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夜想の見た夢。 −憑者神と神語りの夕霧夢幻旅行記−  作者: 鳥路
序章:夕霧に向かう前の20日間は
13/43

9月13日:巽夏彦と着せ替え大会

巽夏彦。リュミエール所属の事務員

七月九日生まれ。家族構成は妻。書類上のみの関係だが、恵は異母妹に相当する

実の父親とは産まれる前に死別。母親は十二歳の時に失踪。その後は祖父母に引き取られたが、上手く接することができずに高校時代から一人暮らしを続けていた


高校時代はやんちゃをしていたそうだ。恩師である先輩の九重一馬ここのえかずまに一般教養を教えてもらう後ろで、毎日のように喧嘩と女遊びに明け暮れていたようだ

東里に誘われる形でリュミエールの職員に。ブラック企業も真っ青な創業時代を沖島良子おきしまりょうこと彰則と共に過ごしている


祖父の巽龍之介の死をキッカケに、彼のもとに留まっていた鈴と出会うことになる

彼女に生活の面倒を見てもらいつつ、日常を過ごしているうちに「一緒にいたい人」と感じるようになっていった

彼女と結婚しても当時から生活は全然変わっていない


年中長袖。全身に幼少期に負った虐待の傷が未だに残っており、一馬から見せないほうがいいという助言を受け、真夏でも長袖を着込んでいる

最近は鈴のお陰で傷が消えているので、半袖に挑戦してみようかと意気込んでいるようだ


鈴の神堕としの副産物で竜胆の力を扱えるようになった今代の「辰の憑者神」

しかし彼の本業は数多の神や霊に語りかけ、力を借りる力を持つ「神語り」

神様から好かれやすい体質をした彼の周りには、神を憑けた者や、神様も集まって来る


苦労は多いし、厄介事も多いけれど、それでもかつての苦労よりは非日常の思い出は彼の思い出の中に彩りを与えていく


・・


九月十三日


自宅のリビングにて

俺は、普通では考えられない状況に置かれていた


「なあ、鈴」

「なにかな」

「俺は、旅行に行く時の服装の相談をしたはずなんだが」

「ええ、そうね。鈴にそう言ってたわね」

「なんで、俺は椅子に縛られているんだ?」


現在進行系で俺はダイニングチェアに縛り付けられて身動きができないようにされていた

そして・・・


「涼香、これとかいいんじゃない?」

「ふむ。いいね、聡子」

「・・・流石社長。色々な服揃えてますね。これ、うちで販売していたアパレル向けの服ですよね・・・始めてみた」

「社会科見学をした時も色々見たけど・・・こんなにあったんだ・・・」


東里が持ち込んだ箱の他にも、引越し業者のダンボールがいくつか

覚の字で「俺の服①」とか書かれているから間違いなくあれは・・・


「覚さん、なんで自分の服を持ってきたんです?」

「夏彦を着せかえ人形にできるチャンスと聞いて。恵ちゃんもみたいでしょ?執事服な夏彦とかメイド服の夏彦とか」

「あの、巳芳さん。私が口を挟むのも何なのですが、最後はおかしくありませんでした・・・?」

「ふっふっふ・・・これまで作ってきた夏彦用の秘蔵コレクションを出す日が来たんだね!」

「そうね、東里君。このモデルなら、私も彰則も本望よ・・・」


そして、別の段ボールを抱えて控えている立夏さん

彰則さん以外の面々がこの家に集合して、やることは・・・


「んじゃ、全員着せたいの箱の中から「お出かけ部門」と「お遊び部門」でそれぞれ二着選んでねー」

「ちょっと待て覚。俺の意志は」

「立夏ちゃん、涼香。任せた」

「「さー!」」

「へ?」


覚の指示で素早く俺の後ろに回った涼香と立夏さんの姿はそれぞれ憑者の姿

涼香の能力は「錯乱」相手の精神をかき乱す能力

立夏さんの能力は「鼓舞」能力の効果を引き上げる能力だ

・・・後は、言わなくてもわかるだろう


「きゅー・・・」

「覚隊長、こちらはしばらく目覚めないかと」

「よくやった立夏隊員。彰則さん枠の代行権をプレゼント。追加で二着選んでね」

「しゃぁっ!」

「涼香もボーナス。どちらか好きな部門で追加一着ね」

「やったー!まあお遊び一択なんだけどねぇ・・・」


意識を撹乱された俺は、全員が服を選び終わるまで意識を朦朧とさせながら過ごす

しばらくした頃。やっと意識が覚醒したと思いきや、今度は東里が背後に忍び寄っていた

こちらもふわふわうさみみを揺らした憑者状態。全員能力乱用し過ぎでは?


