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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第七章 悪役令嬢は目覚めたくない
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シナリオ外の光の魔術師

 その日の夕食後、アリアナの寮のリビングに、ほとんどの関係者が集まった。居ないのはジョーとノエルだけ。ノエルはモーガン先生の事で捕えられて、監禁されていると言う。


 (気の毒に・・・)


 ジョーは間もなくケイシー・バークレイと一緒に、もう一人の光の魔力の保有者を連れて来る予定。いったいどう言う人物なのだろう?


 (ドッキドキだな)


 皆も、そわそわと落ち着かない様子だ。


 ほどなくして、玄関の扉がノックされる音が響いた。


 (来た!)


 クラークが立ち上がり玄関に向かう。今は用心の為にメイドに対応させないようにしているのだ。すると玄関の扉が開く音と同時に、弾んだ声が聞こえて来た。


 「連れて来たわよ!」


 ジャジャーンと言う効果音が付きそうな勢いで、ジョーが部屋に飛び込んでくる。


 「早く!遠慮しないで二人とも入って来てよ!」


 まるで自分の家かのように、ジョーは後ろに向かって手招きをした。


 「こ、こんばんは!入らせて頂きます!」


 背の高い筋肉質の少年が緊張した面持ちで入ってきた。そしてリビングに居る面々を見ると、ピシッと背筋伸ばした。


 「トラヴィス殿下!この度はジョーが無理を言った様で、申し訳ないっす!それに、えーっとクラーク、アリアナ嬢、押しかけたようですまない」


 そう言って、きっちり90度腰を曲げた。


 ケイシー・バークレイ


 ミリアやノエルと同じ明るい栗色の髪と瞳。キラキラと輝く力強い瞳は、さすが攻略者の一人だけあって存在感がある。


 (飾らない明るい性格で、スポーツマン。設定通りだ)


 「お兄様!声が大きすぎますわ」


 ミリアがケイシーに向かって口を尖らせた。


 「おっ、悪いな。これが地だからさ」


 拝むように手を合わせて片目を瞑った彼は、パーシヴァルとは違う意味で人好きがする。

 だけど今回のメインは、彼の後ろにいる人物だ。その人物は何故か灰色のフードで顔を隠していた。思わず部屋の隅の黒い人物を連想してドキリとする。


 「先生、早くこっちに入ってきてよ!」


 ジョーはフードの人物の腕を掴んで、室内に引っ張った。


 (先生?)


 どう言う事?

 ジョーに引きずられてよろける様にリビングに入って来たその人物は、被っていたフードをゆっくりと降ろした。後ろで縛った少し長めの髪と、眼鏡の奥の気弱そうな瞳が現れる。


 「あ!」


 「ええ!?」


 皆の驚きの声が室内にこだました。


 (うっそ!?)


 私も思わずソファから立ち上がる。


 「マリオット・・・先生・・・?」


 リリーの呆気に取られた様な声が聞こえた。


 「や、やぁ・・・どうも」


 先生は気まずそうな顔で笑って、頭を掻いた。


 「光の魔力の持ち主って、マリオット先生だったのですか・・・」


 ミリアも驚きのこもった声を上げた。


 「い、いやぁ・・・その・・・この事を公表するつもりは無かったんだけどね。うっかり聖魔術を試しているところをケイシー君に見られてしまって・・・」


 先生は額に汗をかきつつ、いつもの人の良さそうな顔で笑う。


 (な、なるほど・・・)


 私は思わず納得して手を叩いた。


 (そっか、そうだよね。マリオット先生なら攻略者の一人だし、そういう隠れ設定があってもおかしくないか)


 というか分かってみれば、彼以外はありえない気さえする。


 (良かった。先生なら魔力量も問題ない。これなら精神魔術もなんとかなるかも)


 そう思った時、スクリーンに映るトラヴィスを見て少し違和感を感じた。驚きと懸念の入り混じった様な、彼には珍しい表情でマリオット先生を見てる。


 (ど、どした?ねーさん)


 だけど、おかしかったのは一瞬だけで、すぐにトラヴィスはいつもの皇太子然とした顔に戻っていた。そして、


 「ご協力に感謝します、マリオット先生。でもまさか、先生が光の魔力を持っていたとは思いませんでした」


 先生の方へ歩み出て、そう言った。すると先生ははにかみながら、


 「いや・・・実は恥ずかしながら、自分でも最近まで気付いて無かったんだよ。魔力の種類は魔術を使ってみるか、専門の『目』を持つ人に見て貰わないと分からないからねぇ」


 マリオット先生は「学生時代は風と火しか使えないと思っていたんだ」と言いながら鼻の下を指でこすりながら、照れたように苦笑した。


 「ほう・・・では何か、ご自分の資質に気付く様なきっかけがあったのですね?」


 トラヴィスの口調にほんの少し探る様な気配を感じる。先生はそんなトラヴィスの様子に気付かないのか、笑みを浮かべたまま「それがね」と両手を広げて説明を始めた。


 「去年、孤児院に慰問に行った時なんだけどね。子供の一人が階段で転んで結構な大怪我をしたんだよ。それで慌てて何とかしたいって思ったら、癒しの魔術が発動したって訳なんだ。あの時は自分でも驚いたよ」


