表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか処女懐胎して婚約破棄されました  作者: 村雨 霖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/49

第十二話 西への旅立ち

「これから陛下に調査結果を報告し、エストリールに入国する旨を伝えてくる。あなたは一度、自宅に戻った方がいい」


「嫌です」


魔導士団のローブを羽織りかけたアロイス様は目を見開き、こちらを振り返った。ここまで彼の言うことを、何でも素直に聞いてきた私が、突然反抗したのに驚いた様子だ。


「御令嬢、これは観光ではない。あなたを危険な目に遭わせる訳には行かない」


「ですが、本人(・・)が一緒に行きたいと言っているのです」


敢えて、わざとらしくお腹をさすりながら、訴えた。

……一拍の間が空く。



「馬鹿な……!? その子が!?」



最強の魔導士が鳩に豆鉄砲を喰らった顔、というのを、私は生まれて初めて見た。


「それは、夢でお告げがあったとか、その類の話か?」


「いえ、たった今、本人から直接聞きました」


「だったら……私にも、話をさせてくれるか?」


彼が差し出した右手に、私の左手を載せる。アロイス様はしばらく目を閉じたまま、沈黙した。目蓋を開いた彼の口から、驚嘆の声が漏れる。


「間違いない、本当だ……交霊の儀を使わなくても、声が届く」


「私、この子の望みを叶えたいんです。お願いですから、一緒に連れて行ってください」


しばらく頭を抱えていたアロイス様は、何かを吹っ切ったように答えた。


「分かった……この子なら、ちょっとやそっとの事で、どうにかなったりは、しないだろう。ただし、危険と思われる場所には、絶対に近付かないこと。それだけは守ってほしい」


よかった、これで彼を一人送り出さずに済む。そう思っているとアロイス様が言葉を続けた。


「だが、あなたが同行するとなると、国王陛下以外にも、許可を得ねばならない人がいる」


言われてハッと気付く。そうだ、私の両親にも、西へ越境することを知らせなければ。だが……許してくれるだろうか?




***




「家を出て少ししか経ってないのに、何だか久しぶりだわ……」


二日振りのローデント邸。私が馬車から顔を出し、帰宅を告げると、門番はすんなり門扉を開けてくれた。


馬車を正面玄関に横付け、アロイス様のエスコートで表に出る。私の顔を見た守衛の一人が急いで中の者に話をすると、さほど間を空けず、両親が揃って玄関から出てきた。


「ユリエル、お帰りなさい! もう帰ってきていいの? さあ、早くこちらへ」

「団長殿、娘は……いや、まずは中へどうぞ」


素直に喜ぶ母と、多少の戸惑いを見せる父。そんな二人に迎えられ、私達は屋敷に足を踏み入れた。





私を送り出した日と同じ応接室で、四人、お茶を飲む。私の好きなベルガモットの香りがする。


「団長殿、娘の処遇は、どのようになったのでしょうか……?」


ためらいがちに父が尋ねた。


「まだ調査の協力を願っている最中です。本日は、それとは別のお願いがあり、やって参りました」


アロイス様が答えながら目配せをしたのを見て、私は両親に言った。


「お父様、お母様、これから私達は、西の隣国エストリールに向かいます」


「何ですって!」


いち早く声を上げたのは、お母様だった。


「西はダメよ、西は……あああ……」


立ち上がりかけたが、眩暈を起こしたように、再びソファに座り込む。父が肩に手を添え、母を支えた。


「あの日、あの日ね、私は一人で教会に行って、祈っていたの。あなたが身籠ったのも、婚約破棄も、全てが間違いでありますようにって……」


ふらつく頭を手で支えながら、お母様は話を続ける。


「祈りを終えて帰る時、エストリールの民族服を着た商人が、妙な薬の瓶を渡してきて、それをあなたに飲ませるように言われて……怪しいと思って拒絶したら、そこから意識が無くなって……私は、私は……」


「催眠効果のある呪いです。あの時に解いておいたので、ご安心を」


アロイス様が答えた。


「逆流星が流れた時、陛下や宰相と相談し、まず、魔法の素養がある者が多い貴族に、呪いがかからぬよう、精霊の加護を授けたのですが……お二人は会場にいなかったので、間に合いませんでした。申し訳ありません」


「いや、こちらこそ妻を救っていただき、感謝します。ですが、娘を西に行かせるのは……」


「もちろん、ご両親が心配するのは分かります。ただ、本人が……」


「お父様、お母様、私、絶対に西に行きます! この子の父親かもしれない人がいるの。いずれ修道院に入る身だけど、この子の身元だけはハッキリさせておきたいんです」


それを聞くなり、母が身を起こした。


「何を言ってるの!? あなたを修道院になんか、絶対入れるものですか!


その子はうちで大切に育てます。後継は甥に決まってしまったから、跡は継がせられないけれど……将来も生活に困らないように、きちんと取り計らうわ。恥も外聞もあるものですか。娘の子、私達の孫、ローデントの血を受け継いだ、その事実に間違いはないもの」


お母様の隣で、静かに頷くお父様。

目頭が熱くなってきた。両親は無償の愛で、私を子供ごと受け入れてくれたのだ。それだけで嬉しい。だけど……


「お母様、ありがとう……でも、私は西へ行きます。これは私にとって、(みそぎ)なのです。そうしなければ、私は一歩も前に進めません。どうしても知りたいのです。この子の父親が誰なのか」


両親はしばらくの無言の後、言葉を発した。


「わかった……」


「でも、決して無理したらダメよ。辛くなったら、いつでも帰ってくるのよ」


普段は口答えなどしない、大人しい私の決意の固さに、両親は折れてくれた。感謝と申し訳なさで、胸が一杯になる。


話を終え、館を出て馬車に乗り込む。見送る両親に


「きっと、無事に戻るから……」


それだけを告げて、私達は侯爵邸を去った。

読んでくださって、ありがとうございます。もしよろしければ、初心者なので今後の参考のために、星での評価を頂けると嬉しいです。もちろん、おもしろくなければ星一つで大丈夫です。お手間をかけてすみませんが、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここしれっと怪しいよね 隣国の邪教集団の手で子供を孕んだのならそれを手に入れたいはずなのに、危険な目に合わせてる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