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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第六章 悪役令嬢は利用されたくない
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支配される感情

 (リリーの想い人が他にいる以上、ディーン攻略ルートからは外れているんだよな・・・?)


 と言う事は、ゲームと同じならディーンとマーリンは、恋人エンドにまっしぐらなはずだ。ディーンはさっさと私との婚約を解消したいに違いない。


 (私の方が問題だらけで、こっちからは言い難くなっちゃったんだよなぁ。申し訳ないと言えばそうなんだけど・・・)


 ディーンは私をチラッと見て何か言いたげだったが、マーリンに腕を引っ張られると、トラヴィスに頭を下げて中庭から出て行った。マーリンはディーンの胸に頭を預けて、彼もそんな彼女を支える様に寄り添って歩いて行く。


 (へぇ~、肩なんか抱いちゃって、もうすっかり恋人同士みたいじゃん。仮にも婚約者の前でまぁ・・・)


 よくやるよ、と思いかけて愕然とする。


 (わ、私って、こんなに心の狭い人間だった!?これじゃ、まるで嫉妬に狂う悪役令嬢みたいじゃん!)


 体の温度がザっと下がった気がした。背中を嫌な汗が流れ落ちる。


 (あ、あ、あ、アリアナか!?私ってばアリアナに心を支配されかけてないか!?そ、それとも知らない内に、モーガン先生に精神魔術を・・・)


 「どうしたんだ!?アリアナ。顔色が悪く・・・ああ、身体も震えているじゃないか!当然だ。あんな酷い面にあったのだから」


 様子のおかしくなった私にすぐ気づいたのか、クラークは慌てて私を抱きかかえて立ち上がった。


 「い、いえ・・・あの・・・」


 大丈夫ですと言おうとしたが、クラークの言葉に遮られた。


 「ああ!服もびしょ濡れじゃ無いか!?このままでは風邪をひいてしまう!トラヴィス殿下!妹の具合が悪いようなので、寮に連れて帰りたいと思います。後で手伝いに戻りますから。ああ、学園医を呼ばなくては・・・」


 服が濡れてるのは貴方が水をぶっかけたせいでしょ?と思ったが、クラークはアリアナ溺愛過保護病が爆発すると、周りが全く見えなくなる。私も色々あり過ぎて、頭がオーバーヒート状態だったので、兄の暴走に乗っかる事にした。


 「お医者様は呼ばなくても大丈夫ですが、疲れたので帰りたいです。・・・トラヴィス殿下、お先に失礼して良いでしょうか・・・?」


 クラークに抱きあげられたまま、トラヴィスにそう言うと、彼の冷えた目と視線が合った。


 (ひえ・・・怒ってる?)


 「あーあ良いとも。さっきは色々・・・本当に色々あったから君も疲れただろう。クラーク、お前も今日はもう良いから帰りたまえ。だけど、アリアナ嬢・・・」


 トラヴィスは私に、にっこりと笑いかける。


 「明日の朝、私の執務室に()()に来るように。重要な話をしたいからね。ああ、授業は心配しなくて良いから。この様子じゃ明日は休校だろう。今日の出来事についてじっくりと二人で話し合おうじゃないか」


 喋りながら笑みの中に、じわじわと怒りを滲ませるという高等技を見せた。


 (こ、怖っ・・・)


 あ、明日なんて来なければいいのに・・・。


          ◇◇◇


 時は無情だった。


 次の日の朝、トラヴィスの言った通り学園は休校となった。ついでに無駄に天気は快晴。爽やかな風と木漏れ日のもとで小鳥が歌っている。そんな中、私は渋々執務室へと赴き、今に至ると言う訳だ。


 ちなみに隣の作業室にはクラークと、ついでにミリアとグローシアも居る。クラークは私を心配してトラヴィスとの『話し合い』に立ち会おうとしたが、


 「アリアナ嬢は、昨日の事件に関しては一番の当事者だからね。まずはシンプルに彼女の話を聞きたい」


 トラヴィスはやんわりと、かつ断固とした態度でクラークを執務室から追い出した。


 執務室には常にシールドが施されており、私達の会話は外には聞こえない様になっている。


 (ああ、クラークも一緒だったら良かったのになぁ・・・)


 でも他の人の前ではトラヴィスねーさんも、素を出せなくて疲れるのかもしれない。机に突っ伏しているねーさんを見て、ちょっと気の毒になって来た。


 「まぁ、そんなに落ち込まないで下さいよ。ほとんどの人は、信じて無いと思いますよ?それに、人の噂も75日って言うじゃ無いですか。その内、みんあ飽きますって」


 ねーさんは私をじろっと睨むと、恨みがましい顔を私に向けた。


 「あんたは、私が17年かけて築き上げてきたものを、一瞬で崩してくれたんだからね。あの後パーシヴァルも噂を聞いて、同志を見る様な生暖かい目で私を見て来たのよ?可愛い弟にまで誤解されるなんてもう最悪!でもあの子の事を考えたら強く否定も出来ないし、どうすれば良いのよ!?」


 パーシヴァルがそうなのはねーさんのせいだろうに、自分の性癖は知られたくないってのか?なんて我儘なんだ。


 「そういえば、パーシヴァル様ってあの時どうしてたんですか!?私達と一緒にカフェに居たはずなのに、姿が見えないので心配しましたよ?」


 「エメラインの暴走を私達に知らせに来てくれたのよ。私は先生方や省庁の人達と会議室にいたから。それこそエメラインの事やモーガン先生の処遇について話し合ってた最中だったの。パーシヴァルったら会議中だってのにノックもせずに飛び込んできて、あんたが危ないから助けに来てくれって言ったのよ?」


 「えっ!?そうだったのですか!?」


 驚いた・・・。パーシヴァルの事は、根は良い奴だとは思っていたが、私の為にそんなに動いてくれるとは思わなかった。


 (ディーンかトラヴィスの為なら分かるんだけどさ・・・)


 「意外?」


 そう問われて、私は素直に頷いた。


 「はい、私は嫌われてると思ってましたから。いつも意地悪言われたり、揶揄われたりしてますし・・・」


 「ふふん。意外とあんたの事は気に言ってるみたいよ。それに、あの子は私に似て、本当はとっても優しい子だから」


 (そうなの?)


