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【第十四話】駆け引き

 昨日の出来事があった後、僕は清水さんの家に行った。そして正式に復縁させて欲しいと言われた。僕が了承をしたら氷の少女様は再び溶けて、ありったけの笑顔を僕に向け、抱きついてからわんわんと泣いた。                               その時和彦の「俺のオススメは伊達じゃない」の意味が分かった気がした。決して諦めない。そんな女の子なんだ。

 

 翌朝。当然のように家の前で小春は待っていた。

「隼人ー。おはよう‼」

「あんなことがあったのにお気楽だな」

「だって。私、諦めてないもん」

「はぁ……正直な話、小春のところに戻る予定はこれっぽっちもないぞ。策を労するような取引をするやつのこと信用できるかよ」

「それはそれ、これはこれ。悪かったって思ってるよ?でも私の想いは本物だから」

「はいはい。そーですか」

 桜並木を抜けるまであの手この手で僕との会話を続けようとする。

「お。やってんなー」                                「和彦、このこと知ってたのか」

「なーんとなくな。だってさ、桜がお前のこと手放すとは思わなかったしな。何らかの策を労するようなことはしてると思ってたよ。でもあれだろ?氷の少女様はそんなことなかっただろ?」                                        「まぁ、そうだけど」                                「だから氷川も被害者なんだぜ?」

「そういうことになるな。そりゃ他に好きな人が出来てもおかしくないっての」      「桜のこと、嫌いになったか?」

「今のところはな。最悪だ」                              昇降口のところで氷川とも会って同じようなことを言われたので「氷川はそれで良いのか?」って聞いてみたけども、「僕のせいで事が荒立ってるんだから被害者とは思ってないよ」とだけ言われた。

 教室に入るとすぐに清水さんが僕のところにやってきて、今日のノートを渡してくれた。これ見よがしに「はい、ノート」と声を上げて。クラスの連中は氷の少女様が声を……、なんて言っているのが聞こえたが、僕はそれに自然と接して受け取った。と思ったら今度は小春が僕の席の前に座ってにんまり笑っている。                        「なんだよ」

「すき」                                     

「なんなんだよ。マジで」

「だから好きっていってるのよ」

「みんな見てるんだから止めろよそういうの」

「やだ」                                       隣の席のやつが何事かとこっちを見ている。「おまえらなにやってんの?」多分そんなことを言いたいのだろう。それはこっちも言いたい。

 放課後の図書室にも小春は付いてきた。僕は清水さんと小春に挟まれて座ることになる。端から見たらモテモテの男子にしか見えないだろう。

「小春、勉強の邪魔なんだが」

「私だって勉強してるだけじゃん」

「なんで隣に座るんだよ」

「どこに座ったっていいじゃん」

「はぁ……もう好きにしろよ」

「好きにする」

 それからというもの、毎日のように僕に付いてくる小春。流石にちょっと気に触る。かと言って面と向かって言うのも何なのでメッセージを送る

 『小春、ちょっといいか』

 『なに?』

 『こんなことをしてて本当に僕が小春の方を向くと思ってるのか?』

 『思ってない。でもなにもしないとなにも起きない』

 『じゃあ、僕が迷惑だって言ったらどうする?』

 既読が付いた後に少し間が開いた。

 『迷惑って思われたくない』

 『じゃあ、ちょっと控えてくれると嬉しいかな』

 ここで素直に止めろと言えれば良かったのだが、その辺はなんというかちょっと言い過ぎなのかなとか思って言えなかった。

 翌朝、小春は家の前に待ってはいたものの、僕の後を付いてくるだけで、横に並ぶことはしなくなった。途中、和彦と会って状況を聞かれたので素直に答えた。

「なんか青春してんなー。と。サッカー部の5[#「5」は縦中横]番ってお前知ってるか?」

 サッカー部の5[#「5」は縦中横]番。確か清水さんに告白してきたとか言っていた人だ。

「聞いたことがあるくらいだな。それがどうしたんだ?」

「いや、昨日な、そいつから。あー、牧原昇ってやつなんだけど桜を紹介してくれないかって言われてさ。紹介していいか?」

「なんで僕の許可が必要なのさ。状況知ってるだろ?」

「まぁ、一応な。了解。それじゃ紹介するわ」

 和彦はそう言って歩を緩めて後ろにいた小春に話しかけている。小春がどんな反応をするのか少々気になったが、小春がどうしようともう僕には関係ない。そう言い聞かせないといけない自分が居ることに気が付いて気持ちの弱さを感じたりもした。

                                           『牧原君に呼び出された』

 『そうか』

 昼休み前に小春からメッセージが飛んできた。恐らくは告白でも受けるのかデートのお誘いってところだろう。止めて欲しくてこんなメッセージを飛ばしてきたのか。まぁ、そうだろうな。小春を見て軽くため息をついたところで清水さんが僕の席に来て「一緒にお昼を食べましょう」と言ってきた。隣の席のやつはいつも学食に行ってる様だったので椅子を拝借して僕の席で一緒に食べることにしたのだが、予想通りクラスがざわついているのが分かる。

「じゃ、行ってくる」

 教室を出る前に僕にそう言ってから手をヒラヒラさせて来たので、反射的に僕も手を上げた。「桜さん、何かあったの?」

「ああ、この前清水さんが言ってたサッカー部の5[#「5」は縦中横]番いただろ?そいつに呼び出されたらしいんだよね。あっちはあっちでくっついてくれると助かるんだけどな」

「そうね。でも桜さんが諦めるとは思えないのだけれど」

 そうだよなぁ。弁当をつつきながらそう軽く呟く。

                                           『デートのお誘いだった』

 『そうか。受けたのか?』                             「桜さん?」 

「そう。デートのお誘いを受けたらしい。まだそこまでしかメッセージ飛んできてないから分からない。そのまま受けてくれるとこっちとしては助かるんだけどな。あの好き好き攻勢がなくなるし」

「そうね。あれはこっちから見ていても、あまり良い気分ではなかったから……」

 しばらくしてお昼が終わる頃に教室に小春が戻ってきたので結果を確認しようとしたけど、こっちから話しかけるのはちょっと違う気がして上げかけた手を下げた。顔を見た限りでは普段の小春で判断をどうしたのかは分からない。でもこっちから確認するのはなんか悔しい。

「それで桜さんからの連絡はあったの?」

 放課後の図書館で清水さんに聞かれた。

「いや、なにも。でもこっちから声を掛けるのはなんか違うと思ってさ。確認してない。ところでさ、そのサッカー部の5[#「5」は縦中横]番、何だっけな牧原だっけな。どんなやつなんだ?」

「いきなり告白を受けたからよく分からないのだけれど、そういうことが出来る人って位しか分からないわ。でもキッパリと断ったからその後なにか言われることもなかったわ」

 まぁ、氷の少女様にいきなり告白をするんだ。それなりの胆力があるに違いない。

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