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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第七章 悪役令嬢は目覚めたくない
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君に会いたい

 トラヴィスは苦い顔で自分の髪をくしゃっとかいた。


 「元々エメラインはそう言う性格なんだ。人の不幸を上から見て楽しむ傾向がある。だからどうしても好きになれなかったのだが・・・」


 (なるほど・・・ってことは、私への虐めも、精神魔術に操られていただけでは無かったのかも?)


 エメラインの性格はアリアナと違って、ゲームの設定通りって事かなぁ。

 彼女の炎の魔術に襲撃された時の事を思い出した。

 エメラインにかけられていた精神魔術を、イーサンが解術した時に現れた黒い影。彼女の中に巣くっていた蛇の様な・・・あの顔を背けたくなるような禍々しさ・・・。


 (・・・そう言えば、雰囲気が似ている?)


 今、私の意識の部屋にいる黒い人影と、エメラインに取り付いていた影。見るだけで胸のムカつきを覚えるこの感じは、やはり同じ術者の仕業なのだろう。

 心の底から不本意だけど、イーサンが居れば、ぱぱっと精神魔術を解けるんだろうなぁ。あいつは来て欲しく無い時には現れるくせに、必要な時は姿を見せない。


 (肝腎な時に、マジで役に立たん!)


 外を映すスクリーンの中で、トラヴィスは長い脚を組み直した。


 「こうなったらジョーの言う、もう一人の光の魔力の持ち主とやらに期待するしか無いようだが・・・」


 そう言ってアリアナに目を向けた。


 「昨日クリフが供給した魔力は切れていないか?必要なら私が魔力を供給するが・・・」


 「ありがとうございます、殿下。・・・クリフ様の魔力はわたくしと、とても相性が良いみたいですわ。それに良く休んだせいか、あまり疲れを感じませんの」


 アリアナの声にクラークがホッとした表情を見せる。


 「そうか。なら良いが、無理をしないように。ディーンもミリアもいるから、魔力供給が必要なら何時でも言ってくれ」


 するとアリアナが一瞬、顔をこわばらせた。


 「ディーン様の魔力は必要無いですわ」


 固い声で拒絶の言葉を吐く。


 (へ?)


 トラヴィスとクラークも驚いた顔をしている。


 「あの方の魔力は、わたくしとは相性が悪いですから」


 「えっ?でもアリアナどうして・・・」


 どうしてそんな事が分かるのか?多分クラークはそう問いたかったのだと思う。でもアリアナはクラークに最後まで言わせなかった。


 「お兄様!わたくしの言う事を信じて下さいませんの?」


 アリアナが拗ねた声でそう言うと、クラークは慌ててぶんぶんと顔を横に振った。


 「僕がアリアナの事を信じないわけが無いだろう!」


 (なんてちょろい兄なんだ)


 トラヴィスも生温かい目でクラークを見てる。それにしても、ディーンの魔力がアリアナと合わないなんて、そんな事があるのだろう?


 (ま、アリアナの身体だからね。本人にしか分からんことがあるのだろうけど・・・)


 私はソファに深くもたれて大きく息を吐いた。そして、髪を両手でわしわしかき回す。

 (違う様なぁ。そうじゃ無い)


 アリアナは単に、ディーンに魔力供給して欲しくないだけなんだ。


 (アリアナ・・・やっぱりまだディーンが・・・う~ん)


 なんだか胸がグッと詰まった気がした。

 そんな中、「トントン」と玄関の扉のノックする音が聞こえた。

,

 「私が出よう」


 トラヴィスが玄関へ向かった。どうやら『私』が眠らされた件があったから警戒しているようだ。


 (一国の皇太子だと言うのにマメな人だなぁ)


 しばらくしてリビングにディーンとクリフ、そしてパーシヴァルが入ってきた。パーシヴァルはいつもの調子で、にこにこ笑いながら気安くアリアナに話しかけてくる。


 「やあ、アリアナ嬢。気分はどう?」


 「問題はありませんわ、殿下」


 トラヴィスに返したのと全く同じ返事。

 アリアナはパーシヴァルの事はどう思っているんだろう?彼のディーンへの気持ちも、知っているはず。


 (だから、アリアナはパーシヴァルにも嫌がらせしてたんだろうな。皇国の第二皇子に対してよくやるよ・・・)


