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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第八章 悪役令嬢は知られたくない
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禁書の部屋

 ふくれている私を横目に、トラヴィスは机の引き出しを開けた。


 「機嫌直しなさいって。良いニュース教えてあげるから」


 「良いニュース?何です?」


 トラヴィスが得意げにニヤリと笑った。


 「やっと許可が下りたわよ」


 そう言って引っ張り出した物を顔の前に持ち上げた。チャラっとチェーンのなる音がする。


 「そ、それってもしかして!?」


 「そう、禁書の部屋の鍵」


 そう言ってトラヴィスは、細かい装飾が施された大き目の鍵を目の前で揺らした。


 「凄い!やっと許可が下りたんですね!」


 禁書の部屋とは、歴史あるアンファエルン学園の図書館の最奥にある部屋の事で、人の目に触れさせたくない書物が隠されていると言う噂だった。


 (やった!これで一歩進める)


 イーサンをぎゃふんと言わせたくて闇の組織や闇の魔法について調べ始めた私だったが、実は早い段階で暗礁に乗り上げていた。

 公爵家の書斎や学園の図書館、果てはお城の書庫まで頼み込んで調べさせて貰ったと言うのに、詳しい事は何も分からなかったのだ。


 まるで、わざと隠されているかのようだ。


 そんな時に、光明を投げかけてくれたのはトラヴィスだった。学園の図書館に禁書の部屋がある事を教えてくれたのだ。


―――ゲームの3部で出てくるのよ。確か、闇の組織について書いた古書があったはずよ。


 私達は学園長に、禁書の部屋に入らせてもらえるように申請した。だけど返事は却下。どうも禁書の部屋に関しては学園長の権限外らしい。


―――ふうん、面白いじゃない。


 皇太子の申請でも通らないと言う事が、ねーさんの闘志に火をつけた。あらゆる省庁、機関、果ては父である皇帝にまで掛け合って、禁書部屋への入室の許可を求めたのだ。

 その交渉を始めてから、なんと6カ月。やっと許可が下りたと言うのだ。


 「やりましたね!さすが皇太子!」


 そう言うとトラヴィスは苦笑して、


 「半年もかかってんじゃ、皇太子の威光も怪しいもんだわ」


 そう言って肩をすくめた。だけど直ぐに真面目な顔になると、


 「でもね、最終的に許可が下りたとは言え、この件に関しては不審に思う事だらけなのよねぇ」


 鍵を机の上に置いて、腕を組んだ。


 「?・・・と言いますと?」


 私は鍵を覗きこんだ。


 「まず最初に、禁書の部屋に入る申請を何処に出して良いのか分からなかった事。図書館に聞いたら学園に聞けと言うし、学園の事務所に聞けば、学園長に聞けと言われたのよ」


 トラヴィスはブロンドの髪をかき上げて溜息をついた。


 (おおお、セクシーだねぇ、ねーさん!)


 5年生になって少し背が伸びて、トラヴィスはますます格好良さが増した。すっかり慣れてしまったが、アラサーOLの口調とのギャップがえぐい。

 私の心の中の感想など知らないトラヴィスは話を続ける。


 「学園長に聞いたら今度は図書館の事は図書館に聞けって言うじゃない?もう堂々巡りも良いとこ!本当に参ったわよ!」


 確かにそうだった。あの時もトラヴィスはかなりご立腹でしっけ。


 「お役所っぽいですよねぇ。前の世界でも良くありましたよ」


 何処の世界でも面倒事は人に押し付けるし、役所は知られたくない事を隠すのが上手いのだ。


 「結局、怒ったねーさんは皇帝陛下にまで直接聞きに行ったんですよね?」


 「そうよ!そうしたら驚いた事にわが父は、禁書の部屋の事すらご存じなかったのよ!?」


 トラヴィスはドンっと机を叩いた。


 「信じられる?!」


 私を振り返りながらそう言った。


 「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。禁書の部屋が出来たのって、かなり昔の事なんですよね?何年も中に入った人が居ないって聞きましたよ。皇帝陛下が知らないのも無理ないんじゃないですか?」


 「そうよ。だけど禁書部屋への潜入はゲームではかなりの重要イベントよ。皇帝がその部屋を把握出来てないってのは問題じゃない?・・・まぁね、忙しい方だから学園の図書館の事までは気が回らないかもしれないけどさぁ・・・」


 「えーと結局、どうやってこの鍵を手に入れたんです?」


 私は話を元に戻そうとした。


 「鍵自体は図書館に保管してあったのよ。・・・不自然な程厳重にね」


 トラヴィスはもう一度鍵を手に取るとクルッと器用に指で回した。


 「ただし貸出するには許可がいる。結局その許可を出したのは何処だと思う?」


 そう聞きながら、私に鍵を差し出した。私は恐る恐る鍵を手に取って良く見てみる。

 私の手の平よりも大きい鍵は持ち手に凝った彫刻が施されていた。何かマークの様にも見えるが・・・


 「・・・もしかして魔術省と警察省ですか?」


 そう聞いた私にトラヴィスは目を丸くした。


 「正解!良く分かったわね!?」


 私は鍵の持ち手をトラヴィスに示した。


 「ここに二つの省の紋章が入っています」


 二つの紋章が持ち手の片側に組み合わさって彫られていたのだ。


 「良く見つけたわね、さすがだわ。でも、もう一つ許可が必要だったのよ。誰のだと思う?」


 私はもう一度鍵をくるくる回しながら観察した。そして思わず「あっ」と声を上げてしまった。


 鍵の持ち手の方では無かった。鍵穴に刺す方の先端部分、その形状がそのまんまだった。


 「これ・・・アンファエルン皇国の国旗の模様です!」


 私は驚いてトラヴィスを見つめた。トラヴィスも真剣な目で見つめ返す。


 「そう皇帝の許可が必要だったの。御璽を頂く必要があったのよ。ねぇ・・・どう思う?ここまで禁書の部屋が厳重にされてるなんて。しかもこの方法にたどり着くまでも、こんなに手間がかかるとなんて。どう考えても、知られたくない秘密が隠されてるとしか考えられないわよね?」


