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19:透明の道を二人で彩り、歩いていく

「鈴」

「なあに」

「俺さ、自分でもこの夢が複雑だったんだ」


壊れる世界の桜並木を二人で歩いていく

あの日のように、出口を探すように・・・

けど、俺達はなんとなく理解できていた

答えを出した先に、出口はできると


「どうして?」

「鈴がどこにもいなかったから」

「・・・」

「俺の理想は鈴と歩く未来のはずだった。けれど、どこか父さんと母さんが生きていて、普通の子供みたいに一緒に暮らすことも夢見ていたのかもしれない」

「その心残りを拾い上げたのが、この夢だったのかな」

「わからない」


けれど、父さんがどんな人なのか知って、母さんがどれほど苦しんだかわかった今・・・なおさら未練を強くしていたのかもしれない

自分でも、気づかない内に憧れは強く、願いは広く広がっていた

それは本当の理想を覆い隠してしまうほどに

けれどそのおかげで、こうして隙ができたのだから・・・今回ばかりは助かったというべきだろう

しかし、ここで問題が一つ

鈴が、俺の理想を間違えて認識してしまうことだった

誤解されるのは絶対に嫌だった

俺の未来の理想は、彼女無しでありえないのだから


「父さんにも言ったとおり、ここは俺の過去の理想だ。未練しかないもう戻れない場所で、たどり着くことが出来なかった理想の夢」

「うん」

「けど今は・・・未練で出来た理想なんて、俺には必要ないんだ」


どうやってもたどり着けない未来より、俺が今歩いている未来の先

俺は、そう考えている


「過去はこれからもついてまわる。父さんと母さんと生きたかった理想と言う名の未練も、現実の過去を俺は全て抱いて歩いていく」


数歩先に歩いて、彼女の前の立つ


「俺の過去は変えられない。理想はもう掴めない。けどさ、今は違うだろう?」

「今は?」

「未来の理想は今から頑張ればきっと手が届く。けど、その理想は一人じゃ叶えられない」


鈴の方へ、手を差し出す

かつての俺は彼女に手を差し伸べられて、ここと似たような道を歩いて現実に戻った

けれど、もう彼女に手を引かれるだけではだめなのだ


「俺は、鈴と暖かい家庭を作りたい」

「・・・それこそ、理想とか言われるような?」

「さあ、どうだろう。俺はごく普通とか、当たり前とか全然わからないから。暖かい家庭の形なんて全然わからないよ」


俺たちは互いに家族を知らない

物心ついた時には人の扱いをされていなかった俺と物心ついた時にはもう親に捨てられた鈴

まともな家庭なんて知らない。真似たいと思う家庭もない

家庭の理想は人それぞれで在るべきだと俺は考えているから


「鈴」

「なあに?」

「俺の、未来の理想の話をさせてくれないか?」

「未来の?」

「ああ。俺さ、次は鈴と親になりたいんだ」

「・・・」


鈴が無言で目を丸くしていた

意外、みたいな表情。そこまで驚かれるようなことをした記憶はないのだが


「驚かせただろうか?」

「うん。少しね。夏彦は子供とか考えてないと思っていたから」

「・・・考えていなかったら、もうちょっと色々ちゃんとする」

「・・・そうだよね。うん。外してしないもんね」

「でも計画は大事だと思うんだよな。そこは考えさせてくれ」

「・・・ふむ」


鈴が若干苦笑いなような気がする

やはり・・・


「・・・鈴は、これからも俺と二人でのんびり暮らすほうがいいか?」

「ううん。そうじゃないの。私としても嬉しい話なの」

「でも、浮かない顔をして」

「ちょっとね・・・それで、夏彦。話の続きをしてほしいな」

「あ、ああ・・・」


話をそらされた気がするが、とりあえず話を続けよう


「それからさ、二人で子供の成長を見守って、独り立ちした子供の背中を見つつ「子育て大変だったな」とか「でも楽しかったな」って言い合いながらお爺ちゃんとお婆ちゃんになって、生涯を終える。これが俺の未来の理想なんだ」