 パーシヴァルに気に入られる様な事を、した覚えはない。


 (最初は天敵みたいに嫌われてた気がするけど・・・)


 おまけに私は彼の想い人であるディーンと、未だに絶賛婚約中なのだ。それでも仲間達といる内に、少しは友達になれたって事なのだろうか?だったら私も嬉しい。


 「お二人が優しいかどうかはともかく、似なくて良い所は似てしまいましたよねぇ・・・」


 「だから、私はゲイじゃ無いって!」


 トラヴィスは再び突っ伏して机をどんどん叩いた。こうなると皇太子の威厳は微塵も感じられない。


 「勿体ないなぁ・・・」


 思わず口に出てしまう。すると、


 トントン


 遠慮がちに扉をノックする音が聞こえた。


 「入りたまえ」


 (え?今、扉を開けられて大丈夫!?)


 こんな情けない皇太子の姿を見られたら、アウトでしょ?


 だけど私のそんな心配は杞憂だった。


 私がほんの一瞬だけ扉に視線を移した後、トラヴィスはすっかり普段の皇太子に戻っていた。それどころか、いつの間にか机の上には書類や仕事道具が出ており、何やら厳しい顔で吟味しているではないか。


 (ま、マジか・・・変わり身が早過ぎでしょ)


 「殿下、魔術省の方がお見えです。」


 扉を開けたクラークがトラヴィスにそう告げた。


 「入って貰ってくれ」


 クラークの後ろから30代前半ぐらいの男性が入ってきた。宮廷魔術師の制服を着ているが、結構良いしつらえなので、そこそこ位の高い人かもしれない。


 「殿下、私をお呼びと聞きましたので参上いたしました」


 柔らかい声で、トラヴィスねーさんに挨拶する。


 (おっと、じゃあ私との話は終わりか)


 そう思って、礼をして出て行こうとしたら、


 「アリアナ嬢には残っていて貰いたい。むしろここからが本題だからな。クラーク、気になるならお前も立ち会え」


 (本題?)


 なんだ、それ?


 扉を押さえたまま心配そうに私を見ていたクラークに、トラヴィスは入るよう促した。クラークは慌てて一礼して、執務室に入るとドアを閉めた。


 トラヴィスは立ち上がると机を回り、魔術省から来たという男性に目礼した。


 「忙しい所をわざわざ学園まで来て貰い申し訳ない、ヘルダー卿。貴方に視て貰いたい者が居るのだ」


 「ほう、私の『目』が必要と言う事ですかな?」


 「ああ、ここにいるアリアナ嬢を視て貰いたいのだ」


 (んんん!?どういう事?)


 訝しく思う私とクラークに、トラヴィスが説明を始めた。


 「紹介しよう。こちらは魔法省に努めているヘルダー伯爵だ。魔法省の副長官で、各種魔力や魔術に精通している。それに何よりも卿の特筆すべき点は、優れた『目』の能力を持っている事だ」


 (め?芽?・・・あっ、『目』の事か!)


 人の魔力量や属性を見る能力を持つ人の事だ。


 (しかも、副長官ってめっちゃくちゃ偉い人じゃん!)


 「モルイック・ヘルダーと申します」


 ヘルダー伯爵は私と兄に優雅な仕草で礼をした。温和そうな方で、『目』の能力者と言う割には糸の様に細い目をしている。どうやら能力と目の大きさは関係無いようだ。


 「クラーク・コールリッジです。こちらは妹のアリアナです」


 クラークの紹介に、私は膝を曲げた。


 「アリアナ・コールリッジです」


 貴族の令嬢らしく、きっちりと礼をした。先生以外の大人の偉い人に会うのは久しぶりなので少し緊張してしまう。


 でも、どうして私がこの人に視て貰わなくてはいけないんだろう?だって、私は魔力はゼロなのだ。だから属性だって関係ない。


 (まさか、私の中の『アリアナ』を見ようってんじゃ・・・)


 思わずトラヴィスの方を振り返る。この身体に私とアリアナがいる事は、二人だけの秘密なのに。正直、クラークもいるこの場で、知られるのはマズいんじゃないか?


 (それに、どうしよう・・・また精神が混じってるとか言われたら、マジでへこみそうだよ・・・)


 だって、最近の私は少しおかしい。ディーンとマーリンに批判的過ぎる気がするのだ。もしやアリアナの感情に引きずられてやしないだろうか・・・。そう思うと、とても怖い。


 けれどトラヴィスの目的はそれでは無かった。


 「アリアナ嬢をヘルダー卿に見て貰おうと思ったのは、闇の魔術師ライナス・イーサン・ベルフォートが現れた時の現象について、調べて貰いたいと思ったからだ」


 (ん?)


 現象って、何の?


 ピンと来ない私に代わって、クラークが何故か警戒するように、トラヴィスに問いかけた?


 「・・・どういう事でしょうか・・・?」 


 「私達がイーサンの魔力の重圧を受けていた時、アリアナ嬢だけは全く影響を受けていなかった。その理由を知りたいと思ったのだよ」

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