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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第七章 悪役令嬢は目覚めたくない
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あるべき形

 (ぬわっ!)


 なんだか身体中に電流が流れた様な気分がして、私は飛び起きた。


 (ん?・・むむ?)


 飛び起きたつもりだった。なのに、今までに無い感覚に戸惑う。なんだかフワフワして、自分の身体の感覚が無い。

 しかも視界が真っ暗で何も見えない。


 (な、なんじゃこりゃぁぁぁっ!?私ってば、いったい・・・)


 必死で何があったのかを思い出してみる。


 (そ、そうだ!確か部屋にお客が来て・・・で、あれ?)


 誰が来たんだっけ?

 どうしても思い出せなかった。


 (だけど、玄関に向かったのは確かだよね・・・でも、そっからの記憶が消えてるぞ・・・)


 何で?


 それに今の状況・・・周りが暗くて、自分の身体が感じられないなんて・・・


 (ももも、もしかして・・・私・・・し、しんじゃってたりしない・・・!?)


 月並みな表現だけど、冷水をかぶせられたかのように背筋がぞーっとした。


 (え?え?え?、まさか本当にそうなの?)


 だって、意識はあるけど何も見えない。自分の身体があるのかどうかも分からない。

 絶望的な気分で、とにかく気持ちだけでも、もがいてみた。目をキョロキョロ動かしてるつもりになってみる。

 すると微かに光が見えた気がした。


 (う、うぉー!)


 藁をもつかむ気持ちで必死に光に向かって意識を集中させた。もがきながら、そっちへ向かって全速力で泳いでいる様な感覚。

 すると小さかった光が段々と近づき大きくなってきた。そしてその中に、見覚えのある人物を見て面食らった。


 (え?あ!ステラじゃん!)


 光の中に、メイドのステラの姿が見えたのだ。


 (ど、どゆ事?)


 状況が全く理解できない。


 感覚としては、まるで水の中から水面を見ているようだ。だけど自分の身体は無くて水の中に意識だけ漂ってる様な・・・。

 そんな風に思っていると、突然私の周りに大きな声が響いた。


 「ステラ!もっとセンスの良い服は無いのかしら!?ここにある服って地味な服ばっかりじゃない!」


 (んぎゃ!)


 大音量のスピーカーで叫ばれたみたいだ。


 (う、うるさっ!もうちょっと静かに・・・)


 そう思うと、今度はちょうど良い音量で、ステラの声が聞こえた。


 「も、申し訳ございません、アリアナ様!でも、ここにある服は全部アリアナ様がお選びになったもので・・・」


 「分かっててよ、ステラ。あなたのせいでは無いわ。悪いのはあの子。公爵令嬢たるもの、もう少し着る服を選んで欲しかったわね」


 (え・・・?)


 声を聞いて愕然とする。


 (こ、この声・・・)


 聞こえてきた声は私の声・・・いや、『アリアナ』だった頃の私の声・・・つまり・・・


 (も、もしかして・・・本当のアリアナが『外』に出てる?)


 今の私はアリアナの身体の中で、ただ『外』を見ている状態なのだ。


 (えええ!なんでこうなった!?)


 私は混乱でぐらぐらする頭を、手で押さえているつもりになった。

 だけど、不思議と気分は悪くなかった。無重力のベッドに寝っ転がって浮かんでる様な気分だ。そして少し揺らめくスクリーンで『外』の景色を見ているかのよう。


 (な、なるほど。アリアナもこうやって、外の様子を見ていたのかな?)


 納得。だからたまに彼女は私にコンタクトしてきたわけだ。


 (そっか・・・アリアナは自分の身体に戻れたんだね)


 いや、そもそも一緒にアリアナの中に居たのだから、戻れたって言うのはおかしい。要は彼女が、身体の主導権を取り返したって事だよな。


 (まぁ、それが正しい在り方だからなぁ・・・)


 そう思ったけど、リリーやミリア達と話が出来ないと思うと、少し寂しい気持ちにはなる。が、文句を言うのもおかしいよね。元々この身体はアリアナのものなんだもん。

 溜息をついたつもりになって、私はさらに『外』を眺めた。


 アリアナは『センスが悪い』と判断した服の中から納得する物を見つけたのか、着替えを始めたようだ。ステラがそれを手伝っている。


(ふうん、私は自分で着替えてたからなぁ。真のお嬢様は自分ではやらないってか)


 すると、突然心の中に声が聞こえた!


 『もう!あの子は貴族というものを分かって無いわ!こんな地味な服ばかり来てたら周りから侮られてしまうわよ!』


 (ど、どわっ!)


 これ以上驚く事は無いだろうって思ってたのに、私は再び、ひっくり返る程驚愕した。


 (し、心臓が・・・!)


 いや、今は意識だけだから心臓は無いかもしれんが、マジで止まるかと思ったぞ。


 (え?も、もしかして、今のってアリアナが考えた事!?)


