14:僕らがたどり着く真実の一片
とりあえず、一人一人尋問を始めよう
手始めに、傷をつけた男から
余裕は無いだろう。まあ、痛いけど死ぬような傷じゃないし・・・まだまだ話しておけるかな
「とりあえず、いくつか気になることを。あの影は夜想の使いかな?」
「あれは、夜想様の使いではない。しかし俺たちもあの影がどういうものかは伝えられていないのだ」
「本当に?」
「本当だ!夜想様から与えられた瓶にあれが入っていた!」
「その夜想は日辻彰則?それとも彼の父親?」
「兄の方を知っているのなら・・・明仁様のこともご存知だろう?彼から与えられたんだ!」
・・・あの影は能力的に日辻彰則が噛んでいる可能性はあるけれど・・・それは列車に乗り込んだ六人全員が「彼の意思ではない」と断言できる話だ
実際にこいつらに渡したのは弟の方。これはいい収穫かも
けど、風花ちゃんの話だと弟は・・・
「弟は無能力者だよね?じゃああの影は誰が作っているのかな?確認させてよ」
「あ、兄の方を痛めつけて作らせているとは聞いている。ただ、材料は知らない。神の力であることは間違いないと思うが・・・」
「そうだろうね。あんなものを生み出せるのは神の力で間違いない。しかし、兄の方を痛めつけてるって・・・」
「・・・夕霧を捨てた者に慈悲はない」
ふむ。夕霧側は一度出ていった日辻彰則を受け入れてはいないらしい
意外だな。神様の力を持っている。それでいて夕霧は神の能力がないと成り立たないという状況ならば・・・
彼を弟のように崇め奉る方が違和感のない話だ
・・・変な人たちだが、おかげで彼らが夕霧の出身者ということはわかった
今も在住なのだろう
夕霧が夕霧として存在し続けられるように、こうして悪事に手を染める
・・・一種の宗教みたいだな、これ
「しかし、夕霧はあの男が持つ神の力がないと成り立たない。だから、仕方なく受け入れているだけだ」
「ふーん。弟みたいに崇めないんだ」
「・・・あの男にそんなことは出来ないよ。ついていきたいとも思わないからな」
「ついていきたいと思わない。けど、実際に夕霧を夕霧にしているのは・・・日辻彰則でしょう?傀儡は彼が牙を向けば意味を成さなくなる。それでも君は」
「つ、ついていく」
「それはなぜ?情報では、人望なんてものは無いように思えるけど」
「・・・それは」
「正直に話せば、君のお願いの一つぐらいは聞いてあげる。もしかしなくてもさ、家族でも人質に取られている?従うことを強要されている?」
「っ・・・なんで、そこまでわかっているのか」
・・・なんとなく会話の中で予想を立てていたのだが、まさかの展開だ
困ったな。そこまでやっているとは想定内だけど・・・人質の母数が多すぎる
乗務員一人に対して人質になっている人間が一人から二人
親兄弟祖父母も含めて最低でも二人と仮定しても・・・普通に三桁を超えてくるのだ
「・・・夕霧は一種の人質軟禁施設。夜想号は脅されてやってきた強制労働施設ってところだね」
「あってるよ。俺たちは全員身内全員を人質に取られている働き盛りの人間だ」
「なるほど。君らは家族の安全の為に・・・。一応確認しておくけど、君たちとしては、日辻家にはもう従いたくないんだよね」
「ああ。別のグループで働いている親父と、夕霧にいるお袋を連れて、もう引っ越したいほどさ。親父たちは・・・日辻彰則が、日辻真幌が夜想だった時代に戻してくれるんじゃないかって期待して、日辻に従っているけど・・・」
日辻真幌・・・一応、立夏さんから日辻家に連なる人物の名前は聞いている
その名前の人物は、日辻彰則の祖母に当たる人物だ
彼の母に当たる日辻美夢が先代夜想・・・未の憑者神
まさか祖母もだったとは・・・ん?待てよ
「ねえ。僕は夕霧の歴史を細かく調べたわけじゃないから聞きたいんだけど、今の夕霧は日辻真幌が作り上げたの?」
「そこは俺もよくわからない。ただ・・・」
「ただ?」
「信じてもらえないかもだけど、夕霧の記録は一般人には閲覧不可なんだよ。歴史とか絶対に調べたらいけない決まりになっている」
「もし、その記録を見れるとしたら・・・」
「神憑きの生き残りぐらいだろうさ」
なるほど。じゃあ現地でのばらと遊ちゃんは資料を閲覧することが出来るんだ
