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夜想の見た夢。 −憑者神と神語りの夕霧夢幻旅行記−  作者: 鳥路
序章:夕霧に向かう前の20日間は
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9月9日:卯月東里の学校訪問

卯月東里。リュミエールの現社長


九月十五日生まれ。家族構成は祖父と母

幼少期に事故で父親を失い、母親は昏睡状態。それからずっと祖父と二人で海外に暮らしていた

祖父と一緒に暮らしていたと言っても、仕事で多忙だった祖父は家をあけることが多く、一人の時間が多かった


そんな一人の時間が嫌で勉強ばかりしていたら九歳時点で大学を飛び級卒業。それと同時期に憑者家系である卯月の監視業務を担うため、日本へ向かい沼田に入学。そこで夏彦と覚と出会うことになる


温厚で落ち着いた性格だが、何処かに幼さを隠し込んでいるようだ

趣味の裁縫は高校時代に培ったものであり、喧嘩でよく服を破いてくる夏彦の為に身に着けた。それが後の創業理由になることはきっと当時の彼も想像していなかっただろう


自分の死で心を傷つけてしまった妻に見つからない願いを抱いた兎の神「桑」をその身に宿し、その身を隠す能力を持つ今代の「卯の憑者神」

戦闘能力は元々ないが、曽祖父である卯月俊至うづきとしゆきの親友であった森小影もりこかげから、風の加護を受け、現在は風操作能力も備えている


家の言いつけで許嫁である風花と共に暮らしているが、よくも悪くも同居人である

預かっている女の子として彼なりに大事にしているが、それ以上の感情は持ち合わせていない


・・


九月九日


休日だけど、少しだけ仕事をしに会社へ降りた昼下がり


最近、よく眠れていない

恵さんほどでないけれど、過去の記憶が眠りに影響を与えてくる

結構、影響が大きくてしんどい・・・


「ふわぁ・・・」

「どしたの東里。眠そうだね」

「・・・最近よく眠れなくて」


大きなあくびを一回。そこをちょうど金曜日に僕へ提出しておかないといけなかった資料を持った覚がやってくる

身内だし、月曜日じゃないから許すけど、本当は許してはいけない部分だ

けど、今日のところは許してやろう。ここ最近、彼には無茶ばかりさせたからね

お恥ずかしい部分だが、むしろ彼でよかったと思うべきだ

他の人だったら言い訳が難しい


「珍しいじゃん。お前赤ん坊みたいに寝付きいいのに」

「・・・どうして赤ん坊表現するわけ」

「四番目から八番目ぐらいは赤ん坊の頃を見たことあるから。世話までさせられたんだぜ。あの可愛くねえ弟たちのな」

「たくさんいるもんね、弟さん」


覚には年の離れた弟がたくさんいる。名前は忘れたけど二人目は結構年は近かったはず

けれど、三人目以降は十歳以上離れていたはずだ

多すぎるのは嫌だけど、弟か妹がいる生活はちょっとだけ憧れがある


「あいつらの世話は大変でな。首が折れる」


確かに、首は折れてるね。弟の世話じゃなくて、大叔母様の鉄槌みたいだけど

むしろ覚は首が折れてるのに元気すぎない?そんな腕の骨折みたいなノリで過ごしていい怪我じゃないよね、それ・・・


「それより、覚は帰らなくていいの?荷解きは?」

「仕事を優先しろって恵ちゃんがね。そろそろ帰って合流しようかなって思うけど、女子高生と同居している東里さんはどんな悶々とした悩みで寝不足なのかお兄さんに教えてみ?」

「そんな、君が思っているような大した悩みじゃないけどさ・・・覚は結婚に対してどう思っているのかな?」

「その質問は大叔母様か立夏ちゃんにしてくれるかな。俺じゃまだ答えられないっぽい」

「待ってよ。どしたん?話聞くよ?してきたのは覚じゃないか。最後まで聞いてもらわないと僕寝不足で倒れちゃうよ」


「うんうん。俺の言葉まで捏造したのは横に置いておいてやろう。おい東里。この握力。お前寝不足とか嘘だろ!?」

「毎日六時間しか寝てないんだよ!?」

「十分寝てるじゃん!それで寝不足とか冗談だろお前!」

「普段は八時間!」

「子供か!?よく寝てられるなそんな長時間!」


それから覚と軽くわーきゃーしばらく騒いでいた

しばらくした頃、息を切らし始めた僕らは本題の質問に対して向き合い始める


「で・・・東里はなんでそんな問いを?」

「この前、風花のバイトを認めてもらうために聖松川へ面談に行ったんだよ」

「あの令嬢の花園にか・・・?」


なんか血眼になる部分違うような気がするんだけど?と感じながら、あの日のことを振り返りつつ、話を初めた


・・


聖松川女学校

明治や昭和かと錯覚させられそうなほど古臭い校風を持つ学校は、良妻賢母の育成においては高水準を誇る名門校だ


なぜか中退・・・寿退学が当たり前扱いされている不思議な学校だけど・・・

法律が変わって婚姻年齢が十八歳に繰り上がったことで、無事に卒業できる生徒が、学生生活を謳歌できる女学生が増えたようだ

風花みたいな三月後半産まれは卒業確定組なんて呼ばれて羨ましがられているとかなんやらかんやら


まあ、なんというか・・・ここに通う子は、いいとこ出身のお嬢様であり、将来は親が決めたいいところに嫁に行くような女の子ばかりということだ


「あ、あの警備員さん。ここから職員室まで一人でいかなければならないのですか?」

「案内したいところなんですが、あいにく人手が足りなくてですね・・・」

「大変ですね。わかりました。しかし、男一人で歩いて通報とかされませんかね」

「大丈夫ですよ。ここに入る男性は父親か、生徒の婚約者か許嫁ぐらいです。特例はたまにありますが、その基本ルールは生徒たちもわかっていますので。道に迷ったら生徒に相手の学年と名前を言えば道案内はしてくれるはずですよ」

