9月19日:マリモ姉妹は寝かさない
悪夢の始まりは、思えばあの贈り物だったと思う
『そんな、アカンコ・・・私と魔物を率いて世界征服をするはずだったのに!どうして!』
『ごめんなさいクシロ・・・でも、あたしは・・・』
「・・・」
のばらが死んだ目でボタンを押しつつ、テキストを流していく
ねっとりとした二人の女性の声は、俺たちが眠るのを現在進行系で阻害し続けていた
どうしてこうなったのか、改めて振り返っていこう
あれは、今日というか、昨日の退勤前のことだ・・・
・・
「夏彦、夏彦」
「なんだ覚」
「明日は遂に夕霧だな」
「ああ。道中はかなり厄介みたいだし、色々備えておきたい。今日はゆっくり休むよ」
「でもまあ、肩の力入りすぎじゃね?お前が倒れたら元も子も無いし、息抜きが出来るものをやろう」
覚はニヨニヨしつつ、俺に大きな紙袋を押し付けてくる
結構重量のあるもののようだが・・・これは?
「・・・なんだこれ」
「お前知らねえの?曇天堂swatch。ゲーム機だよ」
「お前も知っての通り、俺はゲームとかやらないからな・・・」
「それをいうなら俺もだよ。お前らが息抜きできるように買ったからさ。ぜひともプレイしてくれ」
「あ、ああ・・・しかし、お金結構かかっただろ。こんな立派なもの・・・ありがとう。今度代金払うよ。いくらだったか教えてくれ」
「いや、素直にタダで貰っとけよそこは」
「流石にゲーム機をタダでもらうのは気がひけるというか」
「俺の餞別だと思って、気にせず受け取ってくれ・・・取ったはいいけどいらないから。俺も恵ちゃんもゲームしないから・・・」
「覚、本当にこれ買ってきたのか?」
「ああ。買ったよ」
「ゲーム機をゲーム屋で買ってきたわけじゃなさそうだよな。その口ぶり」
「・・・景品を取るための弾を買わせていただきました」
「なるほど。射撃の景品か・・・獲れるんだな。てか嘘つく必要あったのか?」
「無いけど、たまには見栄張りたいじゃん・・・」
いや、射撃でゲーム機なんてそうそう獲れるものじゃないだろう
絶対後ろにおもりとかついてそうだし・・・
「見栄なんて張るなよ。そうそうできることじゃないんだから。凄いじゃん」
「・・・今日は素直に褒められてやる。その代わり、これはきちんと贈り物として受け取れ」
「ああ。ありがとう。覚」
そしてゲーム機とソフトを受け取った俺は、そのままそれを家に持って帰り、鈴とのばらの三人で開封した
ソフトの名前は「ハイパーマリモシスターズ3」
アカンコ・マリモとクシロ・マリモの、姉妹でもなんでも無い二人の女コンビは俺たちを眠れない悪夢へと誘っていく
・・
さて、時は戻って午前三時
「・・・鈴、俺まだ風呂に入れていないんだが。そろそろ入ってきてもいいか」
「だめ・・・ぐぅ」
「寝ちゃダメよ鈴。ほら、アカンコとクシロが世界征服を企み始めたわよ」
「・・・私が少し眠っている間になにがあったの?」
「クシロがプランクトンに振られて、全てに絶望して闇落ちした」
「意味がわかりません・・・」
「・・・あ、選択肢が出てきたわ。どうする?」
最初は、俺でも知っているような横スクロールアクションゲームだった
のばらを中心に、鈴と交互にマリモ姉妹を操作しながら楽しんでいたはずなのだが・・・
気がつけばご覧の通り。選択肢が出現するようなシュミレーションゲームに早変わりだ
パッケージ裏の情報だと、これが本題らしい。むしろアクションはおまけだとか
俺たちもアクションパートが終わったら終われば良かったのに、プランクトンが意味深な事を言うものだから続きが気になってしまい・・・
現在に至るというわけだ
「「諭す」しかないだろ」
「そうね。下の「罵倒する」は私も無謀だと思うわ」
「下の罵倒はここどこだと思ってんだって感じだよな。王宮だぞ王宮。敵の根城」
「正気じゃないわよね。下の選択肢を選ぶなんて。死ぬわよ」
のばらが器用にコントローラーを操作して、選択肢を選んでくれる
『アカンコ・・・』
『何度もいうが、クシロは私の妹なのだ』
『いくら好きだと言われようが、受け入れるわけにはいかないさ』
『プランクトン・・・』
『プランクトン様、お話中申し訳ないのですが・・・』
「誰だっけこいつ」
「ええっと・・・こいつはトビウオ。オホツク王国の大臣だ」
「プランクトンの右腕ポジションね。うざそうな見た目してるわねこいつ」
「顔面魚だから余計にウザさが増してる・・・」
説明書片手にキャラクターを覚えていく
