表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第七章 悪役令嬢は目覚めたくない
147/218

暴かれていく

 「描いてない!描いてないわよ!私だっておかしいと思ったもの!・・・結局、先生は私の絵のファンでも何でも無くて、アリアナ様の絵が欲しかっただけなのよ。だから、ちゃんと断ったってばぁ!」


 普段大人しいレティシアが両手を振り上げながら叫び、そして音を立てて机を叩くと、そのままガバッと伏せる様に崩れ落ちた。


 「私だってショックだったのよ。私の絵を認めてくれたんだって思ったのに・・・。でも、我に返って気付いたの。私、それまで先生にアリアナ様の絵をたくさん売ってて・・・ちょっと際どい構図のモノもあったし・・・。もしかしたら危険な人なんじゃないかって思ったら怖くなってきたのよ・・・それにアリアナ様になんて申し訳ない事をしたんだろうって。そ、そうしたらアリアナ様がこんな事になってしまって。私もう、心苦しくって・・・ううっ・・・」


 わぁ~っと机に突っ伏したまま、声をあげて泣き出してしまった。


 (うわわ・・・レティ)


 ここまで後悔しながら涙しているレティシアを見ていると、さすがに可哀そうになって来る。


 (それに今回の事件には関係無かったんだし・・・もう、許してあげても良いんじゃ無いかなぁ・・・)


 スクリーンのアリアナの視点はレティシアにロックオンされたままだ。そして、


 「レティ・・・」


 アリアナの静かな声にレティシアの肩がビクッと踊った。


 「ご、ごめんなさい、アリアナ様・・・私」


 「そうね、貴女のした事はとても浅はかだったと思うわ」


 青くなってたレティシアの顔色が、今度は白に近くなった。


 「わたくしも、あの子も、あのような下痺た人間の事は、特に嫌悪しておりますのよ」


 (ちょ、ちょっとアリアナ!)


 「だから、そんな下賤な者に、貴女の絵を売るなんて勿体無いでしょう?」


 「・・・え?」


 (ん?)


 アリアナの声が柔らかい。


 「貴女の絵は美しくてよ。もう少し見る目のある方にお売りなさいな。それに学生の間は『裏の肖像画』を通す事をお勧めするわ。そうですわよねぇ、殿下?」


 アリアナに話を振られて、トラヴィスの眉がピクリと動く。


 「ああ、そうだな」


 落ち着いた顔でが頷く。笑みを浮かべるているけど、ねーさん、目が笑って無いぞ。

 レティシアは口元に手をやると、涙をぽろぽろこぼし、


 「ア、アリアナ様、ありがとうございます・・・本当に、申し訳ありませんでした」


 「もう、宜しくてよ」


 アリアナはそう言って優雅にお茶を飲んだ。


 (か・・・格好いい・・・)


 何?このお洒落な許し方!?

 私はソファにもたれたまま両手で顔を覆って頭を振った。


 (どうしよう!?アリアナが格好良すぎる!)


 どやっ!?このアリアナのスーパーお嬢様っぷりは!


 そんな風に周りに自慢したいくらいだ。

 スクリーンに目を戻すと、毒気を抜かれた様な皆の顔が映し出されていた。レティシアなんて、心酔した様な顔で頬を染めてアリアナを見つめている。

 場が落ち着いたのを感じたのか、パーシヴァルがやれやれといった表情で、


 「OK。アリアナ嬢が許したのなら良いや。レティシア嬢に聞く事はもう無いよ。次は・・・」


 パーシヴァルの目線がジョーに向けられる。そしてアリアナの視点もジョーに変った。だけどジョーの表情に変化は無い。慌てた様子も見られなかった。


 「何よ?」


 「ジョー、君も隠している事があるよね?」


 パーシヴァルの問いにジョーは不敵とも見える笑みを浮かべた。


 「だったらどうなの?誰だって隠し事の一つや二つあるでしょ?」


 「確かに君の言う通りだけど」


 パーシヴァルは両腕を広げて肩をすくめた。


 「だけど、それってアリアナ嬢に関係する事だよね?今はこんな状況だから、出来れば話して貰えたら助かるんだけどな。もし君がアリアナ嬢を助けたいと思ってるのならね」


 パーシヴァルとジョーの視線がぶつかる様に交差する。


 (め、珍しいなぁ、こんなジョーは)


