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【第十五話】放課後

 小春がサッカー部の5[#「5」は縦中横]番、牧原からお誘いを受けてから数日が経ったが、特に何も変わったことはなく。相変わらず家の前に待ってるし着いてくるし。でも教室で積極的に話しかけられることはなくなった。

 中間試験も清水さんのノートのおかげで無事に乗り切れたし最終日は午前中に解放されたので、清水さんを遊びに誘った。そして駅前のショッピングモールで小春と牧原を見かけたので思わず隠れてしまった。

「如月君?」                                     それを不思議に思ったのか清水さんは僕の方を見たがちょっと遅かったようで、向こうに見つかってしまった。小春は手に持っていた洋服を畳んで展示台に戻してこちらにやってくる。牧原も何事かといった感じで後ろを付いてきた。

「おす。隼人もデート?」

「まぁ、そんな感じだ。そっちもか?」

「さぁ、どうでしょう」

 どうでしょうって。後ろにいる牧原君が困ってるぞ。僕と小春を交互に見ている。

「こっちはデートだな。特になにをするわけでもないけど」

「そう、なんだ」

 少し残念そうな反応は少しだけわざとらしく聞こえた。僕にバイアスが掛かっているからなのかな。

「牧原君、久しぶり。桜さんとお出かけかしら」

 清水さんが牧原に挨拶をした。牧原は自分の名前を覚えていたのか、といったような顔で、居心地の悪そうな返事をして来た。どうやら牧原から小春を誘って遊びに来ているようだ。

「邪魔しちゃ悪いから僕たちは行くよ」

 その場所に居ると小春のペースに持って行かれるような気がしたので早々に立ち去ろうとしたが小春はそれを許さなかった。

「ダブルデート、しようよ」

 それでいいのか牧原君。といった顔でそっちを見たけどもすぐに目線を逸らされて仕舞ったので恐らくは嫌なのだろう。しかし小春はこういうとき引かない性格のは分かっているので、仕方ないといった感じを前面に押し出して了承をした。余計にこじれるよりはマシだ。

「じゃあ、まずはお昼!サイゼに行きます!」

 有無を言わせずに先に進む小春。僕たちも仕方ないといった感じで後に続く。ホント何なんだ。

「小春と牧原って付き合ってるのか?」

 もう聞いた方が早いとドリンクバーのジュースをすすりながらストレートに聞いてみる。ここで付き合ってると返答があるのが一番わかり易い話になるのだが。

「いや、まだそんな……」

 牧原君が先に答える。この分だとアレか。告白したけど返事は保留。そんなところかな。

「小春はなんでオーケー出さないんだ?」

 ピザが届いたので、カッターで切りながら分かりきった事を敢えて出してみる。

「私は……」

 小春はパスタをぐるぐる巻きながら言葉を選んでいる。恐らくは他に男が出来たら僕が嫉妬心を抱くとでも思っている。そんなところだろう。だとしたら牧原と付き合う事を選択するはずだ。そうなればこっちも大手を振って交際出来るってものだ。

「やっぱり隼人が好き」

 おいおい、牧原君、めっちゃ落胆してるぞ。

「でも、私を好きって言ってくれる人がいるから、少しずつなら忘れられるのかも知れない」

 牧原の顔に血色が戻っていく。良かったな牧原君。

「じゃあ、お友達から始めてみればいいじゃん」

「そうする」

 やけに素直なのが逆に怖いけども、そうやって僕を卒業してくれる方がこっちにとっては好都合だ。僕はなにも介せずと言った感じでピザをかじる。清水さんはちょっと居心地が悪そうだけども、ここは僕が介在する方が良いだろう。

「清水さんは隼人のことが好きなの?」

 そっちに水を振るか。まぁ、当然の答えが返ってくるだろう。そう思っていたら予想外の答えが返ってきた。

「好き……だけど、桜さんが如月君の心にいる限りは本当に好きって言えないかも知れない」

 的を得た返事に今度は僕が面食らう事になった。確かに僕の中にはまだ小春がいる。それを完全に消すのはかなり難しい。何しろ幼なじみだ。ここは言葉を間違えてはならない。次の僕の言葉で信用を勝ち取ることが出来るのかが勝負だ。目の前に居る人をいきなりもう心の中にいませんなんて言っても信用を得られるわけがない。かと言って「そうだな」と言えば清水さんの「好き」を勝ち取ることは出来ない。僕は手に取ったピザをお皿に置いてからこう言った。「小春は幼なじみだし、ご近所さんだし完全に心から消し去ることは難しいかも知れないけど、心の向く方向を変えることなら出来る」

 そう。心の中から消し去るのは無理でも、ベクトルを変換することは可能だ。

「だから。今の僕の心は清水さんを向いているよ」

「そう来たか」

 小春は自分が思っていた回答と違うものが来たといった感じで小エビをフォークで刺している。牧原君は完全に置いてけぼりになってる気がするけどいいのかそれで。

「分かった。今日のところは勘弁してあげる」

 牧原君の立場は?なんて思っていたらちゃんと「それじゃお友達から始めましょう」とフォローが入った。牧原君、前途多難だな。

 結局、その日はサイゼを出てから別々の行動になった訳で。再び出会うのを嫌って僕は清水さんの家に行っても良いか聞いてみた。

「いいけども。知っての通りなにも無いわよ?」

「別になにをするわけでもないからいいよ」

 なので、その後、小春と牧原君がどうなったのか僕らは知らない。

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