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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第七章 悪役令嬢は目覚めたくない
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羨ましかった

 リリーの顔は青白く、その顔からは表情が消えていた。そして黙ったまま何も答えない。


 「君はアリアナ嬢を必死で助けようとしていたよね?解術出来ないと分かっていても、魔力がつきるまで聖魔術を使い続けてさ。う~ん、いくらアリアナ嬢が友人だからと言っても、エメライン王女の時とは大違いなんだよね。僕から見たら、まるで自分を罰してるみたいだったんだよなぁ。ねぇ、それはどうして?」


 無邪気に問いかける様に聞くパーシヴァルに、リリーの瞳が揺れ、影が落ちる。


 (ちょ、ちょっと、パーシヴァル!)


 私にはパーシヴァルの言っている意味が良く分からなかった。


 (リリーは優しいから、アリアナを助けたくて頑張っただけだよ。なんでそんな斜めな見方をするのさ!?)


 私の気持ちが伝わったのか、


 「パーシヴァル殿下、それは少し考えすぎではなくて?」


 アリアナもリリーを庇う様にそう言った。


 「そうかなぁ?でも彼女がアリアナ嬢に、何か罪悪感を持っているのは確かなんだよねぇ」


 (なんで?私もアリアナも、リリーには何もされて無いよ!)


 自信満々でそう思ったが、リリーの表情を見てドキリとする。どうしてリリーはそんな思いつめた顔をしているのだろう。


 「リリー、どうしたのです?」


 アリアナが問う。リリーは目を伏せたまま、ぽつりと一言


 「羨ましかったのです・・・」


 そう言葉をこぼした。


 「羨ましい?」


 アリアナは一瞬怪訝そうな声で返したが、


 「ああ、それはわたくしの事では無く、私の中にいるあの子に対してですね?」


 「はい・・・」


 リリーの肯定に私は呆気に取られた。


(は?え?あの・・・ええっ!?)


 な、なんで?リリーがどうして私を羨ましがるの?


 (私のどこにそんな要素が・・・。あ、公爵令嬢だから?ってそれはアリアナだよな・・・。もしかして、勉強で学年トップ取ったからとか?でもそんなんで、リリーが私を羨む?)


 見当がつかない。


 「私、アリアナ様を・・・いえ・・・もう一人のアリアナ様を羨ましいと思っていました。そしてほんの少しですが・・・憎んだのです。い、居なくなればと思ってしまった事も・・・」


 リリーは声を詰まらせ、顔を伏せて両手で覆った。


 「だ、だから・・・私のせいです。私がそんな事を考えたから・・・」


 指の隙間から嗚咽が漏れる。


 「考えただけでは、何も起きるものではありませんわ」


 そんなリリーに、アリアナは冷静にそう返した。だけど、私は頭を殴られた様なショックを感じていた。


 (に、憎まれ・・・い、居なく・・・)


 金バケツをかぶせられて、トンカチで叩かれた程の衝撃だった。


 (リリーにそんなに嫌われていたなんて・・・)


 私はずるずると、ソファから床に滑り落ちてしまった。


 (ど、どうしよう?私、知らない内にきっとリリーにとんでもなく酷いことしたんだ!?でないと、あんなに優しい子が人を嫌うなんて・・・うう、うわーん!)


 いつの間に具現化したのか、タオルを顔に押し付けてソファに突っ伏した。


(お、推しに嫌われるのが、こんなにキツいなんて・・・)


 意識世界なのに、涙が止まらない。

 手足の鎖がじゃらじゃらと不快な音を立てた。なんとなく黒い影が存在感を増した気がする。ソファに顔をうずめたまま、私は気配を読んだ。


 (こいつ・・・もしかして私の感情と連動してる?)


 私の気分が落ちると同時に、黒い影が強さを増したように感じた。心なしか鎖が太くなっている。


 (マズい・・・気持ちを強く持っていないとダメだ!)


 精神魔術はまだ、私の意識を眠らせようと目論んでる。涙を吸ったタオルを握りしめたまま、私は再びスクリーンに目をやった。


 (落ち着いて!リリーの気持ちをちゃんと聞かないと。リリーは理由も無しに人を憎むような子じゃないでしょ!)


 リリーは顔を覆っていた手をゆっくりと降ろしていく。頬を涙が濡らしていた。


 「聖女候補なんて、私にはふさわしくありません。わ、私は自分勝手で利己的な人間なんです。アリアナ様は何も悪く無いのに・・・」


 リリーの目から涙がとめどなく零れる。そんな彼女の姿を見て、私はさらに慌てた。


 (ち、違うよ!リリーはちゃんと聖女なんだよ!ゲームのヒロインなんだから!)


 私はいったいリリーに対して何をやらかしたんだろう!?彼女をここまで追い詰めてしまうなんて。


 (だけどこれだけは言える!リリーは絶対に悪くない!)


 「君がそう思った理由を聞かせてくれないか?」


 トラヴィスが優しいとも言える声でリリーに問うた。


 「どうしても、言わなくてはいけませんか?」


 リリーの顔がこわばっている。


 (ちょ、ちょっとねーさん!もうやめてあげてよ!リリーは悪く無いってば!)


 少なくとも、今回の精神魔術にリリーが関わっているとは思えない。これ以上追求したって、リリーを傷つけるだけじゃん?