ちなみに東里の能力は「隠密」姿を自在に隠すことができる能力

こうして背後に忍び寄るなんて・・・彼にとっては造作も無いことだ


「着替え補助は僕が」

「俺に拒否権はないのか?」

「夏彦お兄ちゃん。そんなものは鈴お姉ちゃんに「旅行に着ていく服を悩んでいるんだ」なんて相談をした時から消えていると思うよ・・・」


遊ちゃんはたまに心を容赦なくえぐってくる。正論は時に心を抉るナイフと化すのだ


「でもまあ、ここで着せ替えするのはお遊び部門だけなんだけど」

「おい」

「じゃあまずのばらから」

「私から?私はこれを選んでみたわ」


そう言いながらのばらが差し出した服を、東里が受け取る

そして風のように素早く移動した彼は、俺の服もあっという間に取り替えてしまった

目を話したうちに、どんな超技術を身に着けたんだ東里・・・!?


「これは・・・」

「へぇ。懐かしいね。沼田の制服じゃん」

「学生服を真面目に着た夏彦ってレアだよね」

「「当時のは血がついてたから汚かったんだよな」」


どうやら俺が着せられているのは出身校である沼田高校の制服

不良高校なのに学ランじゃなくてブレザーなのが面白いところだよな、この学校

真面目に着ていたの、東里ぐらいしか覚えてないけど


「・・・ちょっと、同年代な貴方を見てみたかっただけなのよ。ほら、次は聡子。貴方でしょう?」

「ん。僕はこれ」


今度着せられた服はどうやら執事服

覚の実家で何回か着せられたが・・・どうやら型が少し違うようだ


「僕の実家の執事が使っている燕尾服の新品。着せてみたかったんだ」

「・・・聡子の家って、執事いるんだな」

「うん。その反応だと夏彦の家にもいなかったらしい。執事がいない家ばかり。もしかしなくてもいないのが当たり前なの?常識のズレを感じる」

「あ、俺も社会に出てそれ思ったわ。執事ってどの家庭にもいるものだと思ってたから」

「しかも複数ね。うちは五人いたよ」

「俺は全員に専属で四人ずつ」

「うちは三人。家族一人に対して一人。覚の家からしたら劣るかも・・・」

「ちょっと黙ってろ金持ち共・・・」


風花ちゃんが想像以上にダメージを受けているような目をしているが、他にも全庶民が金持ちワードの数々にダメージを受けていた


「ちなみに私はこれね、彰則が着せたいであろう服も一緒に!」


気がつけばはしゃぎ疲れて眠る絵未ちゃんを抱いた立夏さんがさり気なく二着渡してくる


「これは・・・」

「まずは私の学生時代に作った服。進級試験の時に彰則に着てもらったんだけど、夏彦君もいけるね!」

「でも、ひらひらして」


どう動けばいいかわからないが、とりあえずこう動けばいいのだろうか

とりあえず、布をはためかせながら歩いてみよう


「昔は、バレエを嗜まれてた感じ?」

「いいえ。足蹴りを極めていました」

「でも足が凄く靭やかだね・・・触っていい?」

「ダメです!」


鈴からのズモっとした不穏な空気を背後に感じつつ、俺は立夏さんから足を守る

そんな俺の反応と鈴の視線を感じた彼女は足に伸ばす手を止めて、新しい服を持ってきた


「で、こちらが彰則チョイス」

「・・・」


東里が瞬時に着替えさせてくれたが、先程よりも酷く時間がかかっていた

それもそうだろう


「・・・なんで俺はウィッグ装備で中世的なふりふりドレスを着せられているんです?」

「彰則のお手製なの。着られそうな身長の人、夏彦君ぐらいしかいなくって」

「わぃ!?」


彰則さんがこれを作ったのか?

フリフリとリボンがふんだんに使われた、このドレスを・・・?

