9月19日→9月20日:親子の約束
沢山の縁の糸を得て、様々な人に出会い、色とりどりの未来を描ける子になってほしい
絵に書いたような、幸せな未来を掴める女の子でいてほしい
そう願いを込めて、私達はあの子の名前をつけた
「・・・立夏お姉ちゃん」
「どうしたの、遊ちゃん。眠れない?」
「少しね」
「ホットミルクいれてあげよっか?」
絵未の寝顔を見ながら眠れない夜を過ごしていた私のもとに、遊ちゃんがやってくる
どうやら彼女も眠れないらしい
心が落ち着くように、飲み物の提案をしてみると同じように寝室に訪れた人物がもう一人
「遊ちゃん、立夏さん。どうしよう眠れない。話し相手になって」
「聡子ちゃん・・・もう、二人揃って早く寝ないといけないのに、どうして夜ふかししちゃうの?気持ちはわかるけどさ」
今度は聡子ちゃんがやってくる
明日はいよいよ夕霧に向かう日
夏彦君と鈴とのばらの三人は巽家にそもそもいるから、三人揃って行動をするみたいだ
なので私達も同じように、三人で行動をすることにした
足並みを揃えて動けるように、前日から聡子ちゃんと遊ちゃんは我が家に泊まり、朝から一緒に動き出すことにしている
「緊張というか、不安というか・・・眠ろうとしたら、色々とごちゃごちゃになっちゃって・・・」
「遠足に浮かれている子供じゃないけど、落ち着かなくて眠れない」
「私も、全然眠れなくて絵未の様子をずっと見てる。また留守番させちゃうからさ・・・寂しい思いさせちゃうなって思って」
私の外出や締め切り前の缶詰が多いことを理解しているのか、絵未はこうしておばあちゃんの家に長期的に預けられることに対して文句は何も言わない
寂しいとも言わない
子供らしい我儘も、困らせるようなことも全然しなくって
よく言えば、聞き分けのいい子
悪く言えば、子供らしくない子
・・・やっぱり、どこか無理というか、親を気遣わせている部分があるよね
「おかーさん?」
「あ、絵未、起こしちゃった?」
「んー・・・」
少し、騒がしかっただろうか
絵未はぼんやりとした表情で布団から抜け出し、ベッドサイドに座る私の横に腰掛けた
それからまだまだ眠たそうに大きなあくびを一回
そのまま頭を前後に揺らして、倒れて寝そうになるものだから、私はさっと絵未の身体を抱き上げて、自分の膝の上に座らせる
うとうとする絵未は小さくはにかんだ後、今度は私の手を握りしめる
随分大きくなった手のひらは、彰則のように私の手を包み込めるほどではないけれど
かつてのように指だけではなく、手のひらをしっかり握りしめることができていた
「おかあさん」
「どうしたの、絵未」
「絵未ね、寂しくないよ」
「・・・無理しなくていいのよ」
「じゃあ、今回だけ。今回だけは、寂しくないよ」
「今回だけ?」
「ん。いつもはね、寂しいよ。でも、今日は・・・寂しくないの」
「どうして?」
「おばあちゃんがね、お母さんはお父さんを迎えに行くんだよって教えてくれたから」
「・・・おばあちゃんが」
お母さんめ・・・黙っておいてって言ったのに
けど、知られてしまったからにはしょうがないよね
「そうだよ。お母さん、遊ちゃんや聡子ちゃんたちと一緒にお父さんを探しに行くの」
「本当?一緒に帰ってきてくれる?」
「うん。絶対に一緒に帰ってくるからね」
指切りをして、一つの約束を結ぶ
お父さんを見つけて、一緒に家に戻る
当たり前のようで、遠ざかった日常を取り戻す約束は、私と絵未の間にしっかり結ばれた
「お父さんとお母さんと、また一緒にいられるなら、絵未、待てるよ」
「うん。絶対にまた一緒にいられるようにするからね。約束よ」
「ん・・・」
そこで眠気のピークが来たのか、絵未はそれからゆっくり眠りの中へ落ちていく
完全に眠ったことを確認した後、聡子ちゃんと遊ちゃんに手伝ってもらって絵未を布団の中に寝かしつけた
「・・・最低な親よね。子供にこんな約束をさせるなんて」