 3人は大テーブルの椅子に腰かけ、クリフがアリアナに顔を向けた。


 「具合が良さそうで良かった」


 温かく、落ち着いた声だ。どうやらアリアナに対するわだかまりは、もう無くなったみたいだな。


 「ありがとうござます、クリフ様。貴方に魔力を供給して頂いたおかげですわ」


 アリアナの声も柔らかい。私はなんだかホッとした気分で、胸を撫で下ろした。すると、


 (良かった。二人とも仲良くなったようだね)


 すると、アリアナの視界の端から声が聞こえた。 


 「アリアナ、あの・・・」


 ディーンの声だ。だけど、アリアナは彼の声に被せる様に、手をポンっと叩くと、


 「あら、わたくしとした事が、皆様にお茶を差し上げるのを忘れてましたわ。ステラ?」


 そう言って椅子から立ち上がると、アリアナはステラの方へ向かってしまった。


 (お、およよ?)


 今のはさすがに、あからさまなのでは?


 (やっぱりディーンの事、避けてるよなぁ)


 私からはアリアナは見えないし、アリアナがディーンを見ようとしないので、彼の様子も分からない。

 去年の夏、イルクァーレの滝で2人は和解したはずだった。

 アリアナはディーンに謝って、でもってディーンもそれを受け入れた。あれ以来、私もディーンとは、ちゃんと友達になれてたのだ。


 だけど学園で2年生になってからは様子が変わってしまった。


 (ふん・・・まぁね。私も最近は話もしてなかったけどさ)


 ちょっとやさぐれた気分で、ソファの上であぐらをかいた。

 思い返せば、最近のディーンはマーリンにべったりだった。マーリンが精神魔術にかけられて、クラスからも浮いちゃってるから心配なのは分かる。それにゲーム設定で恋人になってたから、きっとこの世界でもそうなのだろうけど。


 (はんっ・・・友情なんて脆いもんだよ)


 ディーンと勉強で競うのも、課題について議論するのも楽しかったのに。

 私は胡坐のまま天井を向いて、そして気付いた。


 (ああ、そっか・・・)


 だからアリアナも怒っているのもかもしれない。マーリンが居るのに、ずるずると自分と婚約しているディーンに腹を立てているのかも?


 (そうだよ!マーリンが居るんなら、もう虫除けはいらないじゃん!)


 この機会に、アリアナにはっきり断って貰うのも良いかもしれない。

 なんだかすっかり、ディーンを無視するアリアナを応援する気持ちになってしまった。私はソファからガバッと立ち上がり、心の声に力を込めた。


 (行け!アリアナ!ディーンにビシッと言ってやんな!)


 すると私の声が聞こえたのか、アリアナがビクッと身体を震わせた。


 「どうしたんだい?アリアナ」


 クラークが心配そうな声を上げ覗きこむ。


 「・・・いえ、お兄様。あの子が・・・」


 (お!やっぱ聞こえた?)


 私は気を良くして、もっと強めに心に念じてみた。


 (アリアナ!ディーンと婚約解消だよ!解消!)


 「彼女がどうかしたのかい?」


 クラークの問いに周りもアリアナに注目した。だけどアリアナは優雅に一つ溜息をついて首を振り、


 「いいえ、何でもありませんわ・・・」


 と冷たい声で一言。


 (な、何でーっ!?)


 私はスクリーンに駆け寄って叫んだ。

 アリアナも私と同じ気持ちじゃ無かったのか?