付き合いは長いほうだと思っていたが、まだまだ知らないことの方が多いんだよな


「次は私ですね」

「風花ちゃんなら大丈夫だよな?心配しなくても」

「・・・そのままの髪型で、聖松川の制服を着てくださいますか?」

「なんで!?」


しかし東里は止まらない。今度の俺は山吹長髪の女学生


「はぁ・・・夢にまで見た理想のお姉様です。素晴らしすぎます」

「えっ」

「お姉様。風花は悪い子でしょうか・・・お姉様にこんなお願いを」


俺の手をとって、普段は見せない表情を見せた風花ちゃん

この視線は憧れとか、羨望の視線だと思うが・・・お姉様、という存在に憧れとかあるのだろうか

頼れる存在に、憧れとかあるのだろうか・・・


「全く、風花はどんな趣味をしているんだい」

「お前にだけは言われたくねえと思うぞ、東里」


なにやら言い合う東里と覚の間を抜けて、今度は遊ちゃんがやってくる

遊ちゃんならまとガコン・・・

まともな、服をガコン選んで・・・ガコン


「遊ちゃん、それは何かな?」

「金属バットだよ、夏彦お兄ちゃん」

「その黒いのは?」

「特攻服だよ」

「・・・なんで、これを選んだの?」

「夏彦お兄ちゃんが昔は凄い不良だって東里お兄ちゃんから聞いたから!見てみたくて!」


前言撤回。これは完全にネタへ走ることを要求されているようだ

遊ちゃんが空気を読んでネタ服を持ってくるわけがない。温情を見せてくれると思ったのに・・・どうして!


「テンプレ不良!」

「おらぁ、やきそばぱんかってこいやおらぁ・・・」

「似合わねー!」

「こんな不良今どきいないよ!」

「覚、東里、後で校舎裏・・・もとい、ベランダな」

「「すみませんでした、アニキ!」」


聡子と涼香も後ろで腹を抱えて笑っていたけど、何も言わなかったから別にいい

東里たちは後でしっかりシメる。計画した覚はもっとシメておく


「次は私らしいです」

「恵さんか。ここは絶対大丈夫だよな。大丈夫なやつにしてくれ。頼むから」

「・・・ごめんなさい」


そう言って恵さんが差し出したのは、今俺が着ている服と真逆の・・・白衣だった


「恵ちゃんはさぁ、お医者さん夏彦見たかったの?」

「尊さんが働いていた時にそっくりかなと思いまして・・・」

「確かに。あえてシャツインして、真面目感出すためにネクタイもちゃんと結んで、それから髪型も写真っぽく・・・これでどうかな」


東里からその他諸々整えられた後、俺は姿見の前に立たされる

確かに・・・こう見ると父さんが医者として働いていた姿を想像だが再現できているような気がするな


「なんか、思ってもいなかったところで父さんを見れた気がしたよ」

「夏彦君がお父さんにそっくりだからできたんですよ?喜んでくれたようで、私としても一安心です」


さて、残りのメンツは・・・


「・・・うん、これにしよう」

「あと一着何にしようかなぁ・・・」

「夏彦に着せた衣服は、あれしかない!」

「僕の最高傑作をプレゼントしなくっちゃ」

「いやぁ、ここでネタに走らずにどうしろと〜」


舞花に涼香に鈴、東里に覚か・・・危険なのしかいないじゃないか

そんなラスト五人の最初は舞花のようだ

彼女が持ってきたのは・・・


「舞花。なんでこれを俺に着せたんだ?」

「どうしても見たくって・・・夏彦先輩しか、できないから」

「・・・脱いでいいか?」

「ダメ、ダメだよ・・・絶対ダメ」

「いや。脱がせてくれ。もうどうにかなりそうなんだ・・・頼むよ、舞花」

「・・・ダメ。そのサメきぐるみ可愛いから今日いっぱい着てて」

「拷問か!?」


彼女は持ってきたのはサメのキグルミ

パジャマとかそんなものではない。普通のキグルミだ

もうこれ、誰でもよくね?と思ったが、どうやら身長180以上の人間が着ないといけない代物らしい。どんなキグルミだよ


「流石に僕の番が控えているから脱いでもらうからね」

「東里ぃ・・・暑かったよ。暗かったよ。落ち着けたけど暑かったー・・・」

「はいはい。汗拭いて、早速!」


次の東里が着せた服は、思っていたよりもまともだった


「・・・これ。普通の半袖だよな」

「うん。僕が長年書き溜めていた夏彦に似合いそうな半袖のカジュアルコーデ。鈴が古傷を消す試みをしていると言っていたから、傷が薄まった今ならいけるかなって思ってさ。でもまだ傷が目立つね。半袖は早かったかも・・・」


