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【第十二話】謎かけ

 翌日の放課後。その日も朝から小春は僕を待っていた。そして、昨日と同じように無言で僕の後を付いてくる。授業のノートは相変わらず貸してもらっていたけども、全く頭に入ってこなかった。

 ほんの数日前まで夏の日差しを保っていた太陽は徐々にその力を無くして秋の気配がやってくる。夕方になって吹く風が今日は少し温度が低く感じた。

 

「小春」                                       僕はブランコに座る小春を後ろから呼んだ。僕の後ろには清水さんも居る。

「隼人……」

 小春はブランコを降りてこちらにやってこようとしたのを僕は制止する。

「そのまま聞いてほしい」

「わかった」

 僕は大きく深呼吸をしてから言葉を選び始めた。清水さんが早くと言うように僕のシャツを摘まんで引っ張る。

「小春。僕はどうすれば小春を助けることが出来る?」

 清水さんに振られたから、やり直そう。そう言えば終わりのこのやりとり。でも僕は自分から小春を呼び戻すことが出来ずにいた。

「助ける?」

「そうだ。今の小春は迷子になってると思う。だから僕はそれを助けたい」

 ずるい言葉なのは分かってる。自分から告白して断られるのが怖かったのかも知れない。

「分かった。清水さんはそれでいいの?」

 後ろを確認していない小春には清水さんが居るのかどうかは分かっていなかったはずだが、小春は来ているのを確信しているかのように言葉にした。

「私も桜さんを助けたい」

「傲慢だよ。そんなの。自己犠牲だよ。私が隼人と付き合ったら満足なの?」

「私はそれでいいの。桜さんが幸せになってくれるのが私の幸せだから」

「どうしてそんなに自分を卑下するの?清水さん、隼人のこと好きなんでしょ?」

「すき」

「じゃあなんで‼」

「大好きなものを借りてただけだから。席が空いたら元に戻さなきゃ」

 僕の後ろに立っている清水さんの瞳にはきっと涙がたまっているのだろう。声が少し震えている。

「隼人はモノじゃないよ?隼人の気持ちは?清水さんは隼人のことが好きなんでしょ?隼人はどう思ってるの?」

「僕は……」

 清水さんのシャツを引く手に力が入る。もう私を解放して、とでも言うように。

「僕は、小春と一緒に居るのが自然なんだ。でもそれは恋なのか分からない。それでも小春は僕と一緒に居たいのか?」

 置物。僕というモノを小春の横に置く。それで小春が満足するならそれでも良いと思う。でもそれは恋なのかと言われるとよく分からない。

「居たい。一緒に居たい。たとえそれがまがい物だとしても一緒に居たい!」

「まがい物、か。分かった。僕は小春の隣に戻る。でも清水さんへの気持ちを忘れないかも知れない」

 それをまがい物って言うんだよ。自分でも分かってる。自分の気持ちを抑えつけるように次の言葉を絞り出す。

「小春。おかえり」

 刹那、小春は飛び跳ねて身を翻して僕の胸に飛び込んできた。

「ただいま……ただいま……!ずるいのは分かってるの。でも……。でも……」

 後ろに居た清水さんの気配が遠ざかるのが分かる。呼び止めるなら今しかない。でもふりむこうとする僕を小春は許さなかった。

「小春……」

「お願い……お願いだからこっちを見て……」

 僕は天を仰いでから小春の顔を見る。ぐちゃぐちゃに泣いて目の周りと鼻が真っ赤だ。それを見た僕は小春の頭を優しく撫でてからもう一度言った

「おかえり」                                                                               その日の夜は眠れなかった。何故あんなにも頑なに僕と付き合うのを拒絶したのか。助けるとは何のことなのか。確かに小春にあんな顔をさせたくはない。でもそれだけで清水さんが引く理由がない。「如月君の幸せは私の幸せ」清水さんはそう言った。僕は小春と一緒に居るのが幸せなのか?分からない。全ては明日の朝に小春に会えば分かるのかも知れない。

 

