モーガン先生の思惑
現在のマーリンがディーンとリリー以外の人を寄せ付けないのも、モーガン先生の精神魔術のせいかもしれない。
(もしかしたらディーンとリリーも精神魔術で操ろうと思ってるか?・・・ううん、二人の魔力はモーガン先生よりも強いはず。だから先生の精神魔術は通用しないはずなんだけど)
そこまで考えて、少し怖くなった。モーガン先生は一体何者なのだろう?私もトラヴィスねーさんも知らない登場人物。だとしたら・・・
(闇の組織の幹部?それだったら有り得るかも)
3部は聖女であるヒロインと、闇の組織との戦いになるって聞いた事がある。
(だとしてもモーガン先生の狙いは一体何?今までの行動だけで判断すれば、リリーとディーンを私達と引き離そうとしてるように見える。でも、ディーンとは生徒会で会えるわけだし・・・)
そこで、ふと思い出した。
―――お前が目立つからだ。
イーサンが私に放った言葉。
(ふ、ふっふっふ・・・)
思い出して、不思議と笑いが込み上げる。
(・・・モーガン先生の狙いはマジで私なのか?聖女候補のリリーは私の親友。そして攻略者達・・・ディーンは一応、私の婚約者。皇太子トラヴィスは同志で、クリフ友人でライバルだ。それに何故かイーサンもまとわりついてくる。ふ~ん、マーリンを利用して、私に揺さぶりをかけてるって事?・・・モーガン先生って馬鹿なの?なんてくだらない・・・)
最初はダンスパーティで、女生徒達からの私への断罪。あの子達だって精神魔術で操られたせいで、とんだとばっちりを受けたのだ。それにノエルにだって、私に告白などと言う恥ずかしい目にあわされた。あれ以来、彼は全く私と顔を合わせようとしない。グローシアだって狙われていた。このままではミリア達や、クリフやクラークだってターゲットにされかねない。
一番可哀そうなのはマーリンだ。彼女は本来ならヒロインの親友として、もっと楽しい学園生活を送っているはずなんだ。それなのにモーガン先生に利用されて、クラスの皆から避けられて・・・
(アリアナはねぇ、モブなんだよモブ!皆は優しいから私と友達で居てくれてるだけなんだよ。私が目立つのは、周りが煌びやかなだけで、私が持ってるのは家柄とそこそこ整った容姿と、ガリベンで維持してる成績だけ。要は悪目立ちしてるだけなんだ!私を狙ったところで、何にも無いって言うのに・・・あいつのせいで・・・あいつが私に興味なんか持つから)
私は怒りの余り、テーブルをバンっと叩いていた。
「それもこれも上から下まで、ついでに右から左まで、全部、ぜ~んぶ、イーサンのせいだ!」
「ど、どうされたのですか!?アリアナ様。」
うっかり感情を声に出してしまい、そんな私に皆は驚いた顔を向ける。
(あ・・・)
しまった・・・。
「すみません・・・ちょっとイーサンの事を思い出してしまいました・・・」
(ううう・・・恥ずかしい)
「ライナス・イーサン・ベルフォートですか・・・。確かに、彼の存在は不気味ですね。闇の魔術は光の魔力が無いと対抗できませんし、彼の目的も良く分かりませんし・・・」
ミリアが腕を組んで、眉間に皺を寄せる。良かった。私の奇行は取り合えず素通りして、いい具合に話が進んでく。
「アリアナ様に妙に絡んでくるのも気がかりですしねぇ・・・やっぱり闇の組織に指示されてるのではないでしょうか?」
いや、それは違う。イーサンは闇の組織と関係はあるが、属している訳ではない。嫌な奴だけど、イーサンが嘘をついていない事は分かっていた。彼も闇の組織を嫌っている。厭いながら黙認しているのだ。
「それは無いと思いますよ。イーサンの能力は闇の組織の手に余ります。あいつは闇の組織に弱み握られて、手を貸してるだけの馬鹿なのです」
苦々しくそう言うと、皆は呆気に取られた様子で私の方を見つめた。沈黙が続く。
「な、なんですか?」
(あれっ?私、そんなに変な事言った?)
戸惑っていると、ミリアが慌てた様に手を振った。
「い、いえ・・・アリアナ様がイーサンを普通の人間の様に言うので・・・。彼は伝説級の闇の魔力の持ち主ですから、私などは怖くて仕方ないというか・・・」
それを聞いて、ジョーが珍しくため息をつきながら気弱そうな声を出す。
「私だってそうよ・・・。前にアリアナ様がさらわれた時一度対峙したじゃない?悔しいけど、ディーン様とクラーク様のシールドに守ってもらうだけで、手も足も出なかったもん。リリーの光魔術が無かったらどうなっていたことか・・・」
「そんなに凄い奴なのか?」
訝し気に聞くクリフに、ミリアが両手を広げて首をふった。
「凄いなんて言葉じゃ言い表せませんわ。あんなの、ほぼ怪物よ。あの魔力の強さときたら・・・あの場に居るだけで、身体が震えて・・・。そう言えばクリフ様はあの時いませんでしたものね。多分、ある程度の能力がある者でしたら、近くにいるだけで分かりますわ。魔力量の圧だけで押しつぶされそうでしたもの」
「・・・そうなのか」
そう言えばあの時、クリフは自分の領に戻ってたんだっけ。
それにしても、やっぱりイーサンの魔力は強いんだ。設定でもゲーム内最大級って書いてたもんなぁ。でも魔力量の圧って何?イーサンとは3回会ったけど、そんなもん感じた事無いぞ。やっぱり私が魔力ゼロだから、感知する能力も無いってことなのかな?
(どこまいってもモブだな私は、うん)
そんな風に思っていると、突然クリフとミリアがビクッと身体を震わせ立ち上がった。
「伏せろっ!」
クリフが叫びながら、両手を前に出した。と同時にミリアが私を庇う様に抱きついてくる。
(え?)
ドガッ!ガガンッ!!
鈍い爆発音が響き、考える間もなく私達の周りは、突然大きなな炎に包まれた。