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夜想の見た夢。 −憑者神と神語りの夕霧夢幻旅行記−  作者: 鳥路
序章:夕霧に向かう前の20日間は
16/43

9月16日①:ようこそ、乾家へ

九月十六日

俺たちは神栄の市街地を離れて、郊外にある長閑な田舎町に向かっていた


「夏彦、あーん」

「あ・・・あーん?」


視界を占める笑顔の鈴が、俺の口に向かってご飯を運んでくれる

それを口に入れた瞬間、広がったのは醤油の優しい味


「美味しい?牛丼弁当」

「ああ。美味しいよ。じゃあ鈴にはこの鯖巻をやろう」

「やった」

「ここに置いておく」

「・・・あーん、してくれないの?」


いや、二人ならそれぐらいと思ったさ

けれどこれ以上は横から刺さる視線に耐えきれないのだ


今日、俺達は聡子と涼香と共に乾家がある町まで電車で向かっていた

二人の里帰り。日帰りで時間も限られているが・・・情報収集も兼ねている

一つは、夕霧に一度行って戻ってきた先代の戌の憑者神であり聡子の父親である「乾良弥」に夕霧に関する話を聞くこと

もう一つは、乾家と今は亡き袮子家が行っていた憑者神の儀式に関する情報を得ることだ


「さて。とりあえず、そろそろ僕の家につくし・・・鈴」

「どうしたの、聡子」

「伝えてなかったことが一つ」

「な、なにを・・・?」

「お父さんは自分を阿佐ヶ谷春子のところに派遣した諸悪の根源・・・クソババアを消していた。乾の癌はもういない・・・だから、その辺は気にしないで過ごしてほしい」

「・・・また良弥には辛い部分を背負わせてしまいましたね」

「鈴が気にする部分じゃない。お父さんも皆わかっている」

「・・・」


俺にとっては直前の前世といえる阿佐あさ春子はるこ

彼女は幼い少年時代の乾良弥に殺された

鈴はその時に、良弥さんと話す機会があり、「りんどう」という偽名を名乗ることになった経緯も彼の助言が始まりらしい

しかし、なんで「りんどう」だったんだろうな


「鈴が偽名を名乗るキッカケって、良弥おじさんが理由ってことは少し前に聞いたけど、なんでりんどうだったの?自分でつけたの?」

「実は、今から四十年ほど前にある高校生の男の子につけてもらったの」

「知り合いか?」

「ううん。道端で声をかけられたの。知っている?「むふむふざむらいわんだふる!」」

「ああ、のばらが好きなあれ?」


むふむふざむらいわんだふる!

朝から放送されているそのアニメは、主人公は鈴にそっくりだし、ヒロインの名前は雪霞

どう見ても元ネタは柳永村の花籠家なそのアニメは、長い歴史が存在しており、原作者が死んで五十年以上経過した今も大人から子供まで数多の年代を楽しませているようだ

ちなみに原作は阿佐あさ谷直春やなおはる。春子の弟だ


「そうそう。あのアニメです。その主人公に似ていた私に声をかけてきた人がいまして。まあ、モデルは実際私ですから仕方ないんですけど」

「変な人もいるんだな」

「ええ。一緒にいた陽彦はるひこという少年に必死に止められて、怒られて、面白い人だったよ。将来自分の子供が私の探し人になるだろうから、会いに来て!って去り際にいうような正直変を煮詰めたような男の子だったんだけど・・・」