夕霧には着ていけないけど、こういう機会なら着せられるかなって思って

彼はそう付け加えて、服の微調整をしていく


「・・・どう、だろうか」

「似合っているよ。だって、僕が一番と思った服を持ってきたんだから」


いつも東里には世話になっているな。服のことといい、私生活のことといい、今回のことといい

彰則さんを連れて帰ることで、彼にも少し転機をもたらすことができたらいいのだが


「さて東里。今度は私の時間です」

「鈴か。鈴は」

「割烹着」

「大叔母様、俺のリクエストもついでに聞いてもらえる?」

「なんですか?」

「持ってるんでしょ。あれ」

「あれ・・・とは」

「花籠雪霞の儀式用着物。夏彦に着せたくて」

「いいでしょう。大事に扱ってくださいよ」


鈴のリクエストは割烹着。まあ、これぐらいはと思ってやり過ごす

そして問題の覚は・・・


「・・・」

「そっくりそっくり!」

「生まれ変わりだから問題ないぐらい似合ってるな・・・」


前世の格好をさせられた俺は、懐かしさで笑顔になる鈴と感慨深く俺を見る覚に挟まれつつ、心の中で彼に話しかける


『雪霞、いいのか、こんなこと・・・』

『構わないさ。こういう事ができるのも、生きているものの特権だし・・・それに、私も夏彦の格好はするからね。たまには、夏彦が私の格好をするのもいいと思うんだ』

『君が言うのなら、それでいいが・・・』


俺の前世の一人である彼は、神語りとしての先輩でもある

なぜか消えることなく俺の心に居着いているのだが、助言をくれたり相談に乗ってくれたりと何かと頼りになる存在でもあるから、こうして共存をしている


「ちょいちょい、夏彦」

「どうした、涼香」

「いかにも終わりみたいな空気出してるけど、私の番がまだ残ってるからね?」

「・・・何をさせる気だ」

「いやぁ。一着でいいからこれを着てよ。後の一着はお楽しみにしておくからさ」

「・・・はい?」


そうして手渡されたのは・・・


・・


「それで、誰が一番だった?」

「思い出は恵さん、夏服は東里、雪霞特別賞は覚。総合は涼香で」

「しゃぁ!」


勝敗が決まって、それぞれが一喜一憂していく

選考理由は述べたら長いが・・・

ざっくりとするなら、恵さんは父さんを別の視点で見る機会があったから

東里は一生着られないと思っていた夏服を、覚は雪霞の服を着せてもらえたから

涼香の選考理由は単純だ。一番楽でうっすらと見える怪我を見せずに済むから

どんな服よりも、普通のジャージが一番快適だ・・・


「・・・ところで、俺のよそ行き服はどうなったんだ?」

「「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」」」


全員、遊ぶのに夢中で目的を忘れていたらしい

その後、東里が相談にのるということで今日は解散することになった

こんな風に賑やかに過ごす時間は悪くはない

それに、後何回この時間が過ごせるかもわからない

だから楽しみたい気分ではあるが


「もう、コスプレ大会は勘弁してほしいな・・・」


夜も遅いし、片付けを終えたら俺たちも寝ようかと話をした

風呂から上がり、寝室に戻ると・・・


「うへへ・・・この夏彦も、あの夏彦も全部可愛い」

「でも、涼香が着せたがってたもう一つってなんだろう。気になるし、機会を逃した気がしてなんか悔しい」

「割烹着よりジャージを選ぶのは以外だったけど、過ごしやすいのかな・・・」

「・・・くんくん。どこかなんかいい香りが」

「・・・鈴?」

「ひゃっ!?夏彦、どうしたの?!」

「嬉しそうにそのジャージを嗅いでいるところ悪いのだが」

「か、かいで・・・な」

「そのジャ−ジ、覚のなんだが」

「・・・見なかったことには」

「したいけど、できないな」


妻が友達のジャージをクンクンしてる瞬間に出くわしたってなかなかない機会だろう

楽しい時間は過ぎ去り、複雑な空気のままその日を終える


残り一週間

夕霧へ旅立つ日は、もう遠くない

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