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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第六章 悪役令嬢は利用されたくない
124/218

足りない分

 マジで言ってるのだろうか?イーサンなら、本気でエメラインの命を奪ってしまいそうでゾッとした。


 (いかんな・・・こいつを相手にするには、もっと慎重にしないと・・・)


 気を引き締めながら、反論する。


 「チビは余計だよ。・・・王女を殺したら隣国と戦争になるよ。そうなるとトラヴィス殿下も、戦いに身を置かなきゃいけなくなる。もっと危険だと思わない?」


 イーサンと私は数秒、無言でにらみ合った。無表情に私を見つめるイーサンからの威圧感、殺気のような凄みを感じ背中がゾクリと震える。


 (なるほど・・・魔力の圧は感じないけど、これは神経削られる)


 重く、暗いオーラに冷や汗が止まらず、正直逃げたい気分だったが、


 「そ、それにさ・・・」


 声を出すと、喉が干上がったようにカラカラになっていたが、気力を振り絞る。


 「ちょ、ちょっとでも良い事してさ。ら、来世の為に徳でも積んどいたら?」


 内心びびってるせいで、舌が回らない・・・くそっ!


 だけど、そう言った私にイーサンは驚いたように目を丸めた。


 「・・・どうして・・・」


 ぼそりと一言そう呟き、そして意外にも彼は先に目を逸らした。


 (おっと・・・)


 その途端、身体が前にふらついた。それだけ彼の視線の威力が強かったと言う事か。


 イーサンはそんな私をチラリと見ながらエメラインに近寄ると、彼女の頭に手を近づけた。


 しばらくすると、直接触れてはいないのに、エメラインが顔を歪め、苦痛から逃れる様に頭を振り始めた。構わずイーサンが手をかざし続けると、彼女の額にかかった彼の手の影が、突然意思を持った生き物のように蠢き始めた。その異様さに私達は息を飲む。

 

 そしてエメラインの額でのたうつ様に動く影は、突然鎌首をもたげたかの如く浮き上がり、イーサンの手に噛みつく様に飛び掛かった。だが、イーサンはそれをいとも簡単にそのまま素手でつかみ取った。


 「・・・ふん」


 つまらなそうに彼はその手の中のモノを見る。まるで真っ黒い蛇のような小動物が、イーサンの手から逃れようと暴れている様に見えた。


 (う、うえ~、気持ち悪っ)


 何でか分かんないが、見ているだけで気分が悪くなってくる。醜悪で猥雑な何か。トラヴィスがイーサンの横へ近づいて、彼の手の中の物を確認する。


 「それは・・・?」


 流石のトラヴィスも、嫌悪の表情を隠せないようだ。


 「悪意の塊だな。これがこの女に巣くってた精神魔術だ」


 イーサンはそう言うと、何の感情も見せずその黒いモノを握りつぶした。それは、イーサンの手の中で溶ける様に地面に滴り落ち、そしてそのまま何も無かったように消えていった。


 「ま、魔術が消えたの?」


 「ああ」


 「そっか・・・助かった。ありがと!」


 ホッとして息を吐きながらそう言った私に、イーサンは振り帰り、真正面から私を見た。


 「神様にでもなったつもりか・・・と、以前にも言われた事がある。」


 「ん、そうなの?」


 (だったらその時にちゃんと直しなさいな。その性格)


 「そいつはこうも言った。来世の為に善い行いをしろと・・・」


 (おっ、やっぱり同じ事思う人がいたんだ。イーサンの性格は色々問題多しだからねぇ)


  納得して頷いている私に、イーサンは近づいてくる。


 「生まれ変わったらか・・・」


 「ん?何?」


 呟いた声は小さすぎて聞こえなかった。でもなんだか辛そうな声だったから、怪訝に思って彼を見上げた。そんな私を見下ろすイーサンの目が、泣き出しそうなくらい切なげで・・・。そんな彼を見たことが無かったから、私は少し油断してしまったのだ。


 イーサンは突然、両手を広げてガバッと私に抱きついてきた。


 「ぐえっ!」


 「おいっ!」


 「貴様っ!何をする!」


 「イ、イーサン様!?」


 セリフは順に、私、ディーン、クラーク、トラヴィスである。


 だけど私以外の3人は、どうやら身体が動かない様だ。イーサンが何かしたのか!?


 「ちょ、ちょっと離してよ!あんた、何のつもりよ!?」


 暴れて離れようとする私をものともせず、いつものニヤニヤ笑いを浮かべると、


 「いいか、アリアナ。今回の事は『貸し』だ」


 「げっ・・・馬鹿!そんなのコレでチャラだよ!」


 「あっはは・・・」


 ひとしきり普通の少年の顔で笑ってから、


 「じゃあ、足りない分を貰う」


 そっと私の頭の後ろに手を添えると、私のおでこに口づけをしたのだ。


 (う、うぎゃ~~~~~~~!!!)


 たっぷり3秒。


 トラヴィスねーさんの目が魚の様にまん丸く見開き、私を見てる。怖い・・・


 私は腕を振り上げた。


 「こ、このエロガキが~!」


 思いっきり殴ってやろうとしたが、イーサンは素早く身を離し、私の拳は空しく空を泳ぐ。


 「またな、アリアナ。せいぜい皇太子を守ってやるんだな」


 そう言って口の端で笑い、空気に溶ける様に、あっという間に消えてしまった。


 唖然とはこの事だ。


 (おい!?)


 そして後に残されたのは・・・


 焼け焦げて半壊したカフェ


 未だイーサンの魔力圧とやらで死屍累々と倒れてる者達


 ぐったりと白目をむいて失神しているエメライン


 魔力切れで起き上がれないクリフ(やたらと艶めかしい)


 青い顔で、魂が抜けた様なディーンとクラーク、


 笑みを浮かべているのに、殺意の籠った眼差しを私に向けるトラヴィス・・・


 いったいこれをどう処理しろと!?


 (あ・・・いっそ気絶したいかも・・・)


 雲一つない真っ青な空に、からかう様に小鳥が飛び立っていった。

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