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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第六章 悪役令嬢は利用されたくない
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思い出

 少し驚いたけど、ディーンの手が冷たくて気持ちいい。


 (何で・・・)


 すると彼は眉間にしわを寄せると「熱い」と言って、クラークを振り向いた。


 「熱があります。早く寮に連れ帰った方が良いです」


 (ん?)


 「ええっ!?」


 兄は顔色を変えると、私をガバッと抱き上げた。


 「ちょ、ちょっと、お兄様!?」


 「急いで帰ろう!ディーンは医者を呼んでくれ!クリフ、すまないがグローシアを送ってくれたまえ!殿下、失礼しますっ!」


 と叫びながら、私を抱きかかえたまま猛ダッシュを始めた。


 (う、うわ!揺すられると、頭が余計にガンガンする・・・)


 でも、そうか・・・、頭が痛くて怠かったのは、熱があったからなのか。


 (凄いなディーン。自分でも分からなかったのに、気づいてくれたんだ・・・)


 そんな魔術あったっけ?と、考えてみるがボーっとして頭がまとまらない。


 (あんな冷える場所で、何時間も座っていたからなぁ・・・)


 兄に運ばれながら私はいつの間にか、沈み込むように眠ってしまった。



 結局その後、私は4日間も学園を休んでしまった。


 (弱い・・弱すぎるよ。アリアナって虚弱かよ・・・)


 そんな設定あったっけ?説明書の中のアリアナの人物紹介は、モブだけあってかなり薄味だったが、裏設定があったのかもしれない。


 前も湖に落ちた時に直ぐ熱を出した。それに何だかんだで体調崩して、学園を休むことが多い。


 (アリアナになる前は、風邪一つ引いた事無かったのにな・・・)


 ベッドの中で、熱のせいでぼーっとする頭に浮かぶのは、トラヴィスとこれまでに交わした会話だった。


 トラヴィスの執務室は特別なシールドが張られているので、中の会話は外に漏れない。ドアもノックをしないと開かなくなってるそうだ。ちなみに私の机は、トラヴィスの机と直角の向きに、ドアの近くに置かれている。


 彼(彼女?)は前世では、かなりやり手の経営コンサルタントだったらしい。トラヴィスは話をしながら、執務室の机で腕を組んで腹立たしそうな顔をしていたっけ・・・



 「前世でもそうだったけど、こっちの世界でもさぁ、男の方が仕事ができるって風潮があるじゃない!?女は家で子育てしてろみたいな」


 「まぁそうですね。・・・むしろこっちの世界の方が、その傾向が強いかもですね」


 「いーや!あっちも酷かった!私が仕事出来るからって、妬んで嫌がらせしてくる奴とか、若い女ってだけで馬鹿にする奴もいたんだから。その上セクハラ、パワハラ、モラハラ!もう大変だったのよぉ!」


 思い出すだけで、キーってなるわっ!と、机を叩いてぷりぷりしている。


 「そ、そうですか・・・」


 (それにしても、あっち、こっちって、ややこしいなぁ)


 トラヴィスの勢いは止まらない。


 「そうよ!だからあっちに居た時、すっごい頑張って大きな仕事を成功させてやったのよ。さすがにその時は、周りも私の実力を認めざるを得なくなったわけ。もうサイコーの気分だったわ!・・・でもさ・・・その祝勝会で飲み過ぎちゃってさ。帰り道で事故に遭って、このざま。美人薄命ってほんとよねぇ・・・」


 トラヴィスは頬に手を当てて、悲しそうに首を振った。


 「な、なるほど・・・」


 (美人だったかどうかは知らんけどね)


 「結婚もしないで、転生しちゃったから、ちょっと心残りなのよね・・・」


 トラヴィスは、切なそうに溜息をついた。


 「ああ、では、恋人がいたんですね?」


 「ん?」


 私の問いに、彼はニッコリと笑った。そのまま私をジッと見つめる。  


 (・・・なんで質問にその返し?)


