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夜想の見た夢。 −憑者神と神語りの夕霧夢幻旅行記−  作者: 鳥路
序章:夕霧に向かう前の20日間は
18/43

9月17日①:お昼時の三人組

「夏彦先輩。資料をお持ちしました」

「ああ、舞花か。今日もお疲れ様」

「いえいえ」


今日は祝日だが・・・俺たちは元気に休日出勤だ

冬月財閥という、世界でも有数の規模を誇る財閥から制服を依頼された俺たちは、今年と来年はそれにかかりきりになる

失敗したら大損害どころの話ではない。リュミエールはもう商売はしていけないだろう

冬月を満足させられなかった企業というレッテルは色々なところに影響してしまうのだから


しかし成功できれば、冬月の後ろ盾を得られる

安定した契約に、成功して得られる名誉

それらをリュミエールにもたらすために、全社員が一丸となって戦っているところだ


今は、気を抜けない大事な時期だ

そんな時期に彰則さんを探しに行っていいと言ってくれた東里や、ここは任せてくれと声をかけてくれた育休中の良子や事務課を始めとする社内の面々には感謝してもしきれない


「もうお昼だな。今日は鈴の弁当もないし、どこかに食べに行こうか」

「いいですね。あ、今日は恵先輩も上にいるんです。三人でいきません?」

「勿論。しかしどこに食べに行こうか・・・」


恵さんにお昼を食べに行かないか?とメッセージを送ると、すぐに「行きます!」と返事がくる

事務課で待っていると返事を出した後、俺と舞花はどこへ行くか考えていく

今日は食堂も開いていない

なので自然と外食なのだが・・・


「私、まだこのあたりのことを何も知らなくて・・・外食もしたことがないので」

「そっか・・・」

「おまたせしました!」

「いや。全然待ってない。今日は覚、一緒じゃないのか?」

「家でのんびり寝ています・・・あ、起きたみたいです。メッセージにおはよーって今更送られてきました。全く。こんな時間まで寝て、ねぼすけさんなんですから・・・」


少し嬉しそうな表情でメッセージの返事を入力している恵さんを見て、舞花と顔を見合わせる

俺と舞花の考えていることは同じらしい


「仲良しですね、恵先輩?」

「仲良くやっているみたいで安心したよ」

「えっ・・・あっ・・・はい」

「覚は適当さが目立つ奴だけど、ああ見えてしっかりしないといけないところはしっかりしているからさ。これからもよろしく頼む」

「はい!」


心から嬉しそうに返事をしてくれた恵さんに、俺も釣られて笑みが溢れる

一目惚れ、なんだよな

あの女癖の悪い覚が七年間一人の女の子を一途に思い続けたってだけでも奇跡みたいな部分があるのに・・・まさかこうして付き合うなんて、当時の彼も、当時の彼に助けられた彼女も想像していなかっただろう