「一緒にいられるようにする約束?優しい約束だと僕は思うけど」
「ありがとう聡子ちゃん。でも、普通はこんな約束をするほうがおかしいと思わない?」
近くにいても彰則と私が側にいる「当たり前」を、絵未にあげられない
離婚とか、死別しているとか、病気で入院をしているとかなら話は別だけど
私と彰則はまだ夫婦であり、絵未のお母さんで、お父さんだ
寂しい思いをさせるのも、こんな約束をさせるのも
・・・普通の親では、ありえない話
「立夏お姉ちゃんはさ、絵未に寂しい思いをさせている自覚はあるんだよね」
「うん」
「だから転職しようとか考えたんだよね」
「そうだよ」
「東里お兄ちゃんはちゃんと立夏お姉ちゃんの後ろにいる絵未のことも考えてくれるだろうから、これからは大丈夫だと思う。忙しい時もあるかもだけど、絵未に寂しい思いはもうさせずに済むと私は思う」
「そう、だね」
「だからさ、立夏お姉ちゃんが後やることは、彰則お兄ちゃんと一緒に絵未の側にいることだけ。親失格とかグジグジ言ってる暇あったら、私達の能力ちゃんと強化して」
「ゆ、遊ちゃん・・・流石に言い過ぎな部分が・・・」
遊ちゃんは絵未を起こすような声で私を強く諭してくれる
ちょっといらってするのは、自分で悪い部分が理解できていて、それを指摘されたから
そうだよ。グジグジ言っている場合じゃない
もう明日の夜には夕霧行きの列車の中だ
悠長に、呑気に、構えている場合じゃない
「立夏お姉ちゃんが夕霧で出来ることをちゃんとやって。私も能力を臆せず使う。聡子お姉ちゃんだって、私達をしっかり守ってくれる!のばらお姉ちゃんも、鈴お姉ちゃんも、夏彦お兄ちゃんも、皆、自分に出来ることをやるから」
だから、私も自分に出来ることをやってほしい
遊ちゃんの願いはしっかり私の心の中に落ちていく
「ありがとう。うん。もう悩まないよ。ちゃんとやるから。暴走しないようにコントロールするんだよ?」
「言われなくても」
「二人共、荒く叩いて伸びるタイプ・・・?僕はそのノリにはついていけないな・・・」
聡子ちゃんの困惑する声を背に、私達は明日に備えて寝る準備を整える
色々言い合っている暇はない
さっさと寝て、さっさと明日に備える
それが今、私達にできることなのだから
・・
午後三時。玖清駅前にて
絵未をお母さんに預けた後、駅前のお店を見て回っていた私達は、定期的にメッセージアプリの通知を気にしていた
朝から鈴に「一緒に駅前を回らない?」と連絡をしたのだが、一向に既読がつかなかったのだ
鈴は朝五時には起きているはずなのに・・・と考えつつ、仕方ないので私と遊ちゃんと聡子ちゃんの三人でお店を見て回っていた
今は、カフェに入って三時のおやつ
ここでも話題になるのはまだここに来ていない三人のこと
「あ、やっと夏彦に連絡がついた。今ついたって」
「十二時に起きたんだよね。どんな生活してるの夏彦お兄ちゃんたち・・・」
「鈴たち、昨日三人で徹夜ゲーム大会をしてたって」
「呼んでくれたら良かったのにね」
「「ねー」」
三人で頼んだケーキを頬張りながら、ここにやってくるであろう三人を待つ
「遊ちゃんのモンブラン美味しそうだね。私のマスカットと一口交換しようよ」
「いいよ、せっかくだし、聡子お姉ちゃんのお芋ケーキも一口頂戴?さっきそれと悩んでてて」
「勿論。三人で分けっこしよう。僕も二人のケーキ、美味しそうだなって思って・・・食べてみたいからさ」
到着するまで、三人でゆったりとした時間を過ごしていく
出発のベルは、もうすぐ鳴り響く
その時、私達は開ききった夕霧の道を抜けて
同僚を迎えに町へ
内に潜む神と因縁がある町へ
父親が忠告した神が嫌う町へ
過去へ決別を告げるために町へ
自分の成長を見せつけるために町へ
そして、愛した夫を取り戻しに町へ
夢と願望が支配する、神に忌み嫌われた辺境の地へーーーーー憑者神たちは旅立っていく
そこで見るのは現か夢か、幻か
今の私達には、知る由もない




