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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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キャラ変!?

 次の日は土曜日だった。朝早くからトラヴィスの執務室へ来るようにとの知らせに、慌てて身支度をしていると、クラークが部屋を出て行く気配がした。


 (あれ?執務室に行かないの?)


 クラークが私を放って先に行くはずは無いし。他に用事があるのだろうか?

 訝しく思いつつ、私は生徒会室へと急いだ。


 「すみません、遅くなりましたか?」


 執務室の扉を開けると、私よりも先に、ディーンとリリーそしてミリアとクリフが集まっている。


 「弟も後から来る」


 トラヴィスはそう言って、私達に座る様に促した。


 (絶対にパーシヴァルをのけ者にしないんだよね、ねーさんは)


 トラヴィスは引き出しから、昨日見つけた3冊の書物と巻物を取り出して机に乗せた。


 「禁書の部屋の、さらに隠された部屋で見つけたものだ」


 「え!?持ち出せたのですか!?」


 ミリアが驚いたのも当たり前である。禁書ルームにあるものは、館長から持ち出し厳禁の注意を受けていたからだ。


 トラヴィスは悪戯そうな目で、頷いた。


 「承諾は得てないがな」


 そう言って人差し指立ててを口元に寄せた。


 (は・・・はは)


 私は引きつった笑いを浮かべて、昨日の事を思い出していた。




 禁書部屋の秘密の小部屋で、目的のモノ見つけた私達は、直ぐに急いで小部屋の扉を元通り本棚で隠した。


 「そろそろ館長が迎えに来る頃だ」


 トラヴィスはそう言うと、何故か小部屋で見つけた3冊の書物のうち一番小さいローズの手記を私に渡した。


 (ん?何で?)


 戸惑っていると今度は巻物をディーンに渡している。そして残り2冊の書物を、何食わぬ顔で自分の服の中に隠したのだ。


 「でで、殿下!?」


 「しっ!全部読んだらちゃんと返しに来るさ。ここに置いておくと、いつイーサンが奪いに来るか分からないからな。君達も早く隠せ」


 (そ、そんな事言ったってぇ・・・)


 焦りながらディーンを見ると、彼も涼しい顔で巻物を洋服の下に隠している。


 (ええ!?)


 ちょっと!真面目キャラはどこへ行ったのさ?以前のディーンだったら、こんな悪事、真っ先に反対しているはずでしょ?変わるにしても程があるよ!

 いやいや、そんな事より、今はこの手記だ。どうやって隠したらいいのよ・・・そう思って、あたふたしていると扉がノックされる音が聞こえた。館長が私達を迎えにやってきたのだ!


 (ええい!)


 私は慌ててスカートとシャツの間に本を挟み込んだ。そうして上着で隠したところで、館長の低い声が聞こえた。


 「トラヴィス様。お時間です」


 心臓がどうにかなりそうなくらいバクンッと音がし、こめかみを汗が流れ落ちた。


 「ああ分かった」


 いつもと変わらない、何気ない様子でトラヴィスが扉を開ける。ディーンの表情もピクリとも動かない。


 (えええっ!?なんで二人ともそんなに落ち着いてられるのっ!?)


 私なんか右手と右足が一緒に出てるよ!?それくらい緊張しているというのにさ!

 

 「おや、アリアナ様。ご気分でも悪いのですかな?」


 私の不自然な様子に気付いたのか、館長に声をかけられてしまった。


 「はは、はい、い、いいえ!」


 汗がドッと噴き出てくる。


 「もしかしてお腹でも痛いのですか?お顔の色が優れないようですし、冷や汗もかいていらっしゃいますよ。大丈夫ですか?」


 服の上から本を押さえている私を見て、怪訝な表情で尋ねる館長に、緊張がマックスになる。


 (ヤヤヤ、ヤバい・・・)


 どう返事したら良いのかも分からず、固まってしまう。すると動けない私の肩に突然ディーンの手がかけられた。


 (ん・・・?)


 彼は私の体をゆっくりと自分の方へ引き寄せた。ポスンという乾いた音と共に、私の頭がディーンの胸に密着する。


 「彼女は少し疲れてしまったようなんです。地下で長時間、本を調べていましたからね。私が寮まで送って行くので心配はいりません」


 そう言って肩を抱いたまま私を支えるように手を取った。


 (うがっ!?)


 さっきかいた汗が、今度は逆流する気がした。冷たかった体に一気に熱が上がる。

 館長はディーンの行動に驚いたようだったが、


 「そう言えば、お二人はご婚約なさってるのでしたね。ほっほ、仲が良さそうで羨ましいですな」


 そう言って微笑ましそうに私達を見て先頭を歩きだした。


 (は、ははは・・・)


 頭がぐらぐらした。


 本を持ち出す緊張など何処かへ吹っ飛んでいた。

 頭が沸騰したように熱くなって思考がまとまらない。ディーンに触れている肩と手に神経が集中して、呼吸の仕方すら分からなくなりそうだ。


 (は、早く、図書館の外へ・・・)


 息も絶え絶えな私を、呆れたように見下ろすトラヴィスの視線が、心の底から鬱陶しかった。




 「・・・と言うわけで、皆にも情報を共有して貰い、意見を聞きたい」


 私が昨日の忌々しい記憶を思い出している間に、トラヴィスは説明を終えていた。


 「でも殿下、どうして呼ばれたのが私達だけなのでしょう?」


 ミリアが怪訝そうな顔をトラヴィスに向けるのも無理はない。いつもならレティやジョー、それにケイシーだって呼ばれるべきである。

 それにクラークとグローシアも居ないのだ。ノエルは・・・多分ねーさん最初から呼ぶつもりなかったんだろうなぁ・・・。何度も言うけど良い子なんだけどね。


 「今から話す事はレティシアには精神的に負担が大きいと考えた」


 トラヴィスの言葉にミリアの顔に緊張が走った。


 (それだけ内容が重いって事だもんね。でも逆に言うと、ここにいる者は神経が図太いって事か・・・まぁ、そうかもな。リリーに関しては芯が強いって事だけど)


 そんな事を考えられるくらい、私は冷静だった。

 昨日隠された部屋を発見した時はさすがに驚いたけど、そこで見つけた手記の内容は今から思うとまるで現実感が無く、おとぎ話の様に感じるのだ。それはもしかしたら、私がこの世界の生まれでは無いからかもしれない。


 (でもこの世界で育った皆には、ショックな内容だろうなぁ)


 クリフは少し片眉を上げて、トラヴィスを見た。


 「なるほど。ではクラーク殿とグローシアはどうしていないんです?それにジョーとケイシー殿も」 


 クリフの問いに私は思わず目を伏せた。トラヴィスの答えを知っていたからだ。


 「クラークとグローシアの二人にはジョージアとケイシーを見張って貰っている」


 「は?」


 「これはパーシヴァルの指示でね・・・弟の見立てによると、ジョージアとケイシーは精神魔術に支配されている可能性が高い」


 トラヴィスの言葉に、私とディーン以外の3人の顔に驚きの表情が浮かんだ。

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