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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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隠された部屋 

 図書館での調査の日々が続いた。館長は初日と同じ様に我々を案内し、時間になったら迎えに来る。段々と、そのルーティーンに慣れてきて、そして調査を初めてから4日目の事だった。


 (もう・・・つっかれた!)


 最初の日以来、目新しい発見も無く、私達は焦りと作業の単調さに精神的疲労が溜まっていた。


 (ううううう・・・)


 3人とも押し黙ったまま、ただ本をめくる音だけが部屋の中に響いている。


 (この本棚もハズレだ・・・)


 禁書なんてヤバいものは、普通はもっと少ないんじゃないの?何なんだ、いったい!この本棚の数は!

 一つの本棚をやっと調査し終わった私は、固まった体をほぐそうと伸びをして、首をこきこき動かす。そして、さぁ次の本棚に向かおうかと、ふと部屋の隅に目をやった時だった。

 そこにはまだ誰も調べていない小さめの本棚があった。何故か他の本棚よりも横の幅が狭いのだ。

 何となくその本棚から本を抜き取ってみて、その瞬間、違和感を感じた。


 (ん?)


 本棚には背板が無かった。抜き取った本の向こうに部屋の壁が見えるのだ。そしてそこには、他の壁には無い、変な模様?が見えた。


 (何これ?)


気になった私はその場所の本を5、6冊まとめて抜いてみた。


 「よいしょおっ・・・と、うあ!?」


 「アリアナ?」


 私の声にトラヴィスが怪訝そうに声をかけた。


 「き、来てください!」


 私は慌てて二人を呼んだ。


 「どうした!?」


 私は興奮気味に、二人に本を抜いた後の壁を示した。


 「み、見てください、ここ!これって扉じゃ無いですか!?」


 本棚の後ろに隠されたように、扉の角の様な物があった。


 「本棚をどかせてみよう」


 トラヴィスの言葉に、私達は急いでその本棚の本を全て抜き出し始めた。すると思ってた通りに、本棚の枠越しに小さな扉が現れたのだ。

 トラヴィスとディーンの二人で空になった本棚を脇に寄せ、私達はその前に立った。

 それはレバー式のノブが付いた、簡素な模様の小さな木の扉だった。トラヴィスが扉を開けようと手を伸ばしたところを、ディーンが止めた。


 「私が開けます」


 もしも危険があったらと考えたのだろう。トラヴィスは少し片眉を上げたがディーンに場所を譲った。

 ディーンは扉のレバーハンドルを掴み、下に降ろす。どうやら鍵はかかって無いようだ。そして扉を向こう側にゆっくりと押し開けた。

 そこは小さな部屋だった。だけど、こちらの部屋とは違って暗く、中の様子が良く分からない。


 「どうやら、ここには灯りの魔術が施されてい無いようだな・・・」


 トラヴィスが手の平の上に、魔術で小さな炎を作る。炎が部屋の中をぼんやり照らすと、奥に小さなライティングデスクが見えた。

 目線を上げると、壁には大きめの絵が飾っている様だった。人物画のようだが、これまた暗くて良く見えない。


 「アリアナは扉の外で待っててくれ」


 「え?は、はい!」


 警戒しつつトラヴィスとディーンが中に入って行く。私は勝手に閉まらないようにと、念の為に扉を押さえていた。


 (何せ、禁書の部屋の中に隠された部屋だからね。何が起きるか分からん)


 得体のしれない物に対する緊張感の中、二人はライティンデスクに近づいて行った。机の上には何も置かれていない事を確認すると、ディーンは慎重にデスクの引き出しを開けていった。

 すると何か見つけたのだろうか、二人で頷き合っている。


 (トラヴィスの炎だけじゃ、こっちからよく見えないな・・・)


 でも二人は直ぐに、数冊の書物と何か巻物の様な物を持って、小部屋から出て来た。


 「これらが引き出しの中にあった」


 トラヴィスは炎を消すと、テーブルの上に置いた。

 たった3冊の書物と1つの巻物。しかも書物のうち2冊は手書きのようだ。もしかしたら日記だろうか?

 トラヴィスが1冊を手に持ち頁をめくっていく。そして目を見張った。


 「どうやら当たりだな。これは闇の組織の者が書いた手記のようだ」


 「えっ!?」


 私とディーンも、トラヴィスを囲む様に本を覗きこむ。

 端正な文字で書かれた手記は、紙が変色して少し文字も掠れていたが、読む分には問題なさそうだ。古い言葉の言い回しが、歴史を感じさせた。


 トラヴィスが目に付いた文章を読み上げた。


 「ライナスが立ち上げた特殊魔力統制組織は、目覚ましい成果を上げている。闇の魔術や精神魔術のような制御の難しい魔術でも、世に役立つ事を示してくれたのだ。特に《《エンリル》》の精神魔術の成長は著しく・・・え?」


 トラヴィスは眉間に皺を寄せた。私も思わぬ名を聞いて少し戸惑う。


 「エンリルってエンリル様の事でしょうか?初代皇妃の?」


 初代皇帝アンファエルンの妃。だけど歴史の中で特に活躍したという伝承は伝わっていない。分かっているのは名前だけだ。


 「時代は合うようですね。ここに日付が書いてあります」


  ディーンが指で指し示した。


 「エンリル皇妃が精神魔術の使い手だった・・・?」


 トラヴィスの声に動揺の色が隠せない。

 精神魔術は皇国が厳しく管理し、長くその能力を封じて来た能力だ。初代皇妃がその使い手だったなんて、そんな事はありえるだろうか?