 ジョーは思った事が口に出る性格で、物事をあまり気にしない。そのジョーがいつになく頑な態度を見せている。


 (という事はさ、きっと・・・)


 「ジョーが黙ってるのは、ケイシー様に関係のある事だからですわね?」


 (おっ!)


 アリアナが私の考えた事を、そっくりそのまま言ったので驚いた。


 「ジョーが彼女らしく無い態度をとる時は、大抵ケイシー様の事ですもの」


 ジョーの口がムッとへの字になる。やっぱり図星のようだ。


 (はは、ジョーはケイシーが大好きだもんなぁ)


 ケイシー・バークレイ・・・彼はミリアの兄で攻略者の一人だ。正直、今まであまり関わった事は無い。生徒会に入ってはいるみたいだけど、運動部の面倒を見ているせいか、あまり作業室にも姿を見せないのだ。

 確かトラヴィスとは同じクラスでずっと友人のはず。ゲームでは2年の途中でリリーと出会うイベントがあるはずだけど、


 (こんだけゲームとストーリーが変わってきてるとなぁ・・・)


 多分、同じ展開にはならないだろう。

 ちなみにゲームでは、ヒロインとケイシーの好感度が上がった時、ヒロインを積極的に攻撃していたのは、主にエメライン王女の取り巻きだった『女生徒B』だった。恐らく、それがジョーだったのだろう。

 ジョーは行動力もあるし意外と洞察力もある。普段の言動からは、そうは見えないけど、実は頭もかなり良い。いつもの彼女なら自分も含めて物事を俯瞰して見る事が出来るのに・・・。


 (なのにケイシーが絡むと、別人なんだよなぁ)


 だからゲームでも、ヒロインの敵になったんだな。間違ってると分かっていても、そうせずにはいられなかったのだろう。

 ジョーはじろっとアリアナを睨んだが、フウと諦めた様に息を吐いて、


 「別に、隠そうとしたわけじゃ無いわよ?あえて言わなかっただけ。確かに私は今日の出来事をケイシー先輩に報告しに行こうと思ってました。これで良い?」


 トラヴィスが微かに眉をひそめた。


 「ケイシーにこの事を話すつもりだったのか?」


 「駄目なの?ケイシー先輩はミリアの兄よ?トラヴィス殿下だって懇意にしているじゃないですか。・・・ケイシー先輩は最近の学園の騒動や、トラヴィス殿下の事を心配してるんです。なのに、殿下が何も話してくれないから、ケイシー先輩は少し落ち込んでるんですよ!?」


 ジョーは悪びれる事無く、逆にトラヴィスの事を責める様にそう言った。


 「ここでの事は他言無用に願いたいがね」


 「ケイシー先輩は、殿下の将来の側近でしょう!?」


 (ひょえー!これが恋の力かねぇ・・・)


 いつも飄々としているジョーが、トラヴィスに食って掛かるなんて。理不尽な事でも押し通しそうなパワーに、私は圧倒されそうだった。


 「ちょっとジョー!本当に貴女らしくないわよ!」


 ミリアが慌てて割って入る。それでもジョーは態度を変えない。


 「何よ!?まさか私も精神魔術にかけられているとでも思ってるの?お生憎様、私は完全に正気よ!ケイシー先輩は誰よりもこの国の事を考えているし、殿下にも忠誠を誓っているわ!先輩をカヤの外にしないでよ!それに私と先輩は光の魔力の・・・」


