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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第七章 悪役令嬢は目覚めたくない
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黒い影の正体

 アリアナは目を閉じて、一生懸命、私の言葉を拾おうとしているようだった。


 「聞こえてきました・・・私・・・大丈夫・・・黒い影・・・鎖・・・繋がれて・・・」


 「黒い影に鎖で繋がれていると言う事か・・・?」


 トラヴィスが言葉をまとめる。


 「もしかして、それが精神魔術では?」


 ディーンの声。


 (おお、さすが!理解が早いね)


 私は再び心を集中させる。


 「・・・影・・・手にタマ?・・・ああ、玉ね。・・・指輪・・・二つ・・・」


 アリアナが伝えてくれるが、私は段々と疲れてきた。ソファに息を吐いてもたれる。


 (ふう!これって結構パワーがいるんだ)


 そして気のせいではなく、確実に鎖がズシリと重くなった。影の方も存在感も増している。それに、なんだか眠気も感じてきた。


 (駄目だ。これあまり乱用出来ないや)


 私は最後に力を振り絞って、気持ちを伝えた。


 「・・・疲労・・・だそうです」


 アリアナがトラヴィスに顔を向ける。


 「成程・・・言葉を伝えるのは、精神の力を消耗するようだな。だが、大体様子は分かった。彼女はアリアナ嬢の中で黒い影・・・恐らく精神魔術に鎖という形で捕らわれている。そして黒い影は手に玉を持っている。これは魔力増幅の宝珠の事だろう」


 「指輪と言うのは?」


 ディーンが尋ねた。


 「分からないが・・・影が指輪をしていると言う事かもしれない、しかし・・・」


 トラヴィスは眉間にしわを寄せて、


 「この国では指輪をしている者が多いからな。魔力を調整したり、魔術を安定させる指輪など多種多様だ」


 そう言ってトラヴィス自身の手を、目の前にかざす。その指には3つも指輪が光っていた。


 「せめて色や形が分かれば良いんだがな・・・」


 (ええ!?無理・・・)


 黒い人影は曖昧で指輪も光ってるだけで、細かい事までは分からない。それに分かったとしても、そこまで伝えるには、かなり力を使いそうだ。

 今だって眠りたくないのに、眠くて仕方ない。これ以上やったら気を失いそう。


 (そうなったら、あの影の思惑通りじゃん。お願いちょっと休ませて・・・)


 そう思ってたら、


 「もう一度・・・聞いてみますか?」


 アリアナがそう言った。だけどアリアナの声が掠れている。呼吸も荒く、何だか私よりも、もっと疲れている様だ。


 「アリアナ、どうしたんだ!?」


 アリアナの視界が一面床になった。


 (アリアナ!?)


 クラークが慌ててアリアナの肩を支えたようだ。


 「・・・ごめんなさい、お兄様。どうやらあの子が疲れると、私も・・・」


 「魔力を供給しよう」


 トラヴィスがそう言った。


 「あ、殿下。では私が・・・」


 ディーンがそう言った途端、アリアナが急いで顔を上げた。トラヴィスの顔がスクリーンに映る。


 「いいえ!トラヴィス殿下にお願いしたいですわ!」


 凄い勢いでアリアナはそう言った。


 (アリアナ・・・)


 アリアナはじっとトラヴィスを見つめている。トラヴィスの顔に納得した様な表情が浮かんだ。

 トラヴィスはアリアナを安心させる様に頷くと、


 「分かった、私がやろう。ディーンは次の機会だな」


 そう言ってアリアナの手を取った。すると、


 (おおおおお!)


 私の身体に再び、痺れる様な感覚が流れた。


 (こ、これは!?)


 クリフの時よりも力強い感じ。さすが皇太子・・・いや、メイン攻略者というべきか!?

 自分の両腕を持ち上げて見ると、身体が黄金色の光に包まれている事が分かった。


 (トラヴィスの瞳の色って事かな?)


 さっきまでの疲れや眠気が薄れていく。そして黒い影が苦し気に身をよじったのを私は見逃さなかった。


 (よおし、こうなったら!)


 トラヴィスの魔力の力を借りて、この際試してみよう。ソファから飛び降りて、黒い影に少し近づく。そして心を集中させた。


 (・・・正体を見せなさいよ)


 そう念じると、黒い影は首を振って嫌がる様に震えた。だけど少しずつ形を顕わにしていく。


 (も、もう少しじゃ・・・)


 そして段々と黒いフードを被った人の姿に変わっていく。そしてその顔に、奇妙な仮面が現れだした。まるで笑ってるような顔の真っ赤な仮面。

 手には白い玉を持ち、もう一つの手には二つの指輪。人差し指に赤黒い石が付いたものと、薬指に家紋の様な意匠のもの。

 ここで私は力を抜いた。これ以上はパワーを使い過ぎる。せっかくトラヴィスに魔力を貰ったのだ。


 (ふう・・・)


 だけど今度は後ろからも、何かの気配を感じとった。ある予感に、私は急いで振り向いてみる。


 (やっぱり)


 想像していた通りだった。黒い人物とは反対側の部屋の隅に、再びあの女性が立っていたのだ。

 女性は前に見た時よりも存在が濃く、真っすぐ伸びたブロンドの髪が揺れている。


 (誰なの?・・・貴女は誰なんです?)


