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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第七章 悪役令嬢は目覚めたくない
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レティシアの秘密

 トラヴィスの顔に、アリアナに対して初めて気兼ねする様な表情が浮かんだ。


 「解術すると、君はまた表に出られなくなるのでは?・・・それでも良いのか?」


 「元々、長くは生きられなかった身ですから」


 すべて受け入れた様に言葉を返したアリアナに、トラヴィスは大きなため息をついた。


 「君の中の『彼女』は今どういう状態か分かるのか?」


 トラヴィスの問いにアリアナは首を横に振った。


 「分かりませんの。外に出ているほうが、分からない事が多い気がしますわ。でも、きっとあの子も私の目を通して今の私達を見ていると思います。ただ・・・精神魔術が彼女にどこまで影響を及ぼしているかは不明ですが・・・」


 ざわっと皆の空気が揺れた。


 (だ、大丈夫だよ!鎖でつながれてるだけで、結構快適にやってるから!)


 こっちの言葉が伝わらないのがもどかしい。


 「もう一つ聞きたい。君は・・・彼女に身体を奪われて嫌では無かったのか?」


 「嫌?」


 トラヴィスの問いに、アリアナはふふっと声を出して笑った。そして、


 「わたくし、生きてる事が、もう辛くて嫌だったのですわ。でも、あの子の中で幸せでしたの。あの子の目を通して世界を見て、友人達と勉強したり、ピクニックに行ったり、他愛もない話をする事が。私のしたかった事を全て経験させて貰いましたわ。それに・・・実を言うと、わたくしとあの子の精神が少しずつ溶け合ってるのがわかりますの。もしかしたら命が尽きる頃には、一つの精神になっているのかもしれませんわね」


 まるでそれが楽しみだと言う風に、彼女の声音はとても明るかった。


 (え・・・?)


 私は虚を突かれた気分になった。


 (アリアナは怖く無いの?自分が・・・自分の意識が人と混じってしまうんだよ?)


 以前、湧き出た感情が自分のものかアリアナのものか分からなくて、私は凄く怖い思いをしたのに。

 もしかしてそんな事よりも、アリアナの生きてきた時間の方が過酷だったってことだろうか・・・。


 「あまり時間はありませんわ。そろそろ本題に入りましょう。あの子を封じた術師ですが、残念ながら私は見てませんの。何しろ突然の事でしたから・・・。だけど、殿下には何か策があるのではなくて?」


 アリアナがそう言ってトラヴィスを促した。


 「策という程では無いが、確認したい事は色々ある。・・・それが解決に繋がればいいがね」


 そう言って何故かパーシヴァルの方を向いた。


 「パーシヴァル、頼む」


 (んあ?なんでパーシヴァル?)


 「承知しました、兄上」


  パーシヴァルはいつもの人好きする顔でヘラリと笑うと、


 「僕が得意なのは人間観察がだからね。悪いけど、ここに来てからの皆の様子を見させてもらったよ」


 そう言って、片目をつぶった。


 「友人を疑うのは嫌な事だけど、アリアナ嬢がこうなっている以上、気を抜く訳にはいかないからね。犯人は顔見知りかもしれないし、もしかしたら誰かが手引きした可能性だってあるでしょ?精神魔術に支配されている場合もあるし、知らずに騙されている事もあるよね?」


 言ってる事は相当際どいのに、悪びれる事の無い態度はいっそ清々しいぐらいだ。


 「で、ちょっと皆にいくつか質問をしたいんだけどさ・・・」


 うーんと考える素振りでパーシヴァルは目線を動かすと、ぴたっと一人の前で止めた。


 「まずはレティシア嬢」


 「え!?」


 レティシアは見事な程に狼狽えた。


 「な、な、何でしょうか・・・わ、私は特に・・・」


 パーシヴァルはにこにこ笑いながら手を振った。


 「そんな緊張しないで。大した事じゃないから」


 「は、はい・・・」


 「でもさ、君、どうしてアリアナ嬢にやましい気持ちを持ってるの?」


 レティシアの喉がヒュッと鳴った。


 「やましい・・・それとも後ろめたいかな?どっちの表現がピッタリくる?」


 笑みを崩さないパーシヴァルに畳み掛けられるように問われて、レティシアは青い顔で震えだした。


 「レティ、貴女?」


 不審に思ったミリアが真剣な顔で詰め寄る。


 「ご、ごめんなさい!私・・・う・・・ううっ・・・」


 レティシアはとうとう顔を両手で覆って泣き始めた。


 (え、えええ!?レティ、どうしちゃったのさ!?)


 ま、まさかレティが、犯人と繋がってるなんて事・・・いやいや、そんなのあるわけ無いよ。そうだよね!?

 皆の間にも動揺が走る中、レティは嗚咽に肩を震わせながら、切れ切れに話し出した。


 「わ、私の絵のファンだからって言われて・・・、と、特にア、アリアナ様の絵が素晴らしいって言われたから・・・うう・・・私・・・『裏の肖像画』を通さないで直接販売してたんです・・・ごめんなさいっ!」


 (は?)