 心で思ったことまで、聞こえてくるのか!?


 (そ、そうか・・・。今まで私も心ん中で、アリアナに話しかけたりしてたもんなぁ)


 だけど、どうやら考えたこと全部が聞こえて来る訳では無いようだ。もしかしたら強く思ったり考えたりした事だけ、心を共有する様に聞こえてくるのかもしれない。


 (な~るほどねぇ)


 上手く出来てると、妙に感心してしまった。

 どうやらアリアナの支度が終わったようだ。私と違って、髪も念入りにブラッシングして大きなリボンも付けるみたい。鏡に映る彼女は、私がアリアナだった時よりも5割増し程、派手な気がした。


 「ステラ、リビングに行くわ。わたくしの分のお茶も運んで頂戴」


 私の目の前のスクリーンで、リビングへのドアが開く。そしてその場にいる全員の目がアリアナに集中した。


 「ア、アリアナ、大丈夫なのかい?」


 クラークが慌てて立ち上がり、こっちに走って来た。アリアナの手をとってエスコートしているようだ。


 「心配いらないですわ、お兄様。ああ、ステラ?グローシアに頂いた美味しいお菓子を皆様にお出しして。それに昼食時間が近づいてきましたわ。スティーブンに人数分の昼食をお願いできるかしら?」


 「は、はい!」


 アリアナの言葉に、呆気に取られているみんなの様子が見える。


 (へぇ・・・アリアナってば、結構気が利く。全然モブの悪役令嬢って感じじゃ無いじゃん。むしろ高貴なお嬢様感がにじみ出てて、格好良いんじゃない?)


 私には出せない技だな。

 ゲームじゃあんなに我儘で意地悪だったのに、どうやら今のアリアナは少し違うように感じる。


 (以前はゲーム通りの性格だったんだよね?・・・と言う事は、やっぱアリアナってば私と一緒に居るうちに変わった!?)


 そんな気はしてたのだ。私と一緒に居たアリアナは、ディーンの事を諦めた頃から少しずつ変化しているように思っていた。

 なんだか娘の成長を見るような気持ちになり、嬉しくなった。

 アリアナは皆に注目されている中、ゆっくりと紅茶を一口飲んだ。そして、カップを手に持ったまま、


 「それで?」


 と一言だけ言った。どうやら高飛車ぶりは変わらない様だ。


 「な、何だい?アリアナ」


 クラークがアリアナに聞く。


 (気を使ってるなぁ、クラーク)


 私に対しても優しかったけど、元祖アリアナには温度が違うぞ。


 「わたくしに聞きたい事があるのでしょう?どうぞ」


 「ア、アリアナ、何を・・・」


 おろおろしているクラークの言葉に被せる様に、クリフが口を開いた。

 

 「じゃ、聞かせて貰う。お前は誰だ!?」


 口調はまるで、詰問しているみたいだ。


 「アリアナ・コールリッジ。先ほども言いましたわ」


 「では、俺達が今までアリアナ嬢だと思っていた彼女は誰なんだ!?」


 (ク、クリフ!?)


 私はクリフの様子にびっくりしてしまった。彼の表情は固く、目が暗く燃えている。これじゃ皇太子暗殺を考えてた頃よりも雰囲気が怖いぞ!?


 (ど、どうしちゃったのよぉ!?)


 アリアナだって彼の強い感情を感じているだろう。だけど、表面上は落ち着いていて、静かな口調で答えた。


 「あの子の事については・・・どこの誰かはわたくし存じ上げませんの」


 「貴様!・・・彼女をどこへやった!?」


 「クリフ!」


 激昂して立ち上がりかけたクリフをディーンが止めた。だけど、アリアナはやはり落ち着いた様子で、


 「あの子でしたら・・・」


 アリアナはそっと・・・私からは見えないけど・・・自分の手を胸に当てたようだった。


 「今もわたくしの中におりますわ。今は・・・悪しき魔術に囚われてしまっていますが、でも・・・」


 「アリアナ、もう良い!」


 アリアナの言葉を遮る様にクラークが声をあげた。

 

 「みんな!アリアナは目覚めたばかりで混乱しているんだ。だから、少しおかしな事を・・・」


 「お兄様、これ以上あがくのはみっともなくてよ」


 慌てて言い繕うとするクラークを、アリアナがピシリとで止めた。


 「もう隠すのは無理ですわ。それに、ここにいる方達は、あの子が信用できると認めた方達です。すべてお話ししましょう」


 「アリアナ・・・」


 クラークは少しの間、逡巡していた。だけど諦めたように息を吐くと、


 「分かったよ・・・」


 頷きながらそう言って、トラヴィスに向かって頭を下げた。


 「殿下・・・すみませんでした。僕が分かっている事はすべてお話します。だけど、ここだけの話にすると約束してください」


 そして、皆に向かって『私も知らなかった話』を話し始めたのだ。

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