9月17日②:神様の不調
「実は、夏樹さんから一つの相談を受けてな。神絡みの相談だ」
「彼女、見えるんですか?」
「うっすらとみたいだがな・・・」
新橋夏樹さん。彼女は神栄市の隣にある永海市にある新橋神社の巫女さんだ
鈴の神堕としに力を貸してくれた存在でもある
仕事柄見える人かもな、とは思っていたけど・・・うっすらと見えていたらしい
「声は聞けないらしいが、どうやら新橋神社にいる神様が体調不良だそうだ」
「・・・神様にも体調不良の概念はあるんだな」
あの神社にいる神様の名前は花菱
俺がかつて世話になった雛罌粟のお兄さんである神様は、身体が弱いとかそんな様子ではなかったのだが・・・
「年に数回あるみたいだぞ。あまりにも夏樹さんがうるさいものだから、小影やお兄さんが記録をつけていたみたいなんだが・・・これ」
拓実先輩は鞄の中から一冊の手帳を取り出し、それを俺に手渡す
中身を見ていいか確認をとった後、俺は手帳を開いて中を見ていく
どうやらこれが花菱さんの体調不良を記録した手帳のようだ
「・・・あれ、これって」
「恵さん、何か心当たりあるのか?」
「調べていた情報とだいたい一致するなって」
「どんな情報なんだ?」
「・・・夕霧の道が開く周期。十年分の記録をまとめてみたのですが・・・そのタイミングっていうのはランダムで、規則性とか見つけられなかったんです。でも、この手帳が示す「神様が体調不良だった期間」と「夕霧の道が開くタイミング」はほぼ一致しているんです」
「ほぼってどういうことだ?完全に一致しているわけじゃないのか?」
「神様の体調不良が始まるのは夕霧の道が開く三日前。閉じたタイミングで体調不良は治っているけど、開くタイミングは一致してないみたいなんです」
恵さんと舞花が調べた夕霧の道が開くタイミング
夏樹さんが訴える花菱の体調不良
そして、良弥さんが教えてくれた神から忌み嫌われた土地・・・
全部、関係ある気がするんだよな
「あれじゃないのか?三日前から何らかの予兆を感じて、神が体調を崩す」
「その可能性も俺はあると思う。なんせ花菱の体調不良は全部夕霧の道が開く三日前からだし・・・俺の方でも気になる情報を得ているんだ」
そこで俺は二人に良弥さんから聞いた夕霧の話をしておく
「神様から嫌われた土地ねぇ・・・」
「信じがたい話ですけど、三人から儀式の話を聞いていたら納得しかないですね。あんなやり方じゃ、死んだ人たちも浮かばれないだろうし、神様だって近寄りたくないと思います」
「ああ。実際に儀式中に死んだ人たちは浮かばれず、怨嗟を持ってこの世を漂っているそうだ」
それから考えるに・・・道は三日前から少しずつ開いているのかもしれない
そこから、外へ幽霊が飛び出て・・・外にいる神様にも害を及ぼしている
もちろんそれは憑者神も例外ではないと思うが・・・
「良弥さんの内側にいた神様は夕霧滞在時に調子が悪かったらしい。恵さんと舞花は体調不良があったりは?」
「私は特に大丈夫。聡子と涼香もピンピンしてるよ」
「私と覚さんも普段と同じです。東里さんや風花ちゃんも普段と変わらずみたいですよ」
「俺と鈴、立夏さんと遊ちゃんも普段どおり。俺たちの場合は夕霧に足を踏み入れない限り体調不良の影響はないのかもな」
「それは安心ですけど、夕霧に行った後。夏彦君の負担は大きそうです。神語りで全員を通常状態に保つだなんて・・・」
「大変だけど、俺にできることはこれぐらいだから」
「あまり無理しないでくださいね。鈴、泣いちゃいますよ」
「わかってる。心配ありがとうな、恵さん」
心配をしてくれた彼女にお礼を言いつつ、もう一度拓実先輩に向き合う
彼の話はまだ終わっていない
「それで、花菱の体調不良の原因はおおそよ検討が付きましたけど、新橋さんは俺に何をしてほしいのでしょうか?」
「・・・そこは聞いてないな。まあ、体調不良の原因も解決方法もわからない状態だったし、それを明らかにするために相談をしたかったのかもしれない。お前、神様と話せるし。事情を聞けるかもって思ったのかも」
少し遠い目をしつつ、ふと疑問を抱く
彼女の隣にいたあの人物は、人外じゃなかったか?