まあ、風花ちゃんが見れていたんだから流れとしては当然なんだけども
待てよ。じゃあ・・・
「もし、日辻家が絶対隠しておきたいような機密を閲覧できるとしたら、それは日辻家に連なる人間じゃないと無理なのかな?」
「みたいだ。ま、失礼を承知でいうが、お前たちに協力するような日辻の人間は・・・」
「日辻彰則の妻だったらどうと思う?夫婦別姓を選んだらしいんだけど、まだ戸籍上は夫婦でいれているらしいから」
私達に残された切り札である立夏さん
まだ離婚届を出していない彼女は名目上まだ日辻彰則の妻・・・日辻家に連なる人間なのだから
閲覧できる可能性があるとしたら彼女だ
「・・・俺たちの中に一番最高齢の男がいただろう?斉木さんって言うんだが、その人はここに来る前は夕霧の資料室の門番をしていた。手強いだろうが、彼なら条件を知っていると思う。見れるかどうかはわからないけどな」
「ありがとう。後で聞いてみるよ」
「・・・ああ」
「そういえば、ふと気になったんだけど・・・神憑きの儀式は夕霧の子供が受ける儀式じゃなかったのかなって。こう言っちゃ何だけど、なんで生き残っているの?」
「・・・言われてみれば、なんでだろうな」
「は?」
「いや、問いかけられないと疑問にも抱かなかった。儀式を受けた時の記憶がないんだ」
「・・・とんでもない儀式だし、覚えていられないほど忘れたい記憶だった可能性もある。気にしないで」
・・・僕としてはこの事実、見過ごしたくないんだよな
のばらはこういった。全員が受ける儀式だと
遊ちゃんは言った。儀式の例外になったのは一件だけ
その例外は、猿見に憑者が二人も出たらバランスが崩れるからという理由で遊ちゃんの姉が儀式を免除されただけ
その、一回だけなのだ
だから目の前にいる男も儀式を受けているはずなのだ
まだ、僕らが知らない事実が隠されているの?
風花ちゃんも、のばらも、遊ちゃんも知らないような・・・
それが日辻の秘密にもなると思う。この疑問は共有してそれぞれ調べていこう
・・・この人から取れる情報はこれぐらいかな
「さて、そろそろ傷がしんどくなった頃だし、終わろっか」
「あ、ああ・・・」
「戻ったら緑の髪の子に治療してもらってね。できれば、協力的になってほしいと周囲に伝えてほしいなと。その方が早く済むし」
「わかったよ。情報はやったんだからその代わり、きちんと解放してくれよ」
「うん。夕霧から君たちを解放してみせるよ」
神憑きの存在を理解しているのなら、この姿を見せれば救世主とか思ってくれたりと思い、僕は憑者の姿を取る
「お前・・・」
「戌の憑者神、乾聡子の名にかけてね」
「あいつと同じ「神様」だったのか。なるほど、道理で二人共動きが人を超えていたんだな」
「まあね」
「・・・天霧幸生」
「はい?」
「俺の名前だ。覚えておけよ、乾聡子。この傷は貸しだ。治療は必要ない。ここに残しておいてやる」
「どうして?痛いでしょう?」
「治してもらったらそれで終わりだ。ことの顛末を聞くために、お前ともう一度会うために必要だろう?今、この縁を消されたら困る。結末ぐらいはちゃんと教えに来い。どんな真実でもな」
「しょうがないな。お互い生きて帰れたらまた会おう」
天霧は無言で手を振りつつ、部屋を後にする
治してもらったら終わり、か
かつての夏彦はそれを「僕らを許すため」に告げた
終わったことだから、もうなにも残っていないから・・・全部終わり
僕はそれに救われた過去がある
先程の天霧は夏彦とは真逆の意味でその言葉を述べた
治してもらったら終わってしまう
「僕にもう一度会い、真実を知るため」に、彼はそう告げた
終わってしまえば、何も残らなくなる・・・全部終わり
そうするわけにはいかないから、彼は傷を残す
かつて僕を救った言葉を、真逆の意味で使う人と会えるなんて思ってもいなかった
変な縁を結んでしまった気がするが、こんなのも悪くないかな
「ちょっと、貴方。傷の治療は・・・」
「いいよ。自分でどうにかする」
「自分でどうにか出来る傷ではないのですが!ちょっとぉ!」
・・・扉の先で鈴が情けない声を出しているが、そこはそこで放置しておこう
今の僕にできること。それは・・・
「次の人、お願いできるかな」
尋問を、続けることだけだ




