神殿
衝撃音が響く中、私達は通路を歩いて行った。
(何が起きてるの!?みんなは無事?)
時々足元にもびりびりと振動が伝わって来る。天井が崩れてこないか心配なくらいだ。
ドガンッ!
「危ないっ!」
ひときわ大きい爆発音が響く中、クリフが私の上に覆いかぶさる様にしてしゃがみ込んだ。
(うわわわわ~)
通路の向こうから爆風が吹きつけ、ふっ飛ばされそうだ。通路の壁や地面に、ガツガツと小石がぶつかる音が聞こえた。
(ひ、ひえ~、怖過ぎだよ!)
やっと風が収まって、私はクリフを見上げた。
「すみません!ありがとうございます」
体を起こそうとしたが、私を庇ってくれたクリフが何故か動こうとしない。
「クリフ!?」
ズルっとクリフの体が私の上から地面へと滑り落ちた。
「ど、どうしたの?大丈夫ですか!?」
頭を支えようと手を伸ばしたらヌルリとした感触。見ると私の手が真っ赤に染まっている。
「ち、血が!怪我したんですか!?」
クリフは意識が無いようで、真っ青な顔で目を閉じている。
「クリフ!?」
背中を冷たい汗が滑り落ちた。
(ど、どうしよう!?私のせいだ。私が氷の橋を渡ろうとしたから・・・)
進むことも戻ることも出来ない状況で、焦燥と後悔に涙が滲んでくる。だけど、
(馬鹿!泣いてる場合か!)
私は両手で自分の頬をバチバチ叩いた。
(ぐるぐる落ち込んでても事態は変わらないんだって!動かないと変えられないんだ!)
私は上着を脱いで、クリフの頭の下に敷いた。
(誰かを呼んでこなくちゃ・・・私じゃクリフを運べない)
通路の向こうが大変な状況になっているのは分かる。それでも、とにかく皆と集合しなくては、
このままじゃどうしようもない。
私は動かないクリフの手を両手で握った。
「守ってくれたのに、置いて行ってごめん・・・。絶対に助けを呼んでくる!」
(私は弱いから皆に助けられてばかりだ。だけど何もしないのと、何も出来ないのは違う!)
そう思って洞窟の通路の向こう側を睨みつけながら、私は走った。洞窟の中なのに先の方から微かに明かりが届いていた。カンテラはクリフの所に置いて来たから、その明かりだけが頼りだ。途中、何度も岩や小石に足を取られて転んだけど、そんな事かまっていられなかった。
出口が近づくにつれ、明かりはどんどん強くなる。
「もしかして外なの?」
だけど、私の予想は外れていた。
通路から出て驚いたのは、そこがあまりにも広い空間だったからだけでは無い。
「神殿!?」
天井は高く、どこからか外界の光が入って来ているのかとても明るい。壁には様々な彫刻がなされていて、あきらかに人の手が入った場所であった。
だけど、のんびりと周りを観察している暇は無かった。私の目の前では、空中に浮かんだイーサンが、トラヴィスとリリーに向かって炎の魔術を振りかざしたところだったからだ。
「あ、危ない!」
火柱がリリーの作ったシールドに当たり、「ドンッ!」と言う爆発音が響く。そしてそれと共に熱風が巻き起こった。
「あああ、あっつい!」
私は急いで岩陰に隠れた。さっきからの衝撃と音の正体はこれだったんだ。
(やっぱりイーサンが暴れてたのか・・・!でも、どうしてトラヴィスに攻撃してんの?)
「アリアナ!?」
小声で呼ぶ声の方に目をやると、少し離れた岩陰にパーシヴァルがしゃがんでいる。そしてそこにはミリアが倒れていた。
「ミリア!」
私は叫んで二人の方へ走った。
「馬鹿っ、来るな!」
パーシヴァルの声と重なる様に、再び爆発音が響く。
「うっわ」
爆風に吹っ飛ばされながらも、私は二人のいる岩陰に転がり込んだ。
パーシヴァルが私を引き起こしながら、
「馬鹿かよ!飛び出すと巻き込まれるぞ!」
「いったい、何があったのですか!?どうしてイーサンと戦ってるんです!?」
私はパーシヴァルに掴みかかって、そう聞いた。
「ミリアは大丈夫なんですか!?そ、それにディーンは?ディーンは何処に・・・!?」
「離せ・・・、お、落ち着けって・・・」
勢いのままパーシヴァルの胸ぐらを掴んで揺すったので、彼は目を白黒させている。私は慌てて手を離した。
「ミリアは気絶してるだけだ。イーサンの奴、ここに来るなり僕達に攻撃してきたんだ。ミリアと僕は衝撃で吹っ飛ばされて、運良くここに転がったってわけさ。今は兄上とリリーが必死で持ちこたえてる。ディーンは・・・」
「ディーンはどうしたんですか!?」
私の心臓がドクン!となった。
「・・・分からないんだ。僕達とは違う方向へ飛ばされて。それから姿を見せない・・・」
「え!?」
自分の頭からスッと血の気が引くのが分かった。
(ディーン!?)
慌てて岩を飛び出そうとするところを、パーシヴァルに引き止められる。
「落ち着け!ここから動いたら君なんかすぐに吹っ飛ばされるぞ!・・・きっとあいつの事だから大丈夫なはずだ」
そう言うパーシヴァルの顔は、ディーンが心配でたまらないと言う表情をしている。私はそれを見て、自分のはやる気持ちを抑えた。
(そうだ・・・私はここじゃ、最弱なんだから。足を引っ張っちゃいけない・・・だけど・・・)
「どうしてこんな事に・・・。それに、どうして時間通りに戻って来なかったの?」
「見なよ」
パーシヴァルに促された方向を見て、私は驚きのあまりヒュッと喉がなった。黒いフードを身に着けた人達があちこちに倒れていたのだ。
「ななな、何なんですかっ!?あの人達はいったい!?」
「死んでる・・・いや、殺されたんだ。多分、闇の神殿の者達だと思う。僕達がここに着いた時はもう殺されていた・・・」
パーシヴァルの顔が歪む。
「い、いったい誰が!?」
「分からない・・・。だけど、イーサンの奴、僕達の仕業だと思ったのかも」
(そんな・・・)
だとしたら誤解を解かなくちゃ。私はパーシヴァルに向き直った。
「通路の途中でクリフが怪我をして倒れてるんです。私じゃ彼を運べなくて・・・。お願いして良いですか?」
「えっ?」
「私は戦いを止めます!」
言い捨てて、私は岩陰の外に飛び出した。