「なるほど・・・」

「声をかけるのなら、襟に記章がついている生徒がおすすめです。相手がいる生徒ですから」

「わかりました。ありがとうございます」


警備員さんからアドバイスを貰った後、僕は乙女の聖域へと足を踏み入れる


「ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう・・・」


声をかけてくれた女子生徒の襟には記章がある。丁度いい。彼女たちに道案内を頼もう


「あの、僕は一年鳥組に在籍している馬越風花の許嫁なのですが、本日は学校の先生に進路の件で来校をお願いされまして・・・職員室に行きたいのですが、この道であっていますか?」

「あら、風花様の?私、同じく一年鳥組の華見椿妃と申します。よろしければ、私に案内をさせていただけませんか?」

「いいのですか?お時間とか・・・」

「送迎にはまだ時間がございますのでご安心を。こちらになります」


送迎が基本なのか・・・いや、そうじゃなくて

風花の同級生である華見さんに職員室に案内をしてもらうことになった。これで迷わずに迎える。一安心だ

しかし、同級生なのに「様」・・・なのか。距離感とかあるのかな


「あの、一つ聞いても?」

「どうされました?」

「この学校は、同じ学年でも「様」をつけて呼び合っているのかな?」

「いえ。大体は「さん」とお呼びしております。けれど、風花様は特別なのです」

「特別?」


風花が特別。まさかあの子、憑者神ということがバレたのか・・・?

神様だからちょっと特別に見られているとか・・・?


「ええ。一学期に一年の成績優秀者に贈られる「桔梗」の賞を得ている、一年生の模範的な方なのです!私も憧れで!」

「そうなのですね。風花からは学校生活のことを全然聞かなくて・・・上手くやれているか心配でしたが、その様子だと、いい御学友にも恵まれているようで安心しました」

「ありがとうございます。私も卯月様のことは風花様からお話を聞いてはいました。自分を尊重してくれている良き方だと」

「風花が・・・」

「お話通りの方のようだったので、安心しました。私は卒業まで一緒にいられませんから、風花様が良い結婚をできるのか心配で・・・」


そこで職員室に到着してしまったから、話の続きは聞けなかった

きっと彼女は、三年生になってもきちんと卒業できない女の子なのだろう

・・・その先を、問いかけることは僕にはできやしない

諦めて、職員室の扉を叩き、指定された部屋に案内される


そこで問われたのは、風花のバイト申請の件だった

許可を得たいと申請があったが、僕はこの申請に対して事前に報告を貰っているか

そして、最後に問われたのは「彼女がバイトをするにあたりなぜ認めたのか」ということ

その前にあった問いかけは忘れたけど、この時の答えだけははっきり覚えている


「バイトは働く場所によると思いますが、これまで夕霧という狭い場所にいた彼女に色々な視点を与えてくれるでしょう」

「それに、私の会社は服飾を専門としております。多岐に渡る分野の制服制作にも携わらせて頂いております」

「その際、現場だけではなく前職がそれに親しい者から参考に意見を頂き、現場にとって「一番」のものを提供するのが弊社のモットーです」

「今後、風花さんには家庭だけではなく、仕事面でも助けていただきたいなと考えています。その際に学生時代に培った経験の数々は彼女にとって将来の糧になると、私は信じています」


我ながら適当なことをペラペラと言えるものだな、とは思った

結婚した先の将来なんて全然わからない

許嫁と言ったってそれまでで、恋愛感情も何もないのに・・・

それに、彼女にはまだまだ自由に生きていてほしい。家のことに、縛られず・・・


・・


「まあね、結婚前提で話して許可はもらったはいいけれど・・・結婚ってなんなんだろうなと思ってさ。少なくとも僕は彼女は良き同居人とは思っているけれど、それ以上はあまり想像できなくて」

「・・・お子様の東里には難しそうだな」

「これでももう少ししたら二十六歳なんだけども」

「年齢で大人アピールするのは姿も精神も子供の証拠だと思うけどねー・・・大叔母様とかそのタイプだったろ?」


確かに鈴は憑者がついていた時代はひたすら二十三歳アピールをしていた

僕らからみたら、夏彦の嘘通り十二歳ぐらいの女の子だったけどね

そう考えると、年齢アピールは子供の象徴なのかもしれないね・・・


「まあなんだ。東里。のんびりやれや。風花ちゃんと結婚しろって言われるのも二年半後だろ」

「そうだけどさ」

「お前は時間が解決してくれるよ」


覚がなんかいい感じのことを言ってくれる

その後、彼は帰宅して僕は一人で考える


「時間が、解決してくれるか・・・」


そうだよね。焦らなくても、色々考える時間はたくさんある

二年半。本当に家に決められた通り彼女と結婚するのか、しないのか

はたまた・・・なんてね


「さて、仕事に戻りましょうかね」


いつかのことはゆっくり考えよう

将来が決まるのは二年半後なのだ。考える時間はたくさんあるのだから

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