2:外出のはじまり
朝食の後、食器を片付け、乾燥機にかけていた洗濯物を畳む
それから旅行の準備を終えて、あとは出発だけという状態を迎える
慌ただしいが、仕方がない
「のばら、忘れ物はない?」
「・・・なんで私だけに聞くのよ」
「鈴と俺はさっき手回りの荷物を相互で確認している。忘れ物はもうない」
「なっ、二人で確認だなんて・・・なんで仲間はずれにするのよ!一緒にさせなさいよ!」
「「だってまだのばらご飯食べてたし・・・」」
「・・・それなら仕方ないわね」
「「仕方ないのか」」
流石にご飯をまだ食べていたのばらを呼んで忘れ物確認・・・というのは気が引けたし
申し訳ないが、俺と鈴だけで確認をさせてもらった
・・・しかし、確認はリビングでしていたのだが
見ていなかったのか、のばらよ
「でも大丈夫よ。お財布さえ入れておけばどうにかなるもの。ほら、ちゃんと入っているでしょう?」
「中身は?」
「ちゃんと五千円入れて、別のところに保険を入れているわよ」
「偉い偉い。それから、ハンカチとティッシュぐらいは入れておいてくれ。大事だぞ」
「ちゃんと入れてるわよ・・・マナーよ。エチケットとして当然よ」
「酔い止めは入れた?のばら、飲んでおかないとすぐ酔うみたいだから」
「大丈夫よ。ほら・・・あ、酔い止め買うの忘れてたみたい。ケースの中空っぽだわ」
「駅前で買おうな。他に持っておきたい薬とかあるか?頭痛薬とか、胃薬とか」
「そうね・・・私は、酔い止めだけでいいけれど、酉島立夏と聡子と遊にも聞いてみましょう。メッセージを送っておくから、連絡が来たら伝えるわ」
「頼んだ」
しかし酔い止めか
一つ、確認しておこうかな
「鈴」
「どうしたの?」
「治癒ってさ、乗り物酔いには効かないのか?」
「一応効きはするんだけど・・・ちょっと厄介なの」
どうやら、空腹とか体調的な要因が酔いの原因であるならば、完全に治癒で取り除けるらしい
けれど、酔いの原因はほとんどが体質的な問題
そうなってくると・・・
「体調的な酔いであれば、治癒で取り除けるけど・・・体質的な酔いだと、根本からダメだから治癒で治せないの。永続的にかけることで酔いは緩和できるけど・・・」
「流石に大変だろうな」
「そういうこと。今回は特に薬に頼ってもらう場面が多いと思う。私だって、この中じゃベテランな部類だけどやっぱり疲労と負担はあるから」
「鈴には今回色々と頑張ってもらわないといけない。温存できるところはしっかり温存しよう」
「うん」
元々、基本的な体調不良は薬に頼ろうと全員で取り決めていた
ここから先、何があるかわからないし、治癒の使用は怪我だけに絞っておこう
肝心な時に鈴が動けなくなるのは、避けておきたいから
「そろそろ出ないといけないね。後は道中で話していこう」
「ああ。そうだな」
「戸締りは確認しわよね、防犯装置はどうなってるの?私、操作方法知らないから」
「もちろん起動済み。それと・・・」
最近は無詠唱で行えるようになった神語り
しかし今回は「彼」であった方がスムーズに行くので、意識を切り替えて神語りを行ってもらう
そして、夏彦から意識の主導権を譲ってもらった「私」は二人の神様を呼び出した
「久しぶりだな、二人とも」
『雪霞様。生まれ変わり様もお元気そうで何よりでございます』
私が呼び出したのは、かつて私を守ってくれていた二人の男神
守り神の零条と一年だ
夏彦だとこの二人は動かせないから、私がこうして表に出て二人にお願いをしないといけない
二人を呼び出したのはこの家を、鈴が幸福でいられる場所を守るためだ
生まれ変わりで夫である男の身体を乗っ取る形ではあるが・・・主としての務めをまだ果たせることを喜ばしく思うよ
「零条、一年。話は以前した通り。今日から憑者神を探しに夏彦と鈴が家を離れる。一週間ほど、この家のことを守って欲しいのだ。できるか?」
『主命とあらば』
『もちろんでございます』
「鈴、こんな感じで家のことは任せた。家のことは気にしなくていい。二人がしっかり守ってくれる」
