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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第六章 悪役令嬢は利用されたくない
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ヒロインの立ち位置

 指摘されると急に恥ずかしくなり、顔が熱くなった。


 「っ!」


 ディーンは息を飲んで、急いで私の身体に回していた腕を外し、数歩後ずさった。彼の顔も、耳まで真っ赤に染まっている。


 (こ、これは気まずい・・・)


 ばつが悪い。居たたまれない。とにかく恥ずかしい!


 (トラヴィスってば、いきなり何てこと言うのよ!ディーンは思春期だよ。もっと言い方を考えなよ!)


 しかもその本人は、皇太子らしからぬ下世話な顔でニヤニヤ笑っている。


 (おい、アラサーOLがだだ洩れだよ!)


 ゲームのトラヴィスは、そんな下品な顔しない!そう注意してやりたかった。辛うじてディーンが見ていない事だけが幸いだった。


 ディーンは恥ずかしそうに片手で口元を押さえ、顔を伏せながら、


 「・・・すみません、殿下。自分の思い違いだったようです・・・」


 姿勢を正して頭を深く下げた。


 「気にするな。それより休み時間にわざわざ執務室に来るには、何か用があったのではないのか?」


 トラヴィスがそう聞くと、ディーンは頭を上げようとした途中で、ビクッと身体を震わせた。


 「・・・すみません・・・その・・・」


 トラヴィスはまた、ニヤニヤ笑って、


 「もしかして私がアリアナを呼んだ事を聞いて、心配になったのか?」


 「え・・・?」


 私は思わずディーンの方を見る。ディーンは黙ったまま、まだ顔を上げない。


 (まさか・・・ほんとにそうなの?)


 なんだか、じわじわと胸の奥に温かさが生まれる。・・・これもアリアナの感情だろうか?


 「・・・授業があるので、失礼します」


 ディーンは頭を下げたまま、早回しの様なスピードでくるっと回れ右をすると、執務室を出て行った。その時間およそ0.8秒。バタンと勢いよく閉められた扉の音の響きだけが、室内に残された。



 「・・・ぶっ・・・くく・・・あーはっはっはっは・・・。あのディーンの顔ったら。見た?茹で蛸って、このことよね。」


 膝を叩きながら、トラヴィスが馬鹿笑いする。


 「あんまり笑ったら気の毒ですよ。・・・殿下は私達をからかい過ぎです」


 「だってぇ、あんた達があんまり可愛いんだもん。ディーンてば、あんたが何処に連れて行かれたのか心配で仕方なくて、きっとわざわざ先生に聞き出してここに来たのよ」


 「そりゃ今はモーガン先生の事や、エメライン王女の事がありますからね。友達だから心配してくれたんです。ディーンは優しいし、義理堅い性格ですから」


 「友達ねぇ・・・。その割には独占欲丸出しで、嫉妬の炎がメラメラだった気がするけど?」


 「まさか!私はアリアナですよ。ディーンがアリアナに対して、そんな感情持つはず無いです」


 そうだ。変な勘違いをしない方が良い。リリーと恋仲にならなくても、ディーンにはマーリンが居るのだから・・・。


 「相変わらずねぇ、あんたって。あのディーンが私に敵意を見せる程、感情を露わにしていたのに、どうして分からないんだか・・・。あれで、気付かないのなら、やっぱりあんたどっか欠けてる・・・」


 「お話が終わったのでしたら、私も授業に戻ります」


 殿下の話を途中で遮るなんて、とても不敬な事だとは分かっていたけど、これ以上そんな話は聞きたくなかった。


 私は椅子を壁際に戻そうと、背もたれを持つ。そんな私を見ながら、トラヴィスは呆れたように溜息をついた。


 「はいはい、もう言いません。だから、もう少し待って頂戴」


 「まだ、何かあるのですか?」


 「エメラインの話よりも大事な事がね」


 (これ以上何があるの!?)


 「もしかしてモーガン先生の事ですか?」


 「関係してるけど、それじゃない」


 トラヴィスは目線で腰かける様に私を促した。さっきの事くらい長くなる話があるのだろうか?


 疑問を抱きつつ、私は再び椅子に座った。トラヴィスは行儀悪く、机に腰を乗せたままだ。


 「多分、あんたも薄々気付いているとは思うんだけどさ。私とアリアナという存在によって、この世界はゲームとは違う歴史を作りつつあると思うの」


 トラヴィスはねーさんの口調だが、顔は真剣だ。


 「確かにそうですね。私は悪役にならない様にしましたし、パーシヴァル殿下の性格なんかは、それはもう激しく変わりましたしね」


 若干嫌みを混ぜつつ、言葉を続けた。


 「クリフは皇太子を暗殺しようとはしなかったし、エメラインはリリーとぶつかる事無く学園を去って行く・・・。まぁ、私は結構イジメられましたけどね」


 私はイジメに対しては、メンタルは鋼だが、肉体的にはきつかった。だけどリリーを庇う事が出来たと思えば、胸を張ってドヤ顔したい。


 するとトラヴィスは我が意を得たりと言う感じで、膝を打った。


 「そこよ!」


 「どこですか?」


 「場所じゃ無い!私が言いたいのは、エメラインがあんたをターゲットにしたって事。・・・い~い?この世界はヒロインに対して起こすイベントを、リリーじゃ無くてあんたに対して発生させてるのよ」