「陽彦ねぇ・・・」


やべぇ。凄く聞き覚えがあるんだが

陽彦・・・まさかとは言わないが、野坂陽彦じゃないよな


「で、実際鈴は会いに行ったの?その男の人に」

「実はこの出来事のことをつい最近まで忘れていたの。思い出した時には彼はもう死んでた。幽霊まで見てる」

「そっかぁ」

「でも・・・彼の言葉通り、彼の息子は私の探し人だったよ」


鈴がいたずらに成功した子供のような笑みを浮かべている

彼の息子が探し人

俺が、鈴が探していた雪霞の生まれ変わり

そんな俺の父親は・・・


「・・・父さんが、りんどうと名付けた人なのか?」

「うん。あの時は名前を聞きそびれてしまったんだけど、山吹色の髪ということは覚えていたから・・・まさか本人だとは思わなかったけど」


まさか、その人物が予知したとおりになるなんて、当時の鈴は考えてもいなかっただろう

そしてその息子として、俺が鈴と巡り合うなんて全然想像できない


「思えば、尊さんは神語りが使えたんだよね」

「どこまで使えたかはわからないが・・・」

「少なくとも、現代基準だとかなり強かったんじゃないかなって思うよ。内側にいた竜胆の存在に気が付かなきゃ「りんどう」の名前は出てこないだろうから」

「確かに、竜胆抜きで考えると髪の色とかで「緑さん」とかありふれた名前のほうが出てきそうだよね」

「・・・髪も目も緑だからね」


ふわふわの青緑の髪をくしゃっと握った彼女は涼香から少しだけ目をそらす

照れているというよりは、嫌がっている?


「生まれつきなの?」

「みたい。智の父親も私の母も真っ黒なんだけど・・・」

「僕はお父さんが紺でお母さんが黒。水色は絶対にない」

「遺伝にしては、主張の激しいカラーだよね。二人共」

「俺が言うのも何だが、染めたんじゃないかって思われてそうだよな」

「「地毛!」」


二人共、染めてそうとかかなり言われてきたのだろうか

目を見開いて、普段からは考えられない強気な声を出した光景に俺は若干たじろいでしまった

そこまで気にする部分だったのか・・・


「もうすぐ到着するよ。降りる準備をしようか」

「あ、ああ」


涼香の一声で、俺達はそれぞれ降りる準備を始める

次の駅で降りて、田んぼが周りに広がる一本道を歩いた先

そこに乾家はあるらしい


電車が停まり、俺達はそれぞれ動き出す

三人が降りた後、忘れ物がないか確認して・・・俺も電車を降りた

改札をすぎる前に待ってくれていた鈴と合流して、先に駅を出ていた聡子と涼香と・・・


「久しぶりだね、巽くん」

「お久しぶりです。乾さん。お元気そうでなによりです」


和服姿の初老の男性・・・乾良弥さんはわざわざ俺たちを駅まで迎えに来てくれたようだ


「君も息災で何よりだよ。二階堂さんも、お元気そうで」

「良弥」

「はい」

「私はもう二階堂さんではありませんよ。巽さんとお呼びください」


後ろで聡子が「やべっ・・・言うの忘れてた」と小声で言っていた

まあ、連絡する機会とかなかったし、仕方はないが・・・


「・・・は、え、二階堂さん、マジですか」

「マジです。大マジです」


良弥さんが目を白黒させつつ、俺と鈴を交互に見ていた

驚き過ぎではないでしょうか、良弥さん


「・・・まずは、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「巽さんがこうして花籠の生まれ変わりと再会して、人に戻り、幸福に生きられているなんて・・・長い間生きてみるものですね」

「長いって貴方。私の四分の一程度しか生きていないくせに何を言いますか」

「いいではないですか。私だってもう部類は老年。むしろ老いるまで生きられたのが奇跡のようなものですから」


若くして死んでもおかしくなかった

それは、乾と袮子が長年担っていたお役目に原因があるのだが・・・今はもう、無くなったもの

気にしないほうがいい。話にも、持ち出さないほうがいい

それは関わる者にとって、辛い記憶の一つなのだから


「生きている間に、こうして幸せに過ごせている巽さんや、娘やその友達の姿を見られるなんて、思っていませんでした」

「良弥・・・」

「車を用意しているから、それで家に向かいましょう。積もる話も、あるんでしょう?」

「ええ。そうですね。今日は色々と貴方に聞きたいことがあるんですよ」

「わかりました。では時間も惜しいですし、行きましょうか」


良弥さんの案内で車に乗せられ、そのまま乾家に向かうことになる


「・・・良弥、つかぬことお伺いしますが」

「なんでしょう」

「良弥の家は、どこからどこまでなのでしょうか」

「あの塀からあの塀までです」

「・・・あの塀から、あの塀?」


左端のあの塀と、右端のあの塀

とてもじゃないが、正面だけでもかなり膨大な土地があるような気がするのだが・・・

俺たちは覚の家みたいに、とんでもないところに来てしまったのではないだろうか、と思いつつ俺たちは乾家の敷地内へ案内されていく

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