「拓実先輩、その、小影さんは見えないんですか?見えそうな雰囲気がするのに」
「あの駄犬がわかるのはどうやら存在している空気だけみたいでな。例外は少なからずあるらしいが・・・」
「日向さんみたいに強い神様とかであれば見えるのかもしれませんね。実際に見えていましたし。ただ、私達の内側にいるような神様や神社にいるようなごく普通の神様であれば視界に捉えることができないのかも」
「かもしれないな。しかし、こんな肝心なところで役に立たないのはどうなんだろうな」
拓実先輩が面倒くさそうに息を吐く
確かに小影さんは異形や儀式とか、こちら側の知識は膨大みたいだったけど・・・
まさか見えなかったとは・・・なんか意外だ
「ちなみに一葉さんは見えるのでしょうか?」
「いや?全然。俺どころか夏樹さん以外の全員が見えない。最も、視界を作り出しそうな男はいるけどな」
「ああ。確かに・・・でも流石にできるんですかね」
「あいつならやってくる。なんせタイムマシンどころか、人造生命だって作り出せるんだ。幽霊を見る目なんて、昼寝しながらでも作るだろうさ」
その光景は、想像に容易い光景だ
うちで今作っている掃除機も、話題の渦中にいる存在・・・朝比奈さんが作ったものだ
彼の技術力は正直現代のそれではない
市販のそれとは全く違うし・・・まさかの電力不要の自家発電スタイルだし
彼ならば、特殊な目でさえも人工的に作り出してしまうだろう。そんな予感どころか確信さえ覚えられる
「しかし、お前が夕霧にねぇ・・・何しに行くんだ?」
「日辻さんを探しに行きます・・・」
「羊を探す?二階堂さんは確かに猪とか捌きそうだなとは思ったが、遂に羊肉にまで手をだすのか?しかし夕霧に羊なんて生息してたか・・・?」
いや、その羊じゃないと言いたかったが・・・そうだな、羊肉
食べたこと無いなぁ
『夏彦〜美味しい羊さんですよ〜』
うん。笑顔で羊肉を持ってきてくれる鈴は想像に容易いな
「お、俺は少量で・・・いい匂いだな・・・くっ・・・!」
「ふへへ、鈴・・・こんなにお肉食べないよ・・・」
「お前らしっかり胃袋確保されて、飯の話になるとイマジナリー二階堂を召喚するほどなのか・・・トチ狂ってんな」
「「いやいやそんなことは」」
「よだれ垂らしながら言われても説得力無いんだよ。ほら、紙ナプキンやるからさっさと拭け」
二人で紙ナプキンを受け取った後、若干出ていたよだれをきちんと拭き取る
食べたことがない料理の話になると、調理している鈴が頭の中をよぎるものだから・・・たまにこうして粗相をしてしまう
どうやらそれは恵さんも舞花らしい
・・・例に漏れなければ、聡子も涼香ものばらもあの状態になるのかもな
たまにお弁当をもらう程度だった恵さんがこうなるなら、毎日食べている面々は一瞬で終わりそうだ
身内だけならいいけど、外で見せるのは流石にまずい。気をつけないと
「・・・日辻は動物の羊じゃなくて、人名なんですよ」
「羊じゃなくて、日辻。夕霧の日辻といえば、あの夜想のオーナー一家か?」
「拓実先輩、何かご存知です?」
「・・・拓真が取材で行ったことがあるんだ。けどあいつ、知っての通り一人で外出できないだろう?」
「あ、そうですよね。足・・・」
そうか。恵さんは俺が小さくなった時に拓実先輩の双子のお兄さんとは面識があるのか
彼の足が動かないことも知っているらしい。話が早くて助かる
「同行者として、お前を小さくした薬を作った蛍がついて行ったんだ。ここから先は彼方さんに「将来必要になるわよ」と言われて教えられた情報だから、俺が二人に直接聞いた話ではないんだが・・・二人共、変な部分が共通していたらしい」
「そりゃあ、二人で行動を共にしていたんでしょう?共通する部分しかないとおもうのですが・・・」
「丑光さんの言うとおり。俺も最初そう思ったさ。けど、二人揃って夕霧とここを行き来する列車内の記憶が一切ないって言われたら・・・異常を覚えるだろ?」
「行きも帰りもですか?」
「みたいだな。そして二人揃って「醒めたくないほど優しい夢」を見ていたそうだ」
「ぐ、具体的にはどんな感じの夢なのでしょうか」
「うちの馬鹿は名誉の為に黙っておく」
あー・・・これそうとう酷かったやつだな
鈴の話だと、ご主人様に傾倒しているみたいだし
名誉の為と聞くと、相当酷かったんだろうなぁと思うしかないようだ
「蛍は母親が亡くなった後に、彼方さんと冬夜に拾ってもらった日の事をずっと見ていたらしい。彼にとって一番幸せだった時期の夢。終わらない幸福の夢。行きも帰りもだったから正直気が狂いそうだったってさ」
「そんなに・・・一応、詳細は置いておいて、拓真さんはどんな夢を」
「性欲と欲望のフルセットと言えば、その狂気っぷりが理解できると思うが・・・もちろん、あくまでも夢の話。馬鹿と彼方さんは現実でそんな関係になっていない。そんなことになったら冬夜は色々な意味で死ぬ」
「そうでしょうね・・・」
しかし、やはり夢か
夕霧に夜想は必要不可欠。列車から夢の手は差し伸べられている
末恐ろしいな、ただ列車に乗るだけでも術が作用しているなんて
「話をまとめると、夢の種類にも二種類あって・・・本人の欲が反映された場合と、一番の思い出が繰り返される場合の二種類の夢がランダムで見られるといった感じなのでしょうか」
「そういうことだな。それから、夜想号で検索したらいくつか出てくるけど・・・夕霧へ向かったら昏睡して帰ってきて、未だに目覚めない者を始め、行方不明者も多く出ている。お前が関わるのなら能力者が関わっているのは間違いないが、とにかく気をつけろ」
「はい」
「ところで一馬も虎徹も拓実もだけど・・・お前ら、注文何にすんの?話ばっかで注文ないのはダメだぞ。流石にそろそろ追い出そうと思うんだがいいか?追い出していいか?」
「僕はざるうどん」
「俺はとろろ」
「俺は海老天」
「俺は・・・ミニかけで」
「私はごぼう天で」
「私は・・・ええっと、そうですね。ここは、きつねで」
「あいよ」
彼から忠告を受け終わる頃、玲先輩が悲しそうな表情で注文を催促してきた
悪いな、と思いつつ六人揃って同時に注文を入れていく
昼休みは本来ならば終了の時間だが・・・今日は休日だし、適当に行こうと三人で言い合いつつ、お昼の時間を過ごしていった




