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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第六章 悪役令嬢は利用されたくない
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新しい噂

 鬱々した気分で教室に戻ると、ちょうど授業が終わった所だった。クラスメート達は、それぞれ仲の良いグループで昼食に向かおうとしている。


 「あ、アリアナ様!」


 ミリアが目ざとく私を見つけて、駆け寄ってきた。


 「先生のご用事は終わったのですか?なかなか戻られないので心配しましたわ」


 「お昼ご飯を食べ損ねちゃったら大変だもんね~」


 ジョーが後ろから、ミリアの肩に両手をまわしながら、私に笑いかけた。レティシアとクリフも集まって来る。


 「今日は良いお天気ですから、中庭のカフェに行きませんか?」


 「良いね。席が無くなる前に早く行こう」


 みんな、私が授業中に呼ばれた理由は聞いて来ない。


 (あ~、ホッとする・・・)


 多分、私が落ち込んでいるのを察してくれているのだろう。その上で何も聞かずに気遣ってくれているのが分かる。問題は山積みのままだけど、さっきまでのモヤモヤした気分が溶けていった。


 「ええ、そうしましょう!え~っと、リリーとディーン様は・・・?」


 私がそう言うと、微妙な表情でミリアは、教室の出口に方へ顔を向けた。


 「二人は・・・」


 そこにはリリーとディーンが、笑顔でマーリンと話している姿があった。


 (あ~なるほど・・・)


 少し前に私は、皆にマーリンと仲良くしてくれる様に頼んだ事があった。


 それでミリア達も、渋々マーリンに何度も話しかけた事があったのだが、彼女はリリーとディーン以外の人には心を開こうとしなかったのだ。


 マーリンが大嫌いな『アリアナ』の友達なのだから、警戒されるのは当たり前かもしれない。人の懐に入り込むのが大得意な、あのパーシヴァルですらマーリンには通用しなかったのだから・・・。


 (でも、ディーンとリリーとは普通に話すんだよなぁ)


 ディーンはマーリンの昔からの幼馴染で、多分初恋の人だ。リリーに関しては、ゲームでは親友ポジションだったのだから、その辺が影響しているのかもしれない。


 だから結局、ディーンとリリーの二人だけがマーリンのそばに居る。他のクラスメート含め、その他の人がマーリンに近寄った所で、塩対応をされるのが落ちなのだ。やっぱり初日の騒動の時、誰も味方をしてくれなかった事が尾を引いてるのだろうか?


 ぼんやり談笑する3人を眺めていたら、マーリンと話していたディーンがふと顔を上げ、私と目が合う。その瞬間、彼は顔を赤らめると、恥ずかしそうに視線を逸らした。


 (な、何なのさ、その反応は!?)


 イケメンが乙女の様に恥じらうのは、ぞくぞくするではないか!


 (きっと、さっきの執務室での事を思い出したんだね?トラヴィスに揶揄われた事が、相当尾がをひいてそうだなぁ)


 でもまぁ、人の事は言えない。トラヴィスの手の平の上で転がされるのは、私の方が多いのだから・・・。


 昼食の場所が決まったのだろうか、マーリンとディーンは教室を出て行き、リリーも後に続いたが、なんとリリーは出口で私に向かって、微笑みながら手を振ってくれるではないか!


 (あああ・・・ヒロインが尊い!)


 締まりのない顔でブンブン手を振り返していると、クリフが私の肩をポンっと叩いた。


 「さぁ、俺達も早く行こう」


 「そうですね。お昼休みは短いですし・・・って!」


 私はクリフの後ろにパーシヴァルが付いてきているのを見て、ギョッとした。


 「え?パーシヴァル殿下、何でここに!?」


 私が驚いたのは、彼がディーンと別行動をしていたからだ。


 パーシヴァルがディーンと一緒にいないのは珍しい。私達と居る時も、マーリンと居る時も、他の誰かといる時だって、必ずパーシヴァルはディーンの傍にいたのに・・・。


 「今日は君達と一緒に食事に行こうと思う。悪い?」


 拗ねたような物言いが、彼には珍しい。


 「別に悪くは無いですが・・・良いのですか?ディーン様にくっついてなくて」


 「・・・あの女といるディーンは見たくない」


 (え・・・?)


 ボソッと私にだけ聞こえる小さな声でそう言うと、パーシヴァルは「さぁ、昼御飯だ!」と、いつもの人好きする笑顔を浮かべて、クリフと肩を組んで歩き始めた。


       ◇◇◇


 「実はまた、色々と無責任な噂がたっていまして・・・。」


 カフェでのランチの後、そのままお茶を飲み始めた時に、ミリアが言いにくそうに口を開いた。


 「くだらない内容で、不愉快にさせてしまうと思うのですが、きっとそのうちアリアナ様のお耳にも入って来ると思いますし・・・。問題にもなりそうなのでお知らせしておきます」


 「今度はどういうパターン?」


 「皆様、本当に暇ですわね~」


 ジョーはアイスを口に放り込みつつ、そしてレテイも呆れたように溜息をつきながらそう言った。


 私も自分絡みの噂は、今までも色々流れていたから、今更どう言われてもなぁという感はある。


 (でもジョーとレティが知らないって事は、最新の噂って事か)


 ミリアはどういうツテがあるのか、顔が広く、かなりの情報通なのだ。


 「ミリア、教えてくれる?内容によっては、対処しなくちゃいけないから」


 「はい、まず一つ目なんですが・・・ディーン様とマーリンが恋仲であるというものです。これは最近休み時間を一緒に過ごされる事が多いので、仕方ないかとも思うのですが・・・」