マリモ姉妹ことアカンコとクシロはグラマラスな美女なのだが・・・
他が適当すぎる。リソース全部姉妹につぎ込んだのか?と思うレベルで適当すぎる
プランクトンはそのままプランクトンで、会話シーンも何故か虫眼鏡が常にワンセット
トビウオはそのままトビウオ。違いと言えば歩いているだけのトビウオなのだ
他の登場人物だって同じ感じ
マリモ姉妹だけ別のゲームから来たキャラクターじゃないかと思うぐらいに、彼女たちは思いっきり浮いていた
「てか、よくよく考えればこのプランクトン風情があのクシロの兄って信じられないわよね。そもそも種族が違うじゃない」
「そこは、ご都合主義というやつじゃないのか?」
「そういう設定なんだよ。設定設定」
「けど、それで説明がつくような話でも無いと思うのよね。プランクトン王×小エビ女王=プランクトン王子は理解できるけど、プランクトンと小エビからなんで人間が産まれてるのよ。養子であれば納得なんだけど」
のばらがボタンを押した瞬間、噂のアイツが出てくる
そう、小エビ女王だ
一応、クシロとプランクトンの母親であるらしいのだが・・・とてもじゃないがクシロを産んだエビとは思えない
しかし・・・
『我が身から産まれたクシロをこれからもよろしくね、アカンコ』
「・・・小エビから産まれてるのよね。クシロ」
「深く考えるなのばら・・・これは設定だ。設定・・・!」
深く考えたら負け。このゲームをプレイする上で俺とのばらが覚えた、唯一の楽しみ方だ
何も考えずに雰囲気を楽しんでいれば、だいたい面白く思える
・・・ツッコミどころが満載な分、余計にな
「しかし鈴。俺はそろそろ風呂に入りたいんだが」
「んー?プランクトンの海に飛び込みたい?」
「どんな解釈なんだ・・・汚すぎて嫌なんだが。もう眠いんだろ。ベッドに連れて行ってあげるからちゃんと寝てくれ・・・」
「やー・・・一緒にいるの」
眠たげな鈴は先程からずっと俺にもたれかかる形で画面を見ていたが・・・時間が経過する度にどんどん彼女は目を細めていく
うとうと、うとうとと何度か首を上下に振って、定期的に首を振って意識を保とうとするのだが・・・またうとうとと頭を揺らす
けど、流石にもうきついだろうと思って・・・俺は鈴の身体をしっかり支えて、寝やすいようにしてあげる
鈴が寝てから風呂に行こう。うん。もうベタベタする感覚に耐えられない
はやくさっぱりしたい
「そう言ってくれるのは嬉しい。でもな、今日は倉庫に籠もっていたから汗が酷いんだ・・・早くさっぱりさせてくれ」
「汗臭いの好き・・・すん」
「鈴ぅ!?」
「いちゃつくのは勝手だけど、他所でやってくれない?」
無表情でテキストを送り続けるのばらにそう言われた俺は、静かに鈴をあやし始める
・・・のばら、凄い集中力だな。むしろ怖い
なんだかんだで続きは気になるが、そろそろ寝たほうがいいんじゃないのか
夕方からとは言え、今日はもう夕霧に向かうわけだし・・・
「アカンコは一体どうなるのかしら・・・」
しかし、俺だって彼女のことをどうこう言える立場ではない
続きが気になるのは俺も同じ
鈴も何度か寝かかっているが、定期的に画面に目を向けて「マリモももも・・・」と呟いている
そう。ここまで来てしまったら俺たちはアカンコとクシロの行く末を見守らなければいけない
それが、このゲームを起動させてしまった者の使命と信じて・・・!
・・
朝の日差しがリビングに入る時間帯
やっと、俺達はアカンコとクシロの終わりにたどり着いた
「私、なんでこんなクソに夢中になっていたのかしら。まさかアカンコとプランクソンが政略結婚なんて・・・」
「とんだ時間の無駄遣いだったが・・・まあ、なんだかんだで楽しかったな。こういうのは悪くないが
「「次は加減してやろう」」
「しゅぴぃ」
エンドロールを見終えて、タイトル画面に戻ったのを見届けた俺達はゲームの電源を切る
それから俺は鈴を抱きかかえて、のばらと共に寝室に向かい、そのまま布団に入る
こんな日に限って徹夜するなんて、予想外だったが・・・まあ悪くはない
「いいの、夏彦。お風呂」
「起きてから入る」
「ずぼら」
「いいじゃないか。もう鈴が離してくれない」
「すぅ・・・」
「限界だったのね。なんだか意外」
「ああ」
眠る彼女の頭をそっと撫でて、俺達はそのまま目を閉じる
朝に眠るのは変な感覚だ
けど、今日だけはいいだろう
それがきっと、大事な鍵となるのだろうから




