は両手で自分の頬をバチバチ叩いた。


 (ぐるぐる落ち込んでても事態は変わらないんだって!動かないと変えられないんだ!)


 私は上着を脱いで、クリフの頭の下に敷いた。


 (誰かを呼んでこなくちゃ・・・私じゃクリフを運べない)


 通路の向こうが大変な状況になっているのは分かる。それでも、とにかく皆と集合しなくては、

このままじゃどうしようもない。

 私は動かないクリフの手を両手で握った。


 「守ってくれたのに、置いて行ってごめん・・・。絶対に助けを呼んでくる!」


 (私は弱いから皆に助けられてばかりだ。だけど何もしないのと、何も出来ないのは違う!)


 そう思って洞窟の通路の向こう側を睨みつけながら、私は走った。洞窟の中なのに先の方から微かに明かりが届いていた。カンテラはクリフの所に置いて来たから、その明かりだけが頼りだ。途中、何度も岩や小石に足を取られて転んだけど、そんな事かまっていられなかった。

 出口が近づくにつれ、明かりはどんどん強くなる。

 

 「もしかして外なの?」


 だけど、私の予想は外れていた。

 通路から出て驚いたのは、そこがあまりにも広い空間だったからだけでは無い。


 「神殿!?」


 天井は高く、どこからか外界の光が入って来ているのかとても明るい。壁には様々な彫刻がなされていて、あきらかに人の手が入った場所であった。


 だけど、のんびりと周りを観察している暇は無かった。私の目の前では、空中に浮かんだイーサンが、トラヴィスとリリーに向かって炎の魔術を振りかざしたところだったからだ。


 「あ、危ない!」


 火柱がリリーの作ったシールドに当たり、「ドンッ!」と言う爆発音が響く。そしてそれと共に熱風が巻き起こった。


 「あああ、あっつい!」


 私は急いで岩陰に隠れた。さっきからの衝撃と音の正体はこれだったんだ。


 (やっぱりイーサンが暴れてたのか・・・!でも、どうしてトラヴィスに攻撃してんの?)


 「アリアナ!?」


 小声で呼ぶ声の方に目をやると、少し離れた岩陰にパーシヴァルがしゃがんでいる。そしてそこにはミリアが倒れていた。


 「ミリア!」


 私は叫んで二人の方へ走った。


 「馬鹿っ、来るな!」


 パーシヴァルの声と重なる様に、再び爆発音が響く。


 「うっわ」


 爆風に吹っ飛ばされながらも、私は二人のいる岩陰に転がり込んだ。


 パーシヴァルが私を引き起こしながら、


 「馬鹿かよ!飛び出すと巻き込まれるぞ!」


 「いったい、何があったのですか!?どうしてイーサンと戦ってるんです!?」


 私はパーシヴァルに掴みかかって、そう聞いた。


 「ミリアは大丈夫なんですか!?そ、それにディーンは?ディーンは何処に・・・!?」


 「離せ・・・、お、落ち着けって・・・」


 勢いのままパーシヴァルの胸ぐらを掴んで揺すったので、彼は目を白黒させている。私は慌てて手を離した。


 「ミリアは気絶してるだけだ。イーサンの奴、ここに来るなり僕達に攻撃してきたんだ。ミリアと僕は衝撃で吹っ飛ばされて、運良くここに転がったってわけさ。今は兄上とリリーが必死で持ちこたえてる。ディーンは・・・」


 「ディーンはどうしたんですか!?」


 私の心臓がドクン!となった。


 「・・・分からないんだ。僕達とは違う方向へ飛ばされて。それから姿を見せない・・・」


 「え!?」


 自分の頭からスッと血の気が引くのが分かった。


 (ディーン!?)


 慌てて岩を飛び出そうとするところを、パーシヴァルに引き止められる。


 「落ち着け!ここから動いたら君なんかすぐに吹っ飛ばされるぞ!・・・きっとあいつの事だから大丈夫なはずだ」


 そう言うパーシヴァルの顔は、ディーンが心配でたまらないと言う表情をしている。私はそれを見て、自分のはやる気持ちを抑えた。


 (そうだ・・・私はここじゃ、最弱なんだから。足を引っ張っちゃいけない・・・だけど・・・)


 「どうしてこんな事に・・・。それに、どうして時間通りに戻って来なかったの?」


 「見なよ」


 パーシヴァルに促された方向を見て、私は驚きのあまりヒュッと喉がなった。黒いフードを身に着けた人達があちこちに倒れていたのだ。


 「ななな、何なんですかっ!?あの人達はいったい!?」


 「死んでる・・・いや、殺されたんだ。多分、闇の神殿の者達だと思う。僕達がここに着いた時はもう殺されていた・・・」


 パーシヴァルの顔が歪む。


 「い、いったい誰が!?」


 「分からない・・・。だけど、イーサンの奴、僕達の仕業だと思ったのかも」


 (そんな・・・)


 だとしたら誤解を解かなくちゃ。私はパーシヴァルに向き直った。


 「通路の途中でクリフが怪我をして倒れてるんです。私じゃ彼を運べなくて・・・。お願いして良いですか?」


 「えっ?」


 「私は戦いを止めます!」


 言い捨てて、私は岩陰の外に飛び出した。

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