「おはよう」                                     小春は家の前で塀にもたれて待っていた。

「おはよう」

 挨拶をして歩き出すと小春は僕の隣に無言でやってきた。

「私、なにやってんだろ」

「なにが?」

「だって都合良すぎるでしょ?振られたからってまた隼人のところにすぐに戻るなんて」

「お前、その氷川良介のこと、本当に好きだったのか?」

「多分」

「なんだそれ。今日顔を合わせたらなんて言うんだ?」

「分からない。清水さんにもなんて言えばいいのか分からない」

「仕方ねぇな。僕がなんとかするから」

 こういうときはいつも僕が小春の代わりになっていた。怒られて謝るときも一緒だった。昇降口まで来て氷川良介の後ろ姿が見えたので僕は声を掛けた。

「氷川、ちょっといいか」

「声を掛けられると思ったよ。話は昼休みでも良いかな。場所は……中庭のベンチで」

「分かった」

 教室に入ると清水さんがやってきて、今日の授業のノートをいつもと同じように渡してくれた。僕が声を掛けようとしたけども、その表情は氷の少女様に戻っていた。

 

「で?話って?」

「分かってるだろ?なんで小春を振ったんだ?」

「そのことか。桜から聞いてないのか?」

「聞いた」                                    

「じゃあ、その通りだよ」

「相手は?」                                    「君の知らない子だよ。それに。桜の相手は君がするんだろう?元の鞘に収まるってこのことだよ。正直、キミが帰ってきてからの桜は見ていられなかった。いつもキミを見ていたしね」

「だから身を引いた。そういうことか?」

「半分正解、半分不正解。僕に他の好きな人が出来たってのは本当だよ。それで桜が幸せになれば僕は嬉しいし、キミの嬉しいだろう?」

「こんな形は望んでなかった。清水さんのことも傷つけた」

「彼女は身を引いたんだろう?」

「何か知っているのか?」

「さてどうだろう?僕は僕の気持ちにそのまま従っただけさ。さて。この話はここでお仕舞いだ。キミはキミの選択を信じれば良いと思うよ」

 氷川良介はそう言って席を立って校舎に戻っていった。

「くっそ。訳が分からねぇ」

 とりあえず小春が弄ばれたとかそういうのではなさそうだが。

「隼人」                                      「和彦か。聞いてたのか?」

「ああ」

 僕はベンチに座って肘を膝の上に置き手を組んだまま後ろに居る和彦と話をした。

「意味、分かったか?」

「半分くらいはな。でも残りの半分は分からねぇや。でもま、それは隼人が考えることで人に聞くことじゃねーよ。桜は元の鞘に戻って隼人のところにやってきたんだろ?」

「ああ。おかげで清水さんに迷惑をかけた」

「清水さんはなんて言ってたんだ?」

「桜さんを助けてあげて、だそうだ。ホント訳が分からねぇ」

「桜さんを助けてあげて、か。彼女、そう言ったのか」

「ああ。なにか知っているのか?」

「半分くらいはな。でも。それは隼人が見つけるべき事だな」

「何だよ、みんなして。なんの謎かけだよ」

「少々難しいかと思うけど、桜と二人で考えるんだな。それじゃな。俺も校舎に戻るわ」

「なんなんだよマジで。ホント分からねぇ」                                                                                                                                                    【第十三話】事実                                                                             教室に戻ると小春が僕の元にやってきた。氷川との話について結果を聞きに来たのだろう。

「家に帰ってからで良いか」

 小春は小さく頷いて自席に戻っていった。

「おまえら、なんかあったのか?」

 隣の席のやつにめざとく言われたが「なんでもねーよ」とだけ返事をした。

 放課後。図書室に行けば清水さんに会えるのだろうか。仮に会ったとして僕はなにを清水さんに聞くのだろうか。

「隼人。ちょっといいか」

「ん?なんだ和彦」

「お前が何ひとつ分かってないみたいだから一つだけヒントだ。俺のオススメは伊達じゃない」

「なんだよそれ。余計に分からねぇよ」

 和彦のオススメって言うのは清水さんのことだ。それが伊達じゃないっていうのは、僕が仮に小春のところに戻っても問題ないという意味だったのか?違うな。清水さんは小春の代役に立った?それなら筋が通るが……。清水さんにとってのメリットがない。

「本当に分からねぇよ……」

 

 家に帰ってから小春を僕の部屋に呼んだ。今日のことについて説明すると約束したからだ。

「……とまぁ、こういうわけなんだが……。分かるか?」

 今日の氷川とのやりとりに加えて清水さんとの会話も説明した。

「私を助けて……か」

「何か分かるのか?」

「清水さん、氷川君となにか取引してるんだと思う」

「取引?なんの?」

「単純に氷川君が私のことを振るまでは隼人と付き合っててもいい、とか」

「何の取引だよそれ。互いのメリットが何も見えないじゃん」

 僕が、さも当たり前のように言うと、なにも知らないの⁉といった顔で小春は話し始めた。

「清水さんのご両親って亡くなってるのは知ってる?」

「ああ、聞いた。それで親戚の援助を受けて暮らしてるって」

「その親戚っていうの、氷川君のことなんだよ」

「は?」

 なんだそれ。それじゃ自分が飽きるまで小春と付き合うからそれまでは自由にしていい、みたいなことじゃんか。

「小春はそんなので良かったのか?今の話って氷川が小春のことを飽きたら手放せって約束させてるって事だろ?対価として養ってやるとか言う事になるぞ?小春はそんなの分かった上で氷川と付き合ってたのか?」

