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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
閑話_トラヴィスねーさんと攻略者達
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3人の攻略者

≪クラーク・コールリッジ≫


 前世を思い出して以来、パーシヴァルの次に会った攻略者はクラークだったと思う。

 10才くらいの頃だったかな・・・皇国主催の式典に親と共に参加していた一つ年下の少年。


 彼に会った時、攻略者が他の人とは全然違うのだという事に改めて気付かされたわね。


 (今までは、自分とパーシヴァルしか知らなかったからよねぇ・・・お・ど・ろ・き!)


 一言で言うと、華がある。


 その場に立っているだけで、存在感と人を惹きつける何かある。


 (ふ~ん、これが攻略者と他者との違いって事かしら?まっ、一番抜きんでてるのは、私だけどぉ)


 何せ、私は最人気攻略者なんだもんね。


 まぁそこは置いといて、クラーク・コールリッジ。名門コールリッジ家の子息であり悪役令嬢アリアナの兄。


 乙女ゲーム上では悪役令嬢アリアナの兄という設定以外では、正直、攻略者とは言え目立つ存在では無かった。

 アリアナと同じハニーブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。少し甘めの美形で穏やかな性格。


 (私から見ると、一昔前の王子様って感じで、あまり響かなかったのよねぇ)


 普通の相手では満足出来ない前世の自分(アラサーOL)には物足りなかったのだ。もちろんあくまでゲームの中の相手という意味だけど。


 しかし、この世界でのクラークはなかなかのものだった。


 イラストでは無いリアルでの正統派美形はとにかく正義だ。彼の入学時には上級生の女生徒達も色めき立っていた。


 (もちろん、トラヴィス()程では無いけどね、うふふ)


 だけど彼はとにかく性格が良かった。


 いつも穏やかな顔で、落ち着いた口調。決して人の悪口は言わない。人の意見をきちんと聞き、自己中心的な部分は全くなかった。それでも、彼が人に舐められないのは、きちんと自分の中に芯があるから。他人に優しいが自分の意見を持っている。自己主張は少ないが、人に流されてるわけではないのだ。


 バサッ


 紙を広げる音が部屋に響いた。


 「殿下、こちらの仕事は終わりました。それから音楽祭の件についてなのですが・・・」


 クラークが作業室の机に計画書を広げたのだ。


 計画書は初めて作っただろうに、見やすく良くまとまっている。


 (クラークが入学して以来、ずっと仕事を手伝って貰ってるけど、ほんとそつがないわ)


 仕事面においても彼はかなり優秀だった。成長してからも、きっと私の右腕として働いてくれるだろう。見た目も良いし、私としては願ったりかなったりなんだけど・・・。


 (ただ一つ問題があるとすれば、やっぱ妹ラブが過ぎるとこよ)


 ゲーム同様、クラークは妹アリアナを、気持ち悪いぐらい溺愛している。


 (あれさえ無ければねぇ・・・)


 私の心中を知らず、クラークは一通り音楽祭の計画書の説明をすると、


 「あの・・・今週末は実家に戻ろうと思います。仕事の手伝いが出来ず申し訳ございません」


 そう言って、頭を下げた。


 「ああ、かまわない。しかし、君の家は結構遠いだろう?先月も帰ってなかったか?それにあと1カ月もすれば春休みだぞ」


 「春休みまで待てません!妹に会うためですから」


 (げ・・・出た)


 「そ、そうか・・・だが、君の妹も、4月には入学するのでは?」


 「え・・・ええ、妹も楽しみにしているのですよ・・・」


 (ん?)


 少しその顔に翳りが見えたのは気のせいかしら?


 いや、悪役令嬢と言われるほどの強烈な妹が入学するんだもんね。クラークだって心配する事もあるんだろう。


 (それにしてもさぁ・・・)


 彼がアンファエルン学園に入学してからほぼ一年。妹に会うという目的で月に一度は実家に帰っている。馬車で1日かかるというのによ?それこそ、雨の日も風の日も・・・。

 アリアナから呼び出される事もあるようだけど、その場合も嫌がる事無く、むしろ前のめりで実家に帰ってる。


 (ふーん、戻って来ると、いつも疲れてぐったりしている癖にねぇ・・・)


 ここまでシスコンが過ぎると、さすがに引くわ。


 何せゲームではクラークがリリーと恋仲になっていても、ディーンに断罪されるアリアナを庇うくらいなんだもんねぇ。


 (設定とは言え、あの強烈に我儘傲慢娘を、どうしてあそこまで愛せんのかしら?もしかして、これがシナリオの強制力ってやつ?)


 ちょっと気になって、クラークに聞いてみる。


 「クラーク。アリアナ嬢とは、君にとってどういう存在なのだ?」


 するとクラークは目を輝かせて答えた。


 「アリアナですか!?・・・ああ、花の如く美しくそして愛らしい我が妹・・・妹は私にとって生きる意味、生きる全てですよ!」


 (こっわ・・・)


 聞いた自分が馬鹿だったかも?