覚自身も幸せそうにしていたし、彼女も幸せそうだ

これからも続いていてほしい。そのために俺ができることがあれば全力で手を貸したい

・・・二人には先祖と同じように、智と祝のようには、なってほしくないから


「ところで、恵さん。お昼どこに食べに行きたいか希望あるか?」

「そうですね・・・この時間だしどこも混んで・・・あ」

「どうした?」

「あのうどん屋さんはどうでしょうか?あそこなら人が少ないでしょうし」

「小麦屋か・・・ああ。構わない」

「この時間でも人が少ないんですか?」

「「知る人ぞ知る名店ってやつ」」

「な、なるほど・・・!」


そういえば、舞花はまだ行ったこと無いんだよな小麦屋

玲先輩がいたら紹介しよう。うちの、新しい後輩を

そんな事を考えながら、俺達は会社を出て、人通りの少ない道を歩いてそこへ向かう

知る人ぞ知る隠れたうどん屋。小麦屋には今日も常連しかいない


・・


「らっ・・・うお、夏彦か。久しぶりだな」

「お久しぶりです。玲先輩」


江戸島玲。俺の高校時代の先輩・・・だけど年齢的には同じ彼は今日も元気に働いていた

そして、店の奥には見慣れた三人の影がある

まさかこんな日に会えるだなんて


「夏彦。今日は祝日だぞ。なんで仕事してるんだ」

「そういう生き物ですので。拓実先輩はお休みですか?」

「・・・俺も仕事帰りだ」

「教師も大概ブラックですよねぇ・・・」

「これでも少しマシになったほうなんだよ。部活を外部に任せるようになって、教師の負担は若干減ったんだ」

「それでもきついんでしょう?無理はしてませんよね」

「大丈夫。君よりは無茶をしていないよ」


ここにいるとは思っていなかった予想外の人物

一葉拓実と九重一馬。玲先輩と同じく俺の先輩であった二人は私服姿で小麦屋に訪れていた

二人共仕事中はしっかりスーツを着込んでいるから、オフだって言うのが視界から伝わってくる。羨ましい・・・

・・・もっとも拓実先輩は仕事帰りみたいだが


「・・・九重さん、ですか?」

「うん。そうだけど・・・夏彦、彼女は?丑光さんはあの日軽く話させて貰ったから知っているけれど・・・」

「金髪の子は初対面なので、誰なのかそろそろ教えてほしいんだが」


そういえば、二人は舞花とは初対面に当たるんだよな

きちんと紹介しておかないと


「ああ、紹介が遅れましたよね。彼女は虎野舞花。うちの新入社員で、能力者としては同じ立場です」

「は、はじめまして・・・」

「虎野さんね。これからよろしくお願いします。しかし、なぜ僕が九重だって知っているんだい?」

「それは、その。私、栖鳳西の卒業生で・・・九重さんは、憧れというか、尊敬している方でして・・・」

「ああ。双馬の後輩に当たるんだね。僕は九重一馬。君が知っている九重双馬のお兄ちゃんです」


舞花は一瞬目を丸くしていたが、直ぐにどういうことか理解をしたようで申し訳無さそうに顔を伏せてしまった

舞花が通っていた栖鳳西にいたのは、一馬先輩ではなく、一馬先輩と三つ子な間柄にある弟さん・・・九重双馬さんなのだ

三人とも三つ子らしくそっくりなので、舞花が間違うのも無理はない

一応、特徴をおさえれば見分けがつくのだが・・・初対面では不可能に近い話だ


「お兄さん・・・あっ、そっか。夏彦先輩の先輩なら・・・間違えてしまい申し訳ないです」

「いいよいいよ。間違うのも無理はない話。だって三つ子だもの」

「それでも申し訳ないです・・・」

「虎野さんはいい子だね。あ、そうだ。双馬に憧れってなんで憧れ?」

「特待生枠です。私、取れなかったので・・・」


取れる人が羨ましい・・・と、彼女は静かにこぼした

一馬先輩はそれを聞いて、一瞬だけ表情を真面目なものに切り替えた

・・・が、すぐにいつものほわほわ笑顔に戻って話を続けていく


「なるほどねぇ。やっぱり学費免除と学校バックアップは欲しいよね」

「特待生枠を取れる人って完璧超人みたいなところがあるじゃないですか」

「そうでもないよ。双馬、メンタルだめだめだし」

「えっ」

「栖鳳西の特待生を取れる奴は化け物・・・なんて言われるけどさ、特待生だって普通の高校生だよ?完璧なわけないよ。ねっ、夏彦?」

「そうだな。父さんもかなり奇行が激しくて、野坂さんを振り回していたみたいだし」

「そう、だったんだ・・・」

「取れるのは凄いことなんだろうけど、それって学校側が決めた適当な基準じゃないかなって思うんだ。だからさ、そこまで悔しがる必要はないと思うよ。僕から見たら、君のほうが特待生らしい。少なくとも「今」はね」