二人に家のことを頼み、かつて私のお付をしてくれており、私の来世の妻である鈴に声をかける
彼女に、少しはかっこいいところを見せられただろうか
そんな心配もどうやら杞憂で終わってくれるらしい。鈴は微笑んだまま口をゆっくりと開いた
「雪霞様。ありがとうございます」
「ああ。これぐらい当然だ」
「・・・」
「・・・」
鈴がじっと私の方を無言で見つめてくる
そんなに見つめられたら非常に照れるではないか
しかし、鈴はまだまだ無言で私を見つめ続ける。何を言いたいのか私にはわからない
「・・・」
「・・・鈴、先ほどから一体何をしているんだ。言いたいことがあればちゃんと言ってほしいのだが」
「では一つ。・・・雪霞様こそ、早く夏彦を返してください。夏彦の心も体も全部私のものなんですから。」
「だだだだだだだだだだだってよ、夏彦!早く戻ってあげなさい!」
入れ替わって、深く沈んだ俺の意識は鈴が告げた言葉によって動揺した雪霞によって一気に表層へ誘導される
「・・・」
「・・・夏彦?」
入れ替わったことで、俺の意識の情報が体の全てに反映される
頭に熱が上る感覚も、震える口元も、熱を帯びた頬も・・・全部だ
「い、行こうか鈴、のばら。そろそろ出ないと!」
「あ、うん!行かないとだもんね!」
「大変ね。貴方達・・・」
無理やり思考を切り替えて、外出準備を整える
しばらくしていると、感情も落ち着いていつもどおりになった・・・と思う
「それじゃあ、零条さん、一年さん。留守はお願いします」
『・・・言われなくても。雪霞様の主命なのだからな。生まれ変わり。お前のためではないからな』
『お前に言われなくても主命は果たす。お前ではなく、雪霞様のな!』
「は、はあ・・・」
零条さんと一年さんと軽く会話を交わすが、二人の反応は芳しくない
どうやら、二人は俺のことは認めてくれていないらしい
どうやら、下々とは付き合いたくないそうだ。神様にも色々な考えがあるらしい
それは受け入れる所存ではいるのだが・・・
こうして、明確に拒絶されるのは、辛いな
まあ、雪霞が頼んでくれているし、家を悪いようにはしないだろう
むしろきちんと守り抜いてくれる。主命は果たす・・・二人はそんな神様だ
「夏彦、夏彦」
「なんだ」
「少し借りますね」
「あ、ああ」
いつもの方法で、鈴は俺から竜胆を借りていく
理由は俺にもわかる。二人を視る視界を得るためだ
「お二人とも、随分性格悪くなりましたね」
『お主こそ何年も生きている割にはちんちくりんのままだな、鈴』
『態度もちんちくりんのままだ。それに、我らが人の子を嫌うのは当然だろう。お前も覚えていないとは言わせない。あの神堕とし』を」
「まあ、そうですけど・・・」
『我々はもう、雪霞様以外の願いは聞き届けないとあの日、誓いあった』
「そうですか」
『お前は特別だが、後ろのとは語ることはない。家のことは我々に任せておけ。必ず守り抜いておく』
「・・・わかりました。お願いしますね」
二人の神様と鈴はたしか面識がある
当時の鈴は視えていなかったが、二人は小さな頃の鈴もきちんと見ていた
だからこそ、まだ話をしてくれるのだろう
共に同じ主へ忠誠を誓った仲として
「ありがと、夏彦」
「いいって。でも、また返すのか?もう竜胆と一緒にいたほうが・・・」
「ダメ?」
「・・・鈴がいいなら、別にいい」
竜胆が再び俺のもとに戻ってくる
なんだ竜胆。そんなニヨニヨして・・・ああ、雪霞まで
何が面白いと言うんだ。全く。見世物じゃないんだけどな
背を向けて、玄関へと向かった俺達は靴を履いた後にいつものあれを告げる
これを言わないと、外出した気にならないから
「「「では、いってきます」」」
いってらっしゃいは返ってこない
仕方はないけど、当然だ
だって、家の皆で出かけるのだから。いってらっしゃいが返ってきたらおかしい
二人の守り神に家を任せ、俺たちは我が家を後にする
俺がかつて夢見て、理想を超える形で夢を叶えた家もまた、俺たちの背を見送ってくれていた




