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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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思わぬ参加者

 湖畔では生徒達が集まってレブナン先生の指示を受けている。私はレティシアと並んで草の上に敷かれたシートの上に座り、その光景を眺めていた。


 「それにしても凄い参加人数ですね。こんなに来ると思ってませんでした」


 私がそう言うと、馬車酔いから少し回復したのか、レティシアは、


 「だって学園の人気メンバーがほとんど揃ってるんですもの。そりゃ、みんな参加したいと思うでしょ?」


 当然だという風にそう言った。


(そっか、そうだよなぁ)


 実戦授業キャンプにかこつけて、自分達で洞窟を調査しようというのがトラヴィスの計画だったのだが、彼にも予想出来なかった誤算が一つあった。毎年不人気で、実行人数に届かなかった企画が、なんと今回は定員いっぱいまで人が集まってしまったのである。


 「トラヴィス様にパーシヴァル様の両殿下。それにクラーク様にディーンにクリフ。神セブンのうち5人も揃ってれば、女子はみんな目の色変えるのは当たり前よね。そこにリリーとミリアが参加で、アリアナまで来るとなれば、男子だってこぞって手をあげますわよ」


 指を折って数えながらレティシアは当然だという風に言った。


 (そう言うレティも美人だから、男子人気高いしなぁ)


 なので当初は10人くらい?と目論んでいた参加者が、定員の30人ぴったり集まってしまったのだ。

 聞いたところによると、最終的に応募人数が多すぎて、私達以外は抽選になったらしい。


 (そりゃ、先生も嬉し過ぎてテンションもおかしくなるか)


 だけど、こうなると私達だけで洞窟探検っていうのが難しくなる。何せ女生徒達の目が常にイケメン供にくぎ付けだからである。あわよくばお近づきに、と言う下心が透けて見えるどころか丸見えで、たった今も獲物を狙うハンターの様に、クラークに、にじり寄る女生徒を見つけてしまったところだ。


 (あ~、グローシアが来なくて良かったわ、はは・・・)


 乾いた笑いで辺りを見ると、見覚えのあるミルクティーベージュの髪色を見つけてドキッとした。


 「マーリン・・・来てたんだ」


 ぼそっと呟いたのが、レティシアの耳にも聞こえたようで、


 「あの方、まだディーンにまとわりついてるんですね。なんてしつこい方なんでしょう!」


 と眉を吊り上げた。

 珍しくレティシアの声が大きい。これじゃ周りに聞こえちゃうよと、私は慌ててレティシアを宥めようとした。


 「た、単に、この授業に出たかっただけかもしれませんよ?それに、最近は前程ディーンとはあまり親しくしてないようですし」


 「当然ですわ!ディーンはアリアナの婚約者なんですからね!」


 (契約婚約者だけどね・・・)


 心の中でそう呟きながら、そっとマーリンの様子を伺った。


 (少し元気が無さそうな気がするなぁ)


 マーリンは精神魔術の解術が行われた後、一度だけ私に謝ってくれた。だけどそれは和解とは程遠いものだった。



 去年の秋の事だった。生徒会室の作業室にみんなが集まった中で、マーリンは私に頭を下げた。


 「悪かったわ」


 だけど、その謝罪には続きがあり、


 「貴女を無能だと決めつけたのは間違いだったわ。上級クラスから出て行くように言ったことも謝ります。だけど昔、貴女がした事を許す事は出来ないわ。私はやっぱり貴女が嫌いよ!」


 と言う言葉で締めくくられた。その時のマーリンには全く悪びれた様子はなく、

周りにいた人の鼻白む顔を見て、私の方が焦ったぐらいだ。


 (えーっと、昔アリアナがした事って・・・やっぱり一番は、ディーンを無理やりマーリンから奪って婚約者にした事かな?・・・それともお茶会とかでマーリンに意地悪したってのもあり得るよね・・・)


 やっば・・・心当たりが多すぎる。マーリンの気持ちも分かると言うか・・・確かにそれは許せなくて当然かもと思っていると、


 「さぁ謝罪は終わったわ。それよりも私、貴女に話があるのよ!」


 彼女は腰に手を当てて挑むように私と対峙すると、真っすぐ私に人差し指を突き付けた。


 「いい加減にディーンを自由にしてあげたらどうなの!?」


 「・・・え?」


 「権力でディーンを無理やり縛り付けて恥ずかしく無いの!?ディーンが可哀そうだわっ」


 と真正面から彼女は私を糾弾してきたのだ。マーリンの言葉に気色ばむミリアとグローシアに堪える様に目配せしながら、私は困り果てていた。


 (うっ、・・・ど、どう説明したら・・・)


 契約婚約の件は、トラヴィス以外には内緒にしてるのだ。


 (どう言ったらマーリンを納得させられる?)


 旨い説明が思いつかない。

 だけど驚いた事に、私が口を開く前にマーリンに反論したのは他ならぬディーンだった。


 「マーリン。私は自分の意思で彼女と婚約している。つまらない邪推は止めて欲しい」


 彼は私とマーリンの間に入って彼女に向き直ると、ハッキリとそう言ったのだ。マーリンだけじゃない、私だって一瞬呆然としてしまった。

 マーリンはディーンの言葉に、信じられないと言う表情を浮かべた。


 「どうして?ディーン!だって貴方は私と・・・」


 「精神魔術が解けたのなら、もう私にまとわりつかないで欲しい。べたべたされるのは迷惑だ。アリアナが誤解する」


 「ちょ、ちょっとディーン!?」


 さすがに言い過ぎだと思った。だってマーリンはディーンが好きなんだよ?ディーンだって、分かってる筈なのに。

 口を挟もうとした私を、だけど彼は腕を上げて止める。そうしてそのまま、彼女を冷たい目で見下ろしていた。

 マーリンはみるみる顔が青ざめ、手が震えていた。そして泣きそうに顔を歪めると、


 「あ、待って!」


 止める私の声を振り切って、走り去ってしまった。



 マーリンはその後、エメラインと同じ精神魔術下にあった事実が明らかになった為、聖女候補を剥奪された。

 教会曰く、精神魔術などと言う汚れた術を跳ね返せない者に、聖女の称号は相応しくないとの事だった。

 だから今現在、この国の聖女候補はリリーだけになってしまった。その為、来年にも聖女の認定式が行われる予定だらしい。


 (その上3年生になったら、マーリン、上級クラスからも居なくなっちゃったんだよね)


 どうやら成績が落ちた為、通常クラスに変わってしまったらしい。

 ただでさえ2年の時に、彼女はクラスに居場所が無かったんだ。その上好きな人に、あそこまで冷たくされたら勉強する気も失せるかもしれない。


 (マーリンにとっちゃ、踏んだり蹴ったりだよなぁ。せめて、この野外キャンプは楽しんで欲しいんだけど、私がそう思うのは高慢かなぁ・・・)


 少なくとも、マーリンは嫌がるだろうな。


 湖のほとりには、色とりどりのテントが組みあがっていった。

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