 「いや、結婚する様な彼氏さんがいたんじゃ・・・」


 「ん?」


 心なしか笑った顔が怖い・・・。この話にはこれ以上触れない方が良さそうだ。


 「あ、あのう・・・仕事頑張ってたのに、残念でしたね」


 「そうね・・・。でもね!だからこそ、こっちの世界では女性も男性も、対等に仕事出来るように尽力するつもりよ!私にしか出来ないと思ってるわ」


 (おお!)


 「それは素晴らしいです!私も将来働いて自立したいと思ってますので、何卒、良しなに・・・」


 お主も悪よのう、と言われそうなくらい揉み手をしながら、私はトラヴィスを讃えた。正直、小判の包みぐらい渡したい気持ちだ。トラヴィスもまんざらでもない顔をしている。


 「だから、生まれ変わったのがトラヴィスでラッキーだったわぁ。この皇太子という身分には、とっても満足してるのよ。前世では経験できないような大きな箱で、自分の能力が試せるんですもの」


 トラヴィスは指を組んだ上に顎を乗せて、ニヤッと笑った。


 (箱ってもしかして、この皇国の事!?言い方、怖っ・・・)


 でも国を良くしようと考えてるのなら、悪くない。変な博打をしなければだけど・・・


 「試してみたい事が色々あるのよねぇ。ちょっと、大勝負的な事も考えててさぁ・・・うふふふふふ・・・」


 (おい、滅茶苦茶悪い顔して笑ってるぞ!?・・・駄目だ、こいつは博打師だ!)


 マジで怖くなったので、念を押した。 


 「頼みますから、皇国に危機を招く様な事だけは、しないで下さいね!」


 「分かってるわよぉ」


 語尾に花マークが付きそうなくらい能天気な声に、私の不安は増す。そんな中、トラヴィスは突然話を変えた。


 「そう言えば、あんたはどうだったの!?」


 「へっ?」


 「前世よ。何やってたの?」


 「あ、ああ、私はただの学生ですよ」


 「えっ!中学生?それともまさか、小学生とか・・・?」


 (こいつ、絶対見た目で判断してるじゃん・・・)


 私はちょっとムッとした顔で言い返した。


 「大学生です!一応、国立の良い所に行ってたんですからね」


 「あらそうなの?じゃ、私と同じ20代か」


 トラヴィスは目を輝かせた。


 「いえ、ぎり10代です」


 「なんだ、そうなの」


 あからさまに、がっかりした顔をする。なんだその反応は?


 でもトラヴィスは直ぐに興味深々そうな目をして、


「じゃあ、大学生活を大いに楽しんでいたわけだ。それこそ、あんたにも彼氏とか居たんじゃ無いのぉ?やーい、ディーンに言ってやろう」


 とニヤニヤと、やらしい目で見てきた。一体何を考えてるんだ、この人は。


「残念ながら、そんなもん居ませんでしたよ。それに生活を楽しむ余裕もありませんでしたねぇ・・・」


 「あら、つまんない子ね。どうしてよ?」


 「生活費を稼がなくてはいけませんでしたから。それに奨学金を貰っていたので、成績維持に勉強は必須でしたし」


 トラヴィスの顔が、幾分真面目になった。


 「もしかして苦学生だったの?」


 「そんな感じです」


 「よく、乙女ゲームなんかする暇あったわね?」


 「睡眠時間、削ってました」


 そう言うと、トラヴィスの顔があからさまに曇った。


 「まぁ私も休みの前日とかは、徹夜したりはしてたけどね・・・。良くないわよ、睡眠不足は。健康にもお肌にも。でもあんたの場合、倒れないと分からないタイプっぽいわよねぇ・・・」


 「元気でしたよ?風邪ひいた事も無かったし」


 「そういう人に限って、突然ってのがあるのよ!・・・案外それなんじゃ無いの?ここに居る原因は。とにかく今はアリアナなんだから、絶対に無理しちゃだめよ!」


 なんだかんだ言って、トラヴィスは優しいねーさんなのだ。


(トラヴィスと話していると、昔の事を良く思い出すなぁ・・・。アリアナになってからはロリコン回避に必死で、ゲームの内容ばかり考えてたけど)


 私にも、前の世界で生きていた思い出がちゃんとあるのだ。だけど、一年経った今では、まるで夢の中の世界だったように思えて・・・何だか少し寂しくなった。

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