 トラヴィスは厳しい顔で手記の頁をめくって、


 「この特殊魔力統制組織・・・闇の組織は、やはり最初は皇国の公的機関だったようだな。強すぎる魔力を持つ者や特殊な魔術の使い手は、ここで制御を学んだらしい。指導者は魔導士ライナス・アーク。闇の魔術だけでなく、光の魔術以外のほとんどの魔術を操ったと書いてある」


 「それって・・・まるで、イーサンみたいじゃないですか!」


 私がそう言うとトラヴィスも頷いた。


 「そうだな。ライナスはイーサンの祖先だった可能性もあるな。魔力や魔術の質は遺伝する事が多いから・・・」


 ペラペラと頁をめくっていって、トラヴィスはある個所で手を止めた。

トラヴィスは指で本の上をなぞりながら、


 「どうやら、ある時から皇国の闇の組織へ対する態度が変わって来たみたいだ」


 「皇国創立から2年ほど経ってますね。何があったのでしょうか?」


 「読んでみる・・・アンファエルン皇帝から組織への支援は完全に打ち切られた。理由はライナスがヘンルーカを拉致したからとされているが、それは真っ赤な嘘だ・・・」


 私達は驚きに目を見張る。


 「ライナスはヘンルーカを誰よりも大事に思っていた事を、私は知っている。二人は互いを信頼し思い合っていた。二人を最初に引き裂いたのはアンファエルンだ・・・」


 「ヘンルーカって、他の本に書いてあった聖女ですよね?皇国を創立する時に一緒に戦ったって・・・」


 私の言葉にトラヴィスは黙って頷いた。

 そして手記の頁をめくると日付が変わった。


 「とうとう皇国は組織の排斥に動き出した。私達は逃げなくてはいけない。ここには得難い能力を持つ子供達が沢山いるのだ。この子達を守らなくてはいけない。夫はアンファエルン側についた。逃げる前にエンリルを連れ戻さなければ。あの子の能力は人の技を超えている。私はあの子が恐ろしい・・・」


 (夫?この手記を書いたのは女性なんだ。それにエンリルの能力って精神魔術の事だよな?)


 「・・・ヘンルーカが殺された。ライナスを庇ってアンファエルンの手にかかったのだ。なんという事だ、娘を殺したあの男を私は許さない。ライナスも囚われている。私達には助けるすべがない」


 「娘!?この人はヘンルーカさんのお母さんなんですね!?」


「 どうやらそのようだな・・・」


 静かな部屋にトラヴィスの声が重々しく響く。彼は手記を読み進めた。


 「・・・ライナスが処刑された」


 「処刑!?」


 「酷い・・・!」


 余りの事にディーンも私も声を上げた。トラヴィスも顔をしかめながら先を読む。


 「・・・彼の力なら逃げられたであろうに。ライナスはヘンルーカの死に耐えられなかったのだ。だが私達にはライナスが必要だ。その為にはエンリルの力に頼らざるを得ない。あの魔術を使えるのはエンリルだけなのだから。そして・・・残虐な皇帝から逃れる為に、私達は紫水晶の洞窟の奥にある地下に隠れることにした。ここならば追手に見つかる事も無いだろう・・・」


 (紫水晶の洞窟・・・?)


 なんか、どっかで聞いた事が・・・。


 「・・・儀式は成功した。私達は再び師を得る事が出来たのだ。我々の組織は永遠だ。未来永劫アンファエルンの血筋を苦しめ続けるのだ。・・・どうやら手記はここで終わっているみたいだな」


 トラヴィスは残りの頁をめくりながらそう言った。


 「最後の頁に名前が書いてある。ローズ・ヴェリティ。聖女ヘンルーカと同じ家名だ。彼女の母親で間違いないようだな・・・」


 「この手記によると、アンファエルン皇帝はヘンルーカとライナスを殺害したようですね」


 ディーンが眉を寄せながらそう呟く。


 「ああ、そのようだな・・・。しかも闇の組織の弾圧を始めたのも皇帝のようだ」


 「その為に闇の魔力が悪であると民衆に印象付けたのでしょうか。ライナスを処刑する為に?」


 ディーンが苦いものを飲んだ様に言った。


 「エンリル皇妃が使えたという魔術も気になります。この手記を書いたローズ・ヴェリティはそれを恐れながらも、最後には必要としていたようです。それに儀式とはいったい何でしょう?」


 私も重苦しい気持ちのまま、気になる事を指摘した。


 「分からないが・・・」


 トラヴィスが手記を置いて黙ったまま腕を組む。だけど溜息をつきながら


 「他の書物も確認してみよう」


 そう言って、もう一つの手書きの書物を開いた。そして、驚いたように目を見開いた。


 「どうしたんですか?」


 トラヴィスは私の問いに答えないまま、難しい顔でその書物を読み始めた。


 「・・・私の名はアンファエルン・レイヴンズクロフト。この皇国の初代皇帝であった・・・」


 「え!?」


 私もディーンもびっくりして、確かめる様に文章を覗きこんだ。


 「アンファエルン皇帝の手記なのですか!?」


 「そのようだが・・・。どうも日付からすると晩年・・・皇帝が崩御された年に書かれたもののようだ」


 ペラペラとめくって、


 「ほんの数ページしか書かれていない。いいか、読むぞ・・・昨年、エンリルが亡くなってから、私はやっと自分の犯した罪に気付く事が出来た。愛した女性を手にかけ、信頼していた友まで処刑した。私の罪は許されない」


 それは初代皇帝の血を吐く様な独白だった。

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