「だって隼人がアメリカから戻ってくるなんて聞いてなかったし」

 この話、もしかしたら最悪のケースが考えられるぞ。そもそも小春にとって氷川は僕の代役に過ぎない。だから振られても僕がいるから問題ない。小春はそう考えていた。最悪じゃねぇか。

「小春は僕はアメリカから戻ってこなかったら氷川とそのまま付き合っていたと思うか?」

「だって私、振られたんだよ?そんなの分かるわけないじゃん!」             二人ともベッドに座っていたが、その言葉を発すると同時に小春は立ち上がって僕に向かってそう言った。自分は悪くない。そう言ってるかのように。と同時に家のインターホンが鳴った。

「隼人ー。お友達が来てるわよー」

 誰だ?和彦か?一階に降りて玄関を見た僕は絶句した。清水さん、いや、清水碧。氷の少女様がそこには立っていた。

「ま、あまぁそんなところに居ても何だから上がって」

「失礼ます」

 小春とはこの前に話をちゃんとしてるから会わせても問題ないよな……。そう考えよう。僕は二階の自分の部屋に招き入れた。

「小春。清水さんが来た」

 小春はやっぱりという顔をしている。

「なに?なに?なんなの?」

 なにが起きたのか分からない自分だけが置いてけぼりにされている。

 氷の少女様、清水碧は僕の部屋に入ってすぐにこう言った。

「お礼を貰いに来たわ」

 お礼?なんの?小春を助けたお礼という意味か?

「隼人は渡さない」

 小春は強い口調で言葉を返す。

「約束したでしょ?」 

「約束はしたけど……」

 話が全く見えてこない。

「あの。済まないが僕にも分かるように話してくれないか?」               小春は仕方がないといった感じでため息を吐いて話し始めた。

「さっき氷川君と清水さんが取引をしてるかもって言ったのは嘘。本当に取引してた相手は私。取引の内容は私が氷川君との関係を解消するまでは、隼人と一緒に居ても良い。代わりに家の援助を私が行うって内容」

「じゃあ、親戚って言うのも……」

「そ。それも嘘。本当の親戚は私の家。つまり……」

 小春は僕の事をキープしていた。嘘だろ……。

「なんでそんなことをしたんだ小春」

「だって隼人は私のモノだもん」

「無茶苦茶じゃないか。この前の話は何だったんだ!」

「だから約束したの」                                 清水さんは冷静な声で僕に言ってきた。

「一旦は返す。でもそのお礼として勝負させて欲しいって」

「ちょ。ちょっと待ってくれ。頭の中を整理するから時間をくれ」

 

 清水さんの家を援助しているのは小春の家。

 それを知っている氷川は小春と付き合い始めた。

 小春は援助の見返りとして、自分がフリーになるまでは自分のことを好きになっても良いと言った。                                       そして、小春と自分が元の鞘に収まったら、そのお礼として僕を賭けて勝負をさせてあげる。

 氷川は何だ?この話で氷川良介はどう絡んでくる?この前は半分正解。半分不正解、と言っていた。正解の部分は自分が元の鞘に収まるってこと。不正解なのは裏で行われていた援助のこと。氷川良介は全てを知った上で小春と付き合っていたという訳か

 

「小春、お前は援助を人質に清水さんの心を弄んだっていうのか」

「そうじゃない。確かに援助の話で私がフリーになるまでは隼人と付き合ってても良いって言ったのは事実。私と隼人がまた付き合う事になるときは身を引いてって言ったのも事実。でもその後は勝負しようって言った」

「はぁ……じゃあ、なんで最初から僕と清水さんの関係に直接勝負を求めて来なかったんだ」

「だって!そんなの勝ち目がないと思ったの。私には幼なじみという武器しかない。でも清水さんにはずっと想い続けてきたという事実がある。分かるのよね。女の子同士って」

「そんな策を労するような取引で僕が小春を選ぶと思うのか?」

「絶対に振り向かせてみせる」

「今の僕は清水さんを選ぶぞ」

「それでも絶対に振り向かせてみせる」

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