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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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君が好きだよ

 「乗って走っても、割れないくらいの強度はあるはずだ」


 トラヴィスは事も無げにそう言った。


 「凄い!さすがですね。では早速行きましょう!」


 私が地底湖の方へ足を向けた途端、トラヴィスが私の肩を掴んで「待て」と言った。


 「へ?」


 「アリアナはここまでだ。地図に載ってる所までという約束だっただろう?」


 (あ・・・)


 忘れてた。


 「いや、でも、あの・・・こんな所で一人で残されても・・・」


 地底湖の岸辺で一人でいるなんて、怖すぎないか?


 「じゃ、俺も一緒に残る」


 クリフが私の横で手を上げた。


 「一人で待たせるのは、もっと危険だろ?」


 (え?)


 クリフはどかっと地面に腰を下ろした。


 「1時間以上経っても殿下達が戻らなかったら、アリアナを連れて外へ戻る。それで良いか?」


 クリフの言葉にトラヴィスが頷いた。


 「ああ、そうしてくれ」


 「そ、そんな!?」


 私を置いてけぼりにして、どんどん話が進んでいく。


「それが最善かもね。アリアナだって、こっから先の地図は知らないんだろ?僕達が戻らなかったらクラーク達にすぐ連絡してよね」


 あっけらかんとした口調で、パーシヴァルがそう言う。私は反論しようとした。


 「そんな!だって・・・」


 (だって、何かあったら皆を見捨てて行けって言うのか?そんなのは嫌だ!)

 

 だけど、だけど・・・どうしても先の言葉を作れなかった。


 (・・・何かあった時、私は確実に足手まといになる)


 結局、今の私が出来る最善の事は、クリフと一緒に外へ助けを呼びに行く事だけなのだ。

 どうしようもない無力感に、私は大きく溜息をついて項垂れた。


 「・・・分かりました。ここで待ちます」


 気落ちした声で渋々そう言った私の頭に、誰かがぽんと手を乗せた。そうしてくしゃりと髪を優しく掴む。


 (ねーさん?)


 そう思って目線をあげると、私の前に居たのはディーンだった。


 (っ!?)


 息が詰まったようになって、身体が硬直する。ディーンはもう一度、柔らかく私の頭をぽんぽんとすると、くるりと背を向けた。


 「では殿下、私達は進みましょう。クリフ、アリアナを頼んだ」


 そう言って、先頭に立って氷の道を渡り始めた。


 「行って来るわ、アリアナ」


 「1時間で必ず戻ります。待っててください」


 ミリアとリリーは安心させるように私の手を握って、殿下達の後ろに続いた。


 (逆だよ・・・危険なのはみんなの方なのに・・・)


 何度も振り返りながら氷の道を進む二人を見て、私は両手で「ええいっ」と自分の頬を叩いて、気持ちを引き締めた。


 「二人とも気を付けて。危ないと思ったらすぐ引き返して下さい!」


 手を振りながらそう言った。

 そして私とクリフを残して、5人は氷の橋を渡り、対岸の抜け穴をくぐって姿を消した。

 いつまでも皆が消えていった抜け穴を見ている私に、クリフが苦笑する。


 「心配しなくても大丈夫だ。あいつら全員、魔術に関しては大人顔負けなんだから。生半可な事じゃ、ビクともしないさ」


 「分かってますけど心配です。この洞窟を指摘したのは私ですし・・・。もし本当に闇の神殿に繋がっていたら、何が起こるか予想できないです」


 今からでも皆を追いかけて行きたかった。役に立たないって分かっていても、危険な目に遭うとしたら一緒が良かった。


 「クリフも、ごめんなさい。私のせいで皆と一緒に行けなくて」


 「別に俺は闇の神殿になんか興味は無いから構わないよ。君といる方が楽しい」


 クリフはあっさりそう言うと、ごろりと地面に寝転がった。私もランタンを足元に置いて、その横に腰を下ろした。皆の無事を祈りながら、長い一時間になりそうな気がした。

 するとクリフが寝っ転がったまま天井を指さした。


 「見てみなよ」


 指さす方を見上げると、ランタンの光に小さな水晶が反射して、洞窟の中なのに、まるで星空のようだった。


 「わっ、これは綺麗ですね!」


 「だな。・・・なぁ、実は君に聞きたい事があったんだ。あいつらが戻ってくるまで丁度良いから、話をしよう」


 クリフは寝っ転がって天井を見たままそう言った。


 「聞きたい事ですか?」


 「うん・・・君、ディーンが好きだろ」


 余りにもダイレクトに言われて、私はバケツを被せられて頭を殴られたような衝撃を受けた。おかげで取り繕う余裕などなく、


 「ぐっ・・・は?・・・す・・・好!?・・・え!?・・・あ、あの・・・」


 目を白黒させて、あたふたする私を見て、クリフは「ぶっ」と吹き出した。そして「あはははは・・・」と笑ったけれど、いつもの上戸の笑い方とは少し違っていた。


 「クリフ・・・?」


 クリフは私の方を見ないで、


 「ディーンは良い奴だよな。俺はさ・・・君が幸せだったら、それで良いんだ。相手がディーンだって、トラヴィス殿下だって構わないんだよ。だけど・・・一度くらいは、ちゃんと言っておこうって思って・・・」


 クリフは身体を起こすと初めて私の方を真っすぐ見た。


 「君が好きだよ」


 澄んだ紫色の瞳が、水晶よりも綺麗だと思った。空色の銀髪は今はランタンのオレンジの光を映している。


 「だけど、君はディーンが好きだろ?」


 少し眉尻を下げて笑って、クリフはまたごろんと寝っ転がった。


 「だからもう、この話は気にしなくて良いよ」


 「わ、私は!」


 黙ったままで、クリフとの話を終わらせてしまうのは卑怯だと思った。だから、今の自分の正直な気持ちをちゃんと伝えようと、必死で口を開いた。


 「ご、ごめんなさい。本当は、今でも自分の気持ちが良く分からないのです!」


 目の端に、クリフが怪訝そうに私を見ているのが分かった。私はカンテラの灯りをじっと見つめたまま言葉を探した。

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