 彼女は私の問いには答えず、右手を上げて真っすぐ私の方を指さした。

 

 (ほ?)


 私は戸惑いながらもハッとし、慌てて後ろを振り返る。すると黒いフードの人物の顔から面が落ちるところだった。


 (あっ!)


 その顔はフードに隠れて、やはり見えなかった。だけど何故か、この人物を知ってると確信した。


 (誰?・・・ううう、思い出せない)


 黒い人物の表情は分からない。だけど、こいつがずっと笑っているのが分かる。この笑い方を覚えてる・・・。

 黄金の光の輝きが私の体から消えた。トラヴィスの魔力の供給が終わったのだ。私は黒い人物から後ずさって離れ、ソファに戻った。女性の姿は既に無かった。


 (ふう・・・)


 自分の意識世界だというのに、ままならない・・・


 (どう解釈すれば良いのやら)


 私は額を手で押さえて頭を振った。目の端に茶色がかった黒髪が揺れる。そうだ、前の世界の私の髪の色はこの色だった。すっかり忘れていたのに・・・。

 頭を上げると、スクリーンの中からトラヴィスがこちらを見ていた。


 「どうだ?」


 トラヴィスの問いにアリアナが立ち上がったのか、視界が高くなった。


 「・・・ありがとうございます。楽になりましたわ」


 さっきよりも、声に力が戻ってる


 (良かった。でも、ごめん。ちょっと力を使っちゃった.。だけどおかげで色々分かったよ)


 黒い人物を見る限り、男か女かは分からないけどそこそこ背は高い。きっと大人だ。それに左手には白い玉・・・トラヴィスの言う魔力増幅の宝珠だな・・・を持ち、右手に二つの指輪。そのデザインも確認出来るようになった。実物を見ればきっと分かるだろう。


 (残念なのは詳細を伝えられない事だな・・・)


 やはり精神魔術の解術を待つしか無いのかもしれない。

 黒い人物の正体を探るのに、トラヴィスに貰った魔力を半分くらい使ってしまった。アリアナはまた直ぐに魔力供給が必要になるだろう。


 (失敗だ・・・ほんとに、ごめん!)


 辛い思いをするのはアリアナなのに。


 (次の魔力供給で、アリアナはディーンから魔力を貰うかかな?それともまた拒むんだろか・・・)


 今日もアリアナの視界に、ディーンは映らない。やっぱり彼の方を見ないようにしているのだ。

 同じ身体に居ると言うのに、アリアナの気持ちが分からない。何となく情けない気持ちでスクリーンを見つめた。

 トラヴィスはアリアナを座らせると、


 「彼女とのコンタクトは、少し控えた方が良さそうだ。アリアナ嬢を疲れさせてしまうみたいだからな」


 労わる様にそう言った。


(そうだよ、ねーさん!こっちだって相当疲れるんだからね!)


 私は右手を振り上げた。弱気な気持ちを追い払いたくて、八つ当たりの様に言ってみる。


 「こちらの声を聞いてもらう分には大丈夫のようだから、伝えておこう。今日ジョーが、例の光の魔力の持ち主を連れて来るそうだ」


  (なぬ!?)


 それは思ってたよりも展開が早い。


 「リリーはノエルや女生徒達の解術で魔力を消耗しているから、夕方に集まる事にした。それまで待ってくれたまえ」


 (う、うん。分かった)


 いよいよ、もう一人の光の魔力の保有者が分かるわけだ。ちょっとドキドキしてくる。


 「だが私はあまり楽観視はしていない。君にかかっている精神魔術が強力なのが分かっているからな。『もう一人』が相当の魔力の持ち主で無ければ解術は難しいだろうから」


 (あ~そうだよね。もし、マーリン程度の魔力だったら無理って事だもんなぁ)


 だけど私は不思議な予感を感じていた。前にも思ったけど、やっぱりその人物はこの世界のキーパーソンになるだろうって。

 そして同時に不安な気持ちも胸に広がった。


 (きっとこの闇魔術は解術される・・・。でもアリアナは本当に良いの?)


 自分の解術よりもアリアナの事が気になる。彼女をまた、意識世界に閉じ込めてしまって、それで良いのだろうか・・・。

 だけど当のアリアナはトラヴィスの言葉にしっかりと頷いた。


 「返事はありませんが、殿下の声は伝わっていると思います。・・・今日の夕方、わたくしもあの子と共に皆様をお待ちしていますわ」


 アリアナ口調は、全てを受け入れているという風に、とても落ち着いたものだった。

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