恋愛なんて分からない
(ぐっ、急に『皇太子トラヴィス』戻った・・・)
真面目な顔で、真っすぐ目を見られてドギマギしてしまう。トパーズ色の瞳が星のまたたきのようで・・・、
(顔がめっちゃ良い!)
メイン攻略者、恐るべし・・・。中身がアレなのに、見た目で脳が騙されそうだ。
私は頭を振って、余計な考えを振り飛ばした。
「す、好きな人なんて居ないです。それに恋愛を楽しむなどと言う気は無いですよ。とにかく私はロリコンさえ回避できれば良いんです!」
「へぇ、勿体ないね。君はこんなにも愛らしいのに」
微笑みながら、そう言われて、頭の温度が一気に上がる。
「う・・・あ・・・」
恐らく真っ赤になって言葉が出せないで居ると、トラヴィスが「ぶっ」と吹出した。
「あっはっは・・・やっぱりそうかぁ。男慣れしてないわね、あんたって。くっくっく・・・」
そう言って、けらけら笑っている。私は別の意味で頭の温度が上がった。
「・・・からかわないでくれませんか、トラヴィス殿下」
我ながらドスの利いた声が出た。でも思いっきり睨んだも関らず、トラヴィスはケロッとしている。
「からかってるつもりは無いけどね。でも慣れてないのはホントでしょ?だから前世でも彼氏出来なかったんじゃない?」
「う・・・悔しいけど否定はできないです。でも彼氏が出来なかった一番の理由は、忙しくて恋愛などする暇が無かったからです。それに・・・特に誰も、そう言う意味で好きになった人がいなかったから・・・」
前の世界でも、中学、高校、大学と素敵な人はいた。けれどイケメンだな、良い人だな、優しいなって思っても、別にそれが恋愛感情に繋がる事は無かったのだ。
「毎日勉強して、働いて、勉強して、ゲームして、勉強したら、一日終わってましたし・・・」
「・・・勉強多すぎない?でもさぁ、乙女ゲームをやってたって事は、カッコいい男の子が嫌いな訳ではないわよねぇ?」
「嫌いどころか大好きですよ!イケメンは目の保養です!心の癒しです!国の宝です!」
思わず拳を握りながら、力説してしまう。
「分かった、分かった!うん、イケメン好きなのは、よーく分かった。だったらさ、ここでは、あんた、イケメンに周りを囲まれてる状態よ?『誰かと恋人同士になりたいわっ』とか思わないわけ?」
「・・・?・・・思わないですねぇ・・・」
トラヴィスはポカンと口を開けて、呆れたように首を振った。
「何でよ?勿体ない!普通の女の子なら、この状況に狂喜乱舞よ?それに、あんただって相当可愛いし、家柄も良い。頭も良くって性格だって悪くない。望めば誰だって落とせそうなのに・・・。イケメン好きなくせに恋人いらないなんて、どっか欠けてるわよ?」
めちゃくちゃ褒められたのに最後でドッと落とされた。
◇◇◇
(欠けてるなんて失礼な・・・そんな事・・・前の世界の時から自分で気付いてるし・・・)
私は自室のベッドで熱に浮かされながら、胸がちりちりと痛んだ。
(だって、恋愛感情がどんなものなのか・・・私には本当に分からないんだもん・・・)
今も昔も。
だから乙女ゲームにのめり込んだ。攻略者達と悩みながらも楽しい恋愛をし、成長していくヒロインが、尊くて可愛くて大好きだった。
そして・・・無様で歪んでいても、執念深くても・・・。そして例えそれが憎悪に変わったとしても、ずっと相手に『恋』をしてるアリアナやエメラインが羨ましかった・・・。
(だから、睡眠時間を削ってでも、ゲームを止められなかったのかな?・・・馬鹿だなぁ私は・・・)
夢の中、別の日にトラヴィスと話した事が再現される。トラヴィスは何かと私に仕事以外の事を話しかけてくるのだ。それが時々うっとおしい・・・
「ねぇ、あんた。クラークは兄弟だから仕方ないけど、ディーンとクリフの事はどう思ってんの?」
「どうって、二人は友達ですよ?」
「じゃあ、私とパーシヴァルは?」
(はぁ?何言っての、この人は)
「トラヴィス殿下は・・・ご無礼で無ければ・・・同士ですかね?パーシヴァルは・・・」
そこで私は思い出した。
(そうだ!パーシヴァルの事、聞き忘れてた!)
「殿下!パーシヴァルはいったい、どうしちゃってるんですか!?おかしいです!ゲームよりチャラくないし、・・・そ、それに彼は・・」
(ど、どうしよう?これ、言っていいのか?)
パーシヴァルがディーンを好きって事、誰にも言わないって約束した。でも、よりによって攻略者が道ならぬ恋に走ってるなんて、とんでも無い異常事態だ。