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軍略

作者: 槁木 しかい

 七蔵帝、丹翁に(いくさ)を問う。翁、(こた)うこと如是(かくのごとし)

 ***

 武に飽き足らず儂に軍事(いくさのこと)を問うのですか?恐れながら、戦場(いくさば)矢避け(たて)にもならぬ老体(おいぼれ)に問われるよりは、書庫に眠る武経(こてん)を紐解くか、お抱えの軍師(さんぼう)に尋ねる方が有意義にございましょう。

 ただ、どうしてもと仰るならば、始計(さわり)をお話しいたします。

 まず、軍で最も重要なことは、一等信頼に足る武人(もののふ)を将に任命し、有事の際には一切をその者に任せ、軍事に口を出さぬことです。古人(むかしのひと)が言うように、戦場では軍中のことに君命は及びません。双頭の龍は、頭がそれぞれ別々の方向に移動しようとするものですから、うまく進むことができません。もし頭同士が正反対の方向に進もうとするものなら、如何に強力無比な龍とて、忽ち身体が裂けてしまいます。敵はそのような攻撃の機会(すき)を見逃すはずもなく、あっという間に友軍(みかた)は打ち破られてしまうでしょう。

 次に重要なのは、戦をなるべく素早く終わらせることです。西に曰く「一度事を構えたら迅速に勝る機密はない」と、また東に曰く「戦上手の(うまい)拙速(たんきせん)の話を聞くことがあっても、戦上手の(うまい) 巧久(ちょうきせん)の例を()たことがない」と。これはどちらも同じことを言っています。戦が短く終われば、士気を保ち、消耗を抑え、手の内を秘することは容易です。一方、長く続けば、いずれ士気は落ち、国力(たくわえ)消耗(へり)は激しく、形振り構わず手の内をすべて明かさざるを得ません。如何に巧妙な策謀(はかりごと)中身(たか)が知れてしまえば、無策と何ら変わりません。或いは敵が先手を打てるようになる分、無為無策(なにもかんがえない)でいた方がまだましかもしれません。結局、戦はますます長く続くようになり、国が疲弊した(つかれきった)ところで、ここぞとばかりに諸侯(べつのてき)が攻めてきます。

 最後に陛下、戦支度で豪奢な鎧を身に着け宝刀(よいかたな)を佩いたからといって、はしゃいで百戦錬磨の英雄を気取らぬことです。武勲を重ねて成り上がった軍人君主(たたきあげ)は別として、戦場に出た君主が成れるのは、善くて激励を飛ばす角笛(ほら)、悪ければ良く目立つ首級(まと)です。陛下のような軟弱な世襲の王(ぼんぼん)は、天幕の内に引き篭もっていただくのが軍のためです。もっとも、そもそも君主が出陣し(でていか)ないのが最善です。

 ***

 上曰く、「(よし)」と。

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