 やっぱ、そうなるか。


 (想定内だな。あんだけマーリンがディーンと一緒にいれば、そんな噂も立つよねぇ)


 だけど、ジョージアが首を傾げた。


 「ランチはリリーも一緒に行ってるじゃない?どうしてディーン様とマーリンだけ噂になるわけ?」


 するとミリアは苦々しそうに顔をしかめた。


 「マーリンの態度があからさまなのよ!まるでディーン様の恋人のように振舞ってるらしいわ。それを許してるディーン様もディーン様ですけどね!見かねて、たまにリリーがたしなめているそうよ。アリアナ様!これは、性急に対処された方が良いですわっ!」


 「えっ、別に良いですけど、放っておいても」


 「ええっ!?」


 あっさりと言った私に、全員が驚きの顔を向けた。だけど、プンスカ怒っているミリアには悪いが、本当にそう思うのだ。


 「マーリンさんはディーン様と幼馴染らしいですし、私がいなければ、二人が婚約していてもおかしくなかったとか?だから二人がそうしたいなら、それで良いんじゃないかと・・・」


 そこまで言って思い出した。


(いんや、駄目だった!とりあえず、ディーンとの婚約は継続しておかなくちゃいけないんだったっけ。・・・くっそー、色々身動き取れない上に面倒くさい!トラヴィスの事が無ければ、ディーンとマーリンを祝福しながら、綺麗に婚約解消出来るって言うのに)


 私が途中で黙り込んだのをどう解釈したのか、レティが心配そうな顔で私の手を握る。


 「ア、アリアナ様!ディーン様が本当にお好きなのは、もちろん婚約者であるアリアナ様ですわ。マーリンが勝手にディーン様の優しさに、つけ込んでるだけですからね」


 「えっ?あ、うん。・・・あ、ありがと」


 どう返したらいいか分からず、とりあえず礼を言う。それにしても、みんな、すっかりマーリンの事を呼び捨てにしてる。今までのマーリンの態度に腹が立ってるのだろう。 


 「・・・レティシア嬢の言う通りだ」


 突然、食事中ほとんど黙っていたパーシヴァルが、彼にしては棘のある口調でそう言った。


 「ほんとに鬱陶しい女だよ・・・。ディーンはアイツが独りぼっちなのに同情しているだけなのに、何かって言うと『何々した事を覚えてる?』とか、『一緒に何々したわよね』だの、昔の話を持ち出しては、ディーンの気を引こうとするんだ。ディーンと幼馴染なのは、奴だけじゃ無いって言うのにさっ。僕だって昔からディーンと一緒にいたんだ!おまけにディーンにベタベタと触りやがって、まるで痴女だよ!」


 パーシヴァルの剣幕に、全員、呆気に取られてしまった。よっぽど腹に据えかねていたのだろう、いつもの外面の良さが完全に消えてしまっている。マーリンの呼び方なんて、女→アイツ→奴、最後には痴女ときたもんだ。


 「お、落ち着いてください。パーシヴァル殿下」


 慌てて彼をなだめてみる。これ以上興奮すると、ディーンへのBLがバレてしまうぞ?


 「マーリンさんのディーン様への態度は、もしかしたらモーガン先生の精神魔術の影響かもしれませんよ?リリーの話ではマーリンさんはまだ、モーガン先生と接触があるみたいですから」


 例のモーガン先生主催の『淑女クラブ』もまだ続いている。密かに調査員が入っている筈だけど、なかなか尻尾がつかめない様だ。モーガン先生が闇の組織と繋がっているというイーサンからの情報も伝えてはいるのだが、調査が進展しているのかが分からない。モブ令嬢などには、詳しい情報は伝わってこないのだ。


 (トラヴィスに聞いておけば良かったなぁ)


 でも、あの狸ねーさんだって、はっきり教えてくれるかどうかは分からない。あの人はあけすけな様で、心の底は読み切れない所がある。


 「リリーの聖魔術を使えば、精神魔術を浄化できるのですよね?」


 レティがおずおずとそう問うと、ミリアは親指の爪を噛みながら答えた。


 「今はモーガン先生を警戒させない為に、まだ聖魔術での浄化は行ってないそうよ。まずは証拠を掴まないといけないんだって聞いたわ。でもそれにしたって、何をぐずぐずしているのかしら!?このままじゃ、精神魔術の被害者が増えるだけだわ!」


 (エメライン王女のゴタゴタで、隣国とも対応しなくちゃいけないから、皇国の省庁もてんやわんやなんだろうなぁ。トラヴィスも忙しそうだったし)


 モーガン先生が闇の組織と繋がっていると分かった以上、調査は慎重に行わないといけない。きちんと黒幕までたどり着かないと、トカゲの尻尾切りで終わってしまう。

 それに精神魔術の調査は難しい。調査員だって相手より魔力が低かったら、精神魔術の被害に遭いかねないのだから。


 「ねぇねぇ、マーリンがまだ精神魔術下にあるとしたら、リリーとディーン様に危険は無いわけ?」


 ジョーの言葉にドキッとする。


 (・・・うかつ・・・気付いてなかった・・・)


 なまじゲームの中での、マーリンと二人の関係を知っていたもんだから、その発想が浮かばなかった。


(確かにマーリンは、不自然な程リリーとディーン以外の人間と関わらない様にしている・・・。ディーンはともかく、リリーとは今年になってから出会ったはず。いくら同じ聖女候補で、ゲームではリリーとは親友だったとはいえ、極端すぎるか・・・)


 それにゲームのマーリンは、明るくて誰とでも分け隔てなく友達になれる子だった。今の彼女にその面影は全く無い。それが何だか不気味で、私の中の不安が増していった、

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