 「は?」


 「つまり、これは・・・この世界はね、リリーじゃなくて、あんたをヒロインだと認識してるって事なのよ!」


 最初、トラヴィスがまた私をからかおうと思って、とんでもない冗談を言い始めたのかと思った。けれど彼の表情は真剣そのもので、本気でそう思っているようだ。


 「え?は?何を言ってるんですか!?リリーは聖女候補で、私は悪役令嬢ですよ。んなわけないでしょう!」


 また、このねーさんは、何を突飛な事を考え始めたんだ!?


 「エメラインが私を狙ったのは、殿下がそう仕向けたからだって、さっき仰ってたじゃないですか。何度も言いますが、アリアナですよ?私は。悪役で、しかも1部で消えるモブキャラなんです。殿下もゲームをやり込んでるなら良くご存知でしょ?それともアリアナは、私の知らない3部で復活して、活躍したりするんですか?」


 それでロリコンと結婚回避できるのなら、ぜひそうであって欲しいけど?


 「残念ながら、ゲームの3部でアリアナを見た事は無いわね・・・って、いや、だから論点はそこじゃ無いのよ。・・・さっきも言ったように、この世界はゲームのストーリーから、大きく逸れて来てるのは、あんただって認めるでしょ?」


 「ええ・・・まぁ」


 「で、思い出して欲しいのよ。まずはこの前に起きた、『廃寮に監禁』事件。これは本来ヒロインのイベントだけど、実際閉じ込められたのは?」


 「・・・私ですけど、これは殿下のせい・・・」


 「そうだけど、イベント自体はあんたが中心だったでしょうが!」


 「・・・そうですけど・・・」


 なんだか納得がいかない。だって、リリーを庇いたくてエメラインのターゲットになってたんだもん。そりゃ、攻撃対象は私になるのは当たり前なんじゃないだろうか。


 「それから、ダンスパーティの時の、『女生徒達に囲まれていびられる』ってやつ。ゲームでも、ヒロインが女生徒達に絡まれるイベントがあったの覚えてない?」


(ん・・・?)


 そう言われてみれば、ディーン攻略ルート以外では、そういうシーンもあったような気もする・・・。


 「でも、私の場合はモーガン先生の精神魔法の仕業ですし・・・、それにアリアナの断罪イベントが、捻じ曲がって、ああいう形になったんだと思いませんか?」


 「確かに、ゲームの断罪イベントにも関係してると思うわよ。でもね、女生徒達に囲まれて意地悪されるのって、どうみてもヒロインの立ち位置よね?それにゲームでもこの世界でも、原因は攻略者と仲良くしている者に対する嫉妬よ」


 「・・・別に、そうとは限らないと思いますけど・・・」


 納得していない私に対し、トラヴィスはなおも続ける。


 「アリアナが1年の時のピクニックの話も聞いたわ。馬車に轢かれそうになった所をクリフに助けられたんだって?その上、湖にも落ちて、今度はディーンに助けられたらしいわね。これも本来なら、ヒロインの為のイベントよね?」


 「たまたまです!両方ともリリーと一緒に居た時だったので、私は巻き込まれただけです」


 確かにあの時は、どうしてヒロインが遭うはずだった事故を、肩代わりしてるのか不思議だったけど・・・


 「・・・よく考えたら、トラブル系のイベントにばかり、巻き込まれてるような・・・。どうしてでしょう?やっぱり私のデフォルトが悪役だからでしょうか!?」


 ヒロインを虐める様なキャラだ。この世界に嫌われててもおかしくない。


 焦った私に、トラヴィスは呆れた顔で、声を大きくした。


 「そうじゃないでしょ!あんたは今、悪役やって無いって、自分でも言ってたじゃないの!それに本当にトラブルばっかりだった?ゲームと内容は違っていたかもしれないけど、胸キュンイベントだって、あったんじゃ無いの?」


 「む、胸キュン?」


 あったっけ?そんなの・・・。攻略者達が格好良すぎて、一方的にどきどきしたり、にやにやした事はあるけど・・・


 「あっ!リリーになら、しょっちゅうキュンキュンしてます!」


 そう言った私に、トラヴィスは目を向いて怒鳴りだした。


 「ちょっともう!この恋愛音痴がっ!リリーの事は一旦忘れて、周りのイケメン達を思い出しなさい!私があんたを、ヒロインだと思ったのはねぇ、ゲームの攻略対象者の過半数があんたに好意、もしくは関心を持ってるからなのよ。一番の理由はそれなの!」


 彼の余りの剣幕に、私は仰け反ってしまった。


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