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12:かつて敵だった貴方と

荷物を回収し終えた私達は、六号車にある客室へと戻ってきた


「ただいま!」

「無事ですか?」

「鈴、おかえり」


夏彦の声だけど、彼とは違って話す速度が若干ゆったり

目の前で神語りを展開している彼は、巽夏彦じゃない

目の前の彼は、かつての私が仕えていた主だ


「・・・雪霞様?どうして表に」

「事情を話している余裕はもう無くてね。私のことはいいから、三人の作戦を聞いてくれるかい?」

「わかりました・・・」


後ろで色々と練っていたであろう三人の元へ向かい、同じように床に座る


「鈴、のばら。無事で何よりだよ」

「いえいえ。荷物出しましょうか」

「あ。僕のだけ頼めるかな」

「聡子のだけでいいの?」


立夏と遊ちゃんも同じように荷物の心配をしていたからすぐに使いたいものがあるのかと思ったけど・・・違うらしい

亜空間を展開し、聡子の荷物を取り出そうとする


「あ、鈴。ついでに自分と夏彦くんの荷物もその中に」

「移動するの?」

「一種の賭けだけどね。鈴お姉ちゃん、亜空間に人が入っても問題は無いの?」

「それは問題がある。亜空間の中は時間が止まっているから・・・一晩はどうやっても難しいよ?」

「三十分程度ならどうにかなる?」

「それならまあ・・・空気をめいいっぱい取り込めば大丈夫だと思う」

「じゃあ決まり。あの作戦で行こう。聡子お姉ちゃん。準備はいい?」

「もちのろん」


聡子が自分の鞄から取り出したのは・・・まさかの獲物

いや、たしかに彼女の腕力にそれが加われば百人力どころの話じゃないだろうけども


「それよく保安検査くぐり抜けたね・・・」

「立夏お姉ちゃん、駅に保安検査はないよ。私もまさかこんな物を持ってきているとは予想外だったけどさ・・・」


「メリケンサックがよかった?涼香からはそっちをおすすめされたんだけど」

「いや、貴方が装備したらどんなものでもアウトでしょ。メリケンサック装備で相手を撲殺する気なのかしら?」

「むしろまだ遺体が綺麗そうという意味では・・・その鉤爪の方がマシかも」


聡子が鞄から取り出したのは両手に装備する鉤爪

それはどこかで見たことあるような気がする空気が・・・


「それ、良弥のでしょ」

「うん。お父さんが勧めて、譲ってくれたの。なんで知ってるの?」

「阿佐ヶ谷殺しに使った曰く付きの業物じゃないか・・・私もそれを見ていると背筋が凍ってしまう・・・」

「ですよねー・・・」


小さい頃の良弥は夏彦の前世の一人で、雪霞様にとっては来世の一人である阿佐ヶ谷春子をお役目で殺害している

今、聡子が身につけているのは、当時殺害に使用したもの

流石に体格差のハンデがあったからか、これを使っていた

私が彼と対面した時、既にこれは床に落ちて出番を終えていたのだが・・・

意外と、覚えているものなんだな


「あー・・・そういう」

「手入れはしっかりされているみたいだし、ちゃんと切れると思うよ」

「着眼点は切れるかどうか・・・僕はとりあえず強引にでも刺せればそれでいっかとは思ってたけど。プロの目は違いますな・・・」

「い、いや、私が自前の爪で攻撃するのは貴方も知っているでしょうに!そんなものを使わなくても平気なんです!」

「なるほど。自前の経験がお有りで・・・」

「からかわないでください!」

「まあ、これなら脅しにはなると思ってね」

「確かに脅しにはなりそうだけど・・・この列車にもう起きている人なんて・・・」


起きている人はいない

あの影の性質上、普通の乗客は抵抗すること無く眠りにつく


例外は私達だけ・・・のはず

しかし、全員が眠れば一つ辻褄が合わないことがある

それを確かめられる場所は唯一つ

今も動いているあの場所だ


「・・・なるほど。運転室を狙うんですね」

「うん。それには貴方が必要。無茶はさせるけど。まだ飛べる?」

「まだまだいけますよ。ここから高速でお連れしてあげます」

「ん。乗り込むのは僕に任せて。後、もう一つ」

「はい?」


聡子の提案に、私達はちょっとした不安を覚えた

確認をしてきたのはそれが理由

・・・大丈夫だろうけど、急いで終わらせないといけないなと思いつつ、私と聡子は準備を整えていく

かつての主の、背中の後ろで


・・


準備を終えた私達は、六号車から一号車への道を滑空していく


「いやっふぅ!」

「ちょっと聡子。楽しいのはわかりますから、そんなに暴れないでください!落としちゃいますから!」

「いやぁ。少しでもいいので「それゆく!くろわっサン」の真似でもしたいなと。あんまり出来ることじゃないし」

「普通の子供はこんな体験はしないから!」


確かそれ、パンがカビと戦う幼児向けアニメじゃありませんでしたっけ・・・

貴方もう十九歳でしょう。何見て過ごしているんですか


「帰ったら、絵未ちゃんに自慢したくってさ・・・」

「ああ。一緒に・・・絵未ちゃんは聡子にデレデレだもんね」

「そうだよ。いいでしょー」


亜麻高で面倒を見たことがキッカケなのか、聡子と絵未ちゃんは仲良しだ

今も家に遊びに行って、多忙な立夏の代わりに彼女の相手をしているとか


「意外と子供好きなの?」

「まあ。弟とか妹とかいなかったし、小さい子と関わる機会もなかったから。関わってみたら意外と楽しくて。懐いてくれているし、立夏さんも大変そうだし、遊び相手ぐらいだったらなぁって思ってさ」