 呆然と立ちすくむ私をしり目に、アリアナはステラにお茶の指示を出すと、小テーブルの椅子に腰かけた。

 クリフが、アリアナを真っすぐ見て口を開く。


 「彼女は今どうしてる?」


 彼の紫の瞳は、まるでアリアナの目を通して私を探してるようだった。


 「こちらの話を聞いているみたいですわ。先ほど少し声が聞こえましたから」


 「話が出来るのか!?」


 クリフが期待に満ちた目を向けたが、アリアナは首を横に振った。


 「中から言葉を伝えるのは簡単ではありませんわ。確かに、わたくしの場合はあの子の精神が大きくて・・・その・・・」


 「彼女の精神が強すぎて、押されてしまった?」


 トラヴィスが続けて言って、アリアナが頷いた。


 「でも、今のあの子は精神魔術に囚われています。きっとこちらに意思を伝えるのは容易では無いと思いますの」


 アリアナの言葉に私はポンと膝を打った。


 (なるほど!だから力を入れないと伝わらないわけだ。・・・ん?だとしたら、さっきは渾身の力で言ったのに、どうしてアリアナは無視したわけ?伝わってはいたんだよね?)


 私は疑問に思ってスクリーンの前に立ったまま腕を組んだ。


 スクリーンの上では、クリフがじっとこちらを見つめている。彼は少しためらいつつ、


 「大丈夫か?こっちは皆、元気にやってる・・・なんて、まるで手紙の書き出しみたいな言い方だな」


 そう言って照れくさそうにと笑った。


 (あ・・・クリフってば、私に話しかけてくれてるの!?)


 胸の中にじわじわと温かさ広がっていく。


 「聞いたかもしれないけど、モーガン先生は捕らえられた。それに皆も君を助ける為に動いている。だから・・・待ってて欲しい」


 そして少し逡巡する態度を見せてから、


 「俺は・・・君に会いたい」


 そう言って目を伏せた。


 (ありがとう、クリフ・・・)


 クリフの気持ちが、純粋に嬉しかった。

 だけど私の意識が外に出ると言う事は、アリアナをまた閉じ込めると言う事だ。私はそれを喜ぶ事は出来ない。

 そしてクリフもそれが分かっているのだろう、アリアナに向かって頭を下げた。


 「アリアナ嬢、すまない。俺は・・・」


 「良くてよ。貴方の気持ちは、とても分かりますもの。それに・・・」


 アリアナは言葉を続ける。


 「貴方の言葉、あの子はきっと嬉しく思ってますわ。貴方の事をとても信頼していますもの。あの子も貴方に会いたいと思っていてよ」


 その言葉にクリフはほんの少し頬を赤らめ、ふわりと笑みを浮かべた。


 (ぐ、ぐはっ)


 その破壊力たるや!

 私は両手の拳を握って、よろよろとソファに顔を押し付けた。


 (・・・スクリーン越しでも殺られるかと思った)


 いや、直接見るよりも、この大写しのアップはヤバい!


 (アリアナ・・・頼むからこのイケメン共と話す時は注意してくれ)


 眼福ではあるが、不意打ちの微笑みは私には刺激が強すぎる。

 悶絶していると外からトラヴィスの声が聞こえてきた。


 「聞こえているなら話は早い。アリアナ嬢、彼女に少し聞きたい事がある」


 スクリーンにトラヴィスの整った顔が映った。


 (わーい、ねーさん!ねーさんも相変わらず、超絶カッコいいね)


 私は呑気にそんな事を考えていたが、トラヴィスは真面目な顔でアリアナに了承を得ると、


 「君は今、どういう状態だ?」


 そう聞いてきた。


 (どういう状態・・・ええと、どう答えたら・・・?)


 とりあえず必死にアリアナに返事を送った。


 「・・・ソファで座って・・・鎖に・・・黒い・・・影、・・・エイガのスク?」


 アリアナが私の言葉を伝えてくれる。どうやら途切れ途切れにしか聞こえないみたいだ。


 (映画のスクリーンはこっちには無いからマズかったか・・・でもねーさんなら通じるよね?)


 だけど彼以外の皆の表情は、完全に困惑状態だ。トラヴィスは眉根を寄せて、こめかみを人差し指でトントンと叩いた。


 「分かった。単語で良いから、もう少し分かりやすく答えてくれ」


 (あはは・・・ごめんよ、ねーさん)


 私はアリアナに伝えるべき言葉に、頭を振り絞った。

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