 すると、スクリーンから見えるアリアナの視点が、すっと高くなった。どうやら椅子から立ち上がったようだ。

 アリアナはリリーの方へ歩いていき、近づくと膝を落とした。そしてリリーの手にそっと手を添えるのが、スクリーンの上に映し出される。


 「あなたは悪くないわ。そうあの子が言っているのが、わたくしには分かりますの。・・・それにあなたの気持ち、わたくしには理解できましてよ。心の中が黒いもので覆われていくのに、自分では止められないのでしょう?・・・可哀そうに・・・辛かったわね」


 アリアナがそう言うと、リリーの目に再び大粒の涙が溢れ出した。そして彼女はアリアナの手に額を付けて肩を震わせた。

 アリアナはもう片方の手でリリーの髪を優しく撫でると、トラヴィスの方へ顔を向けた。


 「これ以上は聞かなくても大丈夫ですわ。リリーは今回の件には関係していません」


 「しかし・・・」


 「殿下、自分の気持ちがままならない事はありましてよ。それがどういう時か、昔の貴方になら理解出来るはずですわ。・・・残念ながら、あの子には分からないでしょうけどね」


 (は?なんで?)


 私には分からない?何の事?


 トラヴィスは眉を寄せたが、何か思い至ったようだった。そして彼らしくない渋い顔を見せると(あの顔はねーさんの顔だ)頭を掻いて溜息をついた。


 「あー、そういう事・・・?」


 (え?どういう事!?)


 アリアナとトラヴィスの二人で、何を納得してんのさ!?


 他の皆も全く理解出来ていないようで、戸惑った様子でこっちを見ている。だけど、二人はそれ以上説明する気は無いようだった。


 「了解した。リリー嬢の事は私が預かる。パーシヴァル、ここまでにしよう。ありがとう、お前のおかげで疑問の幾つかは解決した」


 (疑問っていうか・・・パーシヴァル以外は、全く気づいて無かった事でしょ?)


 それに幾つかっていう事は、まだ解決していない事があるのか?

 皆もトラヴィスの言葉に困惑した表情を見せたが、リリーの辛そうな様子にこれ以上追求する気は無さそうだった。

 私もモヤモヤは残ったけど、リリーがこれ以上責められる事は無さそうで、それだけは良かったって心から思った。

 トラヴィスはアリアナに目を向けると、座る様に促した。だけど、リリーの所に居たアリアナが、自分の椅子に戻ろうとした途端、アリアナの視界であるスクリーンがぐらりと傾いた。


 「アリアナ!」


 「アリアナ様!」


 クラークとミリアの声が響く。


 (え!?アリアナ、どうしたの!?)


 ほどなくしてアリアナの視点が安定し、スクリーンには心配そうなリリーやミリア達の顔が見えた。どうやらアリアナはクラークに支えられているようだ。


 「・・・大丈夫ですわ。でも、そろそろ・・・」


 アリアナの息が苦し気に乱れている。もしかしてクラークに流して貰った魔力が切れてきたのだろうか?だとしたら、思ってた以上に消費するのが早い。


 「今日はここまでにしよう。・・・クラーク、アリアナに魔力を供給するのは君達家族以外でも問題ないか?」


 トラヴィスの問いに、


 「試した事はありませんが、恐らく大丈夫かと・・・。ただし、供給側もかなり消耗します。しばらく魔術が使えなくなる程ですので・・・」


 「それは、供給量を調整するしかないだろうな・・・。幸いここには魔力量の多い者が揃っているから」


 トラヴィスはぐるりと視線を動かし、


 「皆、アリアナ嬢の為に協力してくれるだろうか?」


 「もちろんですわ!」


 ミリアが真っ先にそう言った。リリーも手を上げる。


 「わ、私も・・・」


 「リリー嬢には聖魔術を施して貰わなくてはいけない。魔力の供給は他の者に頼もう」


 リリーの眉尻が気落ちした様に下がったが、納得したのか強く頷いた。


 「では、俺がまずやります」


 クリフが前に進み出た。アリアナはクリフに顔を向けると、首を振った。


 「今日はもう、お兄様に流して貰いましたから・・・」


 そう言って断ろうとしたが、クリフはアリアナの返事を待たず手を取った。


 「辛いんだろう?遠慮はいらない・・・」


 すると、


 (う、うわっ)


 さっき目が覚めた時と同じような、弱い電流を流したような感覚が広がる。でも、決して不快では無かった。それどころか、


 (もしかして、あいつ、嫌がってる?)


 黒い影は、明らかにクリフの魔力を厭ってるようだった。


 (供給された魔力はアリアナを通して、私にも流れて来ているんだな。でもって、私に力が入ると、あの影は困るんだ)


 きっとクラークがアリアナに魔力を流さなかったら、私は今も眠ったままだったのじゃ無いだろうか?私はきっとあの時まで、意識ごとあの黒い影に囚われていたんだ。

 クリフの魔力が流れるにつれて、手足に付けられた鎖が少し細くなる。


 (温かい・・・)


 クリフの魔力は温かくて、上手く言えないけどなんだか深い・・・。自分の手を見ると、薄く柔らかい紫色の光に包まれているように見えた。


 (クリフの瞳の色だ)


 綺麗だな、と素直に思った。

 そしてその紫の光は、クリフが魔力の供給を止めると同時に消えた。


 「少しは楽になったか?」


 クリフの声が優しい。


 「ええ・・・ありがとうございます」


 彼は小さく頷くと、


 「・・・さっきは悪かった」


 とアリアナの顔を見ないままそう言った。

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