 (へぇ、そんな事ってあるんだ)


 「学園にいる時に魔力測定を受けてますよね?その時の鑑定結果では分からなかったのですか?」


 トラヴィスの問いに先生は肩をすくめた。


 「学生時代は属性については風と火、それに衝撃波が使えるぐらいしか言われなかったんだよ。もしその時に発見されてたら、大変な騒ぎになっただろうなぁ」


 そりゃそうだろね。この世界では、光の魔力の保有者はそもそも少ない。この学園に3人いるだけでも珍しいんだから。


 (ゲーム設定でも、聖女は光の魔力で国を救うってのが定番だもん。・・・ん?先生みたいに男性の場合はどうなるんだろう?聖女ってのはおかしいよな)


 聖人・・・じゃ、しっくりこないな。賢者とか・・・?あはは、RPGじゃあるまいし。


 (ま、いっか・・・別に光の魔力持ってるからって、無理に名前を付けなくてもいいよな)


 スクリーンの中で、マリオット先生は溜息交じりに話を続けた。


 「魔力測定師も、まさか男子生徒の中に光の魔力を持つ者がいるとは、思っていなかったんだろうね。だけどその時、見過ごされて良かったと僕は思ってるよ。もし見つかってたら、魔術省行きは確定だっただろうからねぇ。僕は目立ちたくないし、このまま学園で平和に過ごしたいと思ってるんだ。だからアリアナさんの為に力は貸すけど、この事は絶対に内密にして欲しい。こんなフードを被ってきたのも、なるべく秘密にしたいからなんだよ」


 そう言って苦笑しながら灰色のフードをつまみあげた。


 「私達も今回の件は公にしたくないので、先生の事を言いふらすつもりはありませんよ」


 トラヴィスはそう言って笑みを浮かべる。

 マリオット先生に不自然な所は感じられない。なのに、トラヴィスの先生に対する態度に、どことなく緊張が伺えた。


 (ねーさんは、先生を警戒してるんだ)


 私と同じようにゲームのシナリオには無かった事に不安を感じているのだろう。

 4人目の光の魔力の持ち主ってだけでも戸惑ってるのに、しかもそれが攻略者の一人で男性と来た日にゃ、受け入れる側としても「はいそうですか」じゃすまない。


 (とは言え、この状況では流れに従うしかないよなぁ)


 精神魔術の解術の為には、どうしたって今はマリオット先生の力が必要だ。トラヴィスもそう思ったのか、小さくため息をつくと、


 「協力に感謝します。では早速ですが、リリーと二人でアリアナ嬢の解術を・・・」


 しかしそう言いかけた時、さっきから黙っていたアリアナが突然声を上げた。


 「申し訳ありません、殿下。その前に少しだけ宜しいですか?解術の前に魔力を供給して頂きたいのです」


 「え?ああ、ではディーンに・・・」


 だが、アリアナは顔を横に振った。


 「ミリアかグローシアにお願いしたいですわ。女の子から魔力を貰った事が無いのですもの」


 いたずらっぽくそう言って、二人の方に顔を向ける。


 「頼めますか?」


 「もちろんです!承知いたしました!」


 とグローシアが鼻息荒く、勇んで前に進み出る。だけどそれをミリアが止めた。


 「グローシアはアリアナ様のことが心配で、あまり寝てないって聞いたわよ。今回は私がさせて頂くわ」


 「そ、そんな・・・いえ、やっぱりわたくしが!」


 「駄目よ、私だってば!」


 ささやかな押し問答の末、結局アリアナの魔力の補充はミリアが行う事になった。  

 恨めしそうなグローシアを横目に、ミリアはアリアナの前に座ると、彼女の手を両手で包んだ。ほど無くして私の身体が淡い光に包まれる。ミリアの魔力の光は暖かみのある栗色だ。ミリアの性格によく似て、誠実で明るい。

 しばらくするとアリアナの手に赤みが増してきた。


 「ありがとう。まだ大丈夫だったのですが、解術の前にやりたい事がございましたから、万全にしておきたかったのですわ。途中で倒れたくありませんもの」


 魔力の供給が終わり、解術を始めるのかと思いきや、アリアナはそんな事を言い出した。


 (やりたい事?)


 「わたくし、皆様にお話ししたい事がございますの」

 

 アリアナは椅子に座り直すと、手の平を合わせて目を閉じる。

 

 「お時間を頂いて申し訳無いですけど、わたくしが皆様と直接お話しできるのは、これが最後かもしれませんから・・・」


 「アリアナ!」


 隣に座っているクラークがアリアナの肩を掴んで首を振ったが、アリアナはクラークを宥める様に肩に置かれた手をそっと叩いた。そして、背筋を伸ばして顔を真っすぐ上げると、


 「短い間でしたが、ありがとうございました」


 そう言って頭を下げた。

 その瞬間、何か硬いものを飲み込んだような、重苦しい空気がその場に流れた。 

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