 誰も鍵を借りる方法を知らず、どこにも公には記されていない。トラヴィスは皇国の知恵者や古老を頼り、城の書庫にあった古い文献の中にやっとこの方法を見つけたらしいのだ。


 「禁書だからね・・・。もちろん誰でもほいほいと部屋に入れちゃいけないのは分かるけどぉ、隠し方がいやらしいのよ。建前では許可があれば入室出来るように見せかけて、その方法を有耶無耶にするなんてさ」


 苦いものを噛んだような顔でトラヴィスは言った。


 (想像するに、隠したのは恐らく何代か前の皇帝、もしくはその血統にあたる人だろな)


 トラヴィスにもそれが分かっているのだ。


(昔の皇帝が隠したかった事か)


 「禁書ルームのくだりって、ゲームではどう言う内容だったのですか?それに、ゲーム内では、そもそもどうやって中に入れたんです?」


 「イーサンが保管していた鍵を盗み出したのよ」


 呆れた様子で両手を広げた。


 「ようするに力技。厳重に張られていたシールドを、魔術でぶっ壊して鍵を奪ったってわけ。もちろんイーサン・ルートじゃないと起きないイベントよ。その時に調べたのは確か、闇の組織の地下神殿の場所だったわ」


 「という事は、やっぱり闇の組織についての文献がそこにはあるんですね」


 これでやっと、闇の組織に一歩近づくことが出来る。私は片手で小さくガッツポーズした。

 最初は単にイーサンをとっちめたくて調べ始めた事だったが、今は純粋に闇の組織と闇の魔力について知りたかった。

 

 それはイーサンが言ってた『闇の魔力の持ち主は昔から迫害されていた。そして国はそれを隠してきた』という事が気になったから。そして精神魔術を使える者達も、同様に皇国から弾圧を受けていたと言う事実。


 (この皇国はゲームで思ってたような、純粋でキラキラした世界では無い)


 私は上辺の綺麗さに騙されないで、この国の事をちゃんと知りたいと思ったのだ。

 

 きっとトラヴィスも同じ思いなのだろう、私に全面的に協力してくれている。いや、皇太子という立場の彼は、私よりももっと強い思いを持っているのかもしれない。


 「今日からでも入室可能よ。ただし入室許可が出たのは3人まで。私とあんたと・・・もう一人は誰を連れて行く?」


 トラヴィスにそう言われて、私はよーく考えた。考えた上で・・・あまり嬉しくない選択をした。


 「・・・ディーンが良いと思います」


 トラヴィスは少し意外に思ったのか、片眉を上げて聞き返した。


 「へぇ・・・異論は無いけど、どうしてなの?てっきりクラークを連れて行くと思ったけど?」


 私だってそうしたい。だけど、ちゃんと理由があるのだ。


 「禁書ルームに入るのは、大分目立つ行為ですよね?皇太子に加えてコールリッジ家の者が二人となると、変な憶測をされそうで・・・」


 トラヴィスは腕を組んで頷いた。


 「確かにそうね。それで無くても私はコールリッジ家びいきと思われてるからねぇ」


 (それは貴方が私を秘書なんかにしてるからでしょ!)


 心の中で抗議してみる。


 「皇太子ですら許可取りが難しかった場所に行くのですから、かなり注目されてるんじゃないでしょうか。そうなると・・・こういう考えは嫌いなんですが・・・家の権力が強い人を連れて行った方が無難です。後々難癖を付けられても困るので」


 「ふうん、確かにねぇ。そうなるとディーン以外に候補はパーシヴァルかクリフ?もしくはグローシアもいるけど?」


 「皇太子と皇子だと、挟まれてる私が目立ち過ぎてます。残念ながらクリフは面倒くさがりなので探し物には向いて無いです。グローシアは私の護衛にばかり気が行きそうなので・・・」


 「なるほど、だからディーンなわけか」


 「はい、彼は真面目で集中力もありますから。それに・・・一応、私の婚約者なので一緒行っても不自然でないです・・・」


 なんとなく最後の方の声が小さくなってしまう。


 「へぇ・・・?」


 トラヴィスが意味ありげな視線を寄越してきたので、少しイラっとした。


 「何ですか?その目は」


 「べっつに~」


 そう言って鍵をポケットに入れる。


 「じゃ、ディーンを連れて図書館へ行きましょうか。隣の部屋に居るんでしょ?」


 「・・・・」


 トラヴィスはさっさと執務室がら生徒会の作業部屋に続くドアを開けて出て行く。私は舌打ちしたい気分でその後を付いて行った。

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