「九重さん・・・はい。そのお言葉で少し後悔というか、特待生への終着が消えた気がしました」

「全部は消せなかったか」

「流石に長年抱いていた終着を一度には消せません」


あはははは、と高らかに声を出して笑う姿

全部消えていないとは言うけれど、その執着は彼女の中からだいぶ消えてくれたと思う


「虎野さん、これが入試フルスコアだって気がついていないようですね・・・」

「拓実先輩、しっ!」


なんか一馬先輩が栖鳳西歴代唯一の入試フルスコアな存在と知ったら話が更に長引きそうだ・・・

なので、拓実先輩の口はあえて塞がせてもらう

それよりも・・・もうひとりの存在のほうが気になるのだ


「虎徹先輩。真っ昼間から外に出てるのは珍しいですね」


一馬先輩と拓実先輩と一緒にいるもう一人の存在・・・立宮虎徹

やのつく家柄な彼は滅多なことがない限り家から出てこないし、一馬先輩と拓実先輩に接触することはない

彼がいるということは、厄介な事が裏で起きていることでもある


「まあな。夏彦、そちらは?」

「丑光恵さん。覚のこれです」

「ああ。これな。しかしすげえおっぱいでかい姉ちゃんだな」

「っ!」


虎徹先輩の言葉に恵さんが一瞬のうちに防御態勢を取る

・・・初対面の人間からセクハラだもんな。危機感覚えるよ

それに虎徹先輩も、場所とかわきまえてもらいたい


「覚、これを好き放題にしてるのか?けしからんな」

「尻に敷かれてる生活なのでないでしょ・・・しかし虎徹先輩。恵さんにセクハラしたこと覚にバレたら殺されますよ」

「マジで?それほどガチなの?あの覚が?二十二人の彼女と誠実に付き合いつつも、裏でヤるだけの女が四桁程度いた覚が?」

「二十二人の彼女と誠実に付き合ってたのは覚で、後半は全部俺です。混ぜないでください」

「覚さんも大概ですけど、夏彦君も相当な遊び人ですよね・・・」


「四桁を相当扱いねぇ・・・理解した。この子は覚の女だわ。あいつの女はこれぐらい寛大じゃないと勤め上げられない」

「・・・」

「・・・夏彦君、この失礼極まりない人は誰ですか?」

「立宮虎徹。俺と覚と東里の先輩で、やのつくお仕事をしている人だ。あんまり怒らせないほうがいいぞ」

「なるほど」

「ほれ夏彦。俺のこともこれぐらい雑に流せる女じゃないとあいつとは付き合えないって」

「なんか理解しました」


普通の女の子なら、虎徹先輩の家を理解した瞬間、顔がひきつるのだ。普通なら

覚と東里ですら引きつったのに、恵さんは「あっ、そうですか」みたいな感じ

適当に受け止めて、流しているのだ


「まあ、なんだ。とりあえず座れや。昼まだだろ。玲、注文と水!」

「「失礼しまーす」」

「・・・お前ら行動が似すぎだろ。兄妹かなにかか?」

「「書類上は兄妹ですね」」

「・・・覚の彼女、道理で初対面時の夏彦みたいだなって思ったけど、血の繋がりは無いんだよな・・・育て方で同じような人格になるのかね・・・」

「その呼び方、やめてください。私には丑光恵という名前がちゃんとありますから」

「ああ。知ってるよ。恵さんや」


「しかし先程も聞きましたが、なぜこんな時間に三人で?何かあったんです?」

「ああ。二つほどな。一つは、覚に関係してくるだろうし、もう情報も行っていると思う」


一つは覚か・・・実家関係でなにかあったのか?

覚個人の問題で、虎徹先輩が動くわけがないだろうし


「覚が越した事が気になってな・・・調べてたんだ。巳芳のこと」

「引越しが異常扱いされる覚って・・・」

「あいつ、タワマン一フロア買い占めとか絶対にやらねえだろ。あまりにもおかしいから探りを入れたんだが・・・めぼしいことと言えば、覚の母親が病気で倒れてた事ぐらいだな」


非公開情報だから取り扱い注意な、と後付された話は、俺と恵さんにとっては結構重大な情報だ

・・・前に会った時はあんなにも元気そうだったのに


「同時に覚を含めた息子八人がそれぞれ住居を用意して、身分はバラバラだが、とにかく女と一緒に暮らしてる。恵さんも例外ではないな」


兄弟全員が揃って同じ行動なんて不審すぎる

何か始まるのだろうか


「おそらくだが、母親が死んだら始まるんじゃねえのか。当主争い」

「・・・そうですか」


元々、恵さんが覚と暮らし始めたのは覚に自分の父親のことを探ってもらう対価に、覚が将来的に参加しなければならなくなる当主争いへの協力を依頼されていた

普通に付き合い始めて自然消滅した約束だと思っていたが、その関係はやはり変わりのないものらしい


「今回は相当やばくなりそうだぞ。巳芳のバックに変な男がひっついてやがる。相当なやり手みたいでなぁ。当主争いも引っ掻き回してくるんじゃないのか?覚、無事に一抜けできるとは思わねえ・・・」

「変な男?」

「・・・言っていいのかねぇ」

「何を言い渋っているんです?」

「調べている時にさ、巳芳父に男の恋人がいるって知ってさぁ・・・」

「「マジかぁ・・・」」

「その恋人、丑光亙って名前みたいなんだよな。絶対恵さんの身内でしょ。苗字、珍しいしさぁ・・・なんかごめんな」


虎徹先輩の情報は、俺どころか恵さんでも衝撃を覚える名前

まさか、いや、なんでこんなところでその男の名前が出てくる・・・!?


「・・・そいつ私の父親なんですけど」

「もっと言うならそいつ、俺の育ての父親なんですが・・・」

「・・・なるほどな。巳芳の問題は俺たちにはどうしようもないけど・・・恵さんは本当に要注意な。最悪、死んでもおかしくはない」

「逃げませんよ。これは私と覚さんの契約でもありますが・・・今は自分で決めて、危険なのも理解して、共に挑むと決めています。何があっても、側を離れたりはしません」

「・・・覚にはなかなかもったいない女だな。俺がほしいぐらいだ」

「褒め言葉として受け取っておきますね。私は、彼の元を離れる気はありませんが」


心から笑っていない笑顔のまま笑い続ける恵さんと虎徹先輩に挟まれつつ、居心地の悪さを覚えた

この二人、何ていうか・・・性格が似てるのか?凄く図太いし、しっかりしてるし

覚も懐いてるし・・・


「しかし虎徹先輩。これが一つなんですよね。もう一つは?」

「拓実から話してもらったほうがいいだろう。それに、お前に頼みたいことがあるみたいだしさ」

「俺に?」


拓実先輩は待っていました、というように俺と恵さんの元にやってくる

あの拓実先輩がやつれた表情を浮かべているということは・・・

厄介そうな話が、俺たちを待っているようだ

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