 (ヒロイン!選ぶなら別の男にしな)


 私はクラークに『勿体ない男』の烙印を押した。




≪ケイシー・バークレイ≫


 アンファエルン学園に入学した時、同じクラスに居たのがコイツ。


 バークレイ伯爵家5人兄弟の長男。明るくてスポーツ万能の爽やかイケメンだけどぉ、私(前世)の好みではないのよね。


 (完全コンプの為に攻略はしたけどさぁ。つまんないのよ)


 爽やか君とヒロインの恋愛は、障害らしい山も谷も無く、ほぼほぼ楽し~で終わっちゃう。

 癖の強い他の攻略者ルートに比べたらオアシスの様な存在だけど、私(前世)はそんなもの求めていないのよ。


 (イーサン様に出会うための、踏み台くらいにしか思ってなかったっけ)


 だけど、現実の私、トラヴィスとなると話が変わる。彼は皇太子の臣下としては信に厚く、護衛としてもかなり優秀。そして友人としても面白い奴なのよ。


 「殿下、良かったら手合わせしてくれませんか?」


 ケイシーは剣の授業の時はいつも私と組みたがる。理由は、


 「だって、俺より強いの殿下しかいませんから」


 そう言って太陽の様に明るい笑顔でニカッと笑う。


 バークレイ家の特徴である明るい栗色の髪と瞳、ケイシーのくったくの無い笑顔を見ると、こっちまで気持ちが明るくなってくる。

 5人兄弟の一番上だけあって、下級生の面倒を見るのも上手い。将来、部下を持っても上手く働かせることが出来そうね。


 (ゲームの登場人物として見た時に比べて、今のトラヴィス目線だと大分評価が変わるわね)


 ゲームで好きだったのは、隠しキャラで最推しのイーサン様は別として・・・終始暗くて影を背負ったクリフ、優しそうに見えて何処か裏の有りそうなマリオット、そして皇太子として完璧で全く隙の無いトラヴィスだ。


 はからずしも、そのうちの一人に自分は転生してしまったわけだけど・・・


 (いずれ皇帝になる私は、もちろん優しさと寛大さも持ち合わせているけど、・・・いざとなれば、残酷な事もできるちゃうのよねぇ・・・)


 トントン


 執務室のドアをノックする音で空想から現実に引き戻された。


 「入りたまえ」


 「殿下、秋の学園祭についてなのですが・・・」


 「今年も剣技大会と魔術大会でもやりましょうよ!今年の一年生は見どころのありそうな奴が多いですよ!」


 クラークとケイシーが入って来る。


 「剣技大会ではケイシー先輩には当たりたくないですね。勝つのは相当厳しいでしょうから」


 「当たり前だろ!?俺は殿下とやりたいな。今度こそ勝ちますよ!」


 白い歯を見せてケイシーが笑う。


 (う~ん、この二人は正しさの見本よね。皇太子として清にも濁にも身を置かなくてはいけない自分としては、こういう存在は有難いわぁ)


 簡単に言えば、二人と居るのは心地良いのよ。


 「それは楽しみだな」


 私もつられて、心から笑った。




≪レナルド・マリオット≫


 「こ、今年の担任は僕、い、いえ、私になりました!よろしくお願いします、トラヴィス殿下」


 学園2年の時の新しい担任は、そう言って深々と頭を下げた。後ろで一つに縛った淡いオレンジ色の髪が揺れる。灰色の瞳に緊張の色が浮かんでいたが、それでも彼は人の良さそうな笑みを浮かべた。


 「こちらこそ、一年間宜しくお願いします」


 自分も対外仕様の顔で、しっかりと礼を返す。皇太子とは言え、もちろん目上の者に対する礼は欠かさないわ。だってそれはトラヴィス()の完全さの一つだもん。


 (レナルド・マリオット。唯一人の大人の攻略者、ね・・・ふふん)


 大人と言ってもまだ20才。学園を卒業後すぐに講師になった彼は、在学中の成績は神童と言われるほど優秀。ここまではゲームの設定通りね。色んな省庁からスカウトがあったそうだけど、何故か本人はこの学園に残る事を希望したらしいと。理由は「気が弱いから」と言う事だったみたいだけど・・・、


 (どうも、良く分からない人物なのよねぇ・・・)


 もちろん前世では、私は彼の事も攻略済みよ。あらゆるエンドもコンプリートした上で、彼のルートを思い出した感想は、


 (つまんなかったわぁ・・・)