 ジョーはそこまで言って、ハッと口を押えた。


 「光の魔力?」


 トラヴィスが怪訝そうな顔をする。


 「光の魔力がどうしたと言うんだ?」


 ジョーは口をつぐんだ。明らかに失敗したと言う顔をしている。


 「ジョージア嬢、何を隠している?」


 トラヴィスの目が鋭さを増した。さすがのその迫力に、ジョージアがビクッと身をすくめる。それでもしばらく口をつぐんでいたけど、隠し切れないと思ったようで、軽く肩をすくめると、


 「・・・光の魔力の持ち主を知っているわ。聖女候補の3人以外で」


 「何!?」


 (マジか!?)


 驚いた!

 聖女候補以外という事は・・・リリー、マーリン、エメライン王女以外でって事だよね?


 (え?誰?・・・んな奴、ゲーム内に居たっけか?)


 私の場合やり込み方が偏っていたし、3部までは辿り着けなかったから、出会えてなかったのかもなぁ。軽い気持ちでそう思ったけど、トラヴィスの顔を見て彼が本気で驚いている事に気付いた。


 (えっ?ねーさんも知らないんだ!?)


 正直かなり意外だった。トラヴィスねーさんは前世でほぼ完全コンプリートしていたのだから。


 (これってゲームでは出てこなかった人物ってことか?でも、光の魔力なんて重要なファクターを持つ人物がゲームに出てこないなんて事ある?)


 それともねーさんがクリアできなかった3部の真のエンドに関係しているのだろうか?

 ジョーが首を振りながら話を続ける。


 「知ってはいるけど、本人の了承を得ていないから誰かは言えない。それに、これは私じゃ無くてケイシー先輩が見つけた事だから」


 「光の魔力の持ち主がいるなら、リリーと協力してアリアナを救える。それなのに言えないと?」


 トラヴィスの声が威圧感を増した。だけど、


 「本人は公表したがっていないのよ。だから協力してくれるかどうか確認してくるわ。でもそれはケイシー先輩にも事情を話す事が条件よ」


 でなければやらないと、ジョーの顔に挑戦的な笑みが浮かぶ。トラヴィスは眉を寄せたが、


 「良いだろう。だが、くれぐれも他に情報を漏らさない様に注意してくれ」


 目に見えて、ジョーの顔がパッと明るくなった。


 「分かったわ!じゃあ今から行って来る。アリアナ様の事もきっと助けてみせるから」


 そう言うなり、バタバタと部屋を出て行ってしまった。さすが行動力は抜群だ。

だけどその様子を見て、ミリアは額を押さえて溜息をついた。


 「申し訳ありません、殿下。ジョーはケイシー先輩の事になると、少し常軌を逸してるところがあって・・・」


 「構わないさ。ケイシーは信用できる男だからね。だけど、もう一人の光の魔力の持ち主については気になる所だな」


 (だよね)


 エメラインは襲撃のせいで聖女候補を脱落。マーリンは魔力量が少ない。それを考えたら、魔力の強さ次第ではリリーと並んで聖女候補って事になるんじゃないか?


 (う~ん・・・ゲームの登場人物以外の人ってのは、あり得ないと思うんだけどなぁ)


 すると、パーシヴァルが手を上げて皆の注意をひいた。


 「ジョーの事も一応解決・・・って言って良いのかな?じゃ、僕の話を続けて良い?」


 (は?まだあるのかよ?)


 パーシヴァルは皆の秘密をどんどん暴いていく。必要な事とは言え、正直もう、お腹一杯なんだけど。


 「もう一人、話しを聞きたい人が居るんだ。・・・ちゃんと答えてくれると良いんだけど」


 パーシヴァルの顔から笑みが消えた。そして、


 「どうしてアリアナ嬢が眠らされた事を、自分の責任だと思ったのかなぁ。教えてくれる?リリー嬢」


 アリアナの視点が、真っすぐにリリーに向けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