 何の話?


 皆もそう思ったのだろう。スクリーンの中に、きょとんとした顔が並んでいる。


 (え、え~と『裏の肖像画』って、それこそトラヴィスが裏でやってる商売のあれだよね?)


 『裏の肖像画』は生徒が描いたイケメンや可愛い女子の絵を売買するシステムだ。描き手は自分の描いた絵でお小遣い稼ぎができるし、買う方は手ごろな値段で憧れの人の絵が買える。

 こういう楽しみも必要だろうと、生徒会や先生方が黙認しているが、その実この商売を牛耳っているのは、前世の趣味丸出しのトラヴィスだった。

 私はトラヴィスのプライベート秘書と言う名目で、その商売を手伝っていたのだが、レティシアそのルートを使わないで、絵を売ってたってことかな?


 (でもそれが今回の事と何の関係が?)


 トラヴィスが小さく咳払いをした。


 「ん・・ああ、レティシア嬢?何の話をしているのか・・・もう少し落ち着いて話してくれたまえ」


 レティシアはぐすんと鼻をすすり上げながら、


 「さ、最近、画材にもお金がかかるし・・・私の家はそこまで裕福では無いから・・・だって、通常の3倍のお金で買うって言ってくれたから・・・」


 トラヴィスは額に右手を当てると、もう片方の手を上げ、


 「レティシア嬢、ちょっと待ってくれ!」


 堪り兼ねてレティシアを止めた。


 「こっちから質問する。まず、君は何を売ったんだい?」


 「ア、アリアナ様の絵ですわ。私の描いた・・・」


 アリアナの目線がレティシアにフォーカスした。


 (おっと、アリアナ。これはもしかして怒ってる・・・のかな?)


 トラヴィスは質問を続けた。


 「分かった。それで売った相手は?」


 レティシアの答えた名前は、とても意外な人物だった。


 「リュ、リューセック先生です・・・」


 (ええ!?)


 リューセック先生って、まさかあの!?なんであの先生が?


 混乱する私の目の前で、ミリアが声をあげた。


「リューセックって・・・確か、アリアナ様の先生でしょ?魔力が無い人のクラスの」


 (そそそ、そうっ!魔力ゼロクラスの先生!どうしてあの人がアリアナの絵を買うのさ?)


 レティシアの声が段々と小さくなる。


 「さ、最初はただ、私の描いた絵を褒めてくれて・・・。『裏の肖像画』で買ったって言って、アリアナ様と男装したジョーの絵を持ってて・・・」


 (ああ!あの、別荘で描いてたバックハグの!?)


 男装したジョーと私の、なんとも倒錯的な絵だ。


 頭がクラクラしてきた。


 「私の絵のファンだって言われて、凄く嬉しくなってしまって・・・。先生は『裏の肖像画』を通すよりも高く買うから直接売ってくれって私に言ってきたの。だから私、画材代も賄えるし、人を喜ばせる事も出来るから・・・」


 「先生に直接絵を売ってたわけだ」


 トラヴィスが溜息をついた。きっと内心歯噛みをしているだろう。


 (『裏の肖像画』は商売目的だけじゃ無くて、人気の絵が高騰して一部の裕福層にだけ出回るのを防ぐ理由もあったんだもんね。まぁ・・・大半はねーさんの趣味の為だったけどさ・・・)


 レティシアは青ざめた顔で泣きながら返事した。


 「はい・・・すみません」


 「もしかしたら、リューセック先生が欲しがったのは、アリアナ嬢の絵だけだったのじゃないかい?」


 (ん?)


 どう言う事だ?

 トラヴィスの問いにレティシアの体が、怯える様にビクッと震えた。


 「先生は他の人を描いた絵は購入していたのかい?」


 「・・・先生は他の人の絵は全然買ってくれなくて、アリアナ様の絵をもっと欲しいって・・・。し、しかも構図とか状況とか色々指定してきて・・・」


 「状況って?」


 ミリアが眉をひそめる。


 「寝姿とか・・・お、お風呂上りとか・・・」


 「はぁっ!?」


 (はぁっ!?)


 「ちょ、ちょっとそれって!」


 ミリアの声が一際大きくなった。青ざめたクラークと、げんなりしたトラヴィスの顔も見えた。そして私は、


 (さ、最悪・・・)


 がっくりとソファに突っ伏したのだ。


 (ロリコンだ・・・変態がもう一人いたんだ・・・くっそぉ、油断した。まさかあの先生が・・・)


 あの人と二人っきりで授業していた事を思い出して、ぞーっとする。


 「レティ!あ、あんた、まさか先生にアリアナ様のいかがわしい絵を・・・」


 ミリアがすごい剣幕でレティシアに詰め寄った。

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