 拍子抜けする程テンプレな恋愛物で終わってしまうのよ。


 マリオットのエンドは3つのパターンだったわ。


 その1、ヒロインと結ばれるハッピーエンド

 ヒロインがマリオットに告白したと思うと、突然卒業後の結婚式のエンドロール。もちろん3部には進めない。


 その2、ヒロインとは結ばれるが、隣国との戦争で引き裂かれる。

 ヒロインとマリオットはお互いの気持ちを確認するけど、マリオットは戦争に行ったきり行方不明に。ヒロインは悲しみに暮れるというイラストが表示されてたわね。だけどその後によくあるパターンで、マリオットがどこかで生きてる様なナレーションが差し込まれてたわ。


 その3、ヒロインが振られる。

 「ごめんね、君の事は生徒として見る事しか出来ない」と、ヒロインは振られてしまう。先生にへの恋心に終わりをつげ、前向きに頑張ろうと誓う。そんなほろ苦い終わり方。

 

 なんだけどぉ・・・、


 (問題はこの3番のエンドよ。これを巡っては、確かファンの中でかなり物議をかもしたわ)


 ヒロインの告白を断る時のイラスト。マリオットは申し訳なさそうに微笑んでいた。でもその後ヒロインが涙を拭きながら去って行くシーンで、何故か彼は自嘲するような皮肉な笑いを口に浮かべる。しかもかつて無い程の暗い瞳でね。終始優しくてお人好しと言われるマリオットには珍しい表情だったのよ。


 ファンサイトでは「本当はマリオットはヒロインが好きだけど、生徒と教師だから諦めたのよ」とか「彼しか知らない、二人を邪魔する障害が裏設定であるんじゃない?」「実は外面が良いだけの、腹黒教師」「お子様はお呼びじゃ無いのよ」など色んな意見が飛び交っていたっけ。


 前世の私の意見・・・というより願望としては、もちろん「外面腹黒教師」に1票よ。普通の男じゃ満足できない私は、マリオットにもぜひ美味しい「裏」や「闇」があって欲しかったもの。


 だから、アンファエルン学園で2年生になってからはずっ~と、期待を込めつつマリオット先生を観察したわ。3番エンドのイラストの時のような、素敵な顔が見られないかと思って、色々策も講じたし。(まぁ、私はヒロインじゃないから出来る事は限られてたけどぉ)


 でも、私の思惑はことごとく裏切られてしまった。どう見たって、彼は善良で優しく、すこしおっちょこちょいで抜けたところが可愛いという説明書通りの人物だったから。


 (あ~あ、がっかり・・・)


 勝手に期待して落胆するなんて、理不尽だって分かってるわ。でも、私(前世)は優しいだけの普通の男には心惹かれないのよ。だから急速に彼への興味を失っていったってわけ。


 でもね、担任としての彼は悪くなかったわ。学生時は神童と呼ばれたほどの先生だもん。私がどんな質問をしてもよどみなく答えてくれたし、熱心に教えてくれた。学園で1番人気の先生であるのも、不思議ではなかったわね。


 「1年間、ありがとうございました。先生が担任で良かったですよ」


 2年生が終わる時、私は自然に彼に礼をいう事が出来た。


 彼は照れくさそうに顔を赤くした。


 「殿下にそう言って頂けてうれしいです。僕も殿下の担任が出来たのは得難い経験でしたよ」


 「そうですか?・・・どんなところがでしょう?」


 少し突っ込んで聞いてみた。


 彼は恥ずかしそうに頭を掻きながら、


 「いやあ、勉学に関しては私も多少自信があったのですが、まだまだだという事を思い知りましたよ。殿下はさすが、この国の至宝と呼ばれるお方です。おかげで僕も、貴方に教えながら新たに学ぶ事が出来ました」


 と、人の良さそうな顔をほころばせた。


 「それは恐縮です」


 (まぁ、最強チート設定だからね、トラヴィス()は)


 さもありなんと思った時、マリオットは少し悪戯そうな表情で私を見た。


 「それに・・・たまに僕の事を試していたでしょう?」


 「えっ?」


 「違いますか?普通の質問に紛れて、結構、際どい事を聞かれていたと思ったのですが?」


 「バレてましたか・・・」


 私は思わず苦笑した。


 先生の「裏」を暴いてみたくて国家機密スレスレの質問をしたりしたのよね。どうやら彼には私の意図がバレてたみたい。ふふん成程、やっぱりマリオット先生は頭が良い。これはこれで、彼の善良なだけでは無いもう一つの顔と言って良いかもしれないわね。


 マリオットもつられたように笑いながら、


 「殿下とは今後も、色々と議論を交わしたいものです」


 (ん?)


 その時一瞬マリオットに、あの皮肉そうな笑みを見た気がした。


 (気のせい・・・か?)


 彼はいつもの優し気な笑顔で挨拶し、去って行った。


 (・・・ふうん、もしかしたら1年間如きじゃ、本性を暴ききれ無かっただけかも・・・?あっは、やっぱり『裏の顔』設定の方が面白いわ)


 皇太子トラヴィスとしては不謹慎な考えだけど、出来ればヒロインに彼の本当の顔を引き出して欲しいわね。


 心からそう願った。

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