「とってもざっくりとしすぎじゃない?」

「これからなんてまだわからないからな。ざっくりとしたイメージが大事だと俺は思うんだ」

「ざっくりとしすぎているから、夢は未来の理想が拾えなかったのかも・・・」

「・・・かもな」


まだ、未来がどうなるかなんてわからないし、どうなりたいかも具体的な形は決められていない

何色に染まるかまだ決まっていない未来は、俺たちで彩る透明の先だ

透明だから、形がまだ未完成だから・・・夢も未来の理想を拾い上げることが出来なかった

・・・正直、彰則さんの力がその形を作れるほどに強くなくてよかったと心から思える

もし形を作られて、鈴との理想の未来を展開されていたら・・・

俺は過去以上に帰れなくなっていたかもしれないから


「ねえ、夏彦」

「なんだ」

「今はざっくりとしたイメージでも、私はいいと思うな」


鈴が手をとってくれる

俺はそれを握り返しながら、ここ最近できるようになった表情で彼女を出迎えた


「これからきちんと二人で決めていけばいいでしょう?どんな理想を形作るか二人でしっかり決めて、これからを歩いていけばいい」

「ああ。そうだな」


二人、手に力を込めた後、前へと歩いていく

もう手をひかれるだけではだめなんだ

これからは鈴の手を引いて、引かれて、一緒に歩いて生きていく

何が正しいのか、何が間違いなのか・・・自分で決める未知の先へ


「人生これからだもんな、鈴」

「うん!」

「さあ、帰ろう。俺たちがいるべき今へ」

「そうだね・・・あ」


夢の空間・・・その端へ辿り着いたのだろう

薄膜の先には霧がかかった空間が広がっていた

ここから先は意識の世界になるのだろう

迷えば、帰れなくなる

帰れると決めても、まだまだ帰る道のりは遠そうだ


「不安?」

「・・・少し。でも、きちんと進むよ」

「無理しないで。まず私が先に進むから。夏彦は私の手を離さないように」

「でも・・・」

「私はいつだって道標だから」

「手を引かれるのはもう終わりにしようって決めたのにな」

「今は仕方ないよ。帰るためには、いざとなったらのばらが意識を引き上げられる私が前を進むべき。夏彦は今、命綱がない状態なの。最悪、東里のお母さんと同じ状態になるよ」

「・・・」


そう、か・・・そうだよな

今の俺は東里のお母さんと似たような状態だ

意識の世界で帰り道を外れて、迷子になって眠り続けているのが東里のお母さんなのだから


「表現は悪いけど、そういうこと。私は東里みたいに二十年も待てないからね」

「わかってる」


きちんと帰るためには、鈴に前を進んでもらわないといけないだろう

危険があるかもしれないが、今は彼女に頼るしかない


「危険は伴うだろうけど、鈴・・・先導を頼む」

「任された!」


鈴が膜を破り、霧の世界を歩いていく

俺はそこに足を踏み入れる前に、夢へと振り返った

未練があるわけではない

ただ、そこにいる気がしたから

実際に振り返った先には、半透明の父さんと母さんが俺と鈴の方を見て笑ってくれていた


『いってらっしゃい、夏彦』

『気をつけてね』

「・・・いってきます、父さん。母さん」


父さんと母さんの幻影を背に、俺も霧の世界に足を踏み入れた


『・・・鈴さん。夏彦をこれからもお願いします』

『あの子を、よろしくおねがいします』

「・・・言われなくても」

「鈴」

「さあ、行こう。皆待ってるよ」

「ああ」


二人で先の見えない道を歩いて戻っていく

戻る場所は唯一つ

俺と鈴が理想を描ける現実だ


俺が完全に夢から出た瞬間、世界は散り散りになって壊れていく

その光景は少しだけ寂しくて、少しだけ壊れてしまうのが怖くて・・・

夢の仕様なんだろうけど、一瞬だけ再び夢の中へ戻りたいと思ってしまった自分が・・・とてつもなく嫌になった

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