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九 沙樹からのSOS

「そう言えば、西田さんだけど……」

「沙樹がどうしたって?」

「いや、こんな嵐の日にひとりで放っておいていいのかなって思ってさ。仕事も終わったんだ。電話の一本でも入れたらどうだ? なんならSkypeを使ってもいいんだぜ」

「別にいいよ」


 ワタルの返事は素っ気ないどころか、

「心配なら、哲哉がかければいいさ」

 とまでいう。

「わかってないなあ。それがおまえの欠点なんだぞ。おれじゃ、ワタルの代わりにはならないんだぜ。元クラスメートと恋人じゃ、ぜったいに恋人の方がいいに決まって……」

 と、そのとき。哲哉の言葉は、突然鳴りはじめた着メロにさえぎられた。


「日付も変わろうという時刻なのに……だれだ?」

 さっき送ったたたき台についての意見が入るとはない。

 訝しげに思いながら、哲哉はスマートフォンを手にして番号を確認した。


 そこには、「西田」と表示されている。


「まさに、うわさをすれば、だぜ。でも西田さん、なんでおれンとこにかけてくるんだ?」

 哲哉は首をかしげながら電話に出た。


「……え? ワタルとまちがえた? なんだ、あいかわらずドジだな……ああ、いるよ。今かわる」

 哲哉は苦笑しながら、ワタルに自分のスマートフォンを差し出す。


「沙樹から?」

「なんかあわててるみたいだぜ。おれにかけてくるくらいだから」

 ワタルが受けとろうとした、まさにそのときだった。


『いやーっ!』


 電話のむこうで、沙樹の悲鳴が響いた。

「沙樹、どうした? 何があったんだ!」

 スマートフォンをひったくり、ワタルが沙樹に呼びかける。だがすでに電話は切れていて、むこうのようすを伺うことはできない。

「沙樹……」

 ワタルの表情がこわばる。

 何が起こったのか。確認しようにも、何度電話をかけても沙樹は出ない。

 突然の事態に、哲哉たちの間に緊張の糸が張りつめた。

「とにかく西田さんちに行こうぜ。あれはまちがいなくSOSの電話だ」

「行くならおれの部屋だ。沙樹は今夜、うちに来てCS番組を見るっていってたから」

「ワタルのところ? それなら防犯システムは完璧のはずだろ」

 だが人間の作った機械だ。どこに欠陥があるかわからない。人間の手で破れないとは断言できないものだ。

 哲哉は不意に、つい先ほど自分で考えたシナリオが的中したような、嫌な気持ちに襲われた。

「ひょっとして……さっきの停電で防犯システムが止まったのかもしれないぜ。そのすきに熱狂的なワタルファンが部屋におしかけ、西田さんをみつけて……えっ、逆上したってことか?」

 哲哉のつぶやきはワタルに聞こえていたらしく、真っ青な顔に変化する。

「沙樹を助けに行かないと!」

 叫んだワタルは、あわてて部屋を飛び出そうとする。が、哲哉が腕をつかみ、ワタルの行動をひきとめた。

「放せよ! 邪魔する気か?」

「そんなつもりはないさ。でも少しは落ち着いたらどうだ?」

「これが落ち着いていられるか!」

 多少のことで冷静さを欠くようなワタルではない。だが今のワタルはそうではなかった。沙樹が絡むと、いつもの冷静なリーダーの姿は消え、無謀な行動をとりそうになる。

「気持ちはわかる。でもそんなふうに頭に血が上った状態で、台風の中を運転するのは危険だぜ」

「でも——」

「心配するなって。おれが代わりに運転してやるよ。それよりもワタルは弘樹に連絡してくれ」

 哲哉宅からワタルのマンションまでは車で三十分ほどかかる。だが弘樹の住居からなら約十五分の距離だ。台風がきて大変なときだが、彼なら快くひきうけてくれるだろう。

「わかった。じゃあ、たのむ」

 返事をしながらワタルは弘樹に連絡を入れ、事情を話す。そしてすぐに駆けつけると返事をもらった。

「さて、いくぞ!」

 ふたりは取る物も取り敢えず、マンションをあとにした。



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