「それで幼児アニメを見て、キャラの名前を覚えようとしているのはなかなか出来ることじゃないと思うけど」

「ううん。絵未ちゃんが好きだって聞いて、玄人面したくて毎日深夜まで見てるの」

「それはどんな面構え?クマだらけの自分でも見せたいの?正直怖すぎるんだけども」

「そうじゃないんだけど、やっぱり出来る大人な部分を見せたいじゃん?格好つけたいんだよ。そういう時なかった?」

「まあ、多少は・・・理解できるよ。その気持ち」


先程見せてきたし、気持ちは理解できる

複雑な心境ではあるけれど


「鈴、影が来たよ。勢いよく突っ込んで」

「了解」


勢いよく突っ込み、影を散らす


「ヒュウ。風圧で影を散らすとかどれだけ早いのよ」

「これぐらい造作も有りません」

「特訓してたくせに」

「・・・見ていたの?」

「少しね。夏彦が心配だ、心配だってうるさいから。様子をたまに見に行っていたんだよ」


確かに、あの時は帰るまで夏彦を一人で待たせていた

彼としては、力があるとは言え真夜中の外出なわけだし、心配だったんだろう

いらぬ心労ばかりかけて・・・申し訳ない


「でも、いるなら素直にいるって言えばいいのに」

「隠れた努力を隠れて見守るのもいいものだよ。鈴にはわかんないかな」

「わかんないよ。のばら聞きたがってたよ。聡子の戦闘術も自分の知識として蓄えたいって」

「あー・・・ダメダメ。僕は全体的に人殺しをする為の術だから。そんなものあの素直なお嬢様には教えらんない」


言ってはいけない事を言ってしまった

もう随分時間が経過して、関係が軟化したとは言え・・・この話題はまだ


「守るための術ならさ、鈴が最適。乾の戦闘術は僕の代で記録も含めて抹消する予定だからさ・・・教えてられないの」

「ごめんなさい。聞いてはいけないことを」

「気にしないでよ。たとえ許されても、僕らが殺人を行うために訓練をしてきた過去は変わらないし、この頭には人殺しの術が知識として蓄えられて、手は感覚だけで動くようにひたすら殺すための技術を握りしめている。その事実は僕が死んで、僕じゃなくなるその日まで変わらないよ」

「貴方は、忘れたいとか」

「忘れて普通の女の子になりたいかって?その答えは否。僕は普通の女の子にはなりたくないよ」


意外な返答に、うっかり彼女を落としそうになるが、彼女自身がしっかりと私にしがみついてくれていたおかげで事なきことを得た


「ど、どうしてですか?」

「確かに両親と普通に暮らして、お嬢様として暮らすのも悪くないかもね。でも、風花ちゃんを見ているとお嬢様な暮らしも息苦しそうだし・・・それにさ」

「はい?」

「僕、涼香と夏彦に会えて変われたから。だから、二人と出会わない未来は絶対にほしくない。だから今でいいの」


歩んだ過去が口にするのも憚れるようなことだろうとも

許されたとは言え、己の罪が存在する未来を選ぶ

彼女は人の縁で変われた

それはきっと、普通では得られない特殊な縁


「そっか」

「うん」

「では、この未来をしっかり掴んだまま進みましょう」


その特殊な縁というのは、私を含めた憑者の全員が含まれる

元々、良弥を含めて彼女たちは私の敵だった

かつて敵対していた彼女や涼香とこうして共闘したり、同じ釜の飯を食べたり・・・どこにでもあるような日常を過ごしているなんて、去年の私は考えられないだろう


私も、この縁が大事だ

聡子たちとの縁が大事。貴方達が結ばれた縁のおかげで私も彼に救われたのだから

だからこそ、これからも大事にしていきたい

たとえいつか取り巻く人々の関係性や環境が変わっても

その縁を保ちたいと思うほどには、今の彼女たちは私にとっても大事な存在だ

しかし・・・


「私も聡子たちのことは大事ですけど・・・夏彦は、絶対にあげませんからね」

「頼まれてもいらない。大好きだけど、大好きだから一番幸せな場所で笑っていてほしい。僕は彼の友達として側にいることはできるけど、一番の幸せをあげることは出来ないから」

「・・・」

「だからさ、離さないでよ。掴んでいてよ。彼が一番側で笑えるのは鈴の側なんだから。泣かせたりしたら、奪っちゃうからね」

「言われなくても。生涯世界一幸せにしてやります。もう泣かせたりなんてしませんから」


一人は嫌だと泣いていた彼には、いつの間にか沢山の人や神様が寄り添っていた

私はその側で、これからも彼が一人にならないように、笑えるように手を握り続けよう

今も、眠っている彼が起きる前に手を握って

目覚めた瞬間には、おはようを笑顔で送るのだ


「聡子、もうすぐ運転室だよ!準備はいい!?」

「勿論。全速力で突っ込んで。扉は僕が破るから!」


話している内に目標が目の前に差し迫っていた

聡子に声をかけて私は翼をはためかせ・・・目的の場